いずくオンライン
人は生まれながらに平等ではない。
緑谷出久が齢4歳にして知った社会の現実。
「超カッコイイヒーローにさ、僕もなれるかなあ……」
「…………!! ごめんね出久、ごめんねえ!!」
オールマイトの映る動画を指しながら告げた言葉に母が謝罪の言葉でしか返してくれなかったその時、出久は悟った。
『僕は、ヒーローになれない』
何の特殊能力もない〝無個性”の自分ではヒーローになれない。
個性なしではヒーローは務まらない。それがこの社会の現実。
この社会の現実はどこまでも出久に冷たかった。
絶望する出久の脳裏になぜかダンディな外国人男性が浮かび上がり、こう告げた。
『何? 現実じゃヒーローになれないって? 逆に考えるんだ。現実じゃなくてもいいやって』
その時、出久に電流走る。
コペルニクス的発想の転換。それが、舞い降りてきたのだ。
それは、つまり……
「お母さん、僕、誰でもヒーローになれる世界を作るよ」
「出久!? どうしちゃったの? ショックでおかしくなっちゃったのぉ!?」
――――10年後。
「うーん、どうしても異形型個性のアバターの不具合が多くなるなぁ……」
複数のPCの前でカタカタとキーボードをタイピングする出久。
流れるようにコードが流れ、3Dグラフィックが次々と構成されていく。
「やあ、出久くん。頑張っているね」
「あ、茅場主任。お疲れ様です」
出久に声をかけてきたのは短髪白衣で無機質な印象を受ける男性。
彼は出久の上司である。つまり、ここは会社の中。
14歳になった緑谷出久は、とある企業で天才ゲームデザイナーとして働いていたのだった。
「出久くんが組み上げてくれたプログラムは実に役に立った。礼を言わせてもらうよ。さすがわが社の天才少年ゲームデザイナーだな」
「い、いいえ。僕なんか……茅場主任の足元にも及びませんよ」
「フッ、謙遜は美徳だが、やりすぎると嫌味になる。気をつけたまえ。君はもっと自信を持つべきだ。事実、キミの手掛けたゲームは多くのプレイヤーを魅了し、こうして一年以上も世界を広げ続けているのだから」
茅場主任の言葉の通り、出久は一年前にゲームを手掛け世界にリリースしたのだ。
出久が13歳のときに発売された人類初のフルダイブ式VRMMORPG〝HERO&VILLAIN ONLINE”。
その基本設計をして現在も中心人物の一人として活躍しているのが出久本人であった。
出久が作り上げたゲームは自分の個性データを入力してアバターを作り、架空の世界でヒーローとして活躍できるものだ。
史上初のフルダイブVRMMOということで注目を集めたのだが、それだけでなく、ゲームの自由度も人気を博している。
自分の個性を使って自由にヒーロー活動が出来るというのは誰もが夢見る世界だ。
もちろん、無個性やヒーロー向きでない人のために、パワードスーツ装着型のヒーローや魔法使いタイプなど、変身ヒーローのモデルを用意していたりする。
自分の個性でなくても一般的なヒーローの個性や過去に活躍したヒーローの個性データを基にしたアバターなどもあるため、人を選ばない。
まさに〝誰でもヒーローになれる世界”だ。
ヒーローを現実で諦めざるを得なかった出久は、自分の望んだ世界を作り上げたのだった。
〝HERO&VILLAIN ONLINE”、通称〝ヒロオン”と呼ばれるこのゲームだが、キャラメイクの自由度だけでなく、プレイの自由度も高く設定されている。
というのも、実はこのゲーム、『ヴィランロール』もできるのだ。
あまりやりすぎな行為は公式ヒーロー〝ポジティー”によって成敗(一定期間のログイン禁止)されるが、基本的に何でもアリだ。
というか、公式がヴィランミッションを作っているあたりお察しである。
ヒーロー狩りをするヒーローハンターロールをするプレイヤーもいれば、ヴィラン向けアイテムを専門に扱う闇ブローカープレイをするプレイヤー。
プレイヤーキルの依頼を受ける暗殺者プレイに、アイテム作成スキルを極めるサポータープレイなどなど。
そして、ヴィランプレイ。
「気に入らないなぁ……何がオールマイトコラボイベントだ。気に入らないのは全部ぶっ壊す。それがヴィランってやつだァ……」
「大手ヴィランギルドの“ヴィラン連合”!? なんでこんなところに!!」
アバター名『ハンドマスク』が率いる大手ヴィランギルド・“ヴィラン連合”がイベントの会場に殴り込みをかけてきた。
ヒーロープレイヤーたちは混乱するも、一部はすぐに立ち直り、迎撃の準備をする。
「ハッ、ヴィランギルドだぁ? ヒーローの集まるこの場に来るなんざアホすぎるぜ!」
ヒーロープレイヤーの一人が飛び出し、ハンドマスクに攻撃を仕掛けるが……
「弱い攻撃だなぁ……残念、Lv.が違い過ぎだ」
「なっ、ふざけんな、クソが――――」
ハンドマスクの反撃をくらい、一発でHPを0にされるヒーロープレイヤー。
その実力差に周囲は騒然となる。
「嘘だろ!? 『爆殺王』が一撃で!?」
「あいつのレベルはいくつなんだよ!!?」
怯えるヒーローたちにハンドマスクは笑みを浮かべ、
「俺のレベルは133だ。俺に勝ちたかったら一日15時間はログインしてこいよ」
一日の半分以上を告げてくるハンドマスクに周囲のプレイヤーは絶句する。
「「「「「こ、こいつ、廃人だー!?」」」」」
会場中の敵味方が叫ぶ。ゲームに人生捧げ過ぎである。
一方、そのころリアルでは。
「弔、死柄木弔! いい加減、ご飯時くらいゲームをやめなさい」
「ふざけんな! フルダイブ中に無理やりゲーム外すんじゃねえよ! ペナルティ喰らうじゃねえか!」
別の並行世界では悪の後継者として暴れ回る彼も、ここではニートでゲーム廃人であった。
平和なのはいいことだ……いいこと、なのだが!!
ちなみに彼の先生はというと、
「フッフッフッ、キミがこのゲームに来ると知ってからこちらは手ぐすね引いて待っていたよ、オールマイト」
「き、貴様、その声は、オール・フォー・ワンか!? ……ゲームのなかで何をしているんだね?」
「なにって、遊んでいるに決まっているだろう? さあ、戦いだ、オールマイト」
「ま、待て、私はさっきログインしたばかりでまだ操作がだな!」
「フルダイブVRでなにを寝ぼけたことを。さぁ、三ケタ万円はかけた僕の力を見せてあげよう」
「廃課金ユーザー!?」
ズルいぞ! という断末魔を聞きながらオールマイトのアバターを撃破してご満悦の先生。
数日後、ヴィランイベントの〝平和の象徴を倒せ”で、公式ラスボスモードになったオールマイトにボコボコにされるのだが、またそれは別のお話。
「公式チートはズルいよ、君ィ」
「HAHAHA、そっちこそ、いくら使ってるんだそのアバター!!」
「先生、俺には月5千円までしか許可してくれないくせに……」
働け、死柄木弔!
ノリと勢いだけで書き上げたけど、ほとんど出久くんでてこないというね。
仲のいい先生とオールマイトが見たかったんだよ! 許して!
デスゲーム? (ヾノ・∀・`)ナイナイ