たとえばこんな緑谷出久   作:知ったか豆腐

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遅くなりました。

2017/12/04 投稿


いずくバトラー その2(後編)

 今日はオールマイトによる初のヒーロー基礎学の授業だ。

 コスチュームにも初めて袖を通し、個性をフルに使っての戦闘訓練が待っている。

 にもかかわらず、爆豪の機嫌は非常に悪かった。

 もっとも、爆豪の機嫌は基本的に良くないのでいつも通りと言えばその通りなのだが、原因を言えば10年の歳月を隔てて現れた幼馴染の存在だ。

 

 入学初日に名前を知り、当人が無個性であることを知ってようやく出久のことを思い出した爆豪が感じたのはイラつきだった。

 (彼の中で)完璧な人生計画の通り、自身の中学で唯一の雄英入学者となり、そこらの凡夫とは自分は違うのだとプライドを満たしていたところに、過去に見向きもしなかった存在が今更になって目の前に現れたのだ。

 それも己と同じ立場、いや、初の“無個性”による雄英ヒーロー科入学という『偉業』を成し遂げているのだ。

 自分勝手な考えではあるのだが、出久が自分の邪魔をしたように爆豪は感じたわけだ。

 しかも、入学初日に抜き打ちで行われた個性把握テストで、出久は無個性ながらまずまずの成績――――際立った数値はないが、全体的に高水準の結果――――を残し、テスト中にそれとなく先生のフォローを行うことで先生に気に入られていたことも爆豪を苛立たせている。

 そして、今日。戦闘訓練の相手は出久になった。

 ありていに言えば、目障りな出久を合法的にぶちのめす機会である。

 

 そんな一方的に爆豪が敵意を募らせた戦闘訓練だが、一方的な展開となった。

 ……爆豪の思っていたのとは逆の展開ではあるが。

 

 高い風切音が鳴ったのを聞き、爆豪は反射的に身をひねる。次の瞬間には右ほおに痛みが走り、赤い筋が一本滲みあがる。

 

「はずした……まだまだ未熟だな。その厄介そうな籠手を壊しておきたかったんだけど」

 

 これじゃあ師匠に怒られるな。と、ため息を吐きながら鋼糸を周囲に漂わせながら悠々と歩いてくる出久。

 その姿は余裕を感じさせるもので、ますます爆豪をヒートアップさせていく。

 事実、余裕なのだろう。パートナーのお茶子を先に行かせてからは一方的に爆豪にダメージを与えているのだから。

 

『なンでだ! 俺が一番スゴくて、デクが一番スゴくない……そのはずだろうが!』

 

 格下を相手にしているはずが、自分が格下扱いを受けている。

 過剰なまでに塗り固められたプライドが爆豪に目の前の現実を理解させようとしない。

 実力差をここまで見せられながらまだ出久を見下している爆豪に、出久は挑発を投げかける。

 

「さて、麗日さん(フロイライン)をお待たせしているんだ。さっさと終わらせよう、かっちゃん。

 ……トイレは済ませた? 神様に懺悔は? このあと無様に捕まってブタ箱の隅でガタガタ震えて判決を待つ心の準備はOK?」

 

 笑みを作り不敵に告げる出久に、爆豪はキレた。

 

「テメエ……ブッ殺す!」

 

 怒りにまかせて飛び出した爆豪。

 そんな考えなしの特攻が出久に通用するはずもなく。

 

「はい、おしまい。残念だったね? かっちゃん」

「んン~~~ン!!」

 

 身体を傷つけないように二本一組をねじり編み込んだ鋼糸の網で拘束され、ついでとばかりに猿ぐつわまでされてしまっている。

 さらに暴れて抜け出されないように網の端にフォークを投げつけて刺して固定。拘束力を上げる。

 

 無事に爆豪を無力化した出久はパートナーであるお茶子の元へ行き、あっけなく勝利を得たのだった。

 

 かっちゃんのプライドはボロボロだ!!

 

 

 

 オマケ

 

その1.「いつものことですの……」

 

 無事に雄英高校に入学した出久と百お嬢様。

 運のいいことに同じA組に所属することとなった。

 気になるクラスメイトとの関係だが、結論を言えば順調なスタートを切ることができた。

 出久は真っ先に試験会場が同じだった切島と飯田から声をかけられ、仲良くなる。

 0Pヴィランを倒した姿を切島に褒められ、飯田からは試験内容に救出Pがあったことを見抜いていたと、感心された。

 この二人以外にも、百お嬢様の家に仕える執事だということも周りの注目を集めることとなり、親交を深めることに役立ったりした。

 まぁ、お嬢様に不埒な視線を向けようとした某ブドウ頭の男子に釘を刺すことは忘れなかったが。

 

 だが、一番注目されたのは、試験で縁のあったお茶子との会話だろう。

 少し遅めにやって来たお茶子は、出久の姿を見かけるなり真っ先にやってきて、ハンカチを返却。

 周囲が自己紹介を交えながら、そのハンカチの由来を聞くこととなり、空気を読まない(読めない?)飯田が当時のことを詳しく説明。

 男子生徒に抱えられ、空中散歩をしたということがバレたお茶子は恋バナ好きの女子メンバーに捕まってタジタジとなる。

 

