突然ですが番外編です。本編42話アレッシー戦の逆バージョン、仁美ちゃんがちっちゃくなっちゃった! ……という、パラレルな世界で起こっていたかもしれないイフストーリーになります。
嬉しすぎることに、なんと見てみたいというお声を頂けたので、調子に乗って公開させていただく運びとなりました。宣言通り、花京院壊れてます! こんなんで本当にすみません! よろしければ息抜きにどうぞ。リクエスト本当にありがとうございましたーっ!!
ここはいったい、どこなんだろう?
毎日、家から出た時に見る近所の風景とはまったくちがう街の雑踏。延々と続くかのような石畳と、行きかう人々が横を通り過ぎていくたびにからからの砂が舞い上がる。その顔は見たこともない……それどころか日本の人ですらない。飛び交う言葉はまるで魔法の呪文みたいに私の耳に響いた。
ああそうか、夢なんだ。
きっとほんとうは、あたたかい布団の中にいるんだ。もしくはいつもみたいに漫画を読んでいる途中で炬燵で眠ってしまったのかもしれない。
あれ? そもそも、さっきまでなにをしていたんだっけ?
気付いたら、ぽつりとただここに立っていた。そして目の前で尻もちをついた変わった髪型をしたおじさんがびっくりした顔を翻して逃げて行った。すぐに、『鳥さん』が追い払ってくれたんだとわかった。私の唯一の友だち。はじめて出逢ってからまだ半年くらいだけど、いつも彼女は私を護ってくれる。
そのまえのこと、かすかに頭の中に残っていた映像を一生懸命手繰り寄せようとしたけれど、それは逃げていくばかりだった。
あたりを見渡しても、人、人、人……しらない人。
これは現実じゃあない。そう思いたいのに、邪魔するみたいに不安の風船が私の胸いっぱいに膨らんでいく。
そうだ、さがさなきゃ。
破裂しそうなそれにおされて走りだそうとしたけれど、自分に纏わりついている布につまづきそうになる。懸命にそれを飛び越え呼びかける。
「……父さん! 母さん! おじいちゃん! おばあちゃん! 義経お兄ちゃん!」
家族を。
「……みんな! ……どこ!?」
朧げに浮かぶ、やっとみつけた、家族以外のたいせつな、信じられるひとたちを。
「か……あれ?」
そして、いたはずだったのだ。私には。
「だれだっけ……」
それがだれかもわからないまま、だれよりもそのひとをさがしていた。
「どうして、おもいだせないの……?」
さらさらと掴もうとしても消えていく。ぱっくりと口を開けた黒い怪物に、だいじな記憶をむしゃむしゃ食べられているみたいだった。
じわりと視界が滲む。雫といっしょにこれ以上たいせつなものがこぼれてしまわないように、俯いて唇を噛みしめていた。
「あの……ねぇ、きみ?」
すると、ふいに躊躇いがちにふってきた、やさしい雨のようなそれに顔をあげる。
「……どうか、したの?」
そこにあったかおをみて、私は心からおもった。
ああ、やっぱりこれは夢なんだ、って。
* * *
「反対方向に行ったのかもしれませんね。そっちを探してみましょう」
「うん」
磁力を操る女性スタンド使いをジョースターさんお得意の機転で見事撃破したあとのこと。疲労困憊のお二方には少し休んでもらうことにし、その間、僕と彼女は残りの仲間、承太郎達を探すことになった。
元来た道を辿りホテル前まで帰ってきたものの発見できずじまいであったため、逆方向へと足をのばそうとした。その前にかすかに感じた憂いを排除すべく、僕は彼女にいった。
「あ、そのまえに、ちょっとトイレに行ってきていいですか?」
「うん、もちろん。じゃあ……私はここで待っているね」
