私の生まれた理由   作:hi-nya

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※視点が今回いろいろです。

・最初第三者視点です。
・途中『敵』視点あります。
・承太郎視点もあります。

その他はいつもどおり、です。
上記ご了承ください……すみません。


※※お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、8話にて物凄い恥ずかしい勘違いをしていることにようやく気づきました……。8話あとがきにておわびと追記をしています! 申し訳ありませんでした!!





NO EXCUSE

 一行が宿泊しているホテルの一室。

 薄暗い室内。唯一煌々と光るテレビ。その画面を固唾を飲んで見守る男がふたり。

 次々に切り替わる映像の音声が言葉を紡ぐ。

 

「……! 」

「……!! 」

「か」

「きょー」

「いん」

「に」

「きを」

「つ」

「けろ」

「……! 」

「……!! 」

 

「なにぃ!? こ、これは……」

「ど、どういうことでしょうか、ジョースターさん……? 」

「……わ、わからん、が……」

「……」

「アヴドゥル、あいつは……今どこに? 」

「承太郎たちと列車のチケットの手配に出かけたはずですが……」

「し、しまった……! 」

 

 ほとんど同時だった。

 

「ジョースターさん! ジョースターさんっ!! 」

 

 激しいノックの音と、悲痛な呼び声がドアの外から響いてきたのは……。

 

 

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 

 

「ごめん、お待たせ! 」

「わーい! 承太郎ー! 」

 

 待ち合わせ時間ぎりぎり。出かける準備を済ました私とアンちゃんは、集合場所のホテル入り口で花京院くん、承太郎君と合流した。

 ちなみに昨日無実の罪で警察に連行されてしまったポルナレフさんは未だ勾留中だ。ジョースターさんが莫大な額の保釈金をポンと支払ったので、今日中にはなんとか出てこられるだろうとのことだが。

 4人でホテルの外に出る。

 

「じじいとアヴドゥルは列車でインドへ向かった方がいいと計画している……明日出発だ。

 シンガポール駅へチケットを予約にいくぜ」

「はーい! 」

 

 承太郎君の号令に元気よく返事をするアンちゃん。おつかいといえど、一緒にお出かけできるのが嬉しくてしかたがない様子だ。そのままぴったりとくっついて、何やら話しかけている。

 空を見上げると、今日も昨日と同様、快晴で日差しがまぶしい。気温も真夏同然で、たまらず半袖シャツ(昨日買った)に衣替えした私ですら暑い。

 ……にもかかわらず、高校生男子二人はやっぱり学生服(冬服)だった。みているこっちが暑い。なぜだかつっこんではいけない雰囲気なので、未だつっこめずにいる。勇気のない私をどうか許していただきたい。

 

 歩きながら、昨日から気になっていたことを尋ねようと声をかける。

 

「ねぇ、花京院くん。例の視線、今日は……」

 

 振り向く彼。そして、その口から発された一言によって、聞きたかったことなんて私の頭からぶっ飛んでいってしまう。

 

「……なんだい? マイ、ハニー!! 」

 

「へっ!? ……はっ、はぁっ!? 」

 

 つい素っ頓狂な声をあげてしまう私。

一体全体、どうしてしまったというのか。新種の方法を編み出したのだろうか? 私をからかうための……。それとも暑さで彼のどこかがなにかおかしなことになってしまったのだろうか? それなら大変だ。やはりさっさと夏服に着替えろと進言すべきだったのだろうか。

 

「か、花京院くん……? 」

 

 おそるおそるそう呼びかけるので精一杯だった。おそらく鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしているであろう自分。すると『彼』はそんな私の肩に腕を回しながらこんなことをいう。

 

「今日も可愛いよ……」

「ひっ!! 」

 

この気温にもかかわらず、全身をぞわっとした感覚が駆け巡る。

 

「嫌っ!! 」

 

我慢できずに、おもわず押し返してしまう。

 

「……どうしたんだい? 今日はやけにご機嫌斜めじゃあないか。

 もしかしてあの日かい?? ははははは! 」

「っ……!? 」

 

 そうして興味を失ったかのように承太郎君達のもとへ行ってしまう。ひとりうしろで呆然と佇み、その背中を見遣る。

 

(……ちがう……! )

 

 気づく。……確信する。

 いや、こんなの、気づかない方がどうかしていると思う。

 

(姿形も声も、そっくりだけど……全然ちがう!

