私の生まれた理由   作:hi-nya

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 死神13戦、後編です。


It's not a dream……

~♪

 

「はっ!! 」

「こ、ここは……? 」

 

 目覚めると、そこは遊園地の真っただ中だった。

 ……寝袋に入ったままで。

 

「はて? なんでわしら、こんなとこで寝ておるんじゃ? 」

 

 首を傾げる私達をよそに、驚愕の表情を浮かべ叫ぶひとが一人。

 

「こ、ここは!? ……ここはッ!! お、思い出したーーッ!!! 」

 

「ポルナレフさん? 知っているんですか? 」

「いいか!? か、花京院の言っていたことは本当だ!

 わ、忘れていた……。忘れさせられていたんだ!! ここは夢の中なんだよ! 」

 

それを受けて、再び寝袋に滑り込むこの方。

 

「夢ぇ? んじゃあ、もっかい寝ーようっと! 」

「……じじいー! オレと同じ反応してんじゃねーよ!!

 ちがう! 夢だけど、ただの夢じゃねぇ!

 ここは敵スタンドのつくりだした世界で……ここで殺されたら現実でも死んじまう! 」

「なに!? 」

「やべぇ! どうしてオレはあいつのこと信じてやらなかったんだ!

 花京院に、謝らなければ! ……おまえも、すまない……」

「そ、それはあとで本人に! 」

「ちっ、早く起きている花京院に知らせねーと……」

 

「そうだ! 身体に傷をつけて……なっ!? 」

 

 そのとき、ポルナレフさんの髪が……急に上に伸びた。まさに電柱のように。

 

「ポルナレフ! お前、髪が! どうしたぁ!? デッサンが狂ったのか!? 」

「! な、なんじゃこりゃー!! オレの髪が10m以上に! お、重い……」

 

 たまらずその場に倒れ伏すポルナレフさん。

 

「ぽ、ポルナレフ!! なにぃッ! 」

 

 続いてジョースターさんの左手がポンという軽快な音と煙とともに、花に変わった。

 

「!? ぎ、義手が!? うわー! 」

 

 花はどんどん怪物のように大きくなり、そのつるでジョースターさんを締め上げはじめた。

 

「ぐっ……! 」

 

「じじい! ちっ、! 」

「た、ダメだ、承太郎! ここでは自分のスタンドが出せないんだ! 」

 

 反撃するべくスタンドを出そうとする承太郎君にポルナレフさんがどうにか伝える。しかし……

 

「……。出たぜ……?」

「……あ、あれ? そんなはずは……」

 

『オラオラオラオラオラオラー! 』

「ぐっ! 」

 

 ところが、スタープラチナ(? )は、にやりと笑うと、主にむけてラッシュをたたき込みはじめた!

 

「に、偽物……!? うぐ! 」

 

 

「や、ばい!! ここはやつの世界! だから、なんでもやつの思い通りになっちまうんだ……! 」

「ぐぐ、ぐ……こんなところで、どうやって闘えというんじゃ……! 」

 

「み、みんな! いけない! は、早く、花京院くんに知らせて起こしてもらわないと! 」

 

「……させないヨ……」

 

「……えっ!? 」

 

 私が動こうとしたときだった。耳に不気味な声が響く。

 

「…お、おい…!う、うしろだー!! 」

 

 

「ラリホー! 」

 

 

「!? くっ! 」

 

(ぴ、ピエロ……いや、大鎌を持った、死神……!? )

 

 大鎌を私の首にあてがい、死神はふざけた調子で言った。

 

「けけけ、まんまとはまってくれたナァ~!

 ボクのつくりだした世界、悪夢世界(ナイトメアワールド)にヨウコソ~!

 死神13(デスサーティーン)のお送りする、地獄の世界への入口さ!

 テメーらはみんな、ここで死ぬのだぁ! 」

 

「で、死神13……!? 」

 

「……ただーし!キミを除いてネッ! 」

「えっ!? 」

 

 煙に包まれたと思った瞬間、気づくと私は鳥籠のようなものの中に捕らえられ、しかもその服装は、まるで童話に出てくるシンデレラやラプンツェル……といったお姫様さながらのドレスに早変わりしていた。

 

「なにこれぇー!? 」

「喜びたまえ! キミはボクのママにチビっと似ているからね! トクベツさ!

 ずっとずっと、この世界で、ボクの、108番目のワイフとして暮らすのサァー!! 」

 

「はぁー!? 」

(108番目って……煩悩か! 多いよ!! 貴方は始皇帝か!? ファラオか!? 徳川将軍か!? )

 

 もう何からつっこめばよいのか。もちろんそんな後宮……大奥に入るのはごめんだ。いやそれ以前の問題か。

 

「だ、出して! 」

 

 なんとか脱出しようと鉄柵を掴んで必死に揺らすもびくともしない。

 そんな私の様子を眺め満足したのかにたりと薄笑いを浮かべると、くるりと皆の方へ振り返り死神は言う。

 

「よーし、ではその他は切り刻んじゃうゾー!

 そんで、あの忌々しい花京院のヤツはそのうちやって来る仲間にまかせるとシヨウ!

 アイツははじめてボクの正体に気付きやがった、油断ならんやつダカラな!