旅慣れしている方はおわかりかと思うが、結構これは重要な事柄なのだ。たかがトイレ。されどトイレ。チャンスの神様は前髪しかないのだ。機会を逃してスタンド使いだけでなく尿意という強大すぎる敵とも闘う羽目になったら目も当てられない。
「ごゆっくりー」とにこやかに手を振る彼女にひらひらと自分も振りかえし、ホテル内の紳士用のそれに入る。
大概こういう時、単純な(注、褒め言葉である。だが、それがいい、だ。いわせないでいただきたい)彼女は「自分も行っておこうかな」となるのだが、今回は違ったらしい。珍しいな、などとぼんやり考えつつも、無事用を足し終え、トイレ及びエントランスから出る。
「お待たせしました。では行きま……あれ?」
だが、そこに在るはずの彼女の姿はなかった。
僕が入った後にやはり自分も行っておこう、となったのだろう。きっとそうだ……と胸騒ぎを抑えつつも待っていた。
しかし待てど暮らせどその姿はみえない。もういっそ御婦人用のそれに
街路樹の傍に佇む、ひとりの女の子に。
小学校低学年くらいだろうか。唇を噛みしめ、健気にも必死に泣くのを堪えているように見えた。
僕は仁美さんを探さなければならない。そのはずなのに、吸い寄せられるようだった。
そもそも大の男が幼女に声をかけるなど、それこそちょっとした事案ではないか……そう理性が謳うにもかかわらずだ。
「あの……ねぇ、きみ?」
通報されたらどうしよう。ためらいながらも気がついたら声をかけてしまっていた。
「どうか……したの?」
すると女の子は大きな瞳を殊更大きく見開いて、こういった。
「あ、あの……さがして、いて」
そこでなぜか口をつぐむ彼女にしゃがんで目線を合わせ、問いかける。
「なにを? ああ。お父さんとお母さんをかい?」
「……わからないの。でも……」
首を横にふったあと、じっと僕の目をみる。
「うッ! そ、そうか、わからないか……」
きょるんとうるんでかがやくまんまるな瞳に小動物のように愛らしいそのしぐさ。おもわず感じてしまった謎のときめきに心の底から戸惑いを覚える。
(え……? ちょ、ちょっとまて!? な、なんだこれは……)
胸に手を当てる。おかしい。僕は断じて彼女ひとすじであって……というかそれ以前にそもそもそんな趣味はない。これではまるで幼女趣味のロリコン野郎ではないか。
戸惑いとともに、乗り掛かった舟だ。今さら降りるわけにもいかない。どうしたものかと懸命に頭を巡らせていると、天は我を見放さなかったらしい。一筋の光明が訪れる。
「あ! そ、そうだ! なら僕といっしょに来るかい? 」
「……えっ?!」
またも少女の顔に浮かんだ驚きの表情に焦って取り繕う。
「ち、ちがうんだ。あの、僕はけっして怪しい者ではなくて……その、僕の友だちにおもしろいおじちゃんがいて、そのひとはとっても探し物が得意なんだ。きっと、きみのさがしているものもみつけてくれるから……」
我ながら怪しすぎる……と、冷や汗をかきつつもしどろもどろにどうにか提案をする。
『
承太郎達を探すはずが予想もつかない展開に陥ってしまった。でもどうせここに彼女がいたら、ほうっておくなんてとんでもない! などと、世話を焼くに決まっている。そしてなによりも、だ。僕は思ってしまったのだ。
長く艶やかな黒い髪に碧の瞳。健気でかわいい。この女の子……
だれかさんにとっってもよく似ている、と。
だからだ。きっとそうだ。いいわけのように心でそらんじていると、少女が呟く。
「ありがとう……おにいちゃん」
ふにゃっと浮かべられた天上からの遣いが発したかのような笑顔に、またも僕が盛大に悶絶かつ苦悩する羽目になったのはいうまでもない。
「あ、ありえない……そんなはずは……いくら似ているからといって……なんてことだ……なんてことだ……不埒な……ああ、仁美さん、すみません……」
