みんな大好きメイド。
2018/05/15 投稿
春の日差しも暖かな4月。
入学式を控えた雄英高校の校門の前で出久は一人立っていた。
待ち人はもちろん、あの男だ。
「
「いえ、僕が早く着すぎただけですから」
人の流れの中から出久を見つけて駆け寄ってきた焦凍。
遅くなったことを謝るが、出久は笑みを浮かべて首を横に振った。
「フフッ、焦凍さん、雄英の制服がお似合いですね。かっこいいです」
「ああ。ありがとう。出久も、その、なんだ、似合ってるぞ」
「わぁ、うれしいです。ありがとうございます」
お互いの制服姿を誉めあう二人。
実をいうとこの二人、お互いの雄英の制服姿を見るのは初めてだったりする。
というのも、轟家とのメイド派遣の契約が切れたため、出久は轟家をでて一人暮らしをしている。
そのため、今日の日を迎えるまで制服姿を見る機会がなかったのだ。
校門の前で立ち話をしているのもなんだということで、教室へ向かいながら会話を交わす二人。
その様子は何とも楽しそうであった。
あまりのリア充ぷりに周囲から舌打ちが聞こえたりしたが、気にしてはいけない。
なにせ、これで恋仲ではないのであるからして。
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1-A教室に着いた二人。
大きな扉を開いて中に入ったところで、真っ先に挨拶をしてくれた人物がいた。
「む、君はあの時のメイド女子! 君も合格していたんだな」
「あら? 試験の時の……お久しぶりですね」
おはようございます。と、丁寧なあいさつを交わしたところで自己紹介が始まる。
まず出久と飯田が自己紹介をしあい、次に出久から焦凍を飯田に紹介する形でプロフィールを交換しあう。
簡単に紹介を終えたところで、飯田が気になるのは出久と焦凍の二人の関係。
仲良く並んで教室に来た上に、明らかに顔見知りといった様子なのだ。
「それで、二人は知り合いのようだが、どんな関係なのだ?」
「それは――」
「以前、僕が焦凍さんの家でメイドとして働いていたんです。その時にお世話になってから1年くらい交友を深めさせてもらってますね」
飯田の質問に出久が焦凍の言葉よりも先んじて答えた。
若干、出久の返事に不満そうな焦凍だったが、わざわざ口にするほどでもないと黙り込む。
どこに不満? まぁ、いろいろだ。
「なんと! 本物のメイドさんだったとは……試験の時に着ていたメイド服はまさに仕事着だったというわけだな」
「へぇ、本物のメイドさんって初めて見たぜ。あ、俺、切島鋭児郎。よろしくな!」
「ああ、同じ試験会場にいた! 緑谷出久です。よろしくお願いしますね……高校デビューでイメチェンですか?」
飯田と会話しているところへ、リーゼントのように髪形をセットした赤い髪の男子が声をかけてくる。
切島と名乗る男子の顔を同じ試験会場で見た記憶があった出久は、以前の見た目と違う様子をからかうようにクスリと笑って返事をした。
言葉を向けられた切島は顔を赤くして慌てて返事をする。
「ちょ、しーっ! 言わないでくれよ。高校デビュー野郎だと思われるのは恥ずかしいぜ」
「いいじゃんいいじゃん、イカしてるんだから胸を張りなよー! あ、私、芦戸三奈! 切島とは同じ中学出身なんだー!」
「ああ!? 高校デビューだってのは秘密にしてくれるんじゃなかったのかよ!」
「もうバレちゃってるんだからいいでしょー?」
切島と話していると、同じ中学出身の芦戸が話題に入ってきた。
同じ中学ということでワイワイと騒ぐ二人につられるように、周りのクラスメイトも言葉を交わし始める。
特に出久は、同じ女子同士ということもあって、他の女子メンバーと仲良くなった。
仲良くなれば、より深いところへ質問がいくわけで。
「ねえねえ、轟の事はメイドさんしてた時はなんて呼んでたの? やっぱりご主人様?」
「うーん、雇い主は家主の焦凍さんのお父さんだったから、そう呼ぶのは違うかな。“若様”とか“若旦那様”とかがあってるんだけど、焦凍さんには断られてしまって」
「それで、それで!?」
「“様”をつけられるのもお嫌いとのことなので、“焦凍さん”と……」
「うわー、なんかキュンキュンするー」
芦戸が質問を投げかけ、その答えを聞いて葉隠が胸のトキメキに(見えないけれどたぶん、)身もだえしている。
会話には参加していないが、隣で聞いている耳郎は、
『それでお互い名前呼びとか、逆にレベル高くない?』
と、ひそかにキュンと来ていたりする。
「私からも質問させてもらうわね、緑谷ちゃん。メイドさんってことは、住み込みだったのかしら? それとも一つ屋根の下で過ごしてたの?」
「以前はね……高校進学の準備とかもあって最後の3か月くらいは下宿先から通ってたよ」
『通い妻……という言葉がなぜか浮かびましたわ。なぜかしら?』
そっと手を挙げて質問した蛙吹。
言葉のチョイスがなんだか独特だったからか、八百万が変な想像をしてしまっている。
出久の言葉を補足するように、近くで聞き手に回っていた焦凍が口を出してきた。
「わざわざ出ていかなくとも、そのまま
「契約が切れた後にも居座るのはご迷惑でしょうし」
言外に出久が出て行ったことの不満を述べる焦凍だが、そんな様子に気づいた様子もなく、契約が切れたから出て行ったという出久。
その二人のすれ違っている様子に、ヤキモキするようなニヤニヤしたくなるような複雑な心境になる周囲の女子たち。
ここは黙って二人の会話を聞くのが吉と見た。
「遠慮することなんかねえぞ? 好きな時に戻ってこい」
「いえいえ、遠慮なんて。それに家族でもないのにお邪魔しているのは、ご迷惑が掛かります」
「……家族ならいいのか?」
「え? それは当然だと思いますけど……?」
出久の言葉尻をとらえて鋭く目を光らせる焦凍。
だが、肝心の出久本人は全く気が付いていなかったりする。
周りで見ている女子メンバーは、目の前で起こされる少女漫画的な展開にニヤニヤが収まらなかったり。
メイドの出久はハイスペックで優秀なのだが、とある分野では鈍感で天然なのであった。
焦凍は大変苦労するであろうなぁ……
ラブコメに挑戦してみようと思ってやってみたけど、難しいなぁ。
ちゃんとできているだろうか?
次回は戦闘訓練。
コンバットメイドの力を見せてやる!(つまり、かっちゃんの死亡フラグが!?)