とうとうあのふたり、くっつくってよ……げへへ。
ノリと勢いの単なるバタバタギャグコメディー回。
花京院がもはや崩壊している……って、この世界では通常営業でしたね。てへ☆
……どうやら作者も少々崩壊ぎみのようです。
前半は花京院視点、後半はジョースターさん視点、そしてちょびっとマライアさん視点……でお送りします。宜しくお願いします!
ビリビリ
(……あいつらは! )
あたしの視線。その先にあるのは、一組の男と女。
(もう退院しやがったのか……)
話が違う。あと二、三日は出てこれまいと、そのはずではなかったのか。
役立たずの情報屋共に対し、歯噛みをする。
(チッ、まぁいい……)
例え何人を相手にしようが、あたしのスタンドに敗北などありえないのだから。
(……まとめて、片付けてやる)
文字通り“まとめて”。
(この、『バステト女神』のマライアが! )
* * *
例のお方の不在が功を奏したのかは定かではない。
しかし、どうにか墜落をまぬがれ無事に空路でルクソールに到着した僕と彼女。パイロットたちに礼をいい、仲間の皆が宿泊しているというホテルへと向かう。
しかし、名前と住所は聞いているものの、さすがに方向も距離もさっぱりわからない。
「あ! 花京院くん、あそこにお巡りさんがいるよ」
そこで、彼女が見つけた飛行場最寄りの交番で尋ねてみることに。
その親切な警官によると、距離は3キロ程度。
だが、地元の人間でなければ道が入り組んでいて迷いやすい。
そして、ここから直通のバスがちょうどある。
……以上の理由により、それで行くよう勧められた。
ということで、ふたり街の中心部へ向かうためのバスを待っていた。
「ねぇねぇ」
「おにーちゃん、おねーちゃん」
そんなときだった。
「一緒におままごとしよー」
「人数が足りないの。おねがーい! 」
停留所の近くで遊んでいた少女たちに声をかけられたのは。
「ごめんね、お兄ちゃんたち、ちょっと急いでいるんだ」
お誘いをやんわりとお断りする。しかし……
「えー? だめなの? 」
「ちょっとでいいからさぁ」
「配役にこだわりたいんだよねー」
不満げな顔に取り囲まれる。どうやら付き合うまで解放してくれる気配はなさそうだ。
「困りましたね……」
そういうと、彼女からはこんな一言が返ってきた。
「うーん、バスが来るまではどうせ暇だし……
まぁ、いいんじゃない? 童心に返るというのも」
「えぇ? 本気ですか?
はぁ、まったく、お子様なんだから。返る必要あるのやら」
高校生にもなっておままごとは……と、難色を示すついでに軽くからかってみる。
「ふーんだ! わかってますー! どうせ私はこどもですよーだ! 」
すると予想を超えた、やたらと過剰な反応が返ってくる。
「え……どうしました? なにをすねているんですか? 」
「し、しらない……!
えーと、じゃあお姉さんたちもちょっとだけ、いっしょに遊んでもらおうかな! 」
不思議に思い問うも答えてくれず、誤魔化すかのようにいう彼女。
それを受けて、少女たちから歓喜の声があがる。
「わーい! 」
「やったー! 」
そして、神采配をみせる、少女A。
「じゃあ、ふたりは近所に引っ越してきた新婚夫婦の役ね」
(……なん……、だと……!? )
「……しかたがないッ! やってやろうじゃあないかッッ! 」
「へぁっ!? な、なに急に!? どこから出たの? そのやる気……」
「よし……、やるからには、もう、これでもかというくらいリアルを追求……」
「しないのッ! もう……へ、変なとこ真面目なんだから……」
「いいじゃあないですか。
ここはひとつ、おとなの実力というものをみせつけてやらねば……! 」
「……なにそれ?