「お、おにいちゃん、だいじょうぶ……?」
ふらふらとジョースターさん達とわかれた方向へとむかう。道中、精神的な衝撃を受け、ぶつぶつと疑心暗鬼や困惑や自責の念やらなんやらと闘っている僕に、ドスンと今度は物理的な衝撃が走る。
「お、おっと、失礼」
「す、すまない! 匿ってくれッ!」
「ええッ!?」
言うが早いかその青年は表通りに僕を押し出すとともに路地裏にその身を隠す。
「きゃー! すてきぃーッ!! わたしも占ってぇーッ!!」
「わたしが先よ! あら、どこに行かれたのかしら?」
「ちょっとそこの個性的な前髪の……あら、貴方もなかなか……」
暫ししてやってきた、ゆりかごから墓場まで……御婦人方の大群に取り囲まれ、代表者にズイっと詰め寄られる。
「こちらに素敵な占い師の殿方が走ってきたでしょう? どちらの方向に行ったか教えてくださらない?」
(ああ、なるほど)
先程の青年の言葉の意味を理解するとともに、にこやかに逆方向を指さす。
「あちらですわね! それーっ!」
遠ざかっていく黄色いそれに心で謝罪をしていると、うしろから青年の感謝の弁が届く。
「いやはや、助かったよ。ありがとう。乙女の力、かくも恐ろしいものだとは。道を尋ねようと声をかけただけなのに……」
ぽりぽりと頬を掻く。改めてその御尊顔を目にすると、なるほど。たしかにお嬢さん方が騒ぐのも無理はない。黒い長髪に褐色の肌。男らしいきりっとした眉毛……彫りが深く目鼻立ちがハッキリして整っている、いわゆるソース顔、というのだろうか。承太郎とはまた違った方向の相当の美丈夫であった。
「いえ、なんのこれしき。お安い御用です」
困った時はお互い様である。2月の某『聖なる日』に煌びやかに装飾された黒い物質を手にしたお嬢さん方の群れに追いかけまわされる恐怖を知る身としては他人事ではない。
「是非、礼をしたいのだが」
どうやら気真面目で実直な性格らしい。律儀なその申し出を丁重にお断りしていると、彼はポンと手を打つ。
「そうだ、君たち何か困っていることはないか? さきほど聞いての通り、わたしは占い師なんだ。まだ駆け出しだが、けっこう当たると自負している」
「ふっ、そうなんですね。では……」
自らの仕事に誇りを持っているのだろう。僕より少し年上くらいであろうに、素晴らしい心意気だ。と、そこにまたも好感を抱き、僕の制服の端をきゅっと握りしめ、その影からこそっと様子をうかがっている(若干人見知りらしい。それもまた可愛らしすぎる)『迷子の仔猫ちゃん』を拾った経緯を話す。
「フム、いつもはタロットで占うのだが、それならこっちの方がいいな」
彼はごそごそと懐から手のひら大の水晶玉を取り出すと、その透明な球体に向け何やら呟き、強く熱い眼力を送った。
「……あちらだ。この娘の『さがしもの』の鍵はあちらに……ん? どういうことだ? 君も、そして、わたしのさがしているものもすべて……だと?」
眉間に皺を寄せる彼。自分もつられて怪訝な表情を指し示された方へと向けると、曲がり角から見知った顔がのぞく。
「おや、花京院じゃあないか。おまえさん戻ってきたんか。なら途中でアヴドゥルと会わんかっ……」
「じょ、ジョースターさん!?」
すごいな、ほんとうに当たった。などと呑気にもその占いの実力に感心していた次の瞬間、僕の目にとんでもない光景が飛び込んでくる。
「死ねッ! ジョースターッッ!!」
「な、なにィッ」
「う、うわーっ!?」
彼の背後から変な髪型の男がバッと現れ、そいつが放った土偶のような黒い影……スタンドにジョースターさんの影が呑み込まれてしまう。
「くっ! しまった! エメラルド・スプラッシュ!!」
「ぐべらっ!」
