たとえばこんな緑谷出久   作:知ったか豆腐

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2017/12/11 投稿


いずくアンラッキー その4(後編)

 緑谷出久は爆豪の放った最大火力の直撃を受けて骨も残さず消し飛んでしまった……。

 

 

 わけもなく。

 

「痛い……けど、生きてる。なんとか生きてる」

 

 緑谷出久は生きていた。

 爆破の直前にとっさに使った光子力バリアが盾となり、外に飛ばされたところを右の腰に装備していたグラップガンを射出。建物の壁にぶら下がって落下死を避けたのだった。

 ただし、完全に防げたわけではなく全身はやけどだらけで、さらに不運なことに鉄筋の一部が左腕に突き刺さり、大きく出血していた。

 ダラリと垂れ下がった左腕が痛々しいが、まだ体は動く。

 グラップガンを巻き取り、近くの窓から建物に転がり込む。

 全身の痛みをこらえつつ、左腕の出血を止めるために救急キットを取り出す。

 緑色をした鎮痛剤(アンブレラ社製)を針無しで使える専用の注射器にセットして左腕に打ち込み、刺さっている鉄筋を一気に引き抜く。

 

「ッ~~~~~~!」

 

 苦悶の声をあげて耐える。すぐに出血を止めるために救急スプレーを吹きかけ、止血帯で血止めをして立ち上がる。

 フラつく視界のなかでぼんやりと考え事をする。

 

『薬の種類を、色で区別するのはいいアイデアだけど……薬に直接はだめだよ。まるで体にウィルスでも入れてるような気分になる』

 

 終わった後に書くレポートのことを考えていた。そんな場合ではないのにもう考えていることがめちゃくちゃである。

 おぼつかない足取りで建物を歩く出久。

 そこへ訓練中断を受けて出久を救けにきた麗日が駆け寄ってくる。

 

「緑谷くん、大丈夫!?」

「やぁ、麗日さん。すごいね。二人に分身出来るんだぁ……」

「あ、これ、駄目なヤツだー!?」

 

 ちょっとイッちゃってる笑顔の出久に慌てる麗日。

 身体を支えようと近づいたその時、出久の不運体質が仕事をしてしまった。

 

「え、ちょっと、緑谷く、ひゃん!?」

 

 タイミング悪く限界を迎えた出久は麗日に倒れ込み、そのナイスなバストに顔をうずめることとなった。

 ラッキースケベってやつだ。珍しくラッキー?

 いいや、そんなことはない。重症の身体に麗日のビンタを受けて吹き飛ばされたのだから。

 無重力で慣性のままに壁に激突した。

 そのまま痛みで気絶した出久。まぁ、その痛みは甘んじて受けるべきである。

 

「ふ、不運だ……」

「ご、ごめんね! 緑谷くん!!」

 

 

==========

 

「ありがとうございました」

 

 包帯だらけで保健室を出る出久。

 リカバリー・ガールの治癒を受け体力を消耗しながらもなんとか歩き出す出久。

 もう一歩間違えば死ぬところだった割にはタフである。

 日常はIzuku Must Die!だが、出久本人はDie Hardでなかなか死なないのである。

 

「大丈夫でしたか? 出久さん」

「あ、明ちゃん。ごめんね心配かけて」

 

 出久が怪我したと聞きつけてやってきた明。

 心配をかけたことを謝る出久だが、明は首を横に振って答えた。

 

「別に出久さんが無事だったのならそれだけで充分です」

「明ちゃん……」

 

 彼女の笑みに思わず感動する出久。自分を思ってくれる人がいるというのは嬉しいものである。

 

「それよりも、今日の映像も撮ってあるんですよね? 是非、見せてください!」

「明ちゃん……」

 

 あ、本当に無事だっただけでいいんだ……

 無事と分かった瞬間に今日の訓練の映像を要求してきた明にガックリする。

 いつものことだが、先ほどの感動を返してほしいと思うしかなかった。

 ゴーグルに内蔵していたカメラを通した出久の一人称視点の映像をタブレットで見始める明。

 

 そんな自由な明にやれやれと肩をすくめる出久だが、責める気持ちには全然ならない。

 これも惚れた弱みというやつだろう。

 

「ねぇ、出久さん?」

「ん、何かな? 明ちゃん?」

 

 明の呼びかけにフッと笑いながら振り向いた出久は、その表情を引きつらせてしまった。

 そこには映像を一時停止させたタブレットを見せている明の姿が。

 

「これって、どういうことですかね?」

「えっと、それは……」

 

 映像は麗日の胸に飛び込んでしまった例の事故シーンである。

 あまり彼女に見せていいシーンではない。

 

「何か言い残すことはありますか?」

「わ、ワザとじゃないんだ!」

 

 『なんで浮気した男みたいな台詞を』とか、『許す気ないよね? その言葉!?』とか、言いたいことはあったが、何を言っても無駄であろう。

 出久はあえなく企業から送られてきていた『スタンヌンチャク』によっておしおきされてしまったのだった。

 

「もう、心配させておいて何をしてるんですか!」

「ふ、不運だー!」

 




初期プロットだとここにトガちゃんも絡んできてさらに女難だったんだ。
まぁ、気力が尽きて無理でしたが。

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