はぁ、ほんと、なんだかんだでノリがいいよね……典明だけに」
彼女があきれたようにつぶやく。そちらこそ大概な、お寒いギャグとともに。
それらを無論、まとめて敢えて華麗にスルーする僕。
「さて、……じゃあ、練習。
呼んでみて。僕のこと。……ね、奥さん? 」
「はぁ!? ……そ、そんな……なんで……」
瞬時に耳までまっかに染め、ぶんぶんと首及び手を振り、全力で抵抗の意を示す彼女。
「ふっ。おままごとなんだから、気楽にやればいいんですよ。
ほら! 待ってますよ、みんな」
「う……。ぐぐ……」
「あ、あ、あな……」
「……あなた……? 」
(うあぁーッっしゃー!! ……かーわーいーいーッ!! )
はずかしそうな、上目づかいがもうたまらない。こんなに可愛すぎる生物がこの世の中に存在していいものか。平静を装いつつも、心の中でガッツポーズを決める。
「ううう……どうしてこんな……」
「ふふ……よく、できました」
煙が上がっている彼女のあたまをなでつつ、悦に浸っていた。
そんな僕たちに、冷ややかな声が届く。
「ねぇねぇ……いちゃいちゃしてるとこ悪いんだけど、
『妻の妊娠中、寂しくなった夫。
近所に住む未亡人の誘惑に負け、一夜の過ちを犯してしまう!
罪悪感にさいなまれる夫……疑惑を深めていく妻……。
しかし! それはすべて、未亡人の狡猾な罠であった!! 』
……っていう設定だからね。気合い入れてよろしく! 」
「「……は、はい……」」
「あ、バス来た」
「本当だ。では僕たちはこれで。じゃあね」
「うん! 」
「ありがと! 」
「バイバーイ! 」
到着した車内に乗り込む。窓越し、小さくなっていく少女たちにふたりで手をふりながら、ぽつりつぶやく。
「……最近の女の子って……」
「……うん、そうだね……」
「しかし、あなただって十分ノリノリだったじゃあないですか。典明じゃあないのに。
本気で殺されるかと……」
痴情のもつれの果ての愛憎劇。なんだあのシナリオは。
おままごと……? そんな範疇は軽く超えていた気がするが。
あれを齢4~5歳の女の子が考えたのであれば……世も末だ。
そして、意外なことになかなかの演技力を発揮していた彼女。
「え? い、いや、やるからにはね、ほら。せっかくだし」
「嘘はからっきしなくせに……不思議だ」
「えー? 演技はまた別でしょう?
いい? ……仮面をかぶるのよ、花京院くん……あなたのもつ、千の仮面を……」
「……仁美さん……おそろしい子ッ! 」
「……。まさか返してくれるなんて……」
「……こちらの台詞だ」
そして、急にくすくすと思い出し笑いをはじめる彼女。
「そういうあなたこそ、意外と上手だったよ?
苦悩する駄目な夫……ぷっ、ふ、くくくくく……! 」
「……うるさいな。理解は到底できませんがね。
あのような不貞行為に走る輩になりきるなど……」
「ふふ、わかってるよぉ。でも、……いや、だからかな。
非日常というか、自分と違う人を演じるのって結構楽しいね」
「……まぁ、ね」
たしかに。意外と楽しめた。
それにしても、やるからには密かに何事も全力で楽しむ……という、このひとのスタンスはあいかわらずのようだ。
(しかし、こう、もうちょっと、甘い新婚生活の予行演習的な……
こんなはずでは……くそ……)
「……御一行様でしたら、朝食をとりに行くということで、出かけられましたよ」
「そうですか……。ありがとうございます」
バスに揺られることおよそ10分。僕たちは目的地にたどりついた。
しかし一足遅かったようだ。受付嬢に皆の居場所を尋ねると、こんなふうに爽やかに言われてしまった。
ちなみに建物内に土産物屋やブティックまで完備してある、なかなかに綺麗で大きい高級ホテルのようだ。だいたい見積もって一人一泊200ドル……というところだろうか。さすがジョースターさん。人気も高いのか、ロビーにそこそこの数みられる宿泊客も身なりの良い上流階級出身と思われる人間がほとんどだった。
「入れ違いになっちゃったね」
「ええ。でもチェックアウトしたわけではないようです。そのうち戻ってくるでしょう」
「そうだね。じゃあ私たちもごはんにする? お腹すいたでしょう? 」
朝一番で病院を発ったため、僕達も朝食すらまだであった。そういわれると急に空腹を覚える。
「そうですね。その辺で食べられそうなとこ探しますか。もしかしたらそこで皆に会えるかもしれないし」
「うん」
飲食店を見つけるべく一旦外にでようと、エスカレーターにのる。
が、しかし、動いていない。止まってしまっているようだった。
「あれ? 故障かな? 」
「上りのときは気づきませんでしたが……。下りだけ壊れたんですかね? 」
しかたがないので歩いて降りる。
エントランス付近まで来ると、なにやら騒がしい様子に気づく。
「あれ? ……なんだろう? あの人だかり」
「何かあったんでしょうか? 」
見ると、ご婦人方がホテル従業員にこう訴えかけていた。
「痴漢! 痴漢が出たんです! 」
「わたし、スカートめくられたんですッ! 」
「のぞきもよッ! 女子トイレに出たのッ! 」
「ど、ドアの下から! のぞいてきたの! へ、変態よ!! 」
「「……」」
彼女とかおを見合わせる。
「……痴漢に、のぞきかぁ……」
「ありえん。破廉恥な。またも理解に苦しむ……」
「……だね」
しかし、そんな僕たちに耳を疑うような情報が飛び込んでくる。
「は、犯人は外国人を含む二人組だったわ!