「抱えられてたって、もちろんお姫様抱っこだよね!? うわー、それだけでもキュンキュンするのに空中散歩とかロマンチックだよー!」

「それでそれで、地面に降りたらそっと優しく頬の傷を拭ってくれて?」

「持ってきたままのハンカチを学校で再会した時に返すだなんて、とってもロマンがあるわ。お茶子ちゃん」

「う~、ちゃうちゃう! そんなんじゃ……」

 

 クラスメイトの芦戸、葉隠、蛙吹に囲まれて顔を真っ赤にしているお茶子。

 それを少し離れたところでため息を吐いている百お嬢様。

 

「ああ、また緑谷さんが無自覚に……いつものことですね」

 

 いつか刺されるんじゃなかろうか? 緑谷くん。

 

 

その2.その生徒、執事につき

 

 突然始まった個性把握テスト。

 最下位除籍を避けるべく、皆が必死になる中で一人変わった行動をする奴が。

 

「次はハンドボール投げだが――――」

「はい、こちらにご用意しております」

「ん。実に合理的だな」

 

「立ち幅跳びが終わったから砂場を綺麗にしておかないとな」

「既に均しておきました。次の長座体前屈の用意も終えてます」

「ん。ご苦労」

 

「てめえ、デクじゃねえか!! どーしててめえがここにいる!! ――ぐっ、なんだこの布、固っ」

「ったく、何度も個性使わすなよ……俺はドライアイなんだ」

「お手数をおかけしました。……目薬です」

「これ、ドライアイ用か?」

「はい。低刺激タイプで効果が長い品物です。戦闘中に使っても沁みないものがお好みかと思ってお渡ししましたが……」

「……ん。パーフェクトだ」

 

 感謝の極み。と、頭を下げる出久にクラスメイトは思う。

 

『執事力高え!!』

 

 こんな具合にサポートをしていたらそりゃ気に入られるよね。

 

 

その3.コスチューム

 オールマイトによるヒーロー基礎学の最初の授業。

 それも戦闘訓練とあって、生徒たちのテンションもダダ上がり。

 ついでにコスチュームに初めて袖を通したというのもテンションの上がる理由だろう。

 自分のコスチュームの具合を確認したり、クラスメイトのコスチュームと感想を言い合ったりと楽しげだ。

 

「うわあ、緑谷くん、執事って感じでカッコイイね!」

 

 お茶子が出久のコスチュームを見て歓声をあげる。

 出久の恰好は黒のスラックスに動きやすさと見栄えを兼ね備えた革靴タイプのブーツを着用。

 上半身は白いシャツに黒いウェストコートとタイに手にはこれまた黒の手袋だ。

 全体的に師匠であるウォルターをリスペクトしており、伊達だが左目に片眼鏡をつけている。

 ウォルターと違うのは、他の師たちを見習ってジャケットを着ていることだろうか。

 一応、素材は防弾・防刃の物を使っている。

 こうして見た時の印象は、お茶子の言った通り、ザ・執事である。

 いつも通りと言ってはいけない。

 

「ありがとう。麗日さんはヒーローらしい格好だね」

「アハハ、要望をあんまり出さなかったら、パツパツスーツになったよ」

 

 テレ顔で頭をかくお茶子は、身体の線が分かるようなぴっちりスーツで、ちょっと色っぽい。

 

「ヒーロー科最高!」

 

 その姿を見てサムズアップをする峰田に出久は、

 

『お嬢様に邪な目を向けたら……粛清だね』

 

 と、内心で恐ろしいことを考えていたり。

 うーむ、だんだん師匠たちに考え方が似てきているような気がする。

 

 で、そのお嬢様なのだが、自分のコスチュームに少し不満があるようで。

 

「要望とは違ったものになってしまったのが残念ですわ」

 

 ハァ、と、ため息を吐く百お嬢様に、出久は頭を下げる。

 

「誠に申し訳ありませんが、勝手ながらサポート企業にデザイン変更をお願い致しております」

「緑谷さん、それはいったいどういうことですの?」

 

 まさかの忠実な執事の裏切りに驚く。

 その理由は単純明快だった。

 

「一言で申し上げますと、法律的にアウトでした。お嬢様」

「アウト……ですの?」

 

 はい、アウトです。と、ばっさり言い切られてちょっと落ち込む百お嬢様。

 修正をしたはずの今のコスチュームですら露出が多いというのに、要望通りなら痴女である。

 いくら個性使用のために便利だからって限度があるのです。

 

 基本優秀なのに時々天然を出すところは奥様の血を引いていると感じた出久であった。

 

 あと、「法律なら仕方ないねー」と、慰めている葉隠さん。

 あなたは女の子として倫理的にアウトです!




うーん、スランプでした。
もうね。バトラーな出久くんが強すぎて戦闘描写が全然かけないんだ。
というか、基本戦闘描写苦手なんだ。
ギャグパートならあっさりかけるんだけどね。
その結果が、オマケのほうが長いという……

最後に出久君にフォークを投げさせたのは、黒執事リスペクトであって、決してうーにゃーな邪神ハンターさんではないんだ。

FGOの新しいシナリオの影響は受けてないんだ。信じて!

次回はアンラッキーかな。

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