私の生まれた理由   作:hi-nya

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メリークリスマス! 聖なる夜にイカサマギャンブルはいかがでしょう? ……ということで、原作と順番前後しましたが『オシリス神』ダービー(兄)戦……の前編です。このダービー戦に関してはPixiv版とがっつり内容変わります。……ので、更新に手間取った上に長くなり過ぎてしまい、またも前後編に分けたので今回は完全に次回の前フリです。すみません。

それでは『賭博破壊録カキョーイン』、いざ Open the game‼



The GAMBLER (前)

 彼女を連れて部屋から出ると、そこには仲間たちが僕らを待ってくれていた。

 

「あ、出てきた」

「……はやかったな」

「おうおう、また大事そうに抱えちゃって」

 

 またも一様にニヤニヤした顔で。いいかげんこれにも慣れてきた。もういい。事実だ。かまわん。そんな気持ちで受け流す。

 

「ち、ちが……わ、たし、くす、りで、まふぃし……」

 

 しかし、そうこうしているうちに麻痺は彼女の全身にかなり広がってしまっているようだ。舌ももはや回っていない。

 

「ああ、あなたは喋らなくて大丈夫ですから。無事ではいてくれたのですが、このとおりどうやら痺れ薬らしきものをかがされてしまったようで……」

「そ、そうなのか……」

「というわけなので、このひと、休ませてきていいですか? 」

「ああ、もちろんじゃ」

「皆は館の捜索を開始していてください」

 

「ごめ、……さ……、……あ……」

「ん? 」

 

「……やか、……こ、じゃ……ぎゃ……」

 

 必死に言葉を振り絞っている様子に気づく。何かを伝えようとしているようだ。

 

「……え? 」

「は? 」

「なんだ? 」

 

「……館? 逆?

 もしかして、あいつがそう言っていたんですか? 」

「……ん……」

 

 僕の問いかけに、どうにか少しだけ首を縦に動かす彼女。

 

「花京院おまえ、すげーな……」

「なんでわかんだよ、こいつ……」

「そりゃあ……決まっているだろう。例のちからだ」

 

「逆、か。起点がはっきりしませんが……ホテルか?だとしたら、もっとDIOの館は南にあるのかもしれない。ホテルをはさんでこちらは北側ですし」

「おお! なるほど。参考にさせてもらうよ」

 

 そういってジョースターさんはニカッと微笑み、彼女に語りかける。

 

「保乃。恐かったろうに、よく聞きだしてくれた。がんばったな。

 無事でよかった。なにも心配しなくていいから、君はゆっくり休んでおいで」

「……、い……」

 

 張り詰めていた彼女の表情がわずかに緩む。

 

「ではとりあえずホテルまで皆で戻ろう」

「はい」

 

 

 

 彼女の部屋に到着し、ベッドの上にそっとその身体を下ろす。

 

「眠ったか? 」

「ええ。動けないだけかもしれませんが、おそらく」

「花京院、おまえはこの娘のそばに……って、言うまでもないか」

「……すみません」

「いや、頼むよ」

「はい、そちらも気をつけて」

「うむ」

 

 閉まりゆく扉とともに、ジョースターさんを見送る。

 

 

 ふたりきり。おもわず漏れ出るため息とともに、彼女のかおをじっとみつめる。

 

「はぁ……。ほんとうに、もう……」

 

「……」

 

 朧気に、だが、確かにずっとこの心に存在していた、『矛盾』。それがかたちとなって膨らんで僕のあたまを占めていく。そんな感覚がした。

 

(……。僕は……)

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「わしらはこの写真の建物を探している。どこか知らんかね? 」

 

 花京院たちをホテルに残した後、わしらは早速DIOの館の捜索を開始した。

 カイロ。この街の人口は600万人、建物だけでも200~300万戸あると言われている。その中から写真だけを頼りに館を探し当てなければならないのだ。この写真は念写した現在DIOがいる館だ。DIOはアジトを変え財団の調査から行方をくらませてしまったらしい。まさに『藁山の中から針を探す』。途方もない不可能な話に思えてくる。しかし、やらないわけにはいかないのだ。