トイレの窓を割って、外へ逃げていったの! 」
「「え!? 」」
(が、外国人……? ……も、もしや……)
彼女も同じ想像に至ったらしい。かおがひきつっている。
「ね、ねぇ、花京院くん?
ま、まさか、そんなはず、ないよね……? 」
「そ、そうですよ。まさか……」
そこへ、とどめの一撃が入る。
「……なかなかイカした欧米人の初老のナイスガイと、
占い師みたいな格好した、変わった髪型の地元の男だったわよ~」
((……確ッッ実に、関ッ係者ですッッッ!! ))
「……」
「……」
ふたりして内心大声で叫びながらも無言で、光の速さと紛うほどの勢いでホテルの外に出る。
「……ど、どーゆーこと!?
ふ、ふたりにそんな趣味が……ってそんなわけないよね!? 」
「ええ。そんな趣味があるとは考えられない……考えたくない。
きっとなにかあったんだ」
「だよね!? そうだよね!? そうに決まっているよね!?
ふたりを探さなきゃ! 窓から逃げた、ということはこっちかな? 」
「おそらく。では、いきま……えぇ!? 」
彼女が指さす方向に同意を示し、走りだそうとした瞬間だった。異変に気づく。
「……あ、あれ? 」
彼女がぴったりとその身体を僕によせていた。
「な!? な、なな! ど、どうしたんですか?! 」
「え?! ちょっ!? な、なにこれ!? 」
あわてて離れようとする彼女。
が、逆にその勢いは徐々に増している気がする。
「ち、違うの! からだが勝手に!
吸い寄せられるみたいに……! な、なんで!? 」
「ええぇぇえー!? 」
(ち、近い! 近いって!! )
ほぼ零距離にある、彼女のかお。僕の肩と顎のあいだにすっぽりとおさまってしまう。
首筋に感じる、なめらかな頬、まばたきするたびにふれる睫毛がくすぐったい。
「ご、ごめんっ……か、きょう、いんくんっ……! 」
いまにも接してしまいそうな、つややかなくちびる。そしてそこから漏れる声と吐息。
シャンプーやせっけん。否、それだけではない……
彼女自身から立ち昇る、あまい、いい、かおり……
以上が相乗効果を発揮しつつ、総攻撃として、容赦なく僕を襲う。
(うおおぉあぁー! こ、これはっ! い、いかんッ! )
昨晩あれだけがんばって、ふれるのを我慢したというのに……なんということだ。
「あ、あぶない! 」
そんな最中、前方(……ぜんぜん見ていなかった。それどころじゃあないに決まっているだろう? こんな状況……)から、釘や、ハサミ、ナイフやフォークがすごい勢いで飛んできた……らしい。それを彼女がセシリアで迎撃してくれる。
「ええっ!? 」
しかし、はじきとばされたそれらが、再び宙を舞いこちらへ向かってくる。
「スプラーッシュ! 」
それもなんとか撃墜する。
「くっ! 飛んで、いや、吸い寄せられてきている……?
これらはすべて、……鉄か?! 」
「え? そ、それって……もしかして、私たち、磁石に……? 」
「ええ。磁力を操るスタンド……でしょうか?
