たとえばこんな緑谷出久   作:知ったか豆腐

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リハビリ中

2019/01/28投稿


いずくオンライン 小ネタその5

 ――ヒロオン内 モリアーティのホーム

 

「まさかこんなことになるなんて……」

 

 呆然と立ち尽くしているモリアーティことAFO。

 その足元には……オールマイトが苦悶の表情で死んでいた。

 

「君がこんな情けない死に方をするなんて……」

 

 顔を手で覆い、悲し気に俯き嘆きの言葉を口にする。

 が、しかし――――

 

「クッ、クゥ……クハハハ! 僕の料理で君が死ぬなんて、なんて滑稽なんだ! アッハッハッハ!」

 

 彼の言葉の通り、オールマイトは彼の作った料理で死んだのだ。

 何が起きたのか? それは少しばかり時をさかのぼる。

 


 

 ぺったん、ぺったん。

 

 一定のリズムで音がしている。

 年の瀬が迫れば日本のあちこちで見られる風景。そう、餅つきだ。

 

「よしよし、その調子で頼むよオールマイト」

「ああ! ……って、なんでだ!」

「痛ァ!?」

 

 ノリツッコミをした際に思いっきり合いの手をしていたモリアーティの手を杵で思いっきり打ち付けたオールマイト。

 モリアーティは悲鳴を上げ、当然のことながら文句を言う。

 

「何をするんだ、オールマイト!」

「ホント、何してるんだ私は! なんで餅つきなんかやってるんだ!」

「それを今更ツッコむかい?」

 

 いつもの食事会に呼ばれてノコノコと現れて見てみれば、何故か杵を持たされていきなり餅つきをさせられていたオールマイト。

 ぶっちゃけ訳の分からない状況ではある。

 宿敵同士のはずなのに何故、仲良く息を合わせる必要がある作業をしているのだろうか?

 歴代の継承者たちが見たらどう思うだろう……

 

「何故って、今日はお餅を使った料理だからだよ」

「いや、どうして餅なんだ……」

 

 年末でもないのに時季外れの餅つきとはどういうことだろう?

 そう尋ねたオールマイトにモリアーティは何でもないように返事をした。

 

「散歩をしていたら餅について熱く語っている女子がいてね。それを聞いていたら食べたくなったのさ」

「いや、散歩って……」

 

 たしか丸顔の女の子だったかな。と、語るモリアーティの顔を見てオールマイトはため息を吐く。

 裏社会の帝王が散歩って……しかも女子のおしゃべり立ち聞きって……

 いろいろとツッコミを入れたい。

 

「君もつきたてのお餅は食べたいだろう?」

「……それもそうだな!」

 

 おいしいモノの前に細かいことは言いっこなしである。

 食欲にはヒーローも巨悪も勝てないのだ。

 

 

 そんなこんなで食事の時間。

 食卓に座るオールマイトの前にはいくつものボウルが並んでいる。

 

「さあ、好きなものから食べてくれたまえ」

「言われなくとも……いただきます!」

 

 手を合わせ、箸を手にする。食事の開始だ。

 

「まずは甘いやつからだな」

 

 オールマイトが最初に手を付けたのはあんこがたっぷりと付いた餅だ。

 あんこの甘味が餅の弾力で口の中で踊りだす。

 ボリューミーなのに優しい甘味だ

 

「あんこと餅の組み合わせはやはり間違いないな。しかし、つぶあんじゃないのは残念だな」

「なっ、こしあんの方がおいしいだろう!?」

「なんだって!?」

「あ? ……いや、これ以上はやめておこう」

 

 味の好みで意見が分かれて、一瞬険悪な雰囲気となる。

 が、食事の場で喧嘩するのもバカバカしくなったのでやめておく。

 空気を変えるために次の品を進める。

 

「鉄板の組み合わせということならきな粉はどうだい?」

「いいな。お? 二つ色があるな」

 

 茶色と黄緑の色の二種類を差し出される。

 順番に箸をつけていく。

 

「茶色のほうは香ばしいな。黄緑の方は豆の甘味がほんのり感じられて、これはこれで……」

「同じきな粉でも豆が違うらしいね。ま、好みは分かれるだろうが」

 

 あえてどちらが良いかは聞かない。先ほどの二の舞になるだろうから。

 甘いモノが続いたので次はしょっぱい感じのものをチョイスする。

 

「これはひきわり納豆か?」

「餅ももとはお米だからね。相性はバッチリさ」

 

 モリアーティの言う通り、これもまた間違いない組み合わせだ。

 続いて大根おろしの辛みで、納豆でねばついた口の中をスッキリさせる。

 そうして一度リセットされたところで、別の辛みを試す。

 

「これはなんだ? 醤油となにか香ばしい香りがするが?」

「からみ餅さ。醤油をベースにラー油で辛みを付けて摺りゴマで香ばしさを出したものだよ」

「ピリ辛でさらに箸が進むぞ! つ、次だ、次を出してくれ!」

 

 次々と餅に箸を伸ばしていくオールマイト。

 醤油をつけた海苔を巻いた磯部餅。

 味噌をつけて焼いた味噌餅。バリエーションとしてピーナッツバターなんてのもある。

 先ほどのあんこを利用してお汁粉も用意してあったので、それも口の中へ。

 お雑煮も用意してある。

 醤油ベースに味噌ベース。しかも丸餅と四角の切り餅、ゆでたのと焼いたのと複数種類用意してあった。

 さすが、料理人モリアーティ。芸が細かいぜ。

 オマケとばかりにそっと出した付け合わせの大根の漬物もあっという間になくなってしまった。

 

「おいおい、そんなに慌てて口にほおばると……」

「もぐもぐ……んん!?」

「ああ!? だから言わんこっちゃない」

 

 “お餅”

 

 ヒロオンに実装された食品の一つだが、他の食品にはない特性を持っている。

 調理して摂取すれば一定時間のバフが付くのは他の食品アイテムと変わらない。

 違うのは、低確率でデバフ……バッドステータスが付く。

 “窒息”

 それが付与されるバッドステータスだ。

 毎年お餅で亡くなれる方が多いのはよく知られているが、なぜにここまで再現したのか!?

 

『VRはもう一つの現実世界だ。ならば、悪い部分もしっかりと現実と同じにするというのが道理ではないか?』

 

 と、言うのが、とある開発主任の言葉である。

 天才と馬鹿は紙一重というが、これは正直馬鹿でしかない気がする。

 

 

 

 こうしてオールマイトは(VR世界で)死んでしまったのだった。

 おお、No.1ヒーローよ、(こんな理由で)死んでしまうとは情けない。

 

 一人残された宿敵、モリアーティ、いや、オール・フォー・ワンは何を思うのか。

 

「まだ、お餅グラタンとか用意しておいたんだが……どうしよう?」

 

 作った料理の心配だった。

 おまえ、ホントもう! もうおまえってヤツはぁああ!

 

 なお、残った料理は復活したオールマイトがおいしく頂きました。




正月も過ぎ去って、1月も終わろうとしてるというのにお餅のネタ。
しかもメシテロである。

シリアスな話はなかなか筆が進みません。
別のシリーズはもう少しお待ちください。

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