 財団から、緊急の連絡が入った。娘ホリィの体調が、いよいよ芳しくないらしい。もって4、5日……時間がない。

 写真を片手に、街を歩きまわる。しかし、なかなか成果は得られず空振りばかりであった。

 

「またハズレ……か」

「しかし、必ずどこかにいるはずだ。この建物に関しての情報を持つ人物が……」

 

 全員、頷く。

 

「行くぞ。聞き込みを……続けよう」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「わしらはその写真の建物を探している……どこか知らんかね?」

 

 オレたちはくたくただった。

 

 ジョースターさんのこの台詞も、もう何度目だろうか。太陽はすでに西に傾きかけており、オレのナイスな髪型がさらに長い影となって伸びていた。

 結局今日は一日ずっと写真の建物を探していた。にもかかわらず、屋根の修繕をしていた大工の親父から(保乃がインチキカウボーイから得た情報通り)確かにこの屋根の感じから、写真の建物はカイロの南の方にある……と、有力な情報と言えばそれくらいのものであった。探し物の難しさを改めて知る。

 

「外国のお客人……ここはカフェですぜ? なんか注文してくださいよ」

 

 巡り巡ってたどり着いた砂漠の中の一軒のカフェバー。ジョースターさんの出会い頭の質問にバーテンダーが顔をしかめる。

 

「それもそうだな……アイスティーを4つ」

「あいよ」

 

 オーダーの通り並べられる琥珀色の液体で満たされたグラス。今度はこちらの番とばかりに期待に満ちた視線がバーテンダーに集中する。

 

「……やっぱり知りませんや。」

 

 またハズレだ。商売上手と褒めるべきか。無言で男四人、一気に紅茶を飲み干す。喉を潤す効果はあったが疲労感は増すばかりであった。

 しかし、その直後、肩を落とすオレたちの耳に朗報が届く。

 

「……その建物なら、知っていますよ。間違いない、あの建物だ」

 

「えっ!? 」

 

 声のした方向を一斉に見やる。

 そのテーブルには一人の男が座っていた。カジノのディーラー、そんな風体の男が。外見の表す通りトランプを手に取ると、その腕を誇示するかのようにそれをシャッフルし鮮やかな手つきで並べてみせた。

 

「き、君か……!? 今、『知っている』と、聞こえたがッ!」

「はい。確かに。知っているといいました」

 

「なんだと……!」

「そいつはありがたい!」

「よっしゃ、オレたちラッキーだぜ!」

「ど、どこだ!? 教えてくれっ!!」

 

 ざわめくオレたちを尻目に、カードを再び弄びつつ、男は言う。

 

「タダで……教えろと?」

 

「……!」

 

(なんだよ、コイツ……)

 

 その物言いに、癇にさわるものを感じる。

 

「それもそうだな……」

 

 自分とは異なり、さほどそれを気にしたふうでもなく、ジョースターさんが10ポンド紙幣を差し出す。すると何処からか一枚のカード……スペードのエース……を取り出す男。

 

「貴方は……賭け事が好きですか?」

 

「……は?」

「わたしは大好きでね……スリルに目がなく、病みつきってやつでして」

「……なにをいいたい?」

「だからね、わたしとちょっとしたつまらない賭けをしてくれませんか?

 貴方が勝ったら、タダで教えますよ。館の場所をね……」

「賭け? 賭けなら自信あるが、急いでいてね。わしらにはそんな時間は……」

 

 「若い頃からわしは……」そんな武勇伝を道中彼から何度も聞いたことがあったが、流石に勿論それどころではない。意外な提案に目を丸くしながらもジョースターさんが断りの文句を口にしかけると、男は大袈裟なリアクションを伴いつつ、反論する。

 

「おや? 賭けなんてもんは何でもできるんですよ。時間などかけずとも。

 たとえば……あそこの塀の上を見てください」

 

 指し示す先には、一匹の猫がいた。それに向け男は卓上にあった肉の燻製を二つほど取り放り投げる。

 

「さあ、今から、あの猫はどっちの肉を先に食うか、賭けませんか?

 右か、左か……! どうです? つまんないけど、スリルあるでしょう?」

 

(……ああん?)

