2017/10/23 投稿
いずく恋・愛・追・跡
爆豪勝己には幼馴染がいる。
幼いころから一緒にいて、美少女といっても過言ではないほど美しく成長した幼馴染。
こう言ってしまうと自意識過剰に思われるかもしれないが、爆豪はその幼馴染から好意を向けられていることを知っていた。
当然、親愛ではなく、異性へと向ける好意だ。
自覚してなお、その好意に応えないのは……
「かっちゃん……おはよう」
「いちいち、家の前で待ってんじゃねえよ。クソデクが!」
「ごめんね。僕が待ってないか心配してくれたんだよね。大丈夫だよ、きっと今日はかっちゃんはこのくらいの時間に家を出るって思ってたんだ」
話がかみ合わない様子に爆豪はゲンナリする。
さりげなく自分の行動が予測されている感じがして朝から嫌な汗が背筋を伝う。
「あ、昨日の寝る前のシャレにならない怖い話は本当に怖かったよね。最後に女の人が部屋にいたオチはゾクッときたよ!」
「そ、そォだな」
寝る前にシャレにならない怖い話を見て寝るのは爆豪の習慣なのだが、もちろん一人で見ている。
なのに、自分が見ていた話を何故、この幼馴染が把握しているのだ?
昨日の見た怖い話のオチとも合わさって、ゾクリと震えそうになる爆豪であった。
火を吹く個性を持った緑色の髪をした幼馴染。
名前を緑谷出久という。
そして、この緑谷出久は、爆豪のことを病的なまでに愛してストーカー染みた行動をしている。
つまり、緑谷出久はヤンデレである。
ある日のこと、教室に忘れ物を取りに来た爆豪はふと緑谷の席にノートが置かれているのを見つけた。
あいつが忘れていったのか? と、気になってみてみれば、タイトルは『将来のためのかっちゃん観察ノート』
いかにもストーカーチックなタイトルに頬が引きつるが、怖いもの見たさでページを開く。
読むのは最後のページ。
そして、爆豪は読んだことを後悔することとなる。
『将来のためのかっちゃん観察ノート』
将来はかっちゃんと結婚して爆豪出久になりたいな。
そうだ! 子供はっ…子供は何人欲しいかなあ?
僕は三人欲しいな。女の子がふたり、男の子がひとりね。名前はかっちゃんが決めてあげてほしい。僕ってあんまりネーミングセンスないから。
えへへ、どっちに似ると思う? 僕とかっちゃんの子供だったら、きっと男の子でも女の子でも可愛いよね。
それで 庭付きの白い家に住んで、可愛い犬を飼うんだ。犬の名前くらいは僕でも決めれるよね。かっちゃんは犬派だから反対しないと思う。
あ、でも小型犬と大型犬で意見は分かれるかも。僕は断然小型犬派なんだけど、あ、でも、かっちゃんが大型犬の方が好きだっていうんなら、勿論大型犬を飼うことにしよう。僕、ちっちゃい方が可愛いけれど、動物ならなんでも可愛く感じるから。だけど一番好きなのは、勿論かっちゃんなんだよ。かっちゃんが僕のことを一番好きなように。
そうだ、かっちゃんの好きな食べ物を作れるようになっておかないと。
どうしてそんなことをするのかっていうと、将来、僕がずっとかっちゃんのお弁当を作ることになるんだから。
それこそ一生かっちゃんの口に入るものは全部僕が作るんだから、やっぱり好みの味付けにしておきたいよね。
好き嫌いはよくないけれど、でも喜んでほしいって気持ちも本当だもんね。最初くらいはかっちゃんの好きなメニューで揃えたいって思うんだ。
彼女が彼氏のお弁当を作るなんて当たり前のことなんだから全然苦痛じゃないや。でもひとつだけ我儘。僕、『あーん』ってするの、昔から憧れだったんだ。
かっちゃん、やってくれるかな。照れて逃げられたら、そんなことをされたら僕、傷ついちゃうよ。きっと立ち直れない!
ショックでかっちゃんを燃やしちゃうかも。なーんて。
かっちゃんのことはちっちゃいころからずっと見てきたからなんでも知ってるけど、ちゃんとお話は毎日したいな。
もしかしたら些細なことで誤解を招くかもしれないよね? そういうのってとても悲しいと思うもん。
愛し合う二人が勘違いで喧嘩になっちゃうなんてのはテレビドラマの世界だけで十分だよ。もっとも僕とかっちゃんは絶対にその後仲直りできるに決まってるけど、それでもね。
かっちゃんは僕のことどう思ってるんだろう?
もちろん、僕とかっちゃんは相思相愛だし、いずれ結ばれる運命なのは知ってるよ。でも、かっちゃんは恥ずかしいのか僕に愛の言葉はくれないんだよね。
できればもっと言葉にしてほしいんだけど。男の子は言葉にするよりも態度で示すってことは言われてるけど、僕はできれば口にしてほしいなーって。
かっちゃんの声ってすごい色っぽいから耳元でささやかれたら僕もうそれだけで駄目になっちゃうかも!
ねえ、かっちゃんはやってくれるかな。
できればやってほしいな。
今度二人きりの時にお願いね。
約束だよ、かっちゃん。
ねえ、見てるんでしょ?
もう読んじゃったんだよね?
ねぇ、かっちゃん?
「~~~~~~ッ!!」
言葉にならない悲鳴をあげながらノートを爆破して窓から投げ捨てる。
どうしようもない恐怖感に襲われた爆豪は急いで教室を後にした。
その窓の外。投げ捨てられたノートが鯉を飼っている池に落ちて浮かんでいる。
それを拾い上げる影が……
「かっちゃん、読んだのに返事してくれないんだ。約束したのに……嘘つき。
嘘つきは……燃やさないと。
逃がさないよ、かっちゃん。逃がさない、逃がしません!」
呼気と共に口から洩れた炎が手にしたノートを灰に変える。
知らないんだな、爆豪。
幼馴染からは逃げられない!
ヒロインを書いてたはずが、気がつけば書き上げていた。
何があったのかとか聞かないで。
僕も分からない!!
とりあえず、このかっちゃんはノートを爆破しても許されると思うんだ。
2017/11/02
一部文字の色を赤に変更。よりホラー感を出しました。