 敬意をひょーして、袋叩きの刑ダ!! 」

「くっ!」

 

「それでは、爽やかで余裕ある勝利を象徴した叫びをあげさせてもらおうカナ!

 ……ラリホー!! 」

 

 なんとも表現し難い、不気味な高笑いを始める死神。

 

「なめやがって……」

 

「さ、ではまずこの中でいちばん賢そうな承太郎からだ~! 」

「ちっ……! 」

 

 おどけつつも無機質な視線がじろりと向けられる。

 

「けけけ……そぉーれ! 」

 

「い、いかん! 」

「承太郎ーッ! 」

 

 見定められた標的へ死神の大鎌が横一閃に迫る!

 

 しかし、その瞬間だった。

 

「……させないっ! 」

 

 私の左手から羽ばたき舞い降りた鳥が、薄桃色の障壁となり承太郎君への攻撃をはじく!

 

「なに!? 」

「せ、セシリア!? 」

「え、おまえ……? 」

「な、ナゼだ!? ボクちんのこの世界には……!? 」

 

「……なぜって?」

 

 全員に向けて、ゆっくりと、答える。

 

「こんなことを思いつけるのは、その、油断ならん彼、だけですよ……! 」

 

「ま、まさか!? 」

 

「……『セシリアをこっそり出したまま眠ってみてください』、か。

 ……おまじない、ね。理由はわからなかったけど、こういうことか。

 そうすればスタンドも衣服や寝袋と同じように、この世界に持ち込める……みたいですね」

 

「やはり、アイツの入れ知恵かー!! 」

 

 憎々し気に死神が叫んだのと同時だった。私のいる鳥籠が壮大な爆発音と白い煙に包まれる。

 

「きゃ! ……っ!! 」

「なにィ!? 」

 

「……らりほー! 」

 

「ぐえっ! 」

 

 その一瞬の隙に、なんと、法皇(ハイエロファント)が死神13の背中に回りこみ、その首を絞めていた。

 そして……

 

「……デスサーティーン……、悪いけど、このひとはキミのお姫様じゃあないんだ……」

 

「ああっ! 」

 

「……返してもらうよ! 」

 

 

 その主である彼は、私を抱えて鳥籠の中から連れ出してくれたのだった。

 

 

 

「か、花京院くん……! 」

 

「……お迎えにあがりました、姫。……なんてね。

 ふふ、そーゆーふわっふわした格好も似合うじゃあないですか」

「なっ!?」

 

 悪戯っぽく笑う彼。体中の血液が顔に集中するのを感じた。

 

(な、な、なにいってんの! ってかこれ、お、お姫様抱っこ!?

 わー!? なにこの状況!? なにしてくれんの!?

 こ、この……王子様め!! 私の心臓壊す気かな……?! わぁあー!! )

 

 フルパニック状態の頭の中を、なんとか悟られまいと声を荒げる。

 

「も、もう! それどころじゃないでしょ!! 」

「フッ、そうですね。

 ……デスサーティーン! キミはちょっとオイタが過ぎたようだ……」

 

 パチンと花京院くんが指を鳴らすと、法皇がさらに絞める力を強くする!!

 

「ぐ! うっがぁー! くるちい! た、たしゅけてぇー! ……! 」

 

 

「さぁ、お仕置きの時間だよ、ベイビー! 」

 

 

 

「ちくしょー! ハナセ!! 」

「無駄だ。ハイエロファントは完全におまえの死角に入り込んでいる。

 その大鎌で切るのは不可能だ」

「ぐっ! 」

「諦めて降伏するんだな。

 これ以上抵抗を続けるなら、いくらおまえが赤ん坊といえど、本当にその首をへし折るぞ! 」

 

 死神にそう勧告しつつ、花京院くんは私を束縛が消えた仲間たちのもとへ連れて行ってくれた。

 

「花京院! 」

「花京院、すまない。オレは……」

「わしもじゃ……すまん……」

 

 一斉に謝罪の言葉を口にする皆に告げる。

 

「いえ、あの状況では無理のないことです。気にしないでください。むしろ……」

 

 そして、何かを言いたげにこちらを見る。

 

「ん? なに?? 」

「……いえ、なんでも」

 

 視線に対し疑問を投げかけるも、そうはぐらかされてしまう。

 

「いや、なんでもないって感じじゃあ……」

「あーもう、はいはい、またあとで……しっ! 」

 

 すると、真剣な表情の彼に制される。

 

「花京院くん? 」

「……どうやら、まだのようですし」

「え? ……ハッ! 」

 

 その言葉をきっかけに、自分と仲間も空に立ち込める不穏な雰囲気に気づく。

 

「く、雲が集まっていく! 」

「妙なことをするんじゃないぞ、デスサーティーン!! 」

「なにかやばい! 花京院、ハイエロファントを離れさせろ! 」

 

「もう、遅いヨー! 」

 

 集まった雲が巨大な『手』を形作り、死神の大鎌を掴む。

 

「あっ!! 」

 

 その刹那、己の胴体ごと、大鎌はハイエロファントを水平に切り裂いた!