 あの目つき、雰囲気……、花京院くんだったら、こんなこと言わない、絶対にッ!

 ……それに、何より)

 

 そして、一つの結論に達する。

 

(……に、偽物だ……)

 

 前に彼が肉の芽で操られていたときとはまた異なる印象を受けた。根本的に『違う』。……そんな気がする。

 

 加えて、もうひとつ重要な事実に思い至る。

 

(……ちょ、ちょっと待って! ってことは、本物は……? )

 

 心臓が嫌な風に早く激しく脈打ち始める。

 

(お、落ち着いて。悟られてはいけない……。

 私が気づいたことを、気づかれてはいけないッ!!

 じゃないと、本物の花京院くんが……!! )

 

 深呼吸し、拳をぐっと握りしめる。

 どうにか心を鎮め、努めて明るい声を出す。

 

「……ごめんっ!! 私、忘れ物しちゃったから、一回部屋に戻るね!

 先に行ってて! すぐ追いかけるから! 」

 

 すると皆一斉に振り向き、その視線が集中する。

 

「あん? 何やってんだよ……。なら、みんなで……」

 

 そう言いかけた承太郎君を慌てて制す。

 

「じ、承太郎君っ! 実はジョースターさんに他に買い出しも頼まれたの! それ先に探してて! 今メモするから……」

 

 震える手でメモとペンを取り出し、どうにか文字を綴る。

 

「……。……はい……」

 

《この、かきょういんくん、ニセモノ。わたし、ほんもの、さがす》

 

「!! ……わかった」

「『こっち』……よろしく、ね。気をつけて……」

「てめぇも、な」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 女と承太郎がなにやら意味ありげに喋っている。

 そもそも急に態度が……明らかにおかしい。

 

(チッ、この女……もしや、気づきやがったか……? ならば、こいつから……)

 

 来た道を戻ろうとする女に声をかける。

 

「一人では危ないよ……。僕も一緒に……」

「ううん、大丈夫! ありがとう、……ダーリン! 」

 

「……」

 

 その表情は堂々としており、挙動に不審なところはなかった。何より、この笑顔にこの台詞。

 

(……気のせいか。しかし、地味な女だと思っていたがよく見ると……。へっ、せっかくだ。こいつは後回しにして、あとでこのまま花京院のフリして、2、3回ヤってから殺るか。散々可愛がってやったあと、惚れた男じゃねぇってわかって絶望したところを……。けけ、たまんねぇ……!お楽しみが増えたな)

 

 走り去る女の後ろ姿を舐めまわすように見やり、舌なめずりをする。

 

(やはりまずは承太郎。油断したところを、こいつから、殺すッ! )

 

 

 

*         *          *

 

 

 

(ひぃっ! )

 

 再び得も言われぬ悪寒が背中をかけめぐる。しかし、そんなものにかまっている場合ではない。ひたすら走り、角を曲がったところで敵の視界に入っていないことを確認する。

 

(……よし)

 

「セシリア、花京院くんのところへ! 御願い! 急いで!! 」

 

 羽ばたいていく相棒を祈るような気持ちでみつめる。

 

(……。捕まってるのかな……、また肉の芽とか、ケガとかしてたら……。さ、最悪の場合……)

 

 考えたくもない想像が頭を占める。

 

(い、いや……!! )

 

 目のまえがぼやけそうになるのをぐっとこらえる。そんな暇があったら出来ることに集中しなければいけないのだ。

 

(いやだ……!! )

 

 それでも浮かんでしまう。滲んでしまう。

 

(御願い、無事で……! )

 

 そして、その願いに呼応するように、相棒が情報を届けてくれる。

 

(はっ! ホテル内にはいるみたい!

 そうだ、ジョースターさんとアヴドゥルさんに……! )

 

 

 

 エレベーターを待つのももどかしく、非常階段を一気に駆け上がる。

 そうしてたどり着いたジョースターさんの部屋のドアを力まかせにノックする。

 

「ジョースターさん! ジョースターさんっ!! 」

 

「や、保乃!? 」

 

 扉が開くと同時に二人に叫ぶ。

 

「はぁはぁ、ジョースターさん、アヴドゥルさん! 」

「ど、どうした!? 」

「か、花京院くんがっ! 花京院くんじゃなくて、敵の偽者でっ! 」

「「なにぃッ! 」」

「今、承太郎君が気づいていないふりをして引きつけてくれています!