すぐさま僕が放った攻撃にふっとび、もんどりうって転がるも、その勢いを利用するかのように逃げ出す。
「いってぇー! へ、へへ、でもこれでジョースターも子どもにしてやったぜーッ! けけけ、花京院、テメーも首洗って待ってろーッ! 」
「ま、待てッ」
残された捨て台詞が非常に気にはなったが、それどころではない。慌てて謎の攻撃を受けてしまった彼に駆け寄る。
「ぐッ……」
「じょ、ジョースターさん、大丈夫で……ええッ!?」
「な、な、なんじゃこりゃーーーッ!」
それは正直こちらの台詞だろうと思った。叫ぶその姿がみるみるうちに若返っていく。
「……?」
変化がようやく落ち着いたそこには、自分と同年代くらいの青年が立っていた。
「うお! すっげー! なんか超、身体が軽い! 絶好調!」
「じょ、ジョースターさん……?」
「ん? なんでおれの名前知ってんの?」
首を傾げつつも気安い言葉と人懐っこい笑顔をむける青年。
「あの変なヤツとは知り合いか? ぶっとばしてくれたのおまえみてーだけど……どうやったの? あれ。手品??」
「ッ!? わ、若返らせる……歳を吸い取る、スタンド、なのか……?」
「き、君たち、大丈夫か!? 」
遅れて、『駆け出しのイケメン敏腕占い師』の彼もこちらにやってきた。
「さっきわたしもあの男に『なにか』されたんだ。炎で迎撃してやったが……途中で逃げられたので探していたんだよ。というか、君たちもスタンド使いなのか? スタンド使い同士は引かれあう……あれは真実なのだな」
あまりにも『らしい』台詞にすぐさまピンとくる。というか、何故今まで気づかなかったのか。服装やら身に着けているものが全く同じにもかかわらず、だ。髪型以外。
「……あ、アヴドゥル……さん?」
「YES, I AM ! ……ん? どうして、わたしの名を……」
「と、いうことはッ……!」
瞬間、走り出していた。その娘のもとへ。混乱の中、もつれそうな足を必死に前に出す。
「き、きみは、も、もしかして……もしかしなくてもッ!」
ズザァァーッ! と滑り込みながら、かがみ込んで訊ねる。
「ひ、仁美、ちゃん……かい? 」
「……うん」
こくりとうなずく少女。
(やっぱりか……それで、か……)
「よかった! よかったッ!! 僕は……ッ」
いろいろ懸念すべきことなんて山ほどある。けれどもなによりも先に、強く思った。
虚空に双手を挙げ叫ぶ。
「……変態なんかじゃあなかったんだーーッ!!」
不可解な自身の感情にすべて納得がいき、心の底から安堵の息を吐く。
よくよく見ると、少女が身に着けている大きめのワンピースだと思っていたものは彼女の着ていた長めの半袖シャツであることに気づく。スニーカーがやたらとオーバーサイズなことにも。あとで現場にスカートその他を回収しにいかねば……とか思っていたらおずおずと少女にきかれる。
「あの、おにいちゃんは……だあれ? どうして仁美のなまえをしっているの?」
「僕は花京院典明。きみの未来の、こい……と、友だち、さ」
つるっと願望が滑り出そうになるのを抑えつつ改めて自己紹介をする。
「……仁美の、おともだち? 」
「あ、ああ。そうだよ」
「おともだち……」
そうつぶやくと、少女はすごくうれしそうにふわっとわらう。
「ぐはぅッ! 」
彼女の『
少女はじっとそんな僕をみつめると、ぽつりともらす。
「典明おにいちゃんって、やっぱり、にてる……」
「え? に、にてるって、だれに? 」
「えっ!? えっと、……えっとね」
ぽっとほおを赤らめ、いう。
「……ひみつ」
「む、昔からそういうとこも、かわらないんだな……気になるじゃあないか」