 

「な、なんだと……ぐ、ふ……! そんなことをしたら、おまえも……! 」

 

「花京院ー!! 」

「ヒャーッハー! わがデスサーティーンは……ジャーン! 」

 

 そういいつつ、真っ黒なマントをバッと捲る。

 

「頭!両腕!大鎌!! ……ってデザインでしたー! マントの中は空洞なのさ! 残念~!! 」

「なにィ! 」

「ひゃはははは! 今ごろ本体の花京院もシュラフの中でまっぷたつさぁ! 」

 

「ぐあぁぁーー! 」

「か、花京院! 」

 

 苦悶の声を上げ、うずくまる彼を皆で囲む。しかし……

 

「……なーんちゃって! 」

 

「……ナニィ!? 」

「よく見てください。おとなしく輪切りにされるほど、ハイエロファントはのんきしてませんよ」

 

 ケロッとした顔で空を指しながら言う。

 

「あっ! 」

 

 見ると、ハイエロファントがそのからだを紐状に変え、器用にデスサーティーンに巻き付いていた。

 

「言っただろう……完全に『死角』に入りこんでいるから大鎌では切れないと。

 僕のハイエロファントは紐状になれるんだよ。誰かに聞かなかったのかい? ……そして! 」

 

 その細長い紐状の触脚が死神13の耳の穴に滑り込んでいく!

 

「ギャー! み、耳から! ボクの体内に入ってきやがッター!? 」

 

「こんなこともできちゃうのさ……!

 さて、内側から破裂させちゃおうかな。ぼーん! ってね……」

 

「や、ヤメテー! ボクの敗けですゥー!! 」

「……コナゴナになりたくなかったら、この世界から僕たちを解放するんだ」

「だ、大丈夫です! 普通に目が覚めたら、元に戻れマスから! 」

「ふーん……。じゃあそれまでは、このまま監視させてもらうよ。

 あ、もちろん僕の目が覚めたら、いつでも、キミ『本体』をくびり殺せるってこと、ゆめゆめ忘れないようにね」

「ひぃ! わ、わかっておりマスー! 」

 

(く、くびり……全開の笑顔でなんて恐ろしいことを……!

 ……まぁ、そりゃあ、怒るよね)

 

「というわけで、もう大丈夫。目が覚めるのを適当に待ちましょう」

 

 

 

「そうそう。この腕の傷、消してもらおうかな。できるだろう? それくらい」

「は、ハイッ! 」

 

 落ち着いたところで、死神に詰め寄る花京院くん。そこに便乗する私。

 

「あっ! ちょっとまったー! 私も!! 私の、このけったいな格好も元に戻して! 」

「えー? ここにいる間はもうそのままでいいじゃないですか」

「やだよ! 動きづらいし……なにより、は、恥ずかしいっ!

 そもそも、みんな元に戻ってるのになんで私だけ……! 」

「しかたがないなぁ……。じゃあ頼むよ」

「ワ、ワかりました! 」

 

 すると、再び、私のからだは煙につつまれ、気づくといつもの格好に戻っていた。

 

「ふぅ……やっぱ落ち着く。 ……あっ! ほんとに傷消えてる! よかったね! 」

 

 痛々しかった彼の腕の傷も、跡形もなく消えていた。

 

「ええ。……さて。では、姫……? 」

「も、もう! それはいいって! 」

 

「もしよろしければ……少し、僕にお付き合い願えませんでしょうか? 」

 

 中世の騎士のように、恭しく礼をする彼。

 

「? 何に?? 」

「あれ、です」

 

 自分たち仲間以外は誰もいない無人の遊園地で、ひときわ存在を主張するそれ、を彼の指はさしていた。

 

「……あれって、観覧車?? 」

「はい。このままでは、あれが恐怖の対象になってしまいそうなので……払拭しておきたいんですよ」

 

「……」

(……かわいそうに。よっぽどのことをされたんだね……)

 

「……だめですか? 」

「いいえ。……ええ、わたくしでよろしければ。よろこんで。」

 

 ガラでもないのはわかっているが、せっかくなので、私も彼を真似てみる。

 

「ふっ……! じゃあ行きましょう」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 いつのまにか日は沈み、夜になっていた。

 

(……時間の概念とか、あるのだろうか。そりゃあ適当か、夢の世界だもんな……)

 

 などと考えながら、観覧車に向かって歩く。

 

 メリーゴーラウンドにコーヒーカップ。

 ライトアップされ、きらびやかな園内はなかなかに幻想的で美しく、見ごたえのあるものだった。あいかわらず、どことなく不気味な部分に目をつぶれば、だが……。

 

 一方、そんなことはまったく意に介さないかのように、隣を歩く彼女の足取りは軽やかだった。

 

「ふふふ! 楽しみー! 」

「なんだか、ごきげんですね」

「えへへ、実は私も乗ってみたかったんだ! あの観覧車!

 というか、遊園地自体いつぶりだろ。小学校のとき家族で行った以来かな……」

「僕も何年ぶりだろう……

 あれ? 上京してからとか行っていないんですか?