 は、はやく本物を探して、承太郎君も、一人では……助けに行かないと!! 」

 

「……あれは、そういうことか」

「ええ」

「……え? 」

 

 なにやら思うところがあるようで、そう呟くジョースターさん達。

 

「とにかく今は、急がねば。わたしは承太郎の方に行きましょう」

「うむ、アヴドゥルよ、頼んだ。では、ハーミットパープル! 」

 

 スタンド『隠者』の茨を出し、念写能力を発現してくれる。

 テレビの出演者が指をさす。これが方向を示しているとのこと。

 

「……近いぞ。こっちじゃ」

「はい! 」

 

 

 

 そのまま慌てて部屋をとび出し駆けだす。

 しかし、いきなり廊下の角で誰かとぶつかってしまう。

 

「わっと! 失礼! 」

「ご、ごめんなさ……」

 

「「か、花京院! 」」

 

 二人の発するその声に、おもわず詰め寄り夢中で問いかける。

 

「か、花京院くん!? 花京院くん知らない? 花京院くんが花京院くんじゃなくてニセモノの花京院くんで、本物の花京院くんの身が危険で危なくてっ……!! 」

 

「お、おい、保乃……」

「お、落ち着いてください、僕です。僕が花京院です……」

「……え……? 」

 

 そういわれ、目のまえにいるひとをじっとみる。

 

 そこには探し求めていたそのひとが、たしかに、いた。

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「かきょういん、くん?? 」

「はい。そう、ですけど……」

「お、おでこ! おでこ見せて! 」

「わっ! 」

 

 そう言うやいなや、僕の前髪を捲る。

 

「な、ない! あ、あとっ、ケガとか! してない?! 」

 

 腕を掴み、必死に僕の様子を確認しようとする彼女。

 

「は、はい」

「……ほんとに? 」

 

 不安そうに問いかける。その瞳には涙が浮かんでいた。

 

(な、なにがなんだかわからない……けど……)

 

 安心させてあげたくて、今にもこぼれてしまいそうな彼女の雫をそっとぬぐう。

 

「……ええ、大丈夫ですよ。僕は、大丈夫ですから。……ね? 」

 

「……っ! 」

 

 すると、驚いたように僕の眼をじっとみつめ、いう。

 

「……ほ、本物だー! 」

 

 そして飛び込んでくる。勢いそのまま、僕の胸に。

 

(わ、わわ……! )

 

「……ちょ、ちょっ……!! 」

 

「っく、……よかった……よかったよぉ……! 」

 

(……え、っと……)

 

「……なにかあったら……どうしようって……」

 

(よくわからない……けど、こんなに……? )

 

「……」

 

(……あたたかい……)

 

 彼女の体温が……なみだが……とても。

 

(……)

 

 躊躇いつつも、泣きじゃくる彼女の背中に腕をまわ……

 

「はっ! 」

 

 ……そうとしたときだった。視線に気づく。

 

「よかったのう。にやにや」

「ええ、ほんとうに……ふふ……」

 

「はっ! わ、わわ、私ッ!? ご、ごめっ……! 」

 

 二人の声に我に返り、パッと離れてしまう彼女。

 

「い、いえ! え、えーと、なんですか? その、僕の、偽物? が出たんですか? 」

「そ、そうなの! は、早く承太郎君のところにいかなきゃ! 」

「うむ、行くぞ! 」

 

 

 

 

 

 承太郎のもとへ皆で走る。

 途中、ジョースターさんに尋ねられる。

 

「ところで、花京院、お前さんはどこにおったんじゃ? 」

「僕ですか? 承太郎にホテルの中庭集合と言われたのでずっと待っていたんですよ。

 でも誰も来ないので、おかしいと思っていた矢先にセシリアが来て……。

 何かあったに違いないと御二人に報告して探しに行こうと戻ってきたんですが……

 今思えば、『あいつ』は承太郎ではなく偽物だったんですね……」

「なるほど。なにはともあれ、君が無事でよかったよ」

「しかし、今度は承太郎が危険だ。保乃宮さん」

「それがセシリア、飛ばしたんだけど、ちょっと離れすぎてるからか帰ってきちゃって……」

「そうか……。急ごう」

 

