2018/04/09 投稿
轟家に出久がメイドとして派遣されて数か月が過ぎた。
焦凍も中学3年生。そろそろ進路について真剣に考えなければならない時期である。
「雄英一択だな」
「うむ。当然だ。俺の息子がヒーローを目指すのだ。そこ以外ありえん」
焦凍の言葉に炎司がうなづく。
雄英高校は日本国内でもトップのヒーロー科のある国立高校である。
エンデヴァーはもちろん、現在のトップヒーローであるオールマイトも卒業生であるため、偉大なヒーローになるには雄英高校の卒業が絶対条件と言われるほどの知名度を誇っている。
そんな雄英高校に、焦凍は推薦入学を受ける予定であった。
「さすがですね、焦凍さん。雄英高校に推薦入学なんて」
「まだ、受かると決まったわけじゃねえ。気は抜けないな。ところで、出久は進路はどうするんだ?」
食後のお茶を受けとった時に、ふと、同い年のメイドの進路が気になった焦凍。
「えっと、契約では一年だけですから、おそらく次の春にはイギリスに戻ることになるかと思います」
「そうか。そうなのか……」
出久の返事を聞いて小さくつぶやく焦凍。
その様子が普段とは違っていたので、様子をうかがう出久。
「あの、どうかなさいましたか?」
「ああ、いや。出久がいなくなると……その、寂しくなるなと思ってな」
「そ、そうですね……で、でも、まだまだ先の話ですから!」
焦凍の言葉に思わず戸惑うも、慌てて元気よく声を上げる出久。
その様子を隣で見ていた姉の冬美は思った。
『なにこのラブコメ? 青春してるなー』
轟家長女、冬美。教職。彼氏はまだいない。
個人のスマホを耳に当て会話をする出久。
日本語ではなく、きれいなブリティッシュイングリッシュでの会話をしているのは、本来の主人であるスカーレット家当主のレミリアだ。
定期的な連絡を取っており、最近の近況報告などもしている。
『そう、恙なく過ごしているわけね』
「はい。轟家の皆様にはよくしていただいてます」
『それはよかったわ。でも、同い年の男子がいるのだから気を付けないとだめよ?』
「それはないですよお嬢様。僕みたいなのを焦凍さんが気にするはずないじゃないですかぁ~」
『(この子、自己評価低いのはなんでかしら?)そ、そう。それより、そのショートとかはヒーローを目指してるんですってね?』
会話の中で出てきてた轟家の末っ子がヒーローを目指すということを聞き、興味を持つレミリア。
この超人社会の中でことさら注目されている職業が、ヒーローである。
だから、つい、このレミリアお嬢様の悪い癖が出た。
思い付きで、面白そうなことを従僕たちにやらせるという悪い癖である。
『そうだわ! 出久、あなた日本でヒーローの資格を取ってから帰ってきなさい。うちのメイドがヒーローというのも面白いわね』
「ええっ!? お嬢様、そんな急に言われても!?」
『あなたならできるでしょ? 拒否は認めないわ。それじゃ!』
「お嬢様!? レミリアお嬢様!? ……切られてるぅ」
また始まったお嬢様の我儘にがっくりとうなだれる出久。
ちょうどその様子を通りかかった焦凍が目撃していた。
「出久、どうしたんだ?」
「焦凍さん……」
「さっきの電話で何か言われたのか? 俺でよかったら相談してくれ」
俺たち、家族だろ?