しかしそれがまた、まじぷりてぃ、である。いかん、このままでは犯罪者一直線だ。それはわかっている。でも可愛いもんは可愛い。可愛いは正義だ。いたしかたがないというものであろう。なんせ、ただでさえ愛しい彼女のちいさい頃なわけなのだから。そりゃあ可愛さも爆発するに決まっている。
咎めるものもなくなり(むしろ逆に己の『仁美さんセンサー』の精密さにある意味誇らしさすら抱いていた)、開き直ってこの状況をせっかくなので堪能することに決めた僕に白々とした視線が突き刺さる。
「あ、あのさ、邪魔してゴメンね。君、ちょっとこっちにおいで」
ててて、とジョースターさん(若)の手招きに応じる少女。その耳を塞ぎつつ、彼は僕に深刻な表情で問うた。
「た、ただならぬ雰囲気なんだけど……やっぱあれなの? おまえってそういう趣味……」
「あっ! ち、ちがうッ! これは、その……ちがうんだ!」
いわれなき非難を払拭するべく釈明の言葉を叫ぶ。
「これはただ、僕の愛する女性がこの女の子だって、それだけなんだッ!!」
「……!!」
衝撃と共にシーンと凍てついた空気が場に流れ、沈黙のあとジョースターさんがぼやく。
「……うん。それ全然ちがわないよね? おまえ、まごうことなきロリコンだよね?」
「ハッ! し、しまったッ!! ま、ますます誤解を……!」
失言(真実を述べたにすぎないのに)に頭を抱えている僕に横からフォローが入る。
「い、いや、いいんじゃあないか? そ、双方の合意さえあれば、恋の力は歳の差なんて……
わたしの占いでも君たちの相性はピタリと吸い付くようで、大吉なんてかるく天元突破したところにあると出ている。ただ、その……し、然るべき時まではちゃんと清きお付き合いをするんだぞ?」
「あ、アヴドゥルさん!? 今はその優しさがつらいッ!!」
熱く語りかける彼をよそに僕をイジるのにもすぐに飽きたらしいジョースターさんがけろっという。
「まぁ、なんでもいいや。ロリコン君、占い師君、君らの名は?」
「ロリコンじゃあないッ! ……か、花京院典明だッ!」
「わたしはモハメド・アヴドゥルだ」
「そっか。なら花京院、アヴドゥル……」
にやりと笑う彼の、眼の奥の光が強くきらりと輝く。
「……おれと共闘といきますか!」
「「!?」」
目を見開く僕とアヴドゥルさんにむけ、胸を張る。
「だってさ、結局は全員、あいつを懲らしめちゃいたいだけなわけだろ? 目的の一致ってやつよ。じゃあもう、仲間でいいじゃん? さっすがおれ! ナイス提案じゃね?!」
「……ふっ! 面白い男だな」
「ふふっ! では、そうするとしましょうか」
変わらぬそのカリスマ性に思わず笑みがもれる。
「おにいちゃんたち、もうみんななかよしのお友だちなんだね。ふふ、いいなぁ」
にこにこと少女もいう。それにほっこりと心が温かくなる。
「よし、そうと決まれば占いではこっちに……」
いい具合にまとまり、気持ちも新たに歩き出そうとしたところだった。
ドドドドド……と舞い上がる砂煙。
「キャーッ! いらしたわーッ!」
「うわーーッ!!」
戻ってきたお嬢様方の洪水に呑み込まれ、あっという間にみえなくなってしまう色男。ある種壮観ともいえる光景に少女が感嘆の声を上げる。
「わぁ、すごい。だいにんきだね」
「ああ。そうだね」
「アヴドゥルお兄さんも、カッコいいもんね。テレビにでてくる仮面レンジャーのホシレッドみたい」
それならば幼少のみぎりに僕もしっかり視聴していた。現在も日曜朝に脈々と続く由緒正しき戦隊ヒーロー物、仮面レンジャーシリーズ。その記念すべき第10番目の作品『十字戦隊☆星レンジャー』だったか。
「ひ、仁美ちゃんもすきなのかい? ホシレッドのこと」