 

 

 

 

 走り回ったのち、街の端、公園に張り巡らされた水路。その向こうにようやく見つける。

 承太郎と、そして、もうひとり……

 

「いたぞ! 」

「ちっ! 」

 

 橋を渡ろうとしたその瞬間、偽者の僕が何かを地面に投げつける。すると爆音とともに、辺りが煙に包まれた。

 

「くっ……煙幕か!? 」

 

 そして、即座に僕に掴みかかってきて投げ技を狙ってくる敵。それをなんとか食い止める。

 

(ぐっ……しかし、聞いてはいたが、本当にそっくりだな……)

 

 組んだまま、睨み合う。

 ……気味が悪い。まるで鏡を見ているようだった。

 

 膠着状態のまま徐々に煙が晴れ、視界が戻ってくる。

 そこには驚き戸惑う仲間たちの姿があった。

 

「しまった! 奴のねらいは……! 」

 

「僕が本物です! この偽物め! 」

「な、なにをいうんだ! 本物は僕の方です! こいつこそ偽物だ! 」

 

「その気持ちの悪い変身を今すぐやめろ! 」

「貴様こそ、その化けの皮をはがしてやる! 」

 

「ちっ……」

「ど、どっちが……?! 本当に声も姿も全く同じだぞ! 」

 

 困惑の空気の中、アヴドゥルさんが言う。

 

「そ、そうだ! 花京院、ハイエロファントを出すんだ! スタンドはひとり一体……。

 な、なにぃ!? 」

 

「な、なぜだ!? ハイエロファントは僕の……」

「お、おまえこそ……! 」

 

 奴の背後にもいた。相棒に、そっくりな『もの』が。

 

「だ、だめだ。これではわからん……」

 

 すると、承太郎が彼女に問う。

 

「……おい! おまえどっちだかわかんねーのか? 」

「……。たぶんあっちが本物……だと思うけど、ちょっと遠すぎて自信が。もう少し……」

 

 僕の方を示しながら彼女がいう。

 

(……正解! その通りですって! )

 

 しかし、危険だ。言い当てたとき、偽物の憎らしげな視線が彼女に向けられるのが見えた。おそらく近づいた瞬間、彼女か僕、もしくは両方に攻撃を仕掛けてくるに違いない。そうなれば、彼女の性格上、まずいことになる。それは昨日証明済みだ。必死に叫ぶ。

 

「いかん! 近寄っては駄目です! 」

「え? 」

 

 その言葉に偽者が僕に向け、言い放つ。

 

「近づかれたら困る……それはおまえがやはり偽者だってことだ! 」

「はぁ!? ち、ちがうっ! 」

 

 それを皮切りに再び始まる不毛な押し問答。

 

「大丈夫。まかせ……」

 

 埒があかない。そう思ったのか、歩みよろうとする彼女。それを制しながら、ジョースターさんが高らかに宣言する。

 

「……その必要はない。おもいついたぞ。本物の花京院を見分ける方法をッ! 」

 

「え?! ほ、ほんとうですか? 」

「ああ。おい、どちらも! よく見ておけよ! 」

 

 僕と敵に言う。次の瞬間彼はとんでもない行動に出た。

 

「……ほれっ!」

 

 彼女のシャツの裾に手をかけ、おもいきり捲りあげるという暴挙に。

 

「きゃ……! 」

「ぬぁっ!? 」

 

 晴れ渡る空の下、すきとおるような白い肌……おなかとおへそ……が曝される。

 非常に惜しい。もう少しでその上の……い、いや、なんでもない……なんでもないっ!

