2018/03/04投稿
人は生まれながらに平等ではない。
緑谷出久が物心ついた頃から感じている世界の現実だ。
生まれつき病弱で心臓に疾患を抱えた出久は、周囲の友人たちが夢を、ヒーローになると語る姿を諦観の笑みを浮かべて聞く毎日を過ごしてきた。
「本当に俺がいなきゃダメだなデクは」
「ごめん、かっちゃん。迷惑かけてごめんね」
心臓のあたりを手で押さえながらうずくまる出久に、幼馴染の爆豪は手を差し伸べて助け起こす。
だが、その表情は、相手を思いやる気持ちよりも自分より格下の者を見下す優越感のほうが表に出ていた。
『無個性で病弱な可哀想なデクに、恵まれた自分が慈悲を与えてやっている』
ハッキリと上下関係のついた歪な友情だが、出久もそんな扱いに抗議することなく、当然のように受け止めてひたすら謝罪の言葉を口にするばかり。
こんな関係を良しとしている理由は、出久が抱えた諦観・絶望だ。
「覚悟したほうがいいね」
幼い頃に医者に告げられたのは残酷な余命宣告だった。
心臓の疾患はやがて体を蝕み、成人を迎えることができるかどうか怪しいという。
これで“個性”を持っていたのならば夢を見ることもできたのだろう。
だが、彼は“無個性”だった。
力もなく、未来もない。
ただ定められた死に向かって生きるだけの諦めの人生だ。
しかし、運命は出久を見捨てなかった。
心臓のドナーが見つかったのだ。
超人社会となった現代では、各個人の身体、臓器ですら個性的になりすぎていて、以前よりもドナーが見つかりにくくなっている。
そんな中で出久に合致するドナーが見つかったのは幸運としか言いようがない。
さらに幸運が続き、母親が買った宝くじが高額当選。
莫大な手術費用も用意することができた。
多くの幸運に助けられ、出久は手術を受ける。
「……先生、よろしくお願いします」
「大丈夫。君の運命は、俺が変える!」
手術は成功。
担当した医師の言葉の通り、健康な身体を手にいれた出久は自分の運命が大きく変わったのを感じた。
力強く脈打つ鼓動が、自分が生きていることを実感させてくれる。
歓喜の涙を流す出久が考えたことはこれからの自分の人生だった。
「僕が譲り受けた命。助けてもらった生命。無駄にしたくない。でも、どうしたら?」
閉ざされた未来が開き、前を向くことができるようになった出久にようやく自分の将来を考える余裕ができてきた。
といっても、“無個性”であることには変わりなく、ただ健康な身体を手に入れただけなので、どうすればいいのかなど見当もつかなかった。
そうして日々の生活を送りながら悩む毎日。
手術をしてから数カ月後に、出久は胸の痛みを覚えて病院へ運ばれることになった。
検査を受けた出久は医者から衝撃の事実を告げられる。
「出久くん。君に“個性”があるかもしれない」
移植元の人物の個性が心臓に宿っており、移植先の出久に影響を与えているのだという。
いずれは完全に個性が身体に馴染み、出久自身の個性として使えるようになるという。
紡いでもらった命。与えられた個性。
多くのモノを譲り受けた出久は、この命を有意義なものにするべく決意する。
「僕は、ヒーローになる。ヒーローになって、多くの人を救うんだ。――――僕が救けられたように」
国立雄英高校 ヒーロー科。
プロヒーローに必須の資格取得を目的とする全国同科中、最も人気で難しい最難関校だ。
偉大なヒーローを数多く輩出してきたこの高校の入試に、出久は今挑んでいる。
「マズイ! 敵がどんどん減っていく……でも、まだ個性は使えない」
ヴィラン役のロボットを倒した数でポイントを稼ぐ実戦さながらの試験だ。
出久はまだポイントを一つも手にしていなかった。
少しずつ身体に馴染んできた個性だが、まだ十分と言えるほど自分のものにできていなかった。
焦りを隠せないなか、時間は過ぎていく。
残り時間二分を切ろうという頃、変化は突然訪れた。
