2017/11/14 投稿
世界総人口の約8割がなんらかの特異体質となった超人社会。
火を吹く個性や超パワー、爆破能力にサイキックなどなど、多種多様な能力を〝個性”と呼び日常となった世界で。
緑谷出久という男の子の個性はなんともメルヘンで優しい個性だった。
「かっちゃん、おはよー」
「おっす、……って、また動物まみれだなイズク」
夏休みのある日の朝、一緒に遊びに行くために待ち合わせをしていた爆豪とその友人たちの元へ出久が遅れてやって来た。
その出久を見て爆豪が呆れてため息を吐く。
右肩にはハトが、左肩にはカラス、頭の上には雀が数匹。
足元には近所の野良猫がまとわりついており、歩くミニ動物園と化していた。
緑谷出久 4歳。
個性:〝動物を惹きつける個性”
母親の物を引きつける個性が変化して遺伝し、動物を惹きつける個性となったもの。
動物に好かれるためモフり放題だ。
ちなみに好かれ具合は、哺乳類>鳥類>爬虫類>両生類>魚類=無脊椎動物の順で好かれやすい。
両生類あたりはほとんど効果は無くて、魚類、無脊椎動物にはまったく効果がないぞ!
こうした光景はいつものことで、友人たちも一通り反応を返した後はすぐに遊びに行く話になった。
行き先は近所の森で、中を探検して回る予定だ。
子供だけで危ないと言われるかもしれないが、子供の好奇心というのはなかなか抑えられるものではない。
いつの時代も子供にとって大人に秘密の遊び場というのはあるものなのだ。
と、いうわけで、『バクゴーヒーロー事務所』の出発である。
さてさて、誰も迷子にならねばいいのだけれど……。
「かっちゃん~、みんな~、どこにいったの~」
半分泣きべそになりながら森の中を歩く出久。
はっきり言えば、迷子である。
どんぐりの実を袋に入れて運ぶ青色と白色の不思議な生き物を見つけた出久は、それに気を取られているうちに爆豪たちとはぐれてしまったのだ。
不思議な生き物も姿を消し、一人森の中で心細くなる出久。
怖くなってしゃがみこんだところに、どこかで小さな鳴き声が聞こえた。
キューキュー と、小さな鳴き声。
その音を追ってみれば、深さ50cmほどの穴に落ちて出られなくなった子ウサギがいた。
「た、大変だ。大丈夫だよ、いま救けてあげるからね」
地面に這いつくばって子ウサギに手を伸ばす出久。
子ウサギも最初は警戒していたが、出久の個性もあってすぐにおとなしくなった。
幼い体で何とか引っ張り上げ、無事子ウサギを救出した。
「よかったね。もう穴に落ちちゃだめだよ?」
プゥプゥと嬉しそうに鼻を鳴らしている子ウサギを撫でながら言い聞かせていると、いつの間にか心細い気持ちもなくなった。
子ウサギに元気をもらった出久は立ち上がって帰り道を探そうとして――
〝動物に好かれし人の子か……”
「ヒッ!」
化け物に出会った。
その姿はウサギのような、クマのような、猿のような、クジラのような、鳥のような、植物のような……様々な動物を組み合わせたような化け物だった。
個性社会においても稀な異形の姿に恐れ慄く出久はとっさに子ウサギをかばうように抱きかかえて丸くなる。
そんな出久の姿に、化物は嬉しそうに声をあげた。
〝良い、実に良い。動物たちから愛を受け、その身をもって愛を返す。実にすばらしい!”