 

 反射的に、彼女と共に抗議の声をあげる。

 

「「な、な、な、なにするんですか、ジョースターさんっ!! 」」

 

「……ほれ。こっちじゃ。本物は」

 

 僕の方を指さしながら、呆れたように言う。

 

「「あ……」」

 

「? 」

 

 一体どういうことか理解が及んでいない敵に承太郎がすかさず攻撃を叩き込む。

 

「よし! オラァッ! 」

 

 激しい衝撃に、僕の姿をしていた『もの』はふっとび、縦に割れて……。

 

「……ちっ! 」

 

 敵本体が姿を現したのだった。

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 スタープラチナの強烈な一撃に正体を現した敵の男が言う。

 

「……ちっ! そうさ。これがオレ本来のハンサム顔よ!! 」

 

「は……? 」

 

(えぇ? いままでのほうが断然……。っ! い、いや、それどころじゃなかった……)

 

 つい、変なところに反論してしまう私。自分を諫める。

 そして、横でもなにやら関係ないところで諍いが起きていた。

 

「ちょっと! なんてことするんですか、ジョースターさん! 貴方って人はっ! 」

「いやぁ、スカートじゃったらもっとよかったんじゃが。にしし」

「なっ! 言うに事欠いてっ! この! 」

「……おまえも今そうおもったくせに」

「お、おもうかーっ! 」

「ってか、この程度でそんな……。予想通り思惑通りだし、よかったけどさぁ……。

 花京院、おまえ、これから先、大丈夫か……? 」

「なっ、なにがだよっ! 余計なお世話だっ!! 」

 

「……」

「ふ、二人とも、そんな場合では……」

 

 恥ずかしいやらなんやらで、言葉が発せない私に代わって、アヴドゥルさんが仲裁に入る。

 

「は、はっ! そうだった! 」

 

 そんな私たちをよそに、睨み合う承太郎君と敵。

 

「スタンド……? しかし、生身の拳で殴れた……?」

「おれのは喰らった肉と同化しているから一般人にも見えるし触れもするスタンドだ。

 スタンドの名は『節制』のカードの暗示をもつ『黄の節制(イエローテンパランス)』……! 」

 

 黄色くブヨブヨとした、ゼリー状のスライムのようなスタンドだった。

 

「親切に、解説ありがとよ! 」

 

今度はスタープラチナで殴る。しかし……

 

「ちっ、手応えがねぇ……」

 

ぐにゃりと包み込まれるその拳。

 

「黄の節制に弱点はねー! 」

 

 そして、自らの全身を包み込む。

 

「オレのスタンドはいうなれば! 『パワーを吸い取る鎧』! 『攻撃する防御壁』!

 エネルギーは分散され吸収されちまうのだッ! 」

「フン……」

「それだけだと思うか? 」

「……なに!? 」

「右手を見てみな! おまえの手にもさっき殴ったところに一部が喰らいついているぜ! 」

「!! 」

 

 敵の言う通り、承太郎君の右手にもアメーバ状のものが付着していた。

 

「言っておく! それにさわると左手の指にも喰らいつくぜ!

 じわじわ食うスタンド! 喰えば喰うほど大きくなる。そしてぜったいに取れん!! 」

 

 確かに、じゅるじゅると、それは少しずつ大きくなっているようだ。

 

「てめーのスピードがいくら早かろーが、パワーがいくら強かろーが『黄の節制』の前には無駄だッ! おれを倒すことはできねーし、その右手は切断するしか逃れる方法はないィィ! 」

 

「……ちっ! 」

 

 次に、近くに転がっていた棒で殴るも、やはり攻撃は通らないようだ。

 

「弱点はねーって言っとるだろーが! ドゥーユゥーアンダスタンンンドゥ!? 」

 

 勝ち誇ったように気味の悪い笑みを浮かべる敵。

 

 そのときだった。花京院くんが叫ぶ。

 

「……承太郎っ! 下だ!! 」

 

「あん? 」

 

 一瞬の間の後で、にやりと笑う。

 

「……なるほどな! オラァッ! 」

 

 地面にむけて放たれた攻撃の衝撃により、橋がガラガラと激しい音をたて、崩れる。そして……

 

「な、なにぃ?! う、うわぁーっ! 」

 

 激しいしぶきを上げて水路に落下する敵。大人の腰ほどの深さしかないが、アメーバと一体化して寝そべっているような状態なので、敵の身体はすっかり沈み込んでいる。すぐさま足で踏みつけるようにして敵を水中に押さえつける承太郎君。

 