 かの有名なネズミの夢の国なんて近いじゃあないですか」

「あぁ、うん。いまだに行ったことないんだ、私。……非国民ってよく言われる」

「非国民って……もともとあれはアメリカ発祥でしょうに……」

 

 すると、逆に問い返される。

 

「花京院くんは? 」

「僕は昔、両親と行ったことがありますよ」

「そうなんだ! どうだった? 楽しかった? すごいんでしょう? パレードとか! 」

 

 矢継ぎ早に飛んでくる彼女の質問に答える。

 

「ええ。楽しかったですよ。

 なんというか、あの独特な雰囲気は一度体験しておいてもいいかもしれませんね」

「へえー! いいなぁ! 」

 

 そんな彼女に、ひとつ訊ねる。

 

「……もしか、しなくても、実はあなた、すごく行ってみたかったりします? 」

「え?! なんでわかったの……? 」

「いや、その様子でわかんないわけないでしょう……」

「うっ……ほ、ほら着いたよ! 近くで見ると一層大きいね! 」

 

 

 

「さ、どうぞ」

 

 ゴンドラのドアを開け、彼女を中にいざなう。

 

「ありがとう! わーい! 」

 

 はやる気持ちを抑えられないかのように、中に入っていく彼女。

 

(……こどもみたいだな、まったく。ふっ、ほんとうに好きなんだな、こういうの)

 

「早くー! 乗らないのー? 」

「はいはい」

 

 彼女の催促に応え、自分も乗り込む。

 ゆったりとした動きでゴンドラは上に登っていく。窓から入る風が心地よい。

 

「ふふ、わくわくするね! 」

「ええ、さっきとは大違いですよ……」

 

 先ほどのスプラッタ……

 輪切りの犬、赤黒いミミズソフトクリーム、一斉にこちらを見る無数の眼球……

 あの血生臭い惨劇を思い返し、同じ乗り物でも状況でこうも違うものかと思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「あ、ごめん、なんか浮かれちゃって。大変だったのに……」

「いえいえ。それでいいんですよ。むしろそれがいいんです」

「あ、そっか。そうだったね。じゃあ遠慮なく楽しんじゃうね! 」

「ええ、そうしてください」

 

 にこにこと楽しそうな彼女の顔をみていると、先ほど頭に浮かんだ一つの案、を、どうしても伝えたくなってきた。

 緊張を悟られないよう、口を開く。

 

「……ところで、さっきの話ですけど、……行きます? 」

「ん? 」

 

「日本に帰ったら……、一緒に。現実の、夢の国」

 

「え?! い、いいの?! 」

「よくなかったら言いませんって……」

「やったー! ふふふ、また日本に帰る楽しみが増えちゃった! 」

 

 パッと花が咲いたかのようだった。

 

「……あ、でも……」

 

 しかし、それは束の間で、そういうと、満開だった彼女の表情が一転して曇ってしまう。

 

「ん? どうしたんですか? 」

 

「……私、忘れちゃうんだよね? ここでの記憶、消えちゃうんでしょう……? 」

 

「……わかりませんが、おそらくは」

「そう、だよね……」

 

 うつむいてしまった彼女にいう。

 

「大丈夫ですよ。少なくとも現実で奴のことに気づいた、僕の記憶は残る。

 さっきのヤツのあわてぶりから察しても、そこは確実です。

 また折をみて僕から誘いますから」

「本当に!? よかった……! ぜったいだよ! 」

「ええ、約束します」

「うん、……約束……」

 

 嬉しさとともに湧き上がってきた気恥ずかしさを誤魔化すかのように窓の外を眺めると、いつのまにか頂上近くまで僕たちの乗ったゴンドラは上昇しているようだった。

 

「わぁ、ずいぶん高くなってきたね! 気持ちいい! 」

 

 くりぬかれた窓からかおをのぞかせ、風を楽しむ彼女。

 ……かと思いきや、ふいに訊ねられる。

 

「あ、そうだ。さっきの、『またあとで』って、あれは……? 」

 

「ああ。……そうですね。

 まるでガツンと頭を殴られたかのような……相当な衝撃だったわけなんですよ。僕にとって」

 

「……え? 」

 

 法皇を出して、攻撃しようとした……諦めていた、その瞬間。

 

 まさか、あなたに信じてもらえるなんて。

 

 あのまま、気絶してしまうかとおもった。それくらいに。

 

 ……実はそれで、閃いたわけだけれども。

 この世界にも自分たちのスタンドを持ち込めるかもしれない、ということに。

 

 ずっと考えていた。どうしたらヤツを倒せるのか、その糸口を。

 

「……いえ」

 

 そして、これぞ、こちらこそ、だ。

 

 疑問符を浮かべている彼女に問いかける。

 

「それで、仁美さん、ひとつ……いいですか? 」

「うん」

 

 

「どうして……僕の話を、信じてくれたんですか? 」

 

 

 不思議でしかたがなかった……目を覚ます前にどうしても聞いておきたかった、『本題』を。

 

 

「え……? 」

「……」

 

 彼女にとって予想だにせぬ質問であったのだろう。

 幾分怪訝な表情のなかの、その目をじっとみる。

 

「どうしてって……、さっき皆の前で言ったじゃない」

「いや、そうじゃなくて、根本的に……です。

 あれは、皆を説得するために、あとから必死に考えてくれたように、みえたので……

 自分で言うのもなんですが、そもそもとても信じられた話じゃないですし……」

「……もう、花京院くん本人までそんなこといわないでよ」

「……すみません」

 