敵の術中にまんまとはまってしまったようですね……」
「ど、どうしよう……」
「……すみません! ……失礼します」
「きゃっ! 」
勢いよく彼女を片手でかかえあげ、走り出す。くびれた腰の感触。そして、その上……まわしたこの腕が否応なしに感じとってしまう、やわらかな、あれ……の存在感。
(だ、だれだ、ちいさいとかぬかしたやつはッ! いますぐでてきて僕に謝れ……! )
それらが容赦なく僕を……以下略。
やむを得ず、だ。決して故意ではない。それだけは強く主張しておく。
そうだ。いつでもおもいだせるよう、ふかくこころにきざみつけたりなんて、していない。
……わけはない。きざみつくにきまっているだろう。こんなの。無理いうな。
(そ、それどころではないだろう! 自分よ!
こういうときこそ心頭を滅却……ああ、もう、できるかーっ! )
僕の心中は、もはやてんやわんやの大騒ぎである。しかしそれを彼女に悟られるわけにはいかない。どうにか抑えつつ、口に出す。
「と、とりあえず、ジョースターさんたちを探しましょう。
敵の本体もきっと近くにいるはずだ! 」
「う、うん! 」
真っ赤なかおで頷く彼女。どうやら見当違いの心配をしているらしく恐々申し訳なさげにいう。
「ご、ごめんね。重いでしょ……? 」
「いえ、全く。もともとあなた軽いし」
だいたい、このひとを抱えるのは、もはや何度目になるのだろうという話だ。それにしてもこんなに密着するのは初めてだが。なんとおいしい……いや、まずい。これはまずい。
(いかん、そうだ! 考えるな、感じるんだ……!
……いや、感じちゃ駄目だろ! 逆だ、逆!! )
必死に、冷静に。できるかぎり血液を脳に分散するべく考察を進めてみる。
「……えーと、加えて多分磁力……引きあう力のおかげで、体重……重力方向のベクトルの力は相殺されてほとんど0に近くなっているみたいですよ。
支えているだけで、ほぼ僕の腕力は使っていません」
「そ、そうなんだ。よかった……」
「ただ、非常に……走りにくい……」
「あ、そりゃあそうだよね。ごめんね」
「……いや、ぜったいわかってないでしょう……」
「え? 」
「いえ、なんでもないです……」
(……わかって、たまるか……)
「でもなんで? いつのまにこんな……いったいどこで攻撃されたんだろう? 」
「うーん、もしかして、あのときじゃあないですかね?
ほら、おままごとのとき……」
「あ! あの怪しいコンセント?! 」
最近のおもちゃとは、かくもリアルなものなのか……などと、ふたりして呑気に感心してしまっていたことを思い出す。
「そうだ! なんかバチっときたもん。ただの静電気かと思ってたよ。しまった……」
「まぁ、今さら嘆いてもしかたがない。敵を倒せば元に戻るはず。
とりあえず、状況を整理し、今できることをしましょう」
「うん! 」
「僕らが足止めされているこの隙におそらく二人は直接敵と対峙しているはず。援護せねば。
鑑みると、どちらを、ですが……」
「……なるほど。セシリア、……御願い! 」
そして、彼女の飛ばしたセシリアを追う。
「いたっ! あと500メートルくらい! 」
成長……修行と自主トレの成果か、彼女の探索範囲は以前よりもはるかに増していた。
「了解。とばします。しっかりつかまって」
「うん! 」
「……じゃあなかった! 駄目でしょーッ! 」
「あぁっ! そ、そうだった。ご、ごめんっ! 」
(……ぬわぁああああー!! )
そうして、僕らはより一層くっつくことになり……走りにくさが、倍増した。
* * *
「ジョセフ・ジョースター。
貴方、けっこう、わたしの好みのタイプなのだけれど……残念ね。
その機転のきく頭のよさといい、ユーモアのセンスといい、お顔もチャーミングで……。
少し歳上すぎるのが難だけど、お付き合いしてもいいかなーって、思っちゃうくらいなのに」
「じゃ、じゃあ、あの、助けてくれてもよくない? ねっ! 」
「ダーメ。だって、DIO様の魅力には遠く及ばないもの。ふふ」
わしは今、追い詰められていた。