「ガベ! 」

「そーだな……」

「ガボボボボボ……! 」

「いくらスタンドが無敵でも、本体のおまえに酸素は必要だよなぁ……! 」

 

「ぶはっ! 」

 

 呼吸をするためにスタンドをひっこめて、必死に水面から顔を出す敵。

そこを見逃すこのひとではない。

 

「……理解したか(Do you understand?)? 」

 

 そういうと強烈な一撃を顔面にお見舞いする。

 

「ぐはっ!」

 

「さて……」

 

 一発KO。その首根っこを間髪入れず承太郎君が掴むと敵は言う。

 

「ひぃ! ゆ、許してください! 鼻が折れました! 歯も何本かぶっとんじまいました!! もう再起不能ですよぉ! おとなしく入院しますから! おれはDIOには金で雇われただけなんだ! 命をはってまでアンタらを狙うつもりはねぇ! 」

 

 それに厳かな低音が響く。

 

「……では、しゃべってもらおうか」

「へ? 」

「……これから襲ってくる『スタンド使い』の情報だ」

「そ、それだけは口が裂けても言えねえぜ。『誇り』がある。

 殺されたって仲間のことをチクるわけ……」

「……なるほど、ご立派だな」

 

 振りかぶる承太郎君およびスタープラチナ。

 

「お、思い出した!

 『死神』『女帝』『吊られた男』『皇帝』の4人がおまえらを追ってるんだった! 」

「ふーん、で、どんな能力だ? 」

「いや、こ、これは本当に知らねえ!

 スタンド使いは能力を他人には見せない……

 たとえ味方でも弱点を教えることにほかならないからだ」

「それだけか? いいたいことは……」

「ひぃっ! ただ、DIOにスタンドに関してを教えた魔女がいて、その息子が4人の中にいる。

 名前はJ・ガイル……カードの暗示は『吊られた男』。目印は……両手とも右手の男! 」

 

「なっ! 」

「そ、それは! 」

 

(ぽ、ポルナレフさんの妹さんの……!? )

 

「そいつの能力は少しだけ噂で聞いたぜ……『鏡』……だ。鏡を使うらしい。

 実際見たことはねーがポルナレフは勝てねーだろう……死ぬぜ」

「……鏡、か……」

 

「……そして、おまえも、今死ねっ!! 」

 

 その刹那だった。敵背後から黄色いスライムが飛び出し、承太郎君を包み込もうと襲い掛かる。

 

「おまえを殺せば一億ドルもらえることになってる……ヒヒ! たったこれだけでそれだけ稼げるなんてよ! おれってほんとラッキィーッ!! 」

 

「! 承太郎! 後ろだ!! 」

 

「……わかっている」

 

 その前に、目にもとまらぬ速さで本体に非常に重いパンチが入る。

 

「ぐはぁっ! 」

 

 たまらず、消えるスタンド。そして、敵の髪を掴んで釣り上げる承太郎君。

 

「じょ、じょうだん! じょうだんだってば! ほ、本気にした?

 ま、まさか、これ以上殴るなんて……そんな、酷いこと、しないよね? ねっ? 」

 

「……もうてめーにはなにもいうことはねえ。とてもアワれすぎて……」

 

 

「……何もいえねぇ」

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……オラァ!! 」

 

 

 

 ぷかりと水面に浮かぶ敵。

 これこそがまさに再起不能。完治にはどれくらいかかるのやら。見当もつかない。

 自慢のハンサム顔ももはや、見る影もない。……気の毒だなんて、まったく思わないけれど。

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「お疲れ、承太郎」

 

 スライム野郎を叩きのめしたおれに労いの声をかけてきた花京院。こちらも労いがてら、からかいがてら、いう。

 

「よぉ、まぎれもない……本物」

「なんだよ……。それ」

「冗談だ。なかなかいいアイディアだったぜ」

「ふっ、君なら上手くやってくれると思ったさ」

「フン。しかし、よくあんな策がすぐ思い付いたな」

「まぁ、弱点のないものなど、ないってことさ」

「ああ」

「ああいうタイプのスタンドの弱点っていうのはシミュレーション済みだったからね。

 ……だれかさんのおかげで」

「そうか……。そうだな」

「まぁ、あのひとには別の弱点があるからね。そっちのほうが大問題なんだけどさ……」

「……おまえ……」

「……わかっている。みなまで言うな。すまない」

「あ? 」

「成り代わられて、迷惑をかけた。

 僕だって、ひとのことを偉そうに言えたものではないからな」

「……」

 