「仁美? 仁美はね、ホシピンクのお姉さんが好き。だってかわいくてつよいんだもん。それにすごく健気で一途なの。ちょっと苦労性なホシグリーンのこと、こっそりずーっとだいすきなんだよ」
「そ、そうなんだね……」
ひょんなことから地球の平和を護る羽目になってしまった若者たちの友情やら恋愛やらなんやら悲喜こもごもを描いた、という王道のあれである。にもかかわらず、とても幼児番組とは思えないドラマ性と高クオリティの映像技術で、かつ、子供そっちのけでママ達のハートをも虜にしたイケメン主人公のホシレッドが最終回一話前に退場してしまうという斬新な展開がお茶の間の涙と話題を呼んだ……とかなんとか。
あれは確かに子供心にも衝撃的であった……と懐かしい映像に僕が邂逅していると大人気なくも少女に詰め寄る男がひとり。
「えーっ、確かにカッコいいけどさぁ……おれの方がイケメンじゃね!?」
「う、うん。ジョースターのお兄さんも、カッコいいよ」
「へへ、サンキュ! いいこだな! それに……」
わしわしと頭を撫で、その顔をじっとみる。
「うん! 君もおっきくなったらかなりの美人さんになるな。このジョセフ・ジョースターの目に狂いはな……うわぁッッ!」
ゴゴゴゴゴゴ。
法皇を呼び出しエネルギーを宝石状に変換する。今はみえないはずだが、流石波紋戦士。僕の発するドス黒い殺気には気づいたらしい。
「……ああ、その通りだ。この娘はすぐに他に類をみない絶世の美女になる。
そしてなにより今すぐ即その手を放せ」
「ニャッ!? お、おちつけ!」
その隙にスポンと彼女を無事保護回収し、しっかりと言い含める。
「駄目ですよ、仁美ちゃん。こんなトッポイ、スケコマシなお兄さんのお話なんかに付き合ってあげちゃあ」
「す、スケコマシぃーッ!?」
「だって、貴方いかにも、軽く40位年下の女性に平気で手を出しそうな感じじゃあないですか」
「お、おまえ、自分のこと棚に上げて……なにその、いやに具体的な……予言?」
「率直な感想です」
「ちぇっ! スケコマシっていったらこんなもんじゃあねーっつーの!」
「おや、真のスケコマシにお知り合いでも? 一度お目にかかってみたいものですが」
「まぁな。……紹介してやることは、もう、できねーけど」
陽気なその顔に、一瞬おちる、暗い影。
「……? ジョースターさん?」
「なんでもねーよ! ふーんだ、このロリコン! 変態! ストーカー予備軍!」
「なッ! 言うに事欠いてっ!! やはり貴方にはお仕置きが必要なようだ……そこになおれーッ!」
そんな調子で小競り合いをしている二人のもとに、渦の中心にから悲鳴に似たSOSが寄せられる。
「お、おいッ! おまえら! 遊んでないで、いいかげん助けてくれぇーーーッ!!」
「「あ、忘れてた……」」
「あっ! 」
一悶着ののち、ようやく本来の目的地に向け街路を進んでいくと、とある家屋の二階から人が落ちてくるのが遠目に見えた。
「あそこだ! 行きましょう!」
その家の窓からは幼い男の子が顔を出して、なにやら叫んでいる。
「ハッ!! あの髪型は……!
まさか、いや、絶対、ポルナレフッ!」
そして、その窓の真下で敵スタンド使いと対峙しているのは、やはりというか、この男だった。
「……承太郎!! いけない!」
「!? な……!? うッ……これはッッ!」
禍々しい『影』に承太郎の影がとらわれてしまう。
「くっ! しまった! 承太郎まで……!」
承太郎の身長はみるみるうちに小さくなり、仁美ちゃんとおなじくらいの年齢の少年になってしまった。
勝ち誇った敵がいう。
「ふはははは! 承太郎!
おまえが『
つまり、今はスタンドを使えない! ただのガキになったのだ!
うはうはうは! オレの、勝ちだッ!! DIO様! オレが承太郎を殺します!
