たとえばこんな緑谷出久   作:知ったか豆腐

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正解発表!

2017/11/07 投稿


いずくバトラー(後編)

 ――日本 某国際空港にて

 

「うーん、日本の空港に降りると味噌や醤油の香りがするって本当なんだな」

 

 長い空の旅を終え、大きく背伸びをする少年。

 緑の髪をオールバックでまとめた彼こそ14歳になった緑谷出久であった。

 

 10年前にイギリスに渡り、何の因果か超一流の執事達に教育を受け、今や立派な執事と成り果てて帰ってきたのだ。

 本人的にはどうしてこうなったとしか言いようの無いのだが、最終的に今の自分に不満は無いのでよしとしておこう。

 あのままヒーローになれないと燻った思いを抱えつづけるよりよっぽど精神的にはマシだ。

 とにかく、10年間の修業を終え師匠たちから合格のハンコをもらった出久は、最終実習として一人であるお屋敷にご奉公にでることとなったのだ。

 そして、今回そのお屋敷が日本ということで、10年ぶりの帰郷となった次第なわけである。

 久しぶりの日本ではあるが、当然のことながら各種外国語と共に勉強していたので問題は無い。

 教育係曰く、「この程度のことが出来なくてどうします?」とのこと。

 

「さてと……あー、電車の時間までもう余裕が無いなぁ。急がないと」

 

 師のウォルターから貰った懐中時計で時間を確認して眉をひそめる出久。

 久々の故郷ということもあって少々のんびりしすぎたようだ。

 時間はマナーの王者だ。相手のところへ遅れて行くのは失礼だろう。

 行き先は愛知県。新幹線に乗っていけばすぐに着くはずだ。

 

==========

 見上げる程の高さの豪奢な作りをした門を前に出久は呼び鈴を鳴らす。

 インターホン越しにやりとりを少しした後、門が開き中から老執事が顔を出した。

 

「本日よりお世話になります、緑谷出久です。よろしくお願い致します」

「ようこそ、八百万家へ。私は家令の内村と申します。どうぞよろしくお願いします」

 

 お互いに挨拶を交わし、屋敷の案内とほかの使用人との顔合わせを済ましていく。

 10年間教育を受けただけあって、出久の仕事を覚えるスピードは早く、あと3日もあれば長年ここにいた人と同じ程度には働けるようになるだろう。

 一通りの案内を終えたところで、内村が出久に向き直る。

 

「さて、これからお嬢様に会って頂きますが、緑谷くん。最終確認です。執事だけでなく“アチラ”の腕もたしかなのですな?」

 

 真剣な表情で問い掛ける内村の目は厳しく、最後まで出久がお嬢様を任せてよいか確かめていた。

 その表情を見て出久も真剣な表情で頷いて見せた。

 

「ええ、師匠たちの別の“お役目”の技術についてもしっかり教えこまれましたから」

「……わかりました。信用しましょう。その言葉を」

 

 返事を聞き背を向けて歩き出す内村。

 これから八百万家のお嬢様に出会うのだ。

 

 

「本日より百お嬢様のお付きの執事となりました、緑谷出久と申します。以後、よろしくお願い致します」

「まぁ。お若いとお聞きしてましたが、私と同じくらいの方なのですわね」

「お嬢様と同じ年の14歳です。4歳のころより執事教育を受けてまいりましたのでお役には立てるかと」

 

 挨拶をすると年齢に驚かれたので、実力を疑問に思われたかと心配に思いフォローする。

 が、しかし、そんな心配は杞憂だったようで、お嬢様・八百万百は手を振って否定してくれた。

 

「いいえいいえ。てっきりもう少しご年配の方が来られると思っておりましたから、驚いただけですの。

 緑谷さん、せっかく同い年なのですから、もう少し言葉を崩してくださってもよいのですよ?」

「それは……では、人がいないところでしたら」

「おや、そうなると爺やはお邪魔ですな。それでは失礼させて頂きますぞ」

 

 お茶目に退室していく内村を見送った後、二人っきりで話をする。

 どうやら百お嬢様はお優しく人柄もよい方のようで、出久も一安心だった。

 まぁ、師匠や先輩の主が特殊すぎるだけな気がしないでもないが……

 

 二人だけになったところで改めて挨拶を交わす。

 

「えっと、これからよろしく。って、感じでいいのかな? お嬢様?」

「ええ、かまいませんわ。よろしくお願いしますわ。緑谷さん」

 

 こうして、出久と百お嬢様との毎日が始まったのだった。

 

いずくバトラー【モモちゃんの執事】

 

オマケ~モモちゃんの執事の日常~

 

1.登校前

 朝の慌ただしい時間。

 お嬢様のお世話をしつつも、自らの登校の準備をしなければいけない出久。

 雇用主の意向により、出久も学生としてお嬢様と同じ学校に通うことが決められていたのだ。

 ちなみにこの出久、すでにイギリスで大学の単位を飛び級で習得していたりするのだが、それはそれだったり。

 

「登校のお時間です、お嬢様」

「……先ほどまで執事服でしたわよね? いつのまに学生服に?」

 