(そういうことをいいたかったわけではないんだが……。まぁいいか)

 

「自分が本物だ、って自分で証明するのは意外と難しいものだね。

 本当に。……まいったよ」

「……そうだろうな。まぁ、しかし……」

「なんだい? 」

「……いいじゃねーか。てめーには、わかってくれるやつがいるんだから」

 

 証明など、せずとも、だ。

 

「……え? ……ああ、そうか。……そうなのかな……」

「ただ……」

 

 同時にそういう存在は……。

 

「……てめーも、自分の、弱点……には、まぁ、せいぜい気を付けてやれや」

「? あ、ああ……」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 その後、無事チケットを買い終えた私達。

 翌朝、シンガポール駅へ向かう。ホームで列車の到着を待っていると、裾を引っ張られた。

 

「お姉さん、ちょっと、ちょっと! 」

「ん? どうしたの? 」

 

 アンちゃんだ。見送りをする、ということでついてきてくれていたのだが。

 

「わたし、ここで一回消えるから。お姉さんには言っておこうと思って……」

「一回……? って? 」

 

 少女の台詞に首をかしげる。

 

「あ、なんでもない! それじゃね! みんなによろしく! 」

「え、あ、アンちゃん!! 」

 

「今度会うときまでには花京院さんにちゃんと告白するんだよ!

 あと承太郎に変な虫がつかないか、見張っといて! 」

 

「はぁ!? ちょ、ちょっとー!! 」

「ぜったいだよー!」

 

 それだけ言うと、少女はあっという間に駆けていってしまい見えなくなった。

 

(今度、って……)

 

 この広い世の中、一度別れてしまえば、また会えるかどうかなんて、わかりきったことだ。現実的に考えて、無理な話と。頭では。

 しかし、淋しさはまったく感じなかった。予感があった。

 元気な少女の言う通りになる……そんな予感が。

 

「……『また』、ね。アンちゃん」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 予定通り、僕達はシンガポールからタイ、バンコクへ向かう寝台列車に乗り込んだ。

 その車中、皆で食堂車にて昼食をとっていたときのことだ。昨日の敵スタンドの一件が話題に上った。

 

「へー! オレがいない間にそんなことがあったのかぁ。すげーな、変身できるスタンドか……」

 

 あの場にいなかったポルナレフは特に驚きを隠せないようだった。

 

「うむ。変わったスタンド使いだった。わたしの知らないスタンドも世の中にはたくさんいるものよ」とアヴドゥルさん。

 

「そうですね。まったくいやな気分だったよ。僕そのものに化けるなんて……」

 

 するとジョースターさんがにやにやしながらいう。

 

「しかし、この娘が血相変えて部屋に来たときは驚いたぞ。か、花京院くんがーっ! ……ってな! 」

 

「え!? だ、だって! しょうがないじゃないですか。

 友だち……が、あぶないかもってなったら! ……あわてますよ、そりゃあ!! 」

 

 必死に訴える彼女。

 

(そりゃあ、まぁ、そうだろう。うん)

 

 仲間……もとい、友人(……にやけてなんかいない)の危機に瀕したら、そりゃそうなるだろう。ひとり納得する。

 しかし承太郎はなにやら疑問を持っているようだ。彼女にそれをぶつける。

 

「……しかしお前、初見で、よくあんなにすぐわかったな。あいつが偽者だってよ」

 

「え、それは……、……っ! 」

 

 一瞬の沈黙。そしてさっき以上の必死さでいう。

 

「……な、何言ってるの! ぜんっっぜん似てなかったじゃない! 」

 

「そっくりだったぞ。顔も声も……」

「ええ。我ながら、そっくりでしたね……」

「う……。そ、そんなことないって」

 

 追撃をくらい、しどろもどろにいう。そんな彼女に承太郎の容赦ない追究は続く。

 

「……瓜二つだったがなぁ。なんで確信できたんだ? 」

「な、なんでって……なんとなくだよ! なんとなく!! 」

 

 しまいには半ば投げやりにそう言い放つ。

 