 

 とうとう我慢しきれなくなり、おもわず会話に割って入る。

 

「おい! めんどくせえ野郎だぜ! さっさと金受け取って教えろよッ!」

「……ポルナレフ! 教えてもらうのに、そんな口をきくんじゃあない!」

 

 ジョースターさんの制止を振り切り、叫ぶ。

 

「OK! オレが賭けてやるよ! 右の肉だ! 右ィ!!」

 

「……グッド……! じゃあ、わたしは左に賭けましょう……」

 

(ふふ……気づいてねぇのか、この野郎。

 右の肉の方がわずかにデカい。オレがあのニャンコなら迷わず右を選ぶね。

 オレの勝ちだ! っと、そういやぁ……)

 

 感情の赴くまま、まさに勢いで奴の興に乗ってしまったが、あくまでこれを『賭け事』というのならば自分は肝心な条件を確認していないことに気づく。

 

「ところで、オレが負けたら何を払うのかね? 100ポンドぐらいかよ? 」

「金は要りません。魂なんてどうです? 魂で……フフフ……」

 

(けっ、フザケやがって。キザな野郎だ。早く終わらせて立ち去りたいぜ)

 

「猫が燻製に気づいたようですよ。ククク……。さぁ……」

 

 

「Open the Game……!」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「……はっ!」

 

「あっ! 目が覚めましたか」

 

 重い瞼を持ち上げる。私の目に映ったのは、窓辺の椅子から立ち上がりこちらへ駆け寄る、満面に心配顔を浮かべた彼のすがただった。

 

(ああ、そうか。私……)

 

 霧がかかったように朦朧とする頭の中、すぐに状況を理解する。大間抜けにも敵にまんまと一服盛られて行動不能になってしまった私はホテルの自分の部屋に担ぎ込まれたのであろう。

 

「花京院くん……」

 

 すぐさま込み上げてきたものをぐっとのみこみ、どうにかひとことだけ、伝える。

 

「……ありがとう」

 

「……」

 

 彼もなにもいわず微笑を浮かべ、ただ首を横に振る。

 なにもかも見透かされてしまいそうな、透きとおるようなまなざし。悟られないようにその向こうにある一晩中睨んでいたのと同じはずの天井を昨夜とは全く異なる気持ちでみやる。

 

「痺れはどうですか? 」

「えっと……」

 

 訊ねられ、ゆっくりと自らの全身の動きを確認する。抹消を中心に、部分的に触れるとまだもやっとした違和感があったり、びりびりと長時間正座をしたあとのような感覚を受ける箇所もあるが、大勢は問題なさそうだ。

 

「うん。まだ少し手足とか変だけど……でも大丈夫。動くし」

 

 ありのままを口にしつつ起き上がろうとするも彼に止められる。

 

「ああ、まだ寝ていていいですから。……気分は? 」

「それは全然、なんともないよ。平気」

「そうですか……よかった」

 

 そこでようやく遅まきながら重要なことに気づき、青ざめる。

 

「……あっ! い、今何時!?」

「ええと、もうすぐ15時、ですね」

「え? もう!?」

 

 腕時計に目を落とす彼。確かに窓の外から差し込む日光は茜色を帯びていた。

 

「ご、ごめん! 私動けないからって、いつのまにか眠っちゃった……みたい」

「ああ、それは仕方がないですよ。薬に傾眠作用も含まれていたのかもしれないですし」

「みんなはもう館を捜しているんだよね? はやく私たちも!」

 

 そうだ。私はともかく、彼はこんなところにいてはいけない。『みつける』……それはこのひとの得意分野だ。皆きっと待っているだろう。加えて、実は漠然と胸に不安めいたざわめくものを感じていた。浅い眠りの中、みてしまったそれのせいかもしれないが。

 

「は? だめですよ。あなたはもう少し休まないと」

 

 しかし、案の定というのも何だがぴしゃりと却下されてしまう。

 

「もう十分休ませてもらったよ。だいじょうぶだって。ほら。セシリアに誰かを探してもらって、その後をついていく方が早いじゃない。ねっ!」

「しかし……」

 

