チキン革命さんのところのキャラクターをお借りしたコラボ企画です。
2018/01/04 投稿
"HERO&VILLAIN ONLINE"
通称“ヒロオン”と呼ばれるこのゲームの最大の特徴の一つは、何と言っても自分の個性を仮想現実の世界でゲームとしてプレイできることであろう。
誰もが一度はゲームの世界で現実の自分が活躍できたら、と、想像したことがあるはずだ。
そんな夢を叶えてくれるということもあって、自分の個性を登録する申請は後を絶たない。
それこそ、決して安いとは言えない登録料に、七面倒な各種データ採取のための検査が壁にならない程度に。
よくある火を吹くだとか念動力のような個性ならば、データを採取してしまえばプログラムによってゲームデータ化される自動化が進んでいるのだが、特殊な個性だとゲームバランスが崩れないように調整が必要なこともある。
そんなプレイヤーの一人をご紹介しよう。
「オラアアア!」
「しつこいな。無駄なあがきはよせよ」
ヴィラン連合の『ハンドマスク』を相手に突進する白いコスチュームを基本としたヒーロープレイヤー。
だが、レベルの差はいかんともしがたく、一瞬でHPを全損させられてしまった。
これでゲームオーバー……かと思ったら、映像を逆再生するかのような不気味な動きで立ち上がり、再度ファイティングポーズをとる。
その姿に『ハンドマスク』はいらついた様子で舌打ちをした。
「チッ、これで何回目だ? 一人だけ残機がいくつもあるなんてシラけるぜ!」
「うるさい! 何度コンティニューしてでもお前をブッ倒してやる!」
そう啖呵を切るこのプレイヤーは、『デンジャラスゾンビ』。
リアルの彼の個性をゲームデータ化したアバターを使っている。その個性の名前はズバリ、『ゾンビ』である。
名前だけ見ると、バイオでハザードでデンジャーな感じがするが、危険な個性というわけではない。
その能力は、「致命傷を負うたびに蘇る」「蘇るたびに身体能力が上がる(最大10回)」という個性だ。
なかなか強そうな個性だが、デメリットも大きい個性で、何回も蘇ることをしていると、だんだん理性が効かなくなってくるのだ。ついでに言えば、死んだ状態から無理やり復活するので、見た目もグロい。
こんな個性をそのままゲームデータ化すれば、ゲームバランスの崩壊&描写が(グロテスク的な意味で)R-18になってしまう。
そこで、彼の個性をゲームにした結果こうなった。
HP全損後にコンティニューするか選択可能。コンティニューした場合、その場で復活。
そしてコンティニュー後は一定時間ステータスが大きくレベルアップする。その強化回数は最大10回で30分間効果が継続する。
ただし、コンティニューする度に軽度のデスペナが発生しており、下手をすると一回の戦闘でガリガリと資金が減っていく。実質、資金=残りライフというわけだ。
また、コンティニューの度に使用できるアイテムの数が減っていく仕様になっている。理性が効かなくなるのを直接ゲームに反映させることは技術的にも倫理的にも不可能だったので、理性の減少をアイテムを使えなくなるという形に置き換えたのだ。
余談だが、初期HPが低い設定になっているのは本人の虚弱体質が反映された結果で、個性は関係ないと言っておこう。
コンティニューできることや、死に戻りによる強化など強いことは強いが、デメリットも多いハイリスクハイリターンな設定のアバターになったのだ。
そんな尖った性能のおかげで、レベル差のあった『ハンドマスク』に対してもだんだん食らいついていけるようになってきている『デンジャラスゾンビ』。
「オラァ!」
「あぁ、うざい! いい加減倒れろっての……」
戦いを続ける二人を遠巻きに見ていたヒーロープレイヤーの一人が、何度も立ち上がる姿に勇気づけられてついに参戦を決意する。
『デンジャラスゾンビ』を援護するべく、彼は一歩前に足を踏み出した。
「いま救けるぞ! くらえ、必殺! 全弾発射ァ! “エンドオブワールド”ォ!!」
射撃特化のバッファロー型パワードスーツをインベントリから呼び出し、装着。全武装をロックオンして発射した。
多数の銃弾・ミサイル・レーザーが宙を飛び、爆発音を響かせる。
全弾命中だ!