 眉根を寄せ、困ったようにそういうと、彼女はゆっくりと、自身も確かめるように言葉を紡ぐ。

 

「まぁ、そうだね……。

 確かにあれは……あとから考えたことだから、後付けの理由になるのかな……。

 あ、もちろん嘘じゃないよ! 」

「あれが本心っていうのはもちろんわかっていますよ。

 ただ、もともとの理由がなんなのかわからなくて、気になって……」

 

「もともと? うーん……」

 

 すると、しばし考えたのち、彼女はただひとこと、こういった。

 

「……ない」

 

「……はい? 」

「ないよ。理由なんて。うん、ない」

「え?」

「だって、信じるもなにも……

 もともとって、あの赤ちゃんが夢を操るスタンド使いだ、

 って花京院くんが気づいて言い始めた時ってことでしょう?

 私普通に、え!? そんな敵とどうやって闘えば、って思って考えてて……

 ごめん、ちっともいい案は浮かばなかったんだけど。

 そうしたら、いつのまにかあんな話の流れになっちゃってたから、あわてて、まってください!  って言って……」

「そ、そんな……」

 

 あっけにとられていると、きょとんとしたかおで、訊ねられる。

 

「どうして? そんなに、おかしいかな……? そもそも、理由なんて、必要? 」

 

「……はっ! 」

 

「……きっとあたりまえだったんだよ。私にとっては。それだけじゃない?

 べつに特別なことじゃないよ。だから、理由もない」

 

 澄み切った一点の曇りもないまなざしをむけ、自然に……柔らかな笑みを浮かべながら彼女はそう言い放つと、またこちらに背を向け、楽しそうに外を眺めはじめた。

 

(なんだ、このひと……。ほんと、なんなんだよ……! )

 

(どうして? いつから……? なんで、いつもいつも、こんなにも……)

 

「もうすぐ頂上だね。……あっ! 」

 

 そんな自分にむけて、彼女がなにかに気づいたかのように叫ぶ。

 

「ちょっと、こっちにきて! みてみて! あそこ! 」

「? 」

 

 いわれるまま、となりにならんで座り、空の向こうに目をやる。

 

 すると、彼女が指し示すほうには、きらきらと輝く、エメラルドグリーンの帯状の光があった。

 

 まるで、これは……

 

「……ハイエロファント、みたいだ……」

 

「でしょう? 」

 

 

「……すごく、きれい……! 」

 

 

「はっ……! 」

 

 

―「……わぁ! やっぱり……、すごく、きれい……! 」―

 

 

(……そうか。そうだった……

 はじめから、そうだったな、このひとは……)

 

 すとんと、なにかが自分の中におちてくる感覚がした。

 ばらばらだったピースが、あるべきところにすべておさまった。そんなかんじが。

 

 かおをあげる。

 

 美しいこの夜の景色が、なぜだかいっそう、輝いてみえた。

 

「はぁ、そうだよ。……そうだったんだ」

「? どうしたの? 」

「……もう、無理です。限界だ……」

「えっ!? 」

 

(……こんなきもち、抑えろって? )

 

 

(……無理な話だ)

 

 

 わずかに震える手で彼女の頬に触れる。

 とまどいの色を隠せない彼女の瞳をのぞきこむと、そこに映る自分のすがたがはっきりとみえた。

 

「……花京院くん……? 」

「……すみません、いやだったら、はねとばしてください……」

 

 

(……あのときからもう、ずっと、僕は、あなたのことを……)

 

 

(……恋に、落ちていたんだな……)

 

 

 そうして、そっと、僕は、彼女の唇に自分の唇を、重ねた。

 

 

 

*         *          *

 

 

 

(うそ……私、キス、してる……? )

 

「……」

「……」

 

(……夢みたい……あ、そうか、夢だったっけ。いや、あれ? ちがうんだっけ……?

 もう、なにが、なんだか…。)

 

 

 名残惜しそうに唇が離れる。

 

 おそるおそる目をあけると、そこには微笑みを浮かべた彼のかお。

 

「……よかった、とんでいない」

 

「え? な! あ、あの……! 」

「ハッ! 」

 

 しかし、私の言葉を遮るかのように、彼の体が淡い光に包まれ始め、次第に薄らいでいく。

 

「……どうやら、僕の方が先に目覚めてしまうみたいですね」

「! 」

 

「……僕は、忘れない。

 たとえ、あなたが忘れてしまうとしても……」

 

「ま、まって! 」

「……また起きたらすぐにあえますよ。そんなに心配そうなかおしないで」

「花京院くん! 」

 

「……では、またあとで」

 

 そういうと、彼の姿は煙のように消えてしまい、あとに残るのは困惑しきった頭を抱えた私だけだった。

 

「あ……!? う……? えええええ!? 」

 

 津波のように押し寄せてくる羞恥心と戦いながら、必死に思考をめぐらせようと試みるも上手くいくはずがない。ますます混乱は深まるばかりだった。

 

「なんで……? なにが起きたの? ……どうして? ……? どういうこと……?! 」

 