 少し目を離した隙に執事服から学生服に着替えていた出久に驚きの声を上げるお嬢様に出久は笑顔で、

 

「八百万家の執事たる者、早着替え程度、出来なくてどうします?」

「す、すごいのですね。執事というのは」

 

 出久くん、どうやら先生の口癖が移っている様子。

 ついでに、周りのほかの使用人は出久の言葉に内心でツッコミを入れた。

 

『いやいや、できないから! 執事をなんだと思っているんだ!』

 

 いきなりハードルを上げられて困惑であろう。

 

2.勉強後

 百がそろそろ勉強を一段落しようとしたところに、トントンと規則的なノックの音がした。

 

「はい、どなたですの?」

「緑谷です。そろそろご休憩かと思いお茶をお入れしました」

 

 こちらの様子を見ていたかのようなグッドタイミング。さすが10年間の教育を受けたのは伊達ではないと思わせるような仕事ぶりだ。

 ちなみに、執事はノックをする必要はないのだが、お嬢様と年が近いということもあり特別に配慮してすることとなっている。

 年頃の女の子が同い年の男の子に自由に部屋を入られるというのは嫌だろう。

 

 用意されたカップを持ち香りをかぐと紅茶とは違った匂いが鼻を満たす。

 

「良い香りですわね。紅茶ではないようですけど……」

「お疲れかと思い、ハーブティを」

「茶葉は何を?」

「リラックス効果と美肌効果のあるラベンダーとローズヒップのブレンドで」

「お茶請けは?」

「低カロリーでヘルシーなおからクッキーを」

「厨房にお母様は?」

「断固として入室は阻止しました」

 

 流れるような会話に、最高の入れ方で出されたお茶とお菓子。

 

「パーフェクトですわ、緑谷さん」

「感謝の極み」

 

 お嬢様の賞賛に頭を下げる出久。

 ちなみにいうと、今回一番大変だったのはメシマズの奥様を厨房に立たせないようにすることだったりする。

 いくらなんでも雇用主にメシマズだと伝えるのは……

 

3.学校にて

「緑谷くんって、帰国子女なの?」

「しかもイギリス! なんかなんか、紳士的だよね!」

「じゃあ、イギリスらしく今度おいしいお茶とお菓子でもいかがかな?」

 

 笑顔で女の子たちと会話を弾ませる出久。

 しばらく話をした後、女の子たちは黄色い声を上げて去って行った。

 その一部始終をみていた百お嬢様はため息をついてあきれた様子だ。

 

「緑谷さんって、女の子の扱いが上手ですのね」

「う、うん、まぁ、女性の扱いは口うるさく言われたから」

 

 なぜか遠い目をして答える。

 出久の中で師匠たちの一人、シェフ・エミヤの言葉がよみがえった。

 

『いいか、女性は怒らすと怖いぞ。さもなくば、冬のテムズ川に叩き込まれるハメになる……』

 

 イモの皮をむきながら背中で語っていたシェフ・エミヤ。

 哀愁漂う姿をみて出久はわけも分からず泣きそうになったのを覚えている。

 ただ、そいつから女性の扱いを学んだのは失敗だったと思うんだけどなー。その先は地獄かも?

 

???

 深夜。資産家である八百万家を狙い悪党が蠢いていた。

 そう、先程までは、だが……

 

「て、てめえ、何者だ!?」

 

 八百万家の一人娘を誘拐するべく動いていた仲間たちはすでに全員が気絶するか拘束されてしまっている。

 残った最後の一人は恐怖に震えながらも、自分たちを追い詰めた相手に啖呵を切っていた。

 

「ただのゴミ処理係さ、悪党。まぁ、もう会うことはないだろうけどね」

 

 死刑宣告のごとき言葉を投げかけ、無慈悲にも意識を刈り取る。

 ゴミ処理を終え、その人物は携帯を取り出して警察へ匿名の通報を入れた。

 そうして外に出ると、八百万家の家令・内村が車を用意して待っていた。

 

「ご苦労様でしたな。流石は“死神の後継者”“第二黒執事”“掃除屋”“番犬の弟子”ですな」

「ちょ、ちょっと呼ばれ方が多くないですか!?

 ……コ、コホン。家人の危急をお救いするのは執事のお仕事ですから」

 

 自分についた異名にげんなりしつつも、ヴィラン退治について平然と答える出久。

 

 八百万家お嬢様付執事、兼、ボディーガード。

 それが緑谷出久である。

 

 ……執事ってなんだっけ?

 




八百万さん家が正解でした。
正解した読者の皆さんの元にはウォルターさんところの吸血鬼さんがプレゼントを持っていくからお楽しみに!見敵必殺! 見敵必殺!

執事ときたら次はメイドだな……と、思ったけどネタになりそうなのあんまりしりません。
思いつくのはマスケット銃振り回すターミネーターなメイドさんくらいかなぁ……
やるとしたらネタ募集ですね。そのときは活動報告にて。

次の更新はたぶん、魔性天女。

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