たとえばこんな緑谷出久   作:知ったか豆腐

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かっちゃんがクソ。
お気をつけて。

2018/06/01 投稿


いずくオンライン その6

『授業やってると時間ギリギリだぜ。シット!』

 

 咳き込みながら心の中で悪態をつくオールマイト。

 ヒーロー科の初の戦闘訓練の授業を終えたのだが、マッスルフォームの維持限界時間ギリギリになってしまったのだ。

 初授業ということもあって、今後は時間配分など上手くやっていくことになるのだろうが、それでもコレが毎日だと思うと気が休まらない。

 だが、これは必要なことなのだ。

 

“ナチュラルボーンヒーロー” “平和の象徴”

 

 その後継者を見つけ出すために教師としてここに赴任したのだ。

 力を持った者の責務として、次代の後継者を育てなければならないのだから。

 そうでなければ、超人社会は悪人に勾引かされるのだ……。

 

「そういえば、緑谷少年によればそろそろVRによる訓練が可能になりそうと言ってたな」

 

 今後の授業の事を考えていると、雄英に新しく設置されたフルダイブVRの準備がそろそろできそうだということを思い出した。

 VR空間ならば、ワン・フォー・オールの限界時間もないので、時間を気にせずに授業ができるだろう。

 そう考えて、少し安心したオールマイト。

 ヴィラン退治、災害救助はトップヒーローだが、教師としては新米もいいところなのだからこれは仕方がない。

 

「VRといえば、あいつの開く食事会は今晩だったな……今日は何の料理だ?」

 

 VR関連で、AFOの開く食事会の予定を思い出すオールマイト。

 大怪我をしてから途絶えていた食事の楽しみが復活して以来、なんだかんだと文句を言いながらもその日を指折り楽しみにしているのであった。

 No.1ヒーローと闇社会の帝王が仮想世界で仲良く食事会である。

 

 ………………ねえ、本当に後継者必要あるの?

 

 

「今回はステーキだ! 熟成肉はレアで、逆に新鮮な若い牛の肉はウェルダンで焼いてある。塩は岩塩、胡椒は粗挽きのものを使ってるからワイルドな感じだろう?」

「レアで焼いたものも当然だが、ウェルダンもジューシーだな。くうぅぅ、どうして焼いただけなのにこんなに美味いんだ!」

「ハッハッハッ! 調理がシンプルだからこそ素材と料理人の腕が出るんだよ」

「クッ、自分の腕自慢か! おかわりィ!!」

 

 

==================

 

 ヒーロー基礎学の授業は実習、というよりは訓練が多い。

 何せヒーローの仕事はデスクワークよりも圧倒的に事件現場での活動をしている時間の方が長いのだから。

 そのために、多くの経験をしておく必要があるため、雄英では大規模な施設を用意して訓練に当てている。

 

 そして、今年からは新たな試みとして、フルダイブVRを利用した訓練が行われようとしていた。

 

「おお! すげえ! 俺らのコスチュームまで再現されてるぜ」

「個性も問題ないな……ヒロオンと同じ、いや、それ以上の再現度だ」

 

 仮想空間にログインしたA組の面々は、再現された自分たちのアバターを確認して興奮した様子だった。

 ここにいるメンバーのほとんどは“ヒロオン”でVRを経験しているのだが、その再現度が全く違うのだ。

 なにせゲームの設定やゲームバランスに合わせるために調整が加えられたアバターではなく、現実の訓練と同じように動くためのアバターなのだから。

 

「はい。皆さん、驚くのはわかりますが静かに。これから今日の授業の説明をします」

「わああ! 13号だぁ! 私、大好きー!」

 

 興奮するみんなを静かにさせるのは、今回の授業を担当するスペースヒーロー「13号」だ。

 彼のファンなのか、麗日が歓声を上げる。

 ざわつきはなかなかおさまらない。そこへ、さらに騒がしくさせる存在が。

 

「わ~た~し~が~、来た!」

「「「オールマイト!!」」」

 

 遥か上空から突然現れたオールマイト。派手な登場に再び一同がざわつく。

 今回は救助訓練。そのため、オールマイトが授業に出る必要はないのだ。それなのに、授業に参加する理由は何だろう?

 クラスの中でも頭の回る冷静なメンバーが疑問に思っていると、13号が説明を始めた。

 

「今回初のVRを活用した授業なのですが、このVRを活用するうえで一番の利点があります。

 それは、過去の事件・事故を再現できることです」

 

 過去の先輩ヒーローたちが遭遇した災害、解決した事件。

 それらをVR上で再現することで、追体験を行い、今後の糧にする。

 それがこのVR授業の特徴だ。

 

 過去に話に聞くだけであった憧れのヒーローと同じ場面を体験できるとあって、皆のやる気が高まる。

 まるで物語の中に入り込んで自分が主人公になるような、そんな感覚に似ていた。

 そして目聡い人は気が付く。

 ここにオールマイトがいる理由を。

 

「すでにお気づきの方もいるかもしれませんが、オールマイトがここにいる理由は、これから再現してもらう事故現場がオールマイトが遭遇した事故現場だからです」

「イェス! 私もその現場で居合わせた体験やアドバイスなんかを語らせてもらうから、みんなよろしくな!」

 

 オールマイトが解決した事故現場を追体験できる。

 そう聞いて皆の頭に浮かんだのは、今でも再生数を伸ばし続けている大規模事故現場での救助の光景を映した動画だった。

 昔起きた大災害のその直後に撮影された、現在のNo.1ヒーローのデビュー動画だ。

 

 これで興奮しないなら、ヒーローの卵なんかじゃない。

 

「ヤバいっス! 興奮が止められないっス!!」

「夜嵐くん、ちょっと落ち着きたまえ!」

 