 しぶい顔で難色を示す彼。いまいち押しが足りないらしい。しかたがないので、とっておきの説得材料を繰り出すことにする。

 

「それに……なんか嫌な予感がするんだよね。さっきやたらとリアルで変な夢見ちゃって……」

「へぇ。どんな?」

「……笑わない?」

「笑いませんよ。……たぶん」

 

「ポルナレフさんとジョースターさんがコインチョコレートになっちゃって、猫にぺろっと食べられちゃう夢」

 

「ぶっ!!」

「う、嘘つき! やっぱり笑った……」

「ちゃんと『たぶん』と僕はいったはずです。うーむ、たしかにそれは……奇妙な夢だ」

「でしょう? よし! というわけで、早く行こう、さあ行こう。いざ出発!! 」

「あ! ちょっと! ……まぁ、ひとりここに置いとくよりはいいか。無理しないでくださいよ、ほんとに……」

 

 

 しぶしぶだがどうにか無理矢理同行許可を得た私。彼の気が変わらぬうちに……とひらりとベッドから飛び降り廊下に出て、階段をリズミカルに駆け降りると勢いそのままホテルを出る。

 

「みんなは今どのあたりにいるのかな?」

「おそらく、南。あなたをみつけた場所と逆の方角に……で、よかったですか?」

「あ、そ、そうなの! ……たぶん。あの人が『館はまったく逆。反対方向』だって言ってた。どこからかがわからなかったんだけど、たぶんホテルかなと」

「ええ。おそらくね」

「……ありがとう。わかってくれて」

「ッ! あ、あれぐらい、当然ですよ」

「ふふ、そっか。じゃあ、行こう。セシリア……来て!」

 

 左手を掲げ相棒を呼んだところで、彼がひとつ提案をする。

 

「あ、ちょっと待ってください。せっかくだからメッセージも……これを承太郎に渡してもらっていいですか?」

「そっか。すれ違ってもいけないもんね」

 

 そうして彼の書いた手紙を咥えた相棒に御願いをする。彼女が飛び立ち暫く経って、その位置情報を感じ取ることができた。

 

「……。ほんとだ。南、こっちに1kmほど……だって」

 

 それを受け、彼はそちらの方向を遥か臨みながら感想をもらす。

 

「しかし、本当に広くなりましたね。セシリアの探索範囲」

「まぁ御存知のとおり、本来の……強度はこんなに離れてたら薄ーいガラス並み、紙みたいにぺらっぺらだけどね」

 

 苦笑いをする。歩きながら、スタンドといえば、と、もうひとつ報告事項があることを思い出した。

 

「あ、そうだ! あとこれも、あの人が言っていたんだけど……」

 

「……蜘蛛の巣にふれることなく……!? 」

 

「うん」

「そうですか。DIOのスタンド……一体……」

「普通のスタンドとは次元が違う、って……。

 ごめん、これだけで、見当もつかないんだけど」

「いえ、いいヒントにはなる……と、思います。実際、体験しなければ結局のところ正体を掴むのは難しい。けれどもこういうふうに事前に情報を積み重ねていけばきっと……」

 

 

「……次元、か……」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「どうするんです? ビビッて帰ってもいいんですよ。このポルナレフをおいてね。フフフ……」

 

 そういって一枚のコインをわたしたちにみせつけてくる敵スタンド使いの男。

 

 コイン……奪われた『魂』。その成れの果てを。

 

 ポルナレフは、こいつとの魂を賭けたギャンブルに敗北した。卑怯極まりない、こいつの仕組んだ『イカサマギャンブル』で。その代償としてこのような変わり果てた姿に……。

 

(あ、悪魔のような男だ……)

 

 博打に負けた人間の魂を奪うスタンド『オシリス神』の暗示……ダービー、というこのギャンブラー。

 奪った魂はコインにしてコレクションにしている、とのこと。先程嬉々として、胸糞の悪いそれを我々にひけらかしていた。

 今すぐ我が『魔術師の赤(マジシャンズレッド)』で、こいつを灰にするのは造作もない。しかし、そういうわけにもいかなかった。そんなことをすればポルナレフは二度と元に戻れない。まさに魂の人質、だ。この状況、口惜しいことにわたしの幽波紋は、何の役にも立たない。

 

「ま、一杯やりながらよーく考えてください。チョコレートはどうです? 」

 

 板チョコがぱきっと奴の口内に放り込まれ、ポリポリとこれまた場違いともいえる軽快な音と共に咀嚼される。

 

(く、くそ……ハッ!)