〝おまえならば、より多くの動物たちに愛を示してくれるかもしれない。”
〝もし、そうならば、おまえは祝福するに足る。呪いではなく祝福を……”
動物たちに愛を、おまえに幸あれかし。
そう言って化け物は出久に祝福を与えた。
この日から、出久は個性とはちょっと違った力を手に入れたのだ。
――――雄英高校 ヒーロー科実技試験
ヴィラン代わりのロボットを倒していくという試験内容で、出久は街の中を跳び回っていた。
「てりゃ!」
掛け声と共にロボットを蹴り倒す出久。
その姿は、ウサギの獣人と言えるようなものになっていた。
頭から生えたウサ耳に首回りに毛皮。
腕も毛に覆われてフカフカである。
そして何より特徴的なのが、大きく発達したウサギのような脚だ。
幼いころに化け物と出会って以来、出久はこのウサギの獣人に変身する能力を得たのだ。
この状態になると身体能力だけでなく嗅覚や聴覚なども強化され、まさに超人的な能力を使うことができるようになる。
特に発達した脚力をいかした高速移動がウリなのだが、今回の会場では同じくスピードを得意とする生徒がいた。
「くっ、今回は取られてしまったか。だが、次は負けないぞ!」
「こっちだって!」
刈り上げのメガネをした生徒が出久と張り合うようにスピードを上げる。
移動系の個性を持っているらしい彼は、先ほどから出久とスピード勝負を繰り広げていた。
試験の場であるというのに、強力なライバルがいることに思わず笑みが浮かぶ二人。
だが、そんな彼らに水を差す存在が現れた。
「ムムッ、これはお邪魔ギミックか!」
「ゼゼゼ、ゼロポイントの!? デカい!!?」
建物を超える大きさのロボットが現れ、生徒たちはいっせいに逃走を開始する。
倒せると思えない巨大さに、そもそも倒しても意味をなさないとなれば当然逃げる。
だが、出久は偶然にも逃げ遅れた女の子がいることに気が付いた。
足を瓦礫に挟まれて動けない女の子。このままだと、ロボットにやられてしまう。
そう思った瞬間には、身体が勝手に動いていた。
「脱兎の如く――――――ぶっ飛ばす!」
〝RABBIT SMASH!”
飛び跳ねた勢いそのままにロボットに拳をぶつける。
巨大ロボットの装甲は大きな音を立ててヘコみ、ゆっくりと倒れていく。
「っと、危ない。大丈夫?」
「え、うん。ありがと、ってうわあああ!」
地面に降り立ってすぐに倒れていた女の子を抱え上げて安全圏に脱出。
まさに言葉通り脱兎の如くであった。
こうして大活躍だった出久は、数日後、見事雄英高校のヒーロー科に合格したのだった。
緑谷’Sスペック
ウサギの獣人に変身できる。
ウサ耳モフモフ。毛皮モフモフ。尻尾モフモフ。
嗅覚、聴覚共に強化されている。身体能力もアップ。
‘スキル’
『動物会話』:動物と会話ができる。話は哺乳類が一番分かり、両生類はなんとなく伝わる程度。魚類・無脊椎動物はさすがに無理。
『幸運の運び屋』:一緒にいると周りの人に幸運が訪れる。かも。
『月兎の献身』:血液に回復効果あり。多用厳禁、失血死注意。
『因幡白兎の薬草眼』:有効な薬草の知識が分かる。
オマケ 雄英高校のウサギくん
1.A組癒し枠の二人
「すごいや、口田くんて動物にお願い事を聞いてもらえるんだね」
(緑谷くんの動物と話せるのもすごいよ)
学校の中庭で口田と話をする出久。
お互い動物に関わる個性ということで、なにかと仲の良い二人。
そんな二人の周りには、鳥たちが集まって来ていて、なんだかメルヘンな空間に。
「なんだろう。あの二人を見てると癒されるなぁ……」
「うむ、アニマルセラピーというやつだな」
二人を見つめてほんわかしている麗日に同意する飯田の姿が。
貴重な癒し枠である。
2.放課後猫好き倶楽部
学校の近くで放課後に3人の人影が集まっていた。
目的は一つ。
ミャーミャー
「よーしよーし、今日も遊んでやるからなー」
「このこの。ここがいいのか、このこのこのこの!」
「へぇ、そうなんだ。ドラちゃんって言うんだ? へっ、飼い主がポンコツで困る? えぇ~」
野良猫たちと戯れること!
