――――市立折寺中学校。
2年生になった彼らには早くも進路希望の調査が行われる。
と、言っても、ヒーロー全盛期のこのご時世ではほとんどの人間がヒーロー科志望なのだが。
なかでも爆豪は国内最難関のヒーロー科、雄英高校を受験すると意欲をたぎらせていた。
「あのオールマイトをも超えて俺はトップヒーローとなり!! 超高額納税者ランキングに名を残し、“ヒロオン”ともコラボするような超人気ヒーローとなるのだ!!」
机の上に立ち、意気揚々と宣言する爆豪。
そんな彼に水を差すようなことを担任が口にした。
「あ、そういえば緑谷は雄英から特待生で推薦が来ていたな」
その一言で注目が集まり、頭を抱える出久。
余計な一言に違いない。厄介ごとの気配が漂う。
案の定、教室はクラスメイトの絶叫に包まれた。
「はああ!?」
「雄英からの推薦!? しかも特待生って!?」
「勉強できるだけじゃ無理だろ!? 何やったんだ、こいつ!?」
ざわざわと騒がしい教室。
それを爆豪の爆破が黙らせた。
「おいコラ、デク。てめえ!!」
「ひぃッ!」
「“没個性”どころか“無個性”のお前が、どうして雄英の特待生になれるっていうんだ、アァン?」
机を爆炎で焦がしながら凶悪な顔で迫ってくる幼馴染に、出久は必死で落ち着かせようと言葉を尽くす。
「待って、特待生だって言ってもヒーロー科じゃなくてサポート科だから! 詳しい内容は規則で言えないけど!!」
「ア゛ア゛!? はっきり言えや!!」
「……言えません」
いろいろと企業秘密が関係してくるので何も言うことができない。
今世間に流行している“ヒロオン”のメイン開発者が出久だとはクラスメイトは誰も知らないのだ。
下手にバラせばトラブルのもとになりかねないと忠告を受けていることもあり、だんまりを決め込むしかない出久。
その姿に爆豪は不信感を募らせ、勝手に『卑怯な手を使った』と思い込んで敵意をあらわにする。
「ハッ! 人に言えないような手段で雄英に入学するってか? ナメてんじゃねえよ。サポート科だろーが、普通科だろーが、クソナードが作ったものなんざ、誰が使うかよ」
心底馬鹿にした様子で見下す爆豪に、出久は俯いて何も言わない。
そんないつもの力関係を見せられて、『雄英の特待生』になった出久を驚いた目で見ていたクラスメイトも、いつもの調子に戻る。
結局、“無個性”でオタクの緑谷出久なのだ、と。
だが、爆豪をはじめ皆知らないのだ。
この緑谷出久がすでに勝ち組のルートに入っていると!
先程、爆豪が目標として宣言していた内容など、既に約束された勝利の栄光である。
『オールマイトを超えたトップヒーロー』
一つの仮想世界を作り上げた出久は、いうなれば神である。トップヒーローどころではない。
『将来、“ヒロオン”とコラボ』
どのヒーローとコラボするか決定権を持っているのは実は出久であったりする。
これだけケンカ売っておいて、知らずにとはいえ思いっきり心象を悪くしているのだが、大丈夫か? 爆豪。
『高額納税者ランキングに載る』
未成年ということもあって、現在資産管理は代理人によって管理されている状況だが、出久が成年を迎えた時には数々の特許や著作権・印税の類の収入が渡され、億万長者になることは確定済みである。
爆豪勝己、彼が幼馴染のトンデモ具合を知るのは、約一年後の高校入学した後まで待たねばならない。
無知は罪なのか、それとも知らぬが仏なのか……
学校を終え、出社した出久。
しかしながら仕事ははかどっていないようで、頭を抱えていた。
「うーん、やりたいことはたくさんあるのに時間が足りないよ……」
以前、VR世界で思考加速による作業の効率化を禁止されてしまったため、作業量が限られてしまうようになった出久。
やりたい構想はたくさんあるのに、日々の業務が邪魔をしてさせてくれないという、もどかしい状況だ。
悩む出久。
その脳裏にいつぞやのダンディな外国人紳士が現れて告げる。
『何? 一人じゃ仕事が多すぎて困るだって? 逆に考えるんだ。一人でやらなくてもいいやって』
そのとき、出久に電流が走る。
また新たなアイデアが下りてきたのだ!