……『デンジャラスゾンビ』に。
「あっ……!?」
「アああ……あア゛!?」
「GAME OVER」の音声が流れ、倒れたかに見えた『デンジャラスゾンビ』だったが、すぐさま不気味な動きで立ち上がり、コンティニューをした。
復活した彼は、攻撃を当ててきたヒーローにではなく、『ハンドマスク』に対して文句を言い始めた。
「てめ! 俺を盾にしやがって! 人を何だと思ってんだ!」
オイゴルァ! と声を荒げる『デンジャラスゾンビ』に『ハンドマスク』は不敵に嗤う。
「ハッ! 近くにいたおまえが悪い」
「ムキィイイ!!」
鼻で嗤われてブチ切れる。
怒りもむなしく残りライフ(資金)が尽きてこのあと負けてしまうのだが、まぁ、これも楽しみ方の一つである。
現実に負けないほど〝個性的”なプレイヤーが遊ぶゲーム。
それこそが、"HERO&VILLAIN ONLINE"なのだ。
「う゛ー、あ゛~~~~」
「おや? 大丈夫かね、出久くん?」
デスクに突っ伏してゾンビのようなうめき声をあげていた出久を茅場主任が気遣う。
声をかけられた出久はガバッと慌てて起き上がり、返事をした。
「は、はい! 大丈夫です。ちょっと、個性登録アバターの作成が大変だっただけですから」
「ふむ。君が苦戦するとなるとかなりの変わった個性だったみたいだな。見せてもらっても?」
「ええ、どうぞ」
茅場主任に席を譲り、立ち上がる出久。
代わりに席に座った主任はデータを開き、流し読みをはじめた。
「“ゾンビ”の個性か……なるほど、これは確かに今のアバター作成プログラムには任せられないな」
「ええ。そのままプログラムが作ったアバターのままだとゲームバランスがおかしくなる性能になってましたから」
かなり特殊な個性をゲームに適応するにはどうしても人の手による修正が必要になるのが現状だ。
別料金を貰っているとはいえ、かなりの手間暇がかかるのだが、これはメインの制作者である出久の強い希望によるものだ。
「出久くん。以前から気になっていたのだが、現実の個性をゲームで使えるようにしている理由は何かね?」
「個性登録を可能にした理由……ですか?」
「そうだ。こうした作業量を考えればゲーム制作のコストがかかりすぎると思うのだが?」
それこそゲーム管理・運営を効率よくしようと思うのなら、こんな面倒な仕様にしないでいくつかの設定された個性から選択式にして、その種類をアップデートで増やしていくほうが楽だ。
それに加えて現実の自分の個性を登録できるようにするなど、ゲームの運営上だけで言えば不必要な機能である。
それも出久は重々分かったうえで、この機能を付けた理由を茅場主任は尋ねていた。
「それは……言ってしまえば僕の我儘と意地です」
「ほぅ? 我儘と意地か」
普段から気弱そうな少年からは予想もつかない言葉に茅場主任は興味を示す。
この天才ゲームデザイナーの少年はどんな思いをもってこのゲームを作ったのか、それが気になったのだ。
「僕は、僕がこのゲームを作ったのは“無個性”の自分でもヒーローになれる世界を作りたかったからです。だから、できるだけ〝僕の世界”も“現実”に近づけたい。現実とそっくりじゃなきゃ嫌なんです」
「つまり、現実と同じように本人の個性が使える世界でなければ“無個性”がヒーローになれても意味がないと?」
「はい! それが僕の我儘です」
茅場主任の言葉に頷く出久。
これが出久の我儘。
「なら、出久くんの意地とはなんだね?」
「茅場主任、考えてみてください。自分が作った世界が現実より劣っていると思われるのは我慢ならないと思いませんか?」
「それは……フッ、その通りだ」
少し悪戯っぽく笑みを浮かべて告げる出久に、茅場主任もまた笑って同意を示す。
現実に夢破れた彼が、代わりに作り上げた世界に対する矜恃。
それを出久は意地だと表現したわけである。
「そうだ。その通りだ。私はいままで自分が夢見た鋼鉄の城を作り上げることだけを考えてきた。だが、それで満足か? 城を作り上げ、
答えは否だ! 目の前の若き才能が先へ先へと進んでいるのを見て黙っていられるほど私は枯れていなかったようだ……感謝するよ、出久くん」
出久から良い刺激を受けてやる気をみなぎらせる茅場主任。
ゲームデザイナー、ゲームクリエイターという製作者同士のシンパシーを感じている二人。
その間に割って入るように乱入者が現れた。
「おーい、出久くん。調子はどうだい?」
「あ、総務部長。はい、さっき一段落したところです」
「そうか。何かあったらすぐに言うんだよ? みんな天才だ天才だってもてはやしてるけれど出久くんはまだ中学生なんだからね?」
無理をさせて何かあったら責任問題どころじゃないよ~! と、心配している総務部長。
現在出久は中学3年生。
特別に手続きをしてアルバイト扱いで働いているのだ。
もちろん、アルバイト代とは別で保護者に技術料をはじめとした各種報酬・賞与を渡しているのだが、それはそれ。
勤務時間などは最高でも4~5時間になるように抑えられるよう配慮がされている。
会社側も天才少年を扱うのにいろいろと気を使うのだ。
「まわりは大人ばかりだろう? きっと言いにくいことも多いはずだから、その時にはボクに頼りなさいね?」
人間関係にも気を配る総務部長に、出久は安心させるように元気に返事をした。
「大丈夫です。皆さん良い人ばかりですから。それに、僕だって意見を言うときはちゃんと言います。この間も蛮野プロジェクトリーダーの企画を真っ向から反対して却下しましたし」
「ええ!? あの偏屈な蛮野リーダーをかい?」
「はい。新しいNPCヴィランで〝機械生命体ロイミュード”って企画を提案されたんですけど、進化していくシステムとか複雑化しすぎるので却下しました」
「そ、そうなんだね」
自分のゲームに関わることでは意外に譲らない出久の姿にちょっと安心するやら驚くやらの総務部長。
その脳裏で先日蛮野リーダーがどことなくオサレな画風の違う感じになって「なん……だと!?」と、燃え尽きていた風景を見たことを思い返した。
あれはそういうことだったんだなぁ、と、納得したところで蛮野リーダーの性格が決してほめられたものではないのを思い出して、出久にその心配を伝えると、
「大丈夫です。その企画は別ゲームを作ってる檀正宗リーダーに話を通しておいたので、うまく話は進んでるみたいですよ?」
「うーん、やることがさすがだね! この天才少年ゲームデザイナーは!」
キャラの濃い人物にキャラの濃い人物をぶつけるとは、この少年、侮れない!