メンバーは猫好きの相澤先生と、普通科の心操、ヒーロー科の出久である。
放課後に個性の影響で野良猫たちに囲まれていた出久を血涙を流さんばかりに見つめていた二人と出会ったのが始まり。
いまでは、出久につられてやって来た猫たちを思いっきりモフり尽くす毎日だ。
教師の威厳? いまは放課後。職務は関係ない。いいね?
3.食事の話
お昼休み。食堂でのこと。
出久の食事を見ていた麗日が何かに気が付いた。
「あれ? 緑谷くんって、野菜ばっかりだよね。ベジタリアンなの?」
出久の食事を見て疑問を投げかける。
野菜サラダにご飯、わかめと豆腐の味噌汁、メインのおかずは焼いた厚揚げだったり。
やっぱりウサギだから? と、問いかける麗日に出久は苦笑いで返事をする。
「そういうわけじゃないよ。普通に肉も食べれるんだけど……気分的にね」
「む、好き嫌いは良くないぞ! バランスの良い食事は体の資本だ」
飯田が注意をするが、出久は首を横に振る。
「好き嫌いというよりは僕もお肉は嫌いじゃないんだけど……ほら、僕って動物と話ができるでしょ?」
「それがいったい……あっ!」
「た、たしかに。それは食べづらいよね」
何かを察した飯田と麗日。
祝福で得た能力も良いことばかりとは限らないのだ。
身体的に問題はないのだろうが、心理的に半ベジタリアンになってしまった出久だった。
「小学生のころにさ、牧場へ行ったんだ。そしたら、子豚が『ボク、大きくなったらどんなふうになるのかな』って、キラキラした目で話しかけてきてさ……」
「や、やめて。おかずの生姜焼きが食べられなくなるやん!!」
4.空腹禁止
授業合間の休憩時間。
出久は携帯食のスティックバー(人参味)を口にしていた。
「緑谷くん、そうやってモキュモキュやってるとウサギっぽいよね」
「そ、そうかな。麗日さんも一本どうかな?」
「ありがとう! そういえば、緑谷くんよくおやつ食べてるよね? やっぱり栄養足りてないんじゃ?」
三食野菜メインではやっぱりおなかが空くのではと心配する麗日に出久は手を振って否定した。
「そういうわけじゃないよ。ただ、空腹になるとちょっとまずいことになるだけでね」
「まずいことって?」
おなかが減るとまずいとはどんな状況だろう?
ぜんぜん思い浮かばなくて首を傾げる麗日に出久が、昔の話だと語りだす。
「ちょっと帰るのが遅くなってね。夕飯の時間を過ぎちゃってつい呟いたんだよ。『おなか空いた』って。そしたら……」
「ど、どうなったの?」
「うん。ハトがどこからかライターを咥えて持ってきてね。枯草の上に寝そべってこっちを見るんだ……」
さぁ、私を食べなさいって。
それ以来、うかつに空腹を訴えられなくなった出久。
動物からの好意がカンストすると、自己犠牲もいとわない献身をしてくれます。
こんなことで悩むのはきっと立川のロン毛じゃない方だけであろう。
「どっちかというと、火に飛び込んで自分を食べてもらうのはウサギのほうだよね。フフフ」
「み、緑谷くん、落ち着いて! あかん、目が死んでるぅ!?」
この話を書くためだけに逢魔ヶ刻動物園をまとめ買いしたんだ!
というのは冗談で、堀越先生の作品なので買ってみたらおもしろかったので。
まぁ、いろいろネタはぶっこんだので存分にツッコんでください。
あと、感想の数が400件超えました。
みなさん、ありがとうございます。
お礼にどの「いずく」が好きかアンケートを……と、思いましたが、どうやったってボーボボネタにしかならんのよね。
なにかお礼企画を考えときます……
活動報告更新しました。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=166813&uid=28246
読みたい出久の系統は?
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後付け個性系(1/2、Dハートなど)
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両親個性変質系(ヒロイン、恋愛追跡など)
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無個性技能特化系(バトラー、メイドなど)
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その他