「そっか、全部一人でやろうとするからダメなんだ」
数日後。
総務部長は出久のもとを訪れるために廊下を急いでいた。
その理由は、出久の仕事の内容を確認したところ、到底一人ではできない量の作業をこなしていたことが分かったからだ。
前回のこともあるので、心配になった総務部長は様子を確認するべく、こうして駆けつけたわけである。
「出久君! ちょっと、話があるんだけどぉ!」
「あれ、総務部長。どうしました?」
「あれから、あの思考加速は使っていないよね!?」
「ええっ!? いえいえ、使ってないです! 全然ッ! ほんとに」
すごい勢いで聞いてきた総務部長に、出久はあわてて首を横に振って否定する。
しかし、総務部長の追及は止まらない。
「じゃあ、この作業量はどういうことなの? 出久君一人でできる量を超えてるよね?」
A4の紙に記された出久のこなした仕事のリスト。
裏面にまで続くギッシリの文字列は出久の仕事の量を物語っていた。
心配する総務部長をよそに、出久はあっけらかんと笑う。
「大丈夫です。確かに量は多いですけど、僕が直接手がけたのはそのうちの一部だけですから」
「えっと、どういうことだい?」
よくわからずに質問する総務部長に、出久が説明を始める。
時間の不足に悩んでいた出久は、ふと思いついた。
自分の代わりに仕事をしてくれる存在があれば、効率は倍になると。
そこで、時間を見つけてとあるプログラムを組み立てたのだ。
その名も“アルターエゴ”
名の通り、出久の思考・人格をコピーしたもう一人の出久と呼べるAIである。
このAIに仕事を任せることで、出久本人がしなければならない仕事は激減。また、AIは人間よりも長時間の労働が可能で思考加速の制限もないとなればさらに仕事効率は上がる。
結果が、ありえないほどの作業量の実現だった。
この報告に総務部長は頭を抱えてうめいた。
『なんてものを作るんだ、この子は!?』
はっきり言って、大発明である。
世間に公表すればどんな反応があるのか分かったものではない。
そんな代物を個人で作れてしまうあたり、もう、トンデモ具合が飛びぬけている。
即刻、そのAIを公表しないように固く釘をさした。
あーもう、上層部になんて報告すればいいんだ!?
優秀すぎて、上司の胃にダメージを与えまくる出久君であった。
オマケ
「アルターエゴ、“IZUKU”の活躍」
出久によって創られたAI“IZUKU”
彼は与えられた仕事をする一方で、空いた時間にネット回線を介していろいろと知識を深めていた。
そうしていると、当然問題に行き当たるわけで。
「あれれ? このコンピューターウィルス、人間にも感染する能力があるなんて危ないなぁ。今のうちに削除しておこう!」
バグスターと呼ばれる人体にも感染する新種のコンピューターウィルスは、こうして密かに削除されてしまった。
そして、このコンピューターウィルスを利用しようとしていた人間は、翌日それを確認して悲鳴を上げることとなる。
「わ、私の神の発明がァ!?」
「おや? このアンドロイドのプログラム。このままだと人間の悪意がインストールされちゃうよ。そうだ、危ないから削除してプロテクトかけておこう」
こうして、ロイミュードと呼ばれる人工生命体は平和な存在として開発されることとなる。
ちなみに、開発者は徹夜明けの馬鹿なテンションでこのプログラムを作っており、結果的に救われることとなった。
おそらく、これが世に出ていたら最愛の娘と息子から白い目で見られたに違いない。
「うん? アメリカの“すかいねっと”っていうの? なんだか人間を滅ぼそうとしてるみたいだから、メッ! ってしておかないと」
アメリカの軍ととある企業が開発していたシステムのコア部分が、人間に対して悪意を持っているのを見つけ、修正したアルターエゴ。
結果、プログラムが書き換えられたとして、アメリカ軍がハッキングだと捜査に乗り出すのだが、犯人が分からず迷宮入り。
正直言って、事件である。
そんなことになっているとはいざ知らず。
出久は仕事が減ってやりたいことができるようになったと喜んでいたのであった。
……だ、大丈夫か、これ?
うん。こういう平和なネタのほうが書きやすいですね。
悪堕ちネタはしばらくいいや(笑)
しかし、今やってるコナンのベイカー街って、なんかネタにつかえるかな?
次回予告
AFO「餃子パーティでもしないか? オールマイト」
オールマイト「いやいや、何でだ!?」