 

「……」

 

 歯噛みをしていると、突然、ジョースターさんが動いた。奴の対面にドカッと腰掛ける。

 テーブル上のものを薙ぎ払ったかと思えば、そこにグラスを置き、なみなみと酒を注ぎ始めた。

 

「……『表面張力』というのを知っているかね? バービー君」

「ダービーです。わたしの名は、ダービー」

 

 不快感を露わにしつつも男は揺れる液面を指しながら答える。

 

「その……酒の表面が盛り上がって、あふれるようであふれない力のことだろう? 何をしようというのかね?」

「ルールは簡単。このグラスの中にコインを交代で入れていく。酒があふれた方が負けじゃ」

 

「おい、じじい……」

「ま、まさかッ! ジョースターさんッ! 」

 

 その決意を秘めた目から、彼が何をしようとしているのかを悟り、承太郎とともに声を震わせる。

 

「……賭けよう。わしの『魂』を! 」

 

「グッド! 」

 

「ば、バカな! や、やめてください! こいつはイカサマ師なんですよ!? 」

「イカサマはさせん! この賭けの方法はわしが決めたのだ」

「承太郎、念のため、こいつを見張っていろ」

「おう。……ん? 」

 

 そのときだった。薄桃色の一羽の鳥が、承太郎のもとに舞い降りる。

 

「……なんだね? それは」

「せ、セシリア?! 」

 

 くわえていた手紙を承太郎が受け取り、一瞥する。

 

「ああ。あいつだ。……まぁ、今は、かんけーねぇな。目は覚めたらしい。ここに来るとか言い出したがやはりもう少し休ませる、って、あの過保護野郎がよ」

「そ、そうか……」

「『わかった。ゆっくり休めと伝えろ。こっちは気にすんな』……と。

 ……よし、いいぜ。……戻りな」

 

 承太郎がサラサラとしたためた返事を託すと、セシリアは再び中庭から空へと羽ばたいていった。

 

「『守護聖女(ガーディアン)』のスタンドか。噂には聞いている。この場には本体はいないようだが……たしかに関係ないな。いてもいなくても。ククク、わたしの能力にはなんの影響もない……」

 

賭博者(ギャンブラー)』が空を見上げ嘯く。確かにこういった『条件付きで強制発動するスタンド攻撃』を防ぐというのは、流石のセシリアも専門外だろう。

 

「そういうことだ。……続けろ」

「そうじゃった。で、どうするんじゃ? ファービー君? 」

「ダービーだ! ……OK! いいでしょう。この賭け、受けましょう。

 だがその前にコインと酒、グラスを調べてもかまいませんかね? 」

「当然の権利だ。君にもイカサマを調べる権利がある」

 

 ダービーがテーブル上のものをひとつひとつ手に取り、調べていく。それも一通り終わったあと、ジョースターさんが相手に鋭い視線を向ける。

 

「ひとつ、こちらも確認しておく。君が負けたらポルナレフを必ず返してくれるという保証は? 」

「わたしはバクチ打ちだ。『誇り』がある。負けたものは必ず払います。

 ……負けんがね」

「いいだろう……君からだ。コインを入れたまえ」

 

「ジョースターさん!」

「まかせておきなさい、アヴドゥル……」

 

「フフ……では……」

 

「Open the gameだ……!! 」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「……あそこみたい」

 

 相棒の示した先は、砂漠の傍にある一軒のかなり大きなカフェバーだった。近くにはいくつものピラミッドが立ち並んでいる。

 開かれたオープンカフェのようなお店であるため、遠距離から、足を踏み入れる前に中の様子を窺うことができた。盛況なようで、沢山のお客さんがグラスを傾けながら思い思いの時間を過ごしているようだ。