 ぐるぐるとまわっている脳内に、いつかの彼の言葉が響いてくる。

 

―「……初めてのキスは……、……僕も、そうします……」―

 

「……そう言ったの、自分じゃない。

 なにしてんの……? なんで私なんかに……? 意味がわからないよ……」

 

 様々な色合いが混じり合ってマーブル模様な頭と心。とうとう涙までこみあげてくる。

 

「なんで泣いてるんだろう……私……」

 

 もはや、自分の感情すらよくわからなくなってきた私は限界を感じ、考えることを放棄した。

 すでにオーバーヒートしてしまった頭と心を冷やそうと、窓から空を眺めてみる。

 

「星、見えないな……。ないのかな? この世界には」

 

 下を見ると、ずいぶん降りてきたのか、地上が近くなっていた。

 

「もうすぐ、終わっちゃうんだ……」

 

 再び、空を見上げる。

 真っ暗な闇をみつめていると吸い込まれそうになり、思わず目を閉じた。

 

「……」

 

 目をつぶれば、否応なしに思い出してしまう……近づいてくる彼のかお、唇の感触……

 

「あああああ! は、恥ずかしいー!! ふぁあああーー! 」

 

 今ひとりきりであることに感謝しつつ、思うがまま身悶え、叫んでいると、少しずつ落ち着いてきた。

 

(気まぐれ……? いやいや、そんなことをするひとではない……。

 誰かと間違えた……とか? って、誰とよ!!

 ……はっ! そうだ! 偽者!? ……って、何回目よ!! )

 

 自分で脳内の自分にツッコミを入れることに虚しさを感じつつも、どうしても考えてはいけない方へと思考は向いてしまう。

 

(……もしかして、もしかしてーだよ……? )

 

 

(……花京院くんも、私の、こと……、……)

 

 

(はっ! だ、ダメ! そ、そんなこと、あるわけないじゃない!

 なんておこがましい!! 恐れ多い! ごめんなさい! ごめんなさい! 今のなし! )

 

 誰ともなしに全力で謝る。

 

(……そうだよ。だって、いつも、しあわせなきもちを私はもらってばかりで、なにも……

 ……返したい、のになぁ……)

 

 胸が締め付けられる感覚とはこれなのか、また涙がこみあげてくる。

 

(……でも、もし……もしも、そうだったら、どんなに……)

 

「……うれしかった、な……」

 

(……そりゃあ、そうだよ! だって、すきだし。だいすきだし!!

 もういい! なんだっていい! すなおに、しあわせをかみしめることにする! そうしよう!)

 

 一周まわったところで、もう開き直ることにした私。

 

「あ……」

 

 そんな自分の体が淡い光を帯び始めていることに気づく。

 夢のおわりは、近いようだ。

 

 しかし、目覚めて顔を合わせたときに、果たして自分はどんな顔をすればよいのか……

 そこに考えが至るにあたってふと思い出す。

 

「そっか。そんな心配、いらないんだった。

 ……忘れちゃうんだ……私」

 

 自分の姿が消えていく。それはなんともいいがたい、不思議な感覚だった。

 

(……やだな)

 

 

(……忘れたく、ない…な……)

 

 

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 

 

 

 

「はっ! ……戻ってきたのか」

 

 寝袋の中で僕は目覚めた。

 まだ夜明け前だ。砂漠の夜は冷える。……はずだが、ちっとも寒さを感じない。

 それも無理のないことだ。理由はわかりきっていた。

 

「ふ、ふふふ……」

 

(……やってしまった! やってしまったーッ! )

 

「うわぁー! 」

 

(なんてことだ……大切にしろとか言ったくせに、言ったそいつが奪うとか……

 ふ、ふはは、……ありえんな……)

 

(いや、僕は公約は果たしたけどね……本当にすきなひととした! ちゃんと……!

 だってしかたがないだろう! あの状況…… )

 

 おもい起こすと、また体温が上がるのを感じる。

 つい、ゆるんでしまう口元をなんとかおさえる。

 

「そ、そうだ、いかん! 反省はやることをやってからにせねば……」

 

 

 

「おい! 」

「ひええ! スミマセンでした! 」

 

 赤ん坊…、デスサーティーンの本体の首根っこを掴み、抱え上げる。

 

「いいか、予定通りおまえは町まで連れていってやる。母親のもとに帰るんだな。

 ただし、以後僕達に近づいたら……わかっているな……? 」

「わ、わかっています! 」

「あと、敵の増援はいつ、どこへ、どんなやつらが来るのか、教えてもらおうか? 」

「し、知りません! ってか言えません! 」

「いいのかな? そんな態度で……」

「ひえー! 町まで来て待機しているとしか……

 異常があれば迎えに来ると言っていたのでこちらに向かっているかも……

 あ! そうだ! 来るとしたら……って噂のやつらしいです! ほ、ほんとです! 」

「……嘘だったら、どうなるか……わかっているな? 」

「も、もちろんですぅー!! 」

 

 脅しをかけつつ、皆の様子を見て回る。

 承太郎に、ポルナレフ、ジョースターさん。異常はないようだ。胸を撫で下ろす。

 

(……あとは……)

 

 鼓動が早まるのを感じつつ、おそるおそる彼女の眠る寝袋へとむかう。

 

