2017/08/24 投稿
人は生まれながらに平等ではない。
緑谷出久が齢4歳のころから感じている現実だ。
個性の能力が人生の成功に大きく影響するこの社会で、緑谷出久は成功が約束された個性を授かったのだ――――
「なぁ、緑谷ぁ。頼むよ。今回のイベだけは逃したくないんだ」
「えー、またなの!?」
同級生から頼まれごとをする緑谷出久、14歳。男子中学生。
友人の必死の頼みに、最終的にはやれやれと承諾する出久。
「分かったよ。じゃあ、100円ね」
「ゲッ! やっぱり金とんのかよー!!」
「当たり前だよ。じゃないと際限ないからさ」
「ちぇ、仕方ねえか」
出久に100円玉を渡してスマホのアプリを起動させる友人。
ガチャの画面を開いた状態で出久に手渡した。
「じゃあ、いくよ?」
「頼む! 緑谷ァ!!」
スマホの画面をタップしてソシャゲのガチャが回りだす。
結果は……
「来たー!! SSRだ! しかも3つも!?」
「「「な、なにぃ!?」」」
たった一度の10連ガチャで最高ランクを3つも引き当てたことに見ていた友人たちも思わず驚きの声を上げる。
出久の強運、いや、もはや豪運。
友人の彼はたった100円で廃課金ユーザー顔負けの結果を手に入れたのだ。
「やっぱすげえよ。緑谷は」
「ああ、もう完全勝ち組の個性だよな」
ここまで来ると嫉妬も湧かない。
緑谷出久の強個性。
『幸運を引きつける個性』
母親の個性が変質して遺伝したこの個性は、出久に幸運を引き寄せてくる。
物を手元に引きつける物理的な力を持った個性が、どう変われば幸運をひきつけるなどというオカルト染みたものになるのか。
まったくもって個性というのは不思議である。
何はともあれ、この個性によって出久の人生は順風満帆だった。
懸賞に応募すれば必ず何かが当たり、くじを引けば一等賞。トレーディングカードを集めればレアカードがあっという間に集まる。
趣味はヒーローグッズのコレクション。
どんな当選確率の低いグッズでも、目当てのものは確実に当たる出久はかなりのコレクターである。
そんな出久だから、子供の間で人気になるのは当然だった。
ただ、運が関わるゲームをすると必ず勝つので誰も相手にはしてくれないが。
例外を除いて――――
「おい、クソウンコ野郎! 今日も勝負だ!」
「えー、またなの?」
幼馴染の爆豪。
身体能力や頭脳、センスなど生まれ持った才能は圧倒的なのに、幸運に恵まれただけの出久に何度も負けているのは我慢がならないと毎回勝負を仕掛けてくるのだ。
例え運が関わる勝負でも勝ってやると、カードゲームなどのギャンブル色の強いゲームを仕掛けてくる。
まぁ、結果は毎回爆豪の惨敗なのだが。
『そろった! この手札で負けるわけがねえ!』
爆豪の手札はハートのA・K・Q・J・10のロイヤルストレートフラッシュ。
これを完成させるだけでもかなりの幸運。負けるはずの無い手札だ。
当然、オールイン。
出久もこれを受けてオープンとなる。
「俺の勝ちだ、クソが!」
勝ち誇る爆豪。だが、しかし……
「ゴメンね、かっちゃん。どうやら
開かれた出久の手札。
9・9・9・9の4種4枚にワイルドカードのジョーカーが1枚。
ファイブカード。
ロイヤルストレートを超える最強の役であった。
「なん……だと!?」
南オーラス。
最後の勝負で爆豪と出久の持ち点は両者共に40,000点近く。わずかな差でも相手に直撃を喰らわせれば勝利は確定する。
そんな状況だった。
この局が始まってわずか三順にして爆豪、聴牌。
役は白・發・中の3面子9牌がそろった大三元。雀頭はそろっており、待ちは両面待ちという状況。
これならツモだろうがロンだろうが出久に勝てる。
そう思った爆豪は要らない一筒を切った。
「かっちゃん……」
「あ? なんだよ?」
「それだ。ロン!」
パタリと倒される出久の牌。
国士無双十三面待ち。
一気に吹っ飛ぶ爆豪の点。
視界がぐにゃりと歪んだ爆豪であった。
こんな緑谷出久はヒーローじゃなくてギャンブラーになっているかもしれない……
「チクショウ! いつか絶対ェ勝ってやるからな!! クソが!」
「あ、ピンゾロだ。せっかく456だったのに残念だったね」
「……クソがあああ!」
麻雀のルールとかよく分かっていないんだがあっているだろうか?
まぁ、細かい点は気にしない。
幸運ってことで某超高校級の彼みたいにしようと思っていたら、気がつけばざわざわしてるような世界観になってる。
どうしてこうなった?
しっかし、この個性、リアルに欲しいんじゃが!
せめてソシャゲのガチャのときだけでいいから欲しい……