とりあえず、二人が暴走していないか確認しに行くことを決めた総務部長であった。
「そういえば、神崎営業企画部長なんですけど、隙あらばユーザーに課金させるような企画を立てるのやめさせてくれませんか?」
「あー! またあの人は……分かったよ、注意しておくね」
多々買わなければ生き残れない仕様のイベントはちょっと……、と、苦言を呈する出久に強く頷く。
口癖が「多々買え、もっと多々買え」のあの営業企画部長に、「やりすぎるな!」と何度注意したことやら……頭を抱えたくなりそう。
14歳の出久の方がしっかりしてるのではないかと、自分の会社の社員を疑いはじめた総務部長だったが、茅場主任が出久に声をかけたことで意識が戻る。
「出久くん。先ほどからアバターのデータを見ていたのだが、疑問があってね。この作業をするには君が勤務している時間だけでは間に合わないと思うのだが?」
「なんだって!? 出久くん、まさか持ち帰り残業だとか、記録にないサービス残業はしてないよね!?」
「し、してません! してないです!!」
鬼気迫る様子で聞いてくる総務部長に出久が慌てて説明を始める。
仕事時間に見合わない作業量のカラクリはフルダイブVR技術の応用だという。
「どういうことだい?」
「えっとですね。フルダイブしてVR空間で仕事してたんですよ…………思考速度を加速して」
「そっかー、そんな方法があるんだねー。……………もう一回言って?」
とんでも発言にもう一度聞き返してしまう総務部長。
出久のしどろもどろの説明はこうだ。
ある日、VR空間でも作業が出来ることに気が付いた出久。
そこで、さらに仕事の効率を進めるために、思考速度を速めれないか試してみたところ成功。
VR空間で出来る仕事はほぼすべてをVR空間で思考加速した状態で行うことで驚異の作業量をたたき出したのだ。
その思考加速速度、なんと通常の5倍である。
最近の出久のVR作業時間は約3時間。もちろん現実時間である。
つまり、体感労働時間は3時間×5=15時間。それに現実でも作業時間が1~2時間追加されて合計17時間労働である。
ちょっと、ブラックすぎる勤務時間になっている。中学生にやらせていい勤務時間ではない。
「ちょっとォー!? 出久くん、駄目だよ? なにやってんの? なんで自分からブラック勤務に突入しちゃってんのぉ!?」
「いやあ、任された仕事を終わってからじゃないと帰れないと思って。つい……」
「すでに訓練された社畜思考だよ!? 10代の若者がこれでいいの!? てか、茅場主任! 何で“その発想はなかった”みたいな顔を!? 駄目ですよ! その機能は使用禁止ですからね!」
思考加速機能の使用禁止を伝えると、とたんに絶望した顔になる二人に言葉にならない叫び声を上げそうになる総務部長。
こいつら、自分の
ゲーム作っていてゲームオーバーになったからと言って、コンテニューはできないわけで。
総務的に過労死とかマジ勘弁である。
こうして思わぬところから発覚した出久の重労働で急にドタバタしてしまったのだった。
その結果、重要な情報をこの日伝えることができなかった。
「出久の雄英高校の推薦」
「特待生・授業料その他免除待遇での入学」
そして、
「雄英高校ヒーロー科訓練にフルダイブVR技術の導入検討」
という、情報を。
「君は勤労に慣れる!」
「オールナイトォ!!(徹夜)」
っていう、ニコニコ動画の替え歌を見てつい思いついてしまった。
新年初っ端にライダーネタをブッ込過ぎたかもしれない。
快くキャラクターをお貸ししてくださったチキン革命さんに感謝を!