 眠っている女性に無断で近づくなんて、とも思うが(無断でキスをした男の思うことではないな……などと、自虐するのも忘れずに)、非常事態だ。仕方がない。なにかあってはいけないからな……。と、もはや誰あてかもわからない言い訳をしつつ、そっと顔をのぞきこむ。

 

「……よく、眠っているみたいだ。よかった」

 

 すぐ無茶をするがゆえ、このひとの寝顔をみるのは初めてではないはずだが……

 

(……)

 

 己の想いを自覚してしまうと、またちがってみえるものなのか。

 だいたい今までの場合、心配でそれどころではなかったからである気もするが。

 すやすやと眠る顔をみつめていると、なんともいえない愛しさが込み上げてきた。

 

(……あの唇に、僕は……

 ……ハッ、いかん! )

 

 もう一度それにふれたくなる欲求をなんとか抑えるため、急いでそこから離れる。

 

(だ、ダメだダメだ! 現実でまで襲う気か……! しゃれにならん……)

 

 

「はぁ……」

 

(ああ……、これが、恋、というものなのか……)

 

 なるほど。感情も行動も制御不能。心中は一喜一憂、いちいち大わらわだ。

 

 自分はまるでわかっていなかった。誰それに告白して上手くいっただの、いかなかっただの……教室で騒いでいた級友達に平身低頭、陳謝したい気分だった。

 

 自嘲と共におもわず独りごちる。

 

「ふっ。……この僕が、まさかこんな、なぁ……」

 

 蜃気楼の中にのみ存在すると思っていた美しい夢物語は現世の出来事で……

 遥か遠くで響いていると思っていた清らかな鐘の音は、意外とすぐそばで鳴っていたようだ。

 

 

 気持ちの切り替えがてら、朝食の用意でもしようと準備を始めてみる。

 それでもどうしてもそちらを向いてしまう思考。

 

(……拒絶されるかと思ったけど。セシリアに何mぶっとばされるか、覚悟していたんだが……。

 いや、ただ油断していただけかもしれない……)

 

 自問自答、自責を繰り返しながら、はたと気づく。

 

「ちょっと、待てよ……」

 

(てっきり、記憶は『現実で事実に気付いた者』に残る。と、思い込んでいたけれど……、

 実は『スタンドを持ち込んだ者』とかだったら……?

 ……わ、忘れていない可能性が……?! そ、それは……! )

 

「おい、死神13……の本体! 」

 

 慌てて背中の赤ん坊に問いかける。

 

「は、はい? ま、マニッシュボーイ、とおよび下さ……」

「そんなことはどうでもいい!」

「……そ、そんなことって……」

「それよりさっきの、お前の創った『悪夢世界』の中での記憶……残るのは、僕だけなのか? 」

「え? そうだと思いますが……しょ、正直よくわからないです。

 なんせ、ボクのスタンドに現実で気付いた人間なんて、貴方様が初めてですし…。」

「そうか……」

 

(いや、別に忘れるからいいと思ってしたわけでも、勢いだけのいいかげんな気持ちでしたことでも、断じて、ない。いずれ……この想いは伝える。……が、今は、まだ……)

 

 いえるわけがない。

 今は。そんなこと。

 

 やつを、倒したら……。

 乗り越えて、ふさわしい男になれたら……。

 

 日本に、……帰れたら。

 

(……)

 

 はたと、先程かわした、『約束』をおもいだす。

 

 できるのだろうか、僕は……

 

 まもることが……

 

 ……つたえることが……

 

 来るのだろうか……いつか、そんな日も、自分に。

 

 たき火がぱちりと音を立てる。

 炎に温められた空気が、むこうの景色に陽炎を創り出していた。

 

 ふいに自分の中のなにかが揺らぎそうになる感覚。

 

 

 ……そんなこと、あるはずはないのに。

 ……そんなこと、あってはならないのに。

 

 

「……じゃあ、なんでやったよ……。あー! もう、こんなはずじゃ……! 」

「ど、どうなさったんですか? 」

「うるさいッ! そうだ! 元をたどれば、おまえのせいだッ!!

 あとで、あらためてお仕置きだからな!! 」

「え?! えぇー!? な、なにがですかーッ!? 」

「……やつあたりだ。心配するな」

「ひ、ひどい……」

 

(はぁ、本当に、我ながら信じられん……。自分があんなことをするなんて……)

 

 ぐだぐだと答えの出ない思考を巡らせていると、いつのまにか空が白んできたようだ。

 

(考えていても、もう、やってしまった事実は消えない。

 覚えていない場合は、いつか必ず正直に話して謝るとして……。

 覚えている場合は、……今のこの、ありのままの気持ちを、伝え……)

 

 

「おい……」

 

 

「うわぁー! 」

 

 ふいに声をかけられる。

 

「もう、夜、明けんじゃねーか。ちゃんと起こせよ……」

「あ、ああ。おはよう。承太郎。」

「ずっと起きていたのか? すまんな」

「いや、いいんだ……。ちょうどよかったからね。頭を冷やすのに……」

「あん? 」

 

 承太郎は寝起きとも相まってか少し不機嫌気味に、意味がわからないといった様子で首をかしげる。

 

(……やはりあの、『夢の中』での記憶は失われているようだな)

 

「赤ん坊、どうだ? 」

「ああ、大丈夫だ。このまま町に連れていけばいいだろう」

「……。そうか」

「ただ、やはりここからは早く移動すべきだろうな」

「ああ。じゃあ、早いとこ皆を起こすか」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「……おい、起きろ」

 

「はっ!」

 

 承太郎君に起こされ、私は目覚めた。

(……。あれ? ……あら?? )

 

「起きたか? 」

「う、うん! ありがとう、承太郎君。……」

 

(……はて……)

 

「……なんで? 」

 

(忘れて、ない、よ……?