「じ、じゃあ、私、部屋に戻りますね! ごちそうさまでしたっ!! 」

「あ! 」

 

 そして立ち上がると、逃げるように出ていってしまう。

 

「……? どうしたんでしょう? 」

「まぁ、そっとしておいてやりなさい。女の子には独りになりたい時があるんじゃよ。にしし。

 ……承太郎も、あまりいじめてやりなさんな」

「……ふん」

「はぁ……そんなものでしょうか」

 

 そこへ占い師らしい助け舟(?)を出すアヴドゥルさん。

 

「まぁ、彼女のタロットの暗示には“直感”もある。そういうものにも優れているのかもしれないな。……と、いうことにしておこうじゃないか。なっ! 」

「? そうですね」

 

ポルナレフまで、吐き捨てるように言う。

 

「なーんだ。そーゆーことなわけね。けっ! ったくよぉ!! 」

「どういうことですか? 」

「はぁ? 知るか! てめーで考えろ! 」

「考えてもわからないから聞いているんじゃあないか」

「ぜってー教えてやんねー!! ずっとそのまま考えてやがれ! 」

「なんだと! 」

 

「……! 」

「……!! 」

 

 そのままポルナレフとの口論はしばし続いた。誰が天然色ボケ朴念仁だ。まったく本当に失敬なやつだ。

 

 舌戦が終了したのち、ひとり、おもう。

 

(……しかし、そうか。

 そんなにすぐに、わかって、くれたのか……)

 

「何今さらにやにやしてんだよ……ったく」

「ん、……なんでもないよ」

 

 そして、承太郎の食べ終わったお皿に残されているものに気づき、声をかける。

 

「ところで、承太郎、そのチェリー食べないのか?

 ガッつくようだが好物で目がなくてな……くれないか? 」

「ああ」

 

 その言葉に感謝しつつ、有難くいただくことにする。

 

「サンキュー。レロレロレロレロ……」

 

「……! 」

 

 いつもどおり、大好物を転がし滑らかな舌感を楽しんでいると、承太郎が怪訝な表情を浮かべているのに気づく。

 

「どうした? 」

「……なんでもねぇ……」

「そうか? ……レロレロレロレロ……」

 

「……。お前、あいつに、それ、見せたか……? 」

「ん? これ?? ああ、こないだ見せたな。そういえば。

 特技の一環と思われたのか、やたらウケてたけど。すごーいって。

 ただの癖なんだけどなぁ、これ。何回もやってってせがまれて、困っちゃったよ」

「……てめぇら……ほんとに……」

 

「あっ! 承太郎! 見ろ、フラミンゴが飛んだぞ」

 

「……やれやれだぜ」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

(……い、言えない。……言えるわけない! )

 

 自分に与えられた部屋に駆け込み、おもう。

 

(……確信した理由が、“触れられて気持ち悪かったから”とかっ……!

 だって、ってことは、それって……本物には……)

 

「わぁあーーー!!! 」

 

(……ふ、深く考えちゃ、ダメだ! うん、やめよう。やめとこう!

 友だちと敵なんだから! そりゃ違うよ。うん)

 

 無理矢理、納得する。

 

(こういうときは……寝るっ!! )

 

 秘技、現実逃避。ベッドに潜り、布団をかぶる。

 

(だ、だいたい、そんなこと考えてる場合じゃないし!

 そんな暇があったら自分の能力磨きなさいってもんだよね。

 昨日もちっとも役に立ってなかったし。

 起きたら、師匠(アヴドゥルさん)のとこにセシリアのこと、相談に行こう……)

 

 

 




「……ち、ちくしょう、ヘソ如きでなんで!?
 あいつら、デキてんじゃあねぇのかよ……! ……ぐふっ! 」

はて? なんのことですかねぇ(ゲス顔)? 残念でした。そして個人的にへそは正義だと思います。
……というわけで全国のラバソさんファンの皆さんお待たせいたしました! なにより、すみませんでしたーッ!
あ、そうそう! 承太郎に置いていかれてプールサイドで呑気してた花京院はこの世界にはいないみたいですね!
ちなみにNO EXCUSEの意味は『言い訳無用、弁解はいらねぇ』だそうです。試験に出るといいですね!

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!

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