たとえばこんな緑谷出久   作:知ったか豆腐

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ラッキー、アンラッキーときたので。

2017/09/03


いずくラッキー&アンラッキー

 世界はバランス、つり合いで成り立っている。

 緑谷出久が理解した世の中の理論だ。

 

 禍福は糾える縄の如し

 それが『幸運と不運を引き寄せる個性』なんて個性を得てしまった緑谷出久という人間の思想の根幹だ。

 

 幸運の後には不運が、不運の後には幸運が。

 シーソーのように幸運と不運を行ったり来たりする人生は、出久の考え方に影響を与えて当然だった。

 

 

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 とある中学校3年生の進路調査。

 超常社会全盛期のこのご時世では生徒のほとんどがヒーロー科志望である。

 

「模試じゃA判定!! 俺はウチ唯一の雄英圏内! あのオールマイトをも超えて俺はトップヒーローと成り、必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!!」

 

 国立の最難関ヒーロー科の雄英高校を受けるという爆豪にクラスの騒然となる。

 彼の自信は思い上がりではなく、学力も運動能力も“個性”も才能に満ち溢れていた。

 そんな彼に水を差す一言を担任が口にする。

 

「あ、そういえば緑谷も雄英志望だったな」

 

 その一言で、クラスの視線が緑谷に集中する。

 一瞬の静寂の後に訪れたのは嘲笑の嵐だった。

 

「はああ!? 緑谷あ!? ムリッしょ!!」

「勉強出来るだけじゃヒーロー科は入れねんだぞー!」

 

 クラスメイトの嗤い声に出久はため息を吐く。

 

『先生も不要なことを言ってくれるなぁ。おかげで無駄に騒がしくなったじゃないか。まぁ、こんな悪いことがあったんなら次はいいことがあるさ』

 

 余計な一言を告げた担任に恨み言を内心でつぶやいたあと、笑みを作って釈明の言葉を言う。

 

「やだなぁ、先生。ヒーロー科じゃなくて普通科だってこと言わないと誤解されちゃうじゃないですか」

「お、そうだな。悪い悪い」

 

 出久に悪びれた様子もなく謝罪する担任。

 その様子を見てクラスも落ち着きを取り戻す。

 

「なんだ、普通科か。なら納得だな」

「まー、緑谷は勉強できるからな」

 

 教室の熱が下がり始めた空気に一安心の出久。

 精神的な余裕があるからか、幼馴染の爆豪が何を言ってきても冷静に対処できそうだ。

 

「ハッ! “没個性”のてめえは自分の立場をわきまえてますってか? 殊勝な心がけだなオイ!」

「そうだよ。僕のゴミみたいな個性が君と同じヒーローになれるわけないじゃないか。たださ、僕はヒーローが好きなんだ。だからそれの役に立ちたいんだよ」

 

 自虐とともに語る希望。緑谷出久という人間は変わった人間だ。

 

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「いやあ、悪かった!! ヴィラン退治に巻き込んでしまった。いつもはこんなミスしないんだが、オフだったのと知らない土地で浮かれちゃったかな!?」

 

 学校からの帰り道で、不運にもヘドロのヴィランに襲われそうになった出久だが幸運なことにオールマイトに救けられて話をすることができた。

 

『ああ、幸運だなぁ。あのトップヒーローと話をすることができるなんて!』

 

 ヴィランに襲われた後に訪れた幸運に感動する出久。

 そんな出久に構うことなく、オールマイトはマイペースに話を進める。

 

「君のおかげさ、ありがとう!! 無事詰められた!」

 

 炭酸飲料のペットボトルに詰め込まれたヘドロヴィランを見せるオールマイト。

 出久は呆けた様子でそのペットボトルに触れる。

 

「へぇ……さっきの奴がこの中に」

「おいおい、コラコラ! 触れちゃいかんよ、少年!」

「あ、すみません! 僕みたいなクズでのろまな人間が、オールマイトの邪魔をしちゃだめですよね」

「い、いや、そこまで卑屈になる必要はないが……分かってくれればそれでいいさ! じゃあ、私はこれを警察に届けるので! 液晶越しにまた会おう!!」

 

 そう言って飛び去るオールマイト。

 だが、彼は知らない。

 彼が触ったせいで、ペットボトルの蓋が不運にも緩んでしまっていたことを。

 ヘドロのヴィランがペットボトルから脱出して中学生を人質にしてしまうことを……

 

 

 

 爆炎が商店街を蹂躙して、ヘドロの塊がコンクリートを叩き割る。

 身体を乗っ取ろうとするヘドロヴィランに爆豪が必死の抵抗をすることで、商店街はその場のヒーローが手を出せない状況に陥っていた。

 それを野次馬の中から見つめる出久の顔は――

 

『いいよ、かっちゃん。こんな状況でも諦めずにもがけるなんてすごいや。この絶望(ピンチ)を切り抜ければより強い希望(ヒーロー)になれるはずだ!』

 

 愉悦の笑みを浮かべていた。

 より強い絶望(ヴィラン)を乗り越えることで、より希望(ヒーロー)を輝かせる。

 そんな考えを持っている緑谷出久は、自身の行動のせいで逃してしまったヴィランの凶行に後悔するどころか、歓喜の表情でそれを迎えていた。

 

 

 彼はより強い希望(ヒーロー)が好きだから、彼らに絶望(ヴィラン)を差し向けることに躊躇はないのだ。

 

「さあ、絶望を乗り越える様子を見せてよ、ヒーロー!!」

 

 

 

 

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 一年後。

 

「はい、これが雄英の……オールマイトが関わるカリキュラムだよ」

「確かに受け取りました、緑谷出久。しかし一般生徒がよく手に入れましたね」

「ゴミみたいな個性だけど、僕にはこれしかないからさ。こういう時は幸運なのさ」

「しかし、目的が分かりませんね。何が目的なのです?」

 

 黒い靄のかかった男からの質問に、出久は笑顔で告げる。

 

「僕はヒーローが大好きだから。だから彼らはこんな苦難を乗り越えて輝いてくれると信じてるんだよ」




うーん、彼の雰囲気を出すのは難しいです。

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