 

「あ、いた……」

 

 カウンター近くの中庭に面した端っこのテーブル席。そこに遠目にも目立つ仲間たちの姿をみとめた。

 

「……え……? 」

 

 しかし、そこにある雰囲気は、ピリピリとしており、明らかに異様だった。

 真剣な顔つきのジョースターさん。その対面には一人の見知らぬ男が座っていた。両者の視線はテーブル上のひとつのグラスに注がれている。その後ろで彼らの様子を息を凝らして見守っている承太郎君と師匠。

 

「……あ、あれは!? 」

 

 そして、ぐったりとした様子で椅子に腰かけているひとりの男性。

 

「ぽ、ポルナ……! 」

「……しっ」

 

焦って駆け寄ろうとする私を彼が制す。

 

「……? 」

 

(……あ……)

 

 彼のうしろから伸びていく、煌めく『手』。

 

 意図を察し、頷く。ほどなくして、自分の相棒からも通信が届く。

 

「花京院くん、承太郎君からのお返事です」

「はい、ありがとうございます。

 お疲れ、セシリア。……ッ! なんだと……? 」

 

 それに目を落とした途端、黙りこくる彼。

 

「どうしたの? なんて書いて……」

 

 そう言いかけたところで、やめる。考え事に水をさしたくなかったからだ。真剣なその横顔をこっそりみつめていると、暫しの沈黙を経て彼からぽつりとただひとことが零される。それは、おもわず聞き返してしまうほどに意外な単語だった。

 

「……二人羽織」

 

「……、はい??」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「……ああッ!」

 

 その身体がぐらりと揺れる。背後にぬっと現れた『オシリス神』により、無慈悲にそこから引きはがされ、太い両腕で成形される()()()()()()()()

 

「ジョースターさんッ!」

「じじいッ!」

 

 承太郎とわたしの叫び虚しく、ころりと転がり落ちる『成れの果て』。

 

「2個だ! さて、ギャンブルを続けよう。君らがこのふたりをあきらめて尻尾を巻いて勝負から逃げ出さん限りね」

 

「……きっさまあああああッ!!」

 

 激情をもはや抑えることなどできなかった。眠るように静かに目を伏せたふたつのコインからは、その表情とは対極にある強い無念の思いが滲んでいた。

 おもわずダービーに掴みかかり、テーブル諸共床に押し倒す。巻き添えをくらいひっくり返ったそれからグラスやコインが派手な音を立て散乱する。

 

「わからんヤツだ。わたしを殺せば今度は二人の魂が死んでしまうんだよ」

「くっそぉー! 」

「やめろ、アヴドゥル! 」

 

 振り上げた行き場のないこぶしを握り締めるわたしを諫めながら、冷静にその場を検分する承太郎。ぶちまけられた例のグラスを手にし、目を見張る。

 

「……これは!? ……なるほどな。これが、もう一枚入った理由、か」

「え……?」

 

 顔全体に疑問符を張り付けたわたしに、彼は淡々と説明をしてくれた。

 

「ちょ、チョコレートが……!? そんな……」

 

 まさに悪魔の所業の如き、そのからくりの全容を受け絶句する。

 

「フフフ。くどいようですが、イカサマとは……見抜けなかったその人間が悪いのです。

 人間関係と一緒です。騙される方が悪いんですよ」

 

「ぐぐぐ……」

 

 不快極まりないダービーの発言にまたも血液が逆流および沸騰しそうな感覚を覚える。

 

「……ふーん。そうなのか」

 

「ハッ!」

「ハッ!?」

 

 すると、突如場を切り裂くように降ってわいた声。それが聞こえてきた方向を全員が注視する。

 

「お、おまえは……!?」

 

「じゃあ次は……僕の番、かな」

 

 ゆっくりと柱の影から姿を現す。その正体は大変よく知る男だった。

 

「……花京院ッ!! 」

 

 

 

 

 

 




ざわ……ざわ……



……というわけで、次回後編へ続きます。お付き合い、ありがとうございました! 今年も残すところあと1週間ですね。皆様よいお年をお過ごしください!

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!

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