礼金をたっぷりはずんでもらいまっせー! 死ねェー! 承太郎ーッ!」
「あぶな……あ!」
「あ! 」
「あ! 」
「ぐほっ!! ……えっ?! えぇ!?」
何が起こったかわからないまま、気がついたら敵がぶっとばされていた。
「……やれやれ。子どもだからって、なめんなよ」
天高く突き上げられたその拳を見て、全員初めて事態を悟る。
「な、殴った! 生身の子どもの拳で!!」
「ひ、ひぃぃぃぃいー!!! いてぇー!!」
「じょ、承太郎は……」
「子どものころから、やるときはやる、性格の人だったのか……」
「強い!」
「う、うわぁー、に、逃げ……! ハッ!」
またも敵前逃亡を図ろうとした敵の四方に、立ちはだかる。
「よくも、好き勝手してくれたな! あの家のおねぇちゃんにも、ボクにも……」
ちびポルナレフ。
「覚悟は、とうに……」
少年承太郎。
「出来ているよなぁ? ……にひひ……!」
青年ジョースターさん。
「己が優位に立てる幼子にのみ攻勢に出るとは卑怯千万! 地獄の業火に焼かれその性根を叩き直すといい!」
そして、『
「「「「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」」」」
腹に据えかねていた四者四様、一斉に総攻撃をかける。
僕が手を出す余地など1ミクロンもあるはずがない。派手に燃え上がりながらはるか彼方にふっとぶ敵をただ臨む。
「たーまやー、ってね」
『再起不能』決定だろう。合唱とともに若干同情しつつも胸を撫でおろす、僕。
「さ、これで全員元に……あれ? 」
「……で、なんでこいつだけ元に戻んねーんだよ」
「作者の陰謀……いや! だ、男女で差があるとかそーいうかんじじゃあないのか、きっと」
その後、ポルナレフと現地女性のなんとやらを無事見守り、ホテルにて夕食も囲み終えたにもかかわらず、未だ彼女の姿は子どものままだった。
「どうするよ? こいつ、ずっとこのまんまだったら」
「うーむ……」
溜息と共に僕の膝の上に遠慮がちにちょこんと乗っかった少女に視線が集中する。重苦しいそれを振り払うように私見を述べる。
「そんなもの考えたって仕方ないじゃあないか。なるようになるさ。
そもそも別に僕はかまわないけどね。いくつだろうが彼女は彼女だし」
「あれ? 花京院おまえ意外と冷静……」
「……それに万一そうなったら僕の手元でじっくりとその成長を見護ることができるじゃあないか。これこそまさに、かの光源氏も行った夢の計画ッ! ……くっ、くく、くくくくく……!」
「ぜ、全然冷静じゃあなかった……」
「いや、ある意味冷静すぎるだろう……」
「まぁ、たしかにかわいーけどな。へへ、シェリーのちっちぇー頃思い出すわ」
しゃがみ込んで、そのふかふかのほっぺたをぷにぷにとつつくポルナレフ。そこから必死に引き離す。
「……や、やらんぞ! く、くそッ、どいつもこいつも油断ならんッ……!!」
「というか、別にそもそも花京院、まだおまえのもんじゃあねぇだろ……」
いいつつ、僕が電柱頭をどついている間にさりげなく彼女をひょいっと担ぎ上げ肩に乗せる。
「あッ! じょ、承太郎! おまえもか……!! 返せ! 返せよッ!!」
高さ勝負ではこちらが分が悪いとわかってのことか。天空そびえる塔の上、捕らえられたラプンツェルを迎えに行った王子の気持ちで必死にその絶壁の如き青い背中に飛び掛かっていると楽しそうに横槍が入る。
「にしし! 承太郎おまえ、ちっちゃいころ『妹が欲しい』ってよくホリィにねだっておったものなぁ……」
「……そんな昔のこと、しらん」
ジョースターさんに次いで、アヴドゥルさんもいう。
「ふっ、将来娘ができたら、承太郎は
「……そんな先のことも、しらん」
収集がつかなくなってきたところへポルナレフがぽつり呟く。
「しかし、さしあたってどうすんの? こいつの世話。風呂とか着替えとかさぁ……」
「……よしッ!! おふろなら、この典明おにいちゃんがいっしょに……」
スッパーン! と四方から一斉に強烈なツッコミが入る。
「だ、だめだ、こいつ! 完全にイカれちまってるぜ……
……べつに今にはじまったことでもねーけど」
「た、たのむから、いい加減しょうきにもどれ、花京院ッ!! 」
