――――雄英高校 入試当日
「おい、あれ、緑谷出久じゃね?」
「本当だ。被救助回数全国一位の!」
「ザ・ヒロイン!? 救助される側がなんで?」
試験会場へと向かう生徒たちが出久の姿を見て驚く。
今日は雄英ヒーロー科の入試日。
つまりこの日に試験を受けるということはヒーローを目指すということだ。
ぶっちゃけ、ヒーローに救けられているイメージしかない出久がヒーローになれるとは周囲の人間は誰も思っていなかったのである。
特に幼馴染のこの男は会場に来ているとすら思っていなかった。
「なんでこの場所におるんじゃ、おまえは!」
「え? なんでって、試験を受けに来たんだけど?」
コテン、と、首を傾げて爆豪に答える出久。
くそう、あざとい!
すでにその姿をみていた受験者の何名かが犠牲になっていたりするのだが、耐性のついている爆豪には通用しなかった。
「俺ァ、言ったよなァ! おまえの個性じゃロボ相手には向かねえから試験は諦めろって!」
「だ、大丈夫だよ、かっちゃん。個性以外にも鍛えてるから!」
「はぁ!? 鍛えた!? ムリだろ、その体じゃ」
「ひ、ひどいよかっちゃん。どうしてそんなこと言うんだ」
ひどいって言われてもなァ……。
出久の身体を見てみれば、正直細い。相変わらず性別不明のこの体格。
これで鍛えたって言われても正直困る。困るっていうか、普通は無理だろ。
「だいたい、かっちゃん。個性だけでヒーローが務まるわけじゃないんだよ! とあるヒーローの言葉なんだけど、『一芸だけじゃヒーローは務まらない』って」
「ハァ!? 知らねーよ! どこの三流ヒーローのセリフだ、オイ!」
「い、いや、たしかにマイナーであまり知られていないけどちゃんと実力のあるヒーローの言葉だよ」
「うっせえ! そんなマニアックなヒーローの言葉なんか聞いてられっかボケが!」
「かっちゃん、あんまりそういうことは……って、置いてかないで!!」
もう関わってられないと先を進む爆豪。
でもね、かっちゃん。そのヒーローって、雄英の先生なんだよ?
そのころに職員室でくしゃみをする合理主義者の先生の姿が!!
「ったく、誰だ? 悪口言ってやがるのは」
「今日は俺のライヴにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!」
「Yokosoー!」
「サンキュー、そこの緑髪のリスナー!
それじゃあ、実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ。アーユーレディ!?」
「YEAHH!」
「ホント、サンキューな。緑の髪のリスナーくん!!」
プレゼントマイクの掛け声に唯一応える出久に周りの目が向けられる。
クスクスと笑い声も聞こえてきて隣にいる爆豪は居心地悪いことこの上ない。
しかし、当の本人は飄々としているのだから解せない。
「おい、てめえ何考えてやがる!」
「え? だって、せっかくプレゼント・マイクが直接声かけてくれたんだから応えないのはもったいないじゃん」
「てめ、こんなときに何考えてんだ!?」
ふざけた返事をする出久に爆豪の目じりが吊り上りそうになる。
それを見て出久はすぐに弁明を始めた。
「ま、まあ、それは冗談として、僕の個性のためだよ」
「個性のため?」
「う、うん。返事をしたらみんなの注目を集めるでしょ? 僕の個性は僕のことを認識することが大事だからね。この場を借りてみんなの目を僕に向けさせたんだよ」
「そ、そォか」
ニコニコと語る出久に若干恐怖を感じる爆豪。
こいつ、全部計算ずくかよ!?
優しそうな顔をしておきながらこいつ腹黒いんじゃないだろうか?
まぁ、どうあがこうとこいつの個性じゃ試験突破は無理だろう。
そう言い聞かせて試験に臨む爆豪だった。
「あ、かっちゃん! やったよ! 合格だ!!」
「な、なにぃいいい!?」
三月のある日、呼び出されみれば出久の合格を伝えられて驚愕する爆豪。
思わず掴みかかって怒鳴る。
「どんな汚え手を使やあてめえが受かるんだ、あ!!?」
「どんなって、こう、かな?」
「は?」
ガシッと腕をつかまれたかと思えば気がつけば天地が逆さまに。
続けて背中に衝撃。
投げられた! そう認識するまで何をされたのか全く分からなかったのだ!
「てめえ、いったい何を!?」
「前に個性のコントロールでお世話になったヒーローにアドバイスというか、格闘技を教えてくれる人を紹介してもらったんだ」
直接教えるのは他の受験者のひいきになるからと、とある18禁ヒーローと抹消ヒーローからの口添えで格闘技を身に着けていたのだ。
青春大好きな先生は直接教えられなかったのを非常に残念がっていたが。
「格闘技だと、いったいどんな格闘技だ!」
「えっと、相手の力を利用する柔術だよ。大分変った柔術みたいだけど」
師匠曰く、『我が流派は技十にして力は要らず』とのこと。
通常の柔術が投げる時には技と力でいえばどちらかと言えば、力のほうが重要と言えばその異様さがよく分かるというものだろう。
「まだまだ未熟だから技と力が8:2くらいになっちゃってるんだけどね」
「じゅ、十分すぎるわ! アホが!」
これでまだ未熟とか怖すぎる。
出久が言うには、試験の時のロボットは動きが読めやすすぎて簡単だったとか。
出久の元来持つ分析力と学習して身に着けた相手の心理を読む力。それを活用する術さえ身に付ければそれなりに戦えるのであった。
ちなみに、お邪魔ギミックが現れた際には個性を活用して避難誘導。レスキューポイントも稼いでいたりする。
もうホント、この幼馴染はどこに向かっているのか!!
「あ、他に力がなくても相手を倒せる関節技とかも教えてもらってるよ!!」
「ああもう! どおにでもなれ!! バカ野郎!!」
ガンバレ、爆豪くん。
力のいらない格闘技を身に着けたよ!
これで対人戦もばっちりだね!!
惹きつけて、近寄ってきたらサブミッションとか、なんという……
ちなみに、18禁ヒーローに弟子入りしたら……大変なことになります。なります!