そう言って出久に真剣な視線を向ける焦凍に、出久も事の次第を告げる。
「焦凍さん……僕、ヒーローになることになりました」
「そうか……すまねえ。どういうことだ?」
いつもクールな焦凍が珍しく動揺しまくった瞬間であった。
雄英高校 ヒーロー科 一般入試
一足早く推薦入試を終えていた焦凍に見送られ、入学試験へ行く出久。
倍率300倍を超えるというだけあって、試験会場には人がごった返していた。
「うわあ、すごい人。みんな受験するのか……先生大変だなぁ」
人の波に思わず棒立ちになる出久。
立ち止まったのはわずかな時間だったが、通行の邪魔になってしまったのか、背後から怒鳴る声がした。
「どけ、クソモブ!」
「あら? これは失礼しました」
金髪の目つきの悪い男子学生に道を譲り、その背を見送る。
どこかで会ったことのあるような気がするのだが、思い出せない。
「うーん、僕の知り合いにあんな下品な人はいないし……気のせいかな?」
10年前に一緒だった幼馴染だったのだが、残念なことに出久は覚えていなかった。
まぁ、覚えていなかったのはお互い様。特に出久は昔に比べれば容姿が全然違っているのだ。
幼少のころは癖っ毛に任せてボサボサだった髪も、今はきれいに梳かされて後ろで三つ編みにされている。そして、日々の訓練で鍛え上げられたプロポーション。ぶっちゃけ、巨乳である。
目元はパッチリとしていて、美人というよりは可愛い系の顔立ち。そばかすも逆にチャームポイントになっている。
地味可愛系の美少女といったところか。メイドさんなので清純派でもある。
クラスにいたらトップの美人というわけではないが、3番目とか5番目くらいにいそうな美人さんである。
さて、出久の容姿はどうでもいい。
入学試験である。
筆記試験のほうは、まったく問題なく終えることができた出久。
それもそのはず。スカーレット家の図書館にいる“魔女”から徹底的に勉学を教授されたのだから。
学力的には高校生レベルの問題でも余裕で解けるので、中学生レベルの設問など、矛盾するようだが問題にならない。
ということで、実技試験なのだが、出久は注目の的であった。
なぜなら……
「え、あれ、メイド服だよな?」
「あ、ああ。メイド服だ」
「メイドさんがおるやん……」
いつもの仕事着。メイド服を着ていたのだった。
「おい、キミ! 動きやすい服装だと言われていただろう? その服装はどうなんだ!」
見かねたのか、体格の良い眼鏡を着けた真面目そうな少年が声をかけてくる。
周囲の男子からは余計なことすんなと、視線が突き刺さるが少年は気にした様子もない。
「あの、僕にとってはこの服が一番動きやすいのですが……駄目でしょうか?」
「む、それは失礼した。たしかに人によって動きやすい服装は違うものだ。試験前に大変失礼した」
「いえいえ。こちらこそ、お気遣いありがとうございます」
これから入学試験前だというのに、変なことで頭を下げあう二人を周囲は変なものを見る目で見ていた。
うん、キミたち何やってんの?
そうこうしているうちに試験開始。
結論だけ言おう。
出久はかなりの高得点を叩き出して試験を終了した。
迫りくるヴィランロボを鶴屋流古武術、中国拳法、CQCなど徒手格闘技術を使ってちぎっては投げちぎっては投げ。
ポイントを稼ぐ合間に持ち込みの救急キットを使って受験者の治療をしたり。
「試験の最中だったけど、メイドさんにすげえ、丁寧に治療された」
「て、天使……結婚しよ」
「もう、試験とかどうでもいい。俺、もう悔いはないよ……」
以上、治療された生徒の声である。
ほんと、何やってんのさ。
こうして敵ポイントも救助ポイントも稼ぎまくった出久。
ついでに最大の見せ場が0ポイントヴィランへの妨害活動だ。
「流れのメイドさんから教わったこの技で!」
持ち込んだ救急セットから包帯を取り出し、投げつけて0ポイントヴィランの一部を拘束して動きを止める出久。
昔、偶然出会った無表情のメイドさんから教えてもらったリボンや包帯などの細長い布状のものを操る技術を使う。
わずかながら拘束している間に、がれきに足を取られた女の子を救出して離脱する出久。
とまあ、こんな感じで大活躍だった。
そして、メイド服ということもあって目立ちまくりである。
ここに雄英高校の伝説がまた一つ作られたのであった。
「おい、イレイザー。おまえと同じようなことをしてるGirlがいるぜ?」
「だからなんだ、黙って採点してろ。山田」
「おい、本名はやめろって!」
オマケ「とんでもメイドができるまで」
自分の成長に思い悩む出久。
「はぁ……咲夜さんみたいに仕事できるようになりたいなあ。でも、僕には時間を操作する個性なんかないし……」
悩みを口にする出久。それを聞いてしまった森さんは笑顔で告げた。
「解決方法は簡単です。時間が止まっているかと思うくらい速く動ければいいんです」
「そっか!」
作業スピードを上げる意識をし始めた出久。
素早く動くコツを考える。
「素早く動く方法ですか? では、篠崎流の歩法の一つを――――」
篠崎さんから忍術なのか護衛術なのか分からないが、特別な移動方法を教えてもらった出久。
「素早く動けるようになったけれど、体力が続かない? わかりました。体力をつける訓練(軍隊式)を行いましょう」
ロベルタ婦長から訓練を受けて体力を向上させた出久。
こうやって出久のスペックは上がっていくのであった。
「ねえ、咲夜。最近イズクが分身して見えるのは気のせいかしら?」
オマケ2「嘘予告」
ヒーロー基礎学の初の戦闘訓練。
出久は爆豪に向かって拳を振るう。
「これは、さっき、折られた、モップの分、です!!」
「な、モップはさっきてめえが――――」
爆豪にメイドさんによる正義の鉄拳が今!
かっちゃんと出会うまでは、というご意見があったので、やってみた。
どうせ、かっちゃんがボコボコになるんだ。僕知ってる。
次回更新は別の作品かな?
また活動報告を更新してお知らせ予定です。