「このロリコン野郎……マジで通報するぞ」
「明日には元に戻るじゃろ。今日一日くらい風呂は我慢しなさい。
さ、こんな変態☆おにいさんはほっといてとっとと寝るぞい」
こいつら揃いも揃ってどこでスリッパを……。
薄れゆく意識の中、僕はただ、それだけが不思議でならなかった。
「だがこいつ、今晩ほっとくと何やらかすかわかんねーな……」
「ベッドに縛っとこーぜ。すべてはこいつのためだ」
「しかし……」
「ん? どうしたんですか、ジョースターさん。わたしの顔に何かついてます?」
「あの、アヴドゥル? おまえさー、その、か、髪型さ、変えてみたらどうかな?」
「は? 突然何を言い出すんですか。
わたしにはこの髪型がベリーベスト! 一番似合っているでしょう? がはは!」
「……気になる」
深夜、意識を取り戻した僕は当然のことながら彼女の様子が気がかりで仕方がなかった。
こんな異国の地で幼い少女が夜ひとりぼっち……どれだけ心細いことだろう。それでも奥ゆかしい彼女のことだ。だれかに頼ろうとせず、我慢して枕を濡らすに決まっている。
「が、くそ! う、動けん……あいつらめ!」
奴らが御丁寧にも施した予防措置に歯噛みをする。何故わかったのか、僕の行動パターンが。
「あっ! そうだ!!」
そこで気づく。僕にはいるのだった。こういうこまったときに頼りになる『相棒』が。
そっと彼を呼び出す。
* * *
これからどうなるんだろう?
みんな、すごくやさしいけど……このままじゃあ迷惑かけちゃう。
でも、どうしたらいいのかなんて、ちっともわからなかった。
ぐるぐるぐるぐる、考えていると、どうしても込み上げてきてしまう。
せめて心配ぐらいはかけたくなくて、みつからないよう、きこえないように声を殺して泣いていた。
「……っく、……ひっく……、……え……?」
すると、あたまにふれるあたたかい感触。顔をあげると飛び込んでくる。
「わぁ、……きれい」
まっくらななか、きらきらひかるみどりいろ。
「……仁美ちゃん、泣かないで」
「典明おにいちゃん……? 」
「僕が、ちゃんと、そばにいるから」
「……うん!」
あたたかくてやさしいうでのなかに包まれた途端、すぐにうとうとしてきて……。
ふわふわと、まどろみのなか、想う……
……やっぱり、そっくり。典明おにいちゃんは。
ゆめのなかで、いつも私をむかえにきてくれる、だいすきなみどりいろの王子さまに。
そんなの、はずかしいから、いまは、いえないけど……。
いつか、いえるかな?
いいたいな。
私が、いつか、おおきくなったら……
* * *
ちなみに余談になるが、彼女がすやすやと寝息をたてはじめてからほどなくして、無事その姿は淡い光に包まれ元のおとなの姿に戻った。
「……典明、おにいちゃん……」
子どもの彼女に抱いたそれとともに、加えてそれとはちょっぴりちがう、いけない感情がむくむくと湧いてきて……押し寄せてくる激しい衝動と闘いながら、僕がまたしても眠れぬ夜を過ごす羽目になったことなんて、もはやいうまでもないことだろうか?
……約束の刻は来た。色あざやかな星々の運命が今まさに十字(クロス)する……集えッ! 輝けッ!! 心をひとつにこの地球を、たいせつなものを護り抜け!
『十字戦隊☆星レンジャー』毎週日曜日朝9:30放送開始ッ!
COMING SOON☆
……嘘で……いや、実はちょっと本気で書きたくなってきてしまったので、この連載終わったら書こうかな。いやはや、書きたいネタばかりがたまっていく今日この頃です。
もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?
-
そのまま4部にクルセイダース達突入
-
花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
-
花京院の息子と娘が三部にトリップする話
-
花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
-
読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!