うかつにも、敵……今この目の前にいる、超ミニなスカートを履いた、脚がグンバツのお若いレディ……その術中にはまってしまったのだ。
思い起こせばそのため、あんなコンセントなんてうっかり触ってしまったがために、朝っぱらから、いや、昨日からか……
義手は壊れるわ、いろんなもんがとんできて痛いわ、エスカレーターに挟まれそうになるわ、
痴漢に間違われるわ、やけに若作りをしたばばあに惚れられるわ、しまいにはぶち殴られるわ、
電車に轢かれそうになるわ、アヴドゥルと密着してチークダンスを踊るはめになるわ、
あまつさえ禁断の関係を誤解されるわ……
……ろくなことがなかった。もう、涙がでた。
なぜこんな目に。なんてかわいそうな、わし……。
そして、今、ボルトで壁にはりつけにされて動けない。
絶賛、絶体絶命真っ最中……そういうわけだ。
『バステト女神』のマライア、というこの女。DIOのはなった刺客。
磁力を操るスタンド使い。かなりの実力者だ。このままではまずい。
「じ、ジョースターさん! 」
アヴドゥルも、同様に罠にはまって車の下敷きになり動きを封じられている。援護は期待できそうもない。
「……さようなら、ジョセフ。
来世では、御縁があるといいわね」
そういって、女の手からはなれたナイフが磁力と相まって、物凄いスピードでこちらへと飛んでくる。
鉄を火炎で燃やし尽くせるアヴドゥルと異なり、現状わしの能力ではこれを防御するのは不可能だ。
これまでか、……と思いながらも、あきらめるわけにはいかない。なにか逆転の一手はないかと思考を巡らす。
「ぐっ! 」
しかし、そんな都合のよいものは思いつかず、無情にも鋭い刃の切っ先がわしの喉に突き刺さろうとする。
その瞬間だった。
「なにィ!? 」
見知った鳥型のスタンドが、体当たりでナイフを遥か彼方に弾き飛ばした。
「ま、まさか! 」
「こ、これは、……セシリア!? 」
旋回して戻ってきた桃色の鳥が舞い降りる場所……そこにはよく知るふたりの姿があった。
「よかった……! 間に合って」
「無事ですか!? ジョースターさん、アヴドゥルさん! 」
「「花京院! 保乃! 」」
「「……え……? 」」
幾日かぶりの、再会……なのだが。
「おい……」
「おまえらなぁ……」
ふたりは、べったりと密着していた。
横から首元に腕を回して抱きついている保乃を花京院がかかえ上げている。
どうがんばっても、恋人同士がイチャついているようにしかみえない。
「いや、気持ちはわからんでもないよ、うん。
付き合いたての頃は片時も離れたくない……そうだろう。
でも、戦闘中だよ? すこしは我慢しなさいよ……」
「そうだぞ。人前で……はしたない。
秘すれば花、そういうものだろう」
「「ち、ちがいますッ! 」」
声を揃えて否定するふたり。
「僕たちもあのコンセント、触っちゃったんですって! 」
「そ、そもそも、私たち、つ、つ……付き合ってなんて! 」
「なーんだ。わしゃてっきり」
「ええ、てっきり」
まあ、本当はそんなこと、もちろんわかっていたけれども。
* * *
(チィッ! こいつら目障りな……いちゃいちゃしやがって!! )
「このビチグソどもがぁ! 死ねィッ!! 」
あたしは仕込んでいた武器をすべてぶちまけ、やつらを攻撃した。
「……甘いな。いまの僕たちに、そんなものは通用しない! 」
「まかせて! 」
「な、なにィィ! 」
しかし、それははねかえされるでなく、ふにゃふにゃとした壁に変化した女のスタンドにすべて吸収されてしまう。
「くらえっ! 」
そして、同時に男に反撃をくらう。
「ぎゃっ!」
まさに攻防一体といった形だ。厄介極まりない。
「ふふ、はねかえしても、また飛んできちゃいますからね。
と、いうことで反省を生かして表面性状をベタベタにしてみました」
不敵な笑みを浮かべ女がいう。
「……その名も、セシリア・とりもちスターイルッ!! 」
「……。まんま。な上、ださい……。
ほんっと、名付けセンスないなぁ……。
……はっ! いかん! このままいくと、僕の双肩に、こどもの……」
「ん? さっきからぶつぶつなにいってるの? 花京院くん」
(くっそ、こいつらいちいちイチャイチャと……!