建造物を破壊しながら生徒たちに迫る巨大ロボット――0Pヴィラン。
存在感を示す圧倒的驚異に、生徒たちは踵を返して逃げ惑う。
当然の判断だ。
倒すメリットは一切なく、容易に倒せる存在ではない。
普通なら避けるべき存在に対して、出久は真っ向から立ち向かっていた。
その理由は単純明快だった。
「いったあ……」
そこに救けが必要な人がいたからだ。
瓦礫に足を挟まれて動けない少女に、0Pヴィランがすぐ近くまで来ている。
それを目撃した出久は、気がつけば身体が勝手に動いていた。
個性を発動させて地面を強く蹴る。
次の瞬間に心臓が力強く脈打ち、血管を通して全身に力を行き渡らせた。
出久の身体に起こる変化、いや、変身。
「アアァア゛ア゛ア゛!」
雄叫びというよりは、もはや咆哮のような叫びとともに、出久は飛び上がった勢いのまま0Pヴィランを一撃で粉砕した。
その姿に会場からは驚きの声があちこちから上がる。
「嘘だろ……マジかよ」
「あの姿、ドラゴンか!?」
「いや、竜人、ドラゴニュートだ」
試験会場の生徒たちが指差す出久の姿は、かの伝説の生き物の姿によく似た特徴をそなえていた。
頭にはねじれた二本の角が伸びており、背と腰には竜の羽と尾が生えている。
そして、手足を始めとした身体のいたるところが鱗で覆われ、さながら人型のドラゴンのようだ。
まるで神話や伝承に出てくる
心臓に宿った個性を発動させることで竜人へと変身し、身体能力を爆発的に高める超強力な個性。
これが出久が譲り受けた個性「
瞬間的な力はNo.1ヒーローであるオールマイトにすら匹敵するだろう。
「うっ、ぐうぅぅぅ!」
だが、強い個性には大きなデメリットがあるものだ。
胸を押さえ、苦しみもがくように墜落していく出久。
まだ、彼の身体は個性になれきっておらず、短時間の発動でも負担が大きすぎるのだ。
このままでは墜落死する。
そんな彼を救けたのは先程救けた少女だった。
個性で空中へと浮かんできた彼女は、手で触れることで出久を浮かばせて地面へとゆっくり下ろすことに成功する。
「ごめん。救けに行ったはずが、救けられるなんて。迷惑をかけて本当にごめん」
「そんなに謝らないで。先に救けてもらったのは私の方だよ!」
謝る出久に首を横に振る少女。
ちょうどそこへ試験終了のアナウンスが流れた。
「あ、ごめん。僕のせいで君の時間がなくなってしまって、ごめんなさい」
「だ、大丈夫だよ。気にしないで」
なおも謝り続ける出久に少女は苦笑いしてしまった。
彼女を救けたヒーローはとにかく腰の低いヒーローのようだ。
その後、看護教諭のリカバリーガールが現れ、出久は保健室へと運ばれていった。
「あ、名前聞くの忘れてたや」
出久が運ばれていったのを見送ったあと、思い出したように声を上げる。
救けてもらっておいて、お互い名前も知らないのだ。
「どうしよう……ううん、きっとまた会えるよね。きっとそうだ」
あとを追いかけることも考えたが、また会えるという予感がしてあとを追わなかった。
その予感は数ヶ月後、雄英高校のヒーロー科の教室で実現することになる。
移植で個性を得るって、いろいろと応用がきく気がする。
他の部分でもいろいろ想像できそうですねぇ。
今回モデルは外典の彼です。
次回はメイドかオンライかな。
読みたい出久の系統は?
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後付け個性系(1/2、Dハートなど)
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両親個性変質系(ヒロイン、恋愛追跡など)
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無個性技能特化系(バトラー、メイドなど)
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その他