 少々、興奮しすぎの夜嵐を飯田がたしなめ、授業続行。

 13号が説明を続ける。

 

「そういうわけで、オールマイトが終わった後の総括を、途中の監督・指導を僕が。そしてもう一人には全体のサポートをしてもらいます」

「“もう一人”? それは一体だれなのかしら?」

 

 蛙吹が疑問を口にしたところで、その人物が遅れてやって来る。

 

「す、すみません。いろいろと調整が長引いちゃって」

 

 緑の髪のもさもさ頭。

 そう、緑谷出久である。

 

「ハァ!? なんでデクが協力者なんだよ!」

「かかか、かっちゃん!? あの、特待生としての仕事というか、その……」

「やめなさい、爆豪少年。緑谷少年にはオペレーターとして皆に必要な情報を伝える役割と万が一アバターに不具合が起きた時の処理をしてもらうんだ。君も彼のお世話になるんだからネ?」

 

 また登場した幼馴染の姿に爆豪が反発するも、オールマイトに叱られて引き下がる。

 だが、その顔は不満でいっぱいだった。

 

『クソデクが偉そうに俺に指示だと? クソナードが、ふざけんな』

 

 といったところだろうか。彼の心境は。

 それを見て取ったオールマイトは、これではいけないとさらに言葉を重ねた。

 

「コラコラ、爆豪少年。こうやってVRで授業ができるのは緑谷少年のおかげなんだから邪険に扱うのはよくないぞ。むしろ感謝すべきだ」

「先生、緑谷君はそんな重要な役割をしているのですか?」

 

 オールマイトにより、出久が雄英のVR導入に深く関わっていることが明かされ、驚くA組。飯田がそれを代表して質問をした。

 

「ザッツライト! 緑谷少年はサポート科の特待生になるほど優秀な技術者だからな。なんと、あの“ヒロオン”の開発にも携わっているんだぞ!!」

「「「「「な、なんだってー!!」」」」」

 

 オールマイトの口から出久が“ヒロオン”の関係者であることが明かされ、一同騒然。

 一方、13号は頭を抱え、出久は顔を青くしている。

 

「オールマイト、それ、言っちゃダメなヤツです」

「どうしよう、どうしよう! 会社に報告? でも、何て言えば……」

 

 二人の様子を見てヤバいと思ったのか、顔を引きつらせるオールマイト。

 新米教師、うっかりをやらかす。

 

 このあとの授業は半分はまともに進まなかった。

 なにせ、みんな出久への質問が止まらなかったのだからして。

 

「VRの仕事ってどんなことしとるん? もしかして、緑谷君お金持ちなん?」

「俺、“ヒロオン”大好きっス! またイベントやるんスか?」

「インゲニウムのコラボ、ありがとう。兄に代わって礼を言わせてもらおう」

「な、なあ、古参ヒーローのコラボはやらねえのか? 例えば紅頼雄斗(クリムゾンライオット)とか」

 

「ちょ、みんな、ストップ! ストーップ!!」

 

 

 放課後。

 思わぬところから身バレしてひどい目にあった出久。

 だが、さらに憂鬱なことがまだ待ち構えていた。

 

「よぉ。デクのくせに俺を待たせるとは……偉くなったもんだなぁ? クソナード」

「……かっちゃん」

 

 厄介な幼馴染、爆豪からの呼び出しだった。

 

「なんの用なの、かっちゃん」

「ああ? クソデクのくせにヒロオンにかかわってたの黙っていやがったな? ずっと俺を騙して笑っていやがったんだろ?」

「違うよ! そんなんじゃ……」

 

 出久が爆豪にヒロオンの関係者だということを黙っていたのは単に守秘義務があったからだ。

 そこに爆豪に対する意図があったはずもなく、言いがかりに過ぎない。

 出久が優秀な技術者であるということを知ってなお、爆豪は出久が格下であると認識していた。

 長年の関係がそう思い込ませていた。

 

 だから、こんな無茶な要求をする。

 

「なぁ、デク。おまえ、ヒロオンの仕事に関わっているならコラボの担当も分るよな? 俺に紹介しろ」

「え、ええ!? 紹介って、そんな!」

「できねえってのか? アァン?」

 

 爆豪が出久を睨みつけ凄むも、出久は首を横に振って断る。

 だって、そうだろう?

 どうやってコラボ担当者(自分自身)を紹介するというのだ。

 

「む、無理だよ。コラボって(自分)一人で決めることじゃないんだから」

「なら俺を推薦しとけ。それ(コラボ担当者への推薦)くらいならできんだろ?」

 

 出久本人がコラボ担当の責任者だと露も思わない爆豪は、出久へ自分のことを担当者へ推薦しろと要求して去っていく。

 いや、だから、本人が目の前にいるんですが!?

 そうして残された出久は途方に暮れた様子で頭を抱える。

 

「無理だよ、かっちゃん。今のままだと絶対無理! せめて性格だけでも猫被ってこれるようにしてよ!!」

 

 性格がクソ過ぎて、無理に決まっている。

 なにせ、コラボのためにあのエンデヴァーですらファンサービスに力を入れてイメージアップを図ったくらいなのだ。

 今のままでは、可能性は0%である。

 

 

 果たして、爆豪がこの事実を知るのは、いつになるのだろうか……

 




Q.いつからだ! いつから夜嵐が雄英にいた!?
A.逆に聞こう。一体――いつからオンライン時空で轟が拗らせたままだと錯覚していた?

とことん平和なオンライン時空は、轟家のいざこざすら解決済みなのだァ!
平和じゃないのは、かっちゃんだけ。
オンラインの小ネタはしばしお待ちを。

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