くっつけたのは失敗だった……いろんな意味で……)
「キィッ! こ、ここは一時撤退だ。さすがに分が悪い! 」
(だが、あきらめん! 必ず全員ぶちのめしてやる……ッ! )
* * *
路地裏に姿を消す、敵。
同時に少し磁力が緩み、動けるようになる。
このあたりはスタンドの基本ルール通り、本体が離れると……ということか。
「あ! また逃げた! 追いましょう、ジョースターさん! 」
保乃にガードしてもらいつつ、花京院に車を破壊してもらい、こちらも動けるようになったアヴドゥルがいう。
「まて。逃げたのではない。
あやつは付かず離れずで戦うタイプのスタンド使いのようだ。
近づきすぎると捕まるし、離れすぎれば『磁力』が消える……」
「では、磁力が効かなくなるところまで、逃げますか? 」と、アヴドゥル。
「いいや。時間が経つにつれて磁力は強くなると言っておった。
それに、それではあやつを倒したことにはならん。
このジョセフ・ジョースター、若いころから作戦上逃げることはあっても闘いそのものを途中で放棄したことは決してない……」
目を見開き、言い放つ。
「無論……このまま、ガンガン……闘うッ! 」
「「「はいっ!! 」」」
それに呼応し、一斉に良い返事をする三人。
「そのためにも、まずは作戦会議といこう」
しかし、そこで、じりじりとあとずさりをしつつ花京院がいう。
「さ、作戦会議はおおいにけっこうなんですが……あんまりこっちにこないでください。四人でくっついちゃったりしたら、しゃれになりませんよ」
「なんじゃとぉ? 花京院、おまえ、とかなんとかいっちゃって……
ほんとうは『ひとりじめ』したいだけなんじゃないのぉー? 」
「はぁっ!? なっ、な、なな、なにをいうんですか!?
そ、そんなわけないでしょう!! 」
「はぁーん? ここ何日か、おまえずーっと、ひとりじめしてたくせにぃ~!
まだ足りんのか? ほんっと、独占欲の強い男じゃのーう!
あんまりそんなだと、いつかきらわれちゃうよぉ? ししししし! 」
「ぐぬぬぬぬ……」
面白いので、すこしからかってみると、思ったとおりの反応を示す男。
「へ? ひとりじめ……? なにをですか? 」
それにひきかえ、やっぱりさっぱりわかっていない、この超絶鈍感娘。
(……おまえをだよ。あいかわらずだな、このふたり……)
そして言っといてなんだが、この男のそーいうところを、嫌うどころか、むしろよろこんでしまうような娘であったことを思い出す。
「ねぇ、花京院くん、どうしたの? 」
「な、なんでもないですッ! 」
(なのに、なんでじゃ……。このかんじ。
もしかして、ほんとうになーんも進展しとらんのじゃなかろうか……)
自覚なくじゃれ合うふたりを遠い目でみる。
(わしの若い頃なんて、惚れちまった女には即アプローチ、即ゲットしとったもんじゃがのう。
まったく最近の若いもんは……)
そして、今はそれどころではなかったことをようやく思い出し、真面目な話をすることにする。
「まぁ、でも、確かにそうじゃな。
またくっついてしまうのはいか、ん……? 」
瞬間、わしの頭に光明がおとずれる。
「……よし! 挟み撃ちといこう! ハーミットパープル! 」
わしはスタンドを出し、この街の地図を地面に念写、描き出す。
「……この三方向の分かれ道をそれぞれいくのだ。
すると、同じところにつながっている」
指で、道を、なぞる。
「ここだ! ここでやつを追いつめ、倒す!
いいか? 作戦はこうじゃ……!」
迷路のように仕切られて、入り組んでいる道を、壁沿いに進む。
(ぐうう……か、身体が、重い! )
わしの身体に帯びている磁力は先程よりもさらに、もうすでにかなり強くなってしまっているようだ。歩くたびに街中の物が飛んできてくっついてくる。
プロポーズ中のカップルの指輪、ビールを飲もうとしている親父の栓抜き、店の軒先にピラミッドの如く積まれていた空き缶……そんな軽いものはもちろん、電気屋のテレビや出前を運んでいるラーメン屋の自転車といった重いものまで。そして、靴には砂鉄がくっつき、ジャリジャリと地面と引き合い、またこれが地味に歩きにくい。
引きずるようにして、とにかくがむしゃらに進む。
(……が、しかし! )
とうとう目的の場所にたどり着く。
すると、女が右手方向の道から現れた。
「お、追い詰めたぞ! はぁ、はぁ……」
そして、わしの前方、つきあたりの曲がり角からはアヴドゥルがきた。予定通りだ。
「ふん……そんな鉄で着ぶくれしたような恰好でよくいうよ! 」
それを追いかけるように、女の後方から花京院のエメラルドスプラッシュが飛んでくる。
「チッ! あのバカップル、ほんっとうに、うっとおしいねッ!! 」
そちらに敵が気をとられた瞬間、すべての条件が整った。
「よし! 今だ!! いくぞ、アヴドゥル! 」
「はい、ジョースターさん! 」
「!? 」
「そーれ! 」
「ぃよぉいしょー!! 」
わしら二人が壁から手を放すと、その瓦礫にまみれた身体は宙を舞い、ものすごいスピードで引かれあう。
「ぎゃあーッ!」
そして、中点で敵の女を押し潰した!