 ばっちり、覚えてるんですけど!? ええぇー!!? )

 

 忘れているはずの夢を鮮明に思い出せるという戸惑いと共に。

 

(あれ、は……? 現実だったの……?

 き、聞いてみるしか……。い、いや、ちょっとまって……! )

 

「……聞けるわけない……」

 

(……「あなたとキスをした夢をみたんたけど、あれって現実? 」

 とか、言えるか! ……あー、もうーっ! )

 

 皆に気づかれないように寝袋の中で、往生際悪く、じたばたと悶える。

 

「はっ! 」

 

 そして、至極もっともな結論に達する。

 

(よく考えたら、全部まるごと私の夢だったんじゃ……確かに、あんな夢みたいなこと起こるわけないし。しあわせすぎるし……。そ、そうかも……)

 

「なーんだ……」

 

(それはそれで……なんて夢を……

 やたらリアルだったし……って、したことないからわかんないけどさ……。

 私の、えっち……。あー、恥ずかしい。って……あ?! )

 

「もう朝じゃん!! やばっ! 」

 

 昨晩の計画では私が明け方にかけて見張りをする予定であったことを思い出し、青ざめる。

 

(やっちゃったよ! ……しかもあんな夢! 私、最低……)

 

「お、おはよう!承太郎君!」

「おお」

 

 寝袋からとび出て、近くにいた承太郎君に話しかける。

 

「ごめん! 私、起きなかった? 見張り……」

「いや、ちがう。実はおれも起きたのはついさっきだ。

 花京院のやつが結局ずっと見張っていてくれたらしい。

 頭を冷やすためとかなんとか言ってやがったが」

「え?!そうなんだ……」

「責任感じてんのかしらねーが……。ったく、無理しやがって」

「そっか……」

 

 責任感の強い彼のことだ。それはおおいにあり得るだろう。

 しかし、同時にもうひとつの可能性が私の頭をよぎった。

 

 この様子からして、昨晩は無事、事なきを得たようだ。それはつまり……。

 

「あるいは……」

「あるいは? 」

 

 承太郎君も、どうやらまだ思うところがあるようだった。思案顔から疑問が投げかけられる。

 

「おまえ……昨日夢みたか? 」

「! み、みたけど……」

「覚えているか? 内容」

「お、お、覚え、てる……」

「? ……なに赤くなってんだ?

 まあいい。そうか。おまえが覚えてるんだったら、違うか……。いや、もしかすると……」

 

 すっかり『刑事コロンボ』モードに入ってしまったようだ。

 承太郎君の気になることは徹底的に追求しないと気がすまない性質。

 敵にとっては脅威でしかないこの性質、味方としては非常に頼りになるわけだが……

 とりあえず、今はその追求の対象が自分の夢の内容にならなかったことに安堵する。

 こうなると話しかけても無駄なことはわかっているので、邪魔にならぬよう黙って自分の考えをまとめておく。

 

「……正解は、あいつにしかわかんねーな。聞いてもごまかしやがりそうだが……」

 

 珍しく結論は出なかったようだ。

 一応自分なりに出した意見を言ってみる。

 

「結局ひとりで、なんとかしてくれたのかもね。どうやったのかは、わからないけど。

 みんな無事なんでしょう? 」

「……あいつのこととなると鋭いな、おまえ。……いや、そうでもなかったか。」

「? 」

「なんでもねぇ。まぁ、おれもそこは同意見だ。詳細はわからんがな。

 また本人に聞いてみるか」

「そうだね……」

 

(聞く、なんてできるのだろうか……)

 

 思い出しただけでこのざまである。

 顔を合わせたときに平静を保てるか……私にはその方が急務だった。

 

「朝ごはんですよー! 」

 

「びくぅ! 」

 

 彼の声だ。

 

「おお。今行く」

「わ、私、顔洗ってからすぐ行くね! ごめん! 」

 

 

 

(だ、ダメじゃん! あやしいって! )

 

 オアシスの小さな泉。冷たい水で顔を洗いながら、思う。

 

(そうだよ。ただの……夢、なんだから……)

 

 おもいだす。やさしい、あたたかい感触……彼の、えがお。

 

(……そうだね。素敵な……素敵すぎる夢だった。わすれない……。

 私のこころのなかだけに、こっそりと、だいじにしまっておこう……)

 

 

 

「……おはよう! ……花京院くん!! 」

 

 

 

 

 




 こんな中ですけれども……安心してください。……あいつ食わせてますからね。ちゃんと。ええ。無論(笑)。

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!

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