「ビチ、グソ……が……」
「まさに挟み撃ち……じゃよ。
その場所がわしとアヴドゥルの直線上にあることに気づかなかったようだな」
「もう聞こえていませんよ」
瓦礫の山に埋もれる女。
そこからはみ出た痙攣するグンバツの脚だけがみえる。
「このぶんじゃ、全身骨折で再起不能ですね」
「うむ」
「ジョースターさーん! 師匠ー! 」
そこへ、馬鹿ップル……ふたりが到着する。
「フッ。どうやら、目論見はうまくいったようですね」
「ああ。おまえたちが後ろから追いかけ、牽制して、この道に誘導する。
が、しかしそれは囮にすぎん。
実のところ、本命はまわり込んできたわしら……。
……ということに、気づかなかったようじゃ。ナイスじゃったな! 」
「はぁ、しかしとんでもない目にあいましたね。やれやれ」
「朝っぱらから疲れたわい……」
疲労困憊。アヴドゥルとともに、おもわずその場にへたり込む。
そんなわしらに花京院たちはいう。
「お疲れ様でした。御二人は少し休んでください。
私たち、承太郎君たちを探してきますね」
「あっちにも敵が来ている可能性もあります。
早いとこやっつけて合流して、みんなで朝ごはんとしましょう」
「……ふっ。ああ、頼むよ。……ところで……」
あることに気づいたわしは、アホらしいが指摘することにする。
「どうしました?」
「……いつまでおぬしら、そーやってくっついとる気じゃ? 」
「「あ……」」
「もう、やつの術はとっくに切れとるはずなんじゃがのう……? 」
「す、すみません! 」
あわてて彼女を下ろす花京院。
「こ、こちらこそ、ごめん! 」
お互い真っ赤な顔をして謝りあうふたりに心の底からの感想を投げる。
「もう、おまえら一生くっついとけよ……」
「がはははは、美しい! まさに青春だな! 」
「じゃ、じゃあ、いってきます! 」
「気をつけてなー! 」
そして気を取り直して、元気に走っていくふたり。
「しかし、アヴドゥルよ……」
「なんですか? 」
「花京院のやつ、あの娘を片手で抱えてこの街をずっと走り回ってたんじゃろぉ?
なんであんなに元気なんじゃ? まだ若いといえど、すごくね?
あいつやっぱり波紋戦士なんじゃあ……? 修行させてみようかな……。
もしくはポパイか? ホウレン草でも食ったのか? 」
「たしかに。不思議ですね。
……ふっ、ですが、素晴らしきかな。
それが、恋のちから、というやつなんじゃあないですか? 」
「また……。そーいうのがほんと好きだなぁ、おぬしは」
「ふっ、覚えがあるでしょう? ジョースターさんだって。
なつかしき、あの甘酸っぱい感覚を。
すきな娘を抱えるくらい、どうってことないんでしょう」
「……むしろ元気になっちゃうか。そうじゃな」
おもいだす。あの、なつかしき、青春の……
「もうとっとと、ほんとにくっついちまえばいいのに……」
「甚だ同感ですが、まぁ、それもまた、いいんじゃあないですか?
こういうときは今しかないのですから」
(たしかに。まどろっこしいが、そんな関係もまた、いいのかもしれないな……)
などと、可愛い孫たちのほほえましい姿を見送りながらおもう。
(からかいがいがあって、こっちも楽しいしな。ししし! )
マライアさんの叫びは作者の心の叫びです。
もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?
-
そのまま4部にクルセイダース達突入
-
花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
-
花京院の息子と娘が三部にトリップする話
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花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
-
読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!