2017/10/06 投稿
「暇ですねー。出久さん、どこか連れてってください」
「突然だね……はつ、め、明ちゃん。どうしたの?」
遊びに来ていた発目が出久のベッドで寝ころびながらいきなり外出を要求してきた。
彼女の突発的な言動には出久も慣れたもので、多少名前を呼ぶときにどもりながらも返事をする。
「まだ名前呼びは慣れないんです? まぁ、それはいいとして、前遊びに出かけた時はひどい目にあったじゃないですか! それの補填を要求させてもらいます!」
「ああ、あれは不運だったよね」
前回デートで遊園地に遊びに行ったときのことを思い出して遠い目になる出久。
相変わらずの不運体質で事件に巻き込まれてしまったのである。
「遊園地に遊びに行ってジェットコースターに乗ったら殺人事件に巻き込まれたのを不運で済ませられるのはヒジョーシキだと思いますよ! 私は!」
「え、あ、でも、すぐに解決したからよかったんじゃないかな?」
発目からジトーッと睨まれて冷や汗を流す。
そのときの事件では偶然その場にいた高校生探偵がさらっと推理して事件を解決してくれたのだが、そもそも事件に巻き込まれること自体が不運である。
ついでに出久。発目には伝えていないのだが、この高校生探偵が黒づくめの男に殴り倒される場面に運悪く遭遇してしまい、怪しげなその男たちと銃撃戦(実弾vsテイザー)を繰り広げるという騒動にも巻き込まれている。
幸いにして駆けつけたヒーローたちによって事件は解決したが、一日に二度も人命にかかわる事件に巻き込まれたのは初だったりする。
出久にしては珍しくラッキーなことに、偶然発目とはぐれていた時に出会った事件だったので、その時発目はいなかったのだ。
この事件に巻き込まれたことを知られたらいったい何と言われるか……
「あのあとまた騒ぎも起きていたようですし、あれでは満足とは言えませんね! ……おや? そういえばその騒ぎが起きた時間と出久さんがはぐれていた時間はだいたい同じでしたよね? まさか?」
「いやいや、全然!? そんな事件には巻き込まれてないよ!! ホント!」
ばれたらヤバイと思っているところに発目から追及が来てギクリと肩を揺らす出久。
ああ、不運だ。
「本当に事件には関わってないんですかあ~? イ・ズ・クさん?」
「ハイ、カカワッテナイデス」
「ほほう。心拍数が跳ね上がってますよ出久さん? 嘘をついている数値ですね」
「いつの間に測定器を!? どれ? どれが測定器なの、明ちゃん!?」
スマホで出久の心拍数などを映し出して嘘を見破る発目。
気が付かないうちに取り付けられていた測定器に焦る出久だが、発目からもらった
出久は発目の監視下に置かれているのだ! などと冗談は置いておくとして、嘘がばれた出久はもはや素直に話をするしかない。
まぁ、話をしたらしたでドン引きされたわけだけれども。
「一日に二度も事件に巻き込まれるとか出久さん、あなたって本当に……」
「明ちゃん、言わないで! 僕自身が一番分かってるから」
「まぁ、出久さんの不運は今に始まったことじゃないですけどね。ところで、その黒ずくめの男たちの対応は大丈夫なんですか?」
「え? ヒーローが捕まえてくれたから大丈夫だと思うんだけど」
犯人が既に逮捕されて事件解決だと思っていた出久は発目の言葉に首を傾げる。
いったいどの点に不安があるというのだろうか?
「その黒ずくめの男たちって、明らかに組織に属してるっぽくないですか? そうなると、よくも仲間をやりやがって、的な報復とかありそうですけど」
「ハハハ、まっさかー! 大丈夫だよ……たぶん」
また事件に巻き込まれる可能性がでてきたことに動揺を隠せていない出久。
大丈夫のはず。報道で取り上げられていたのはヒーローたちと例の高校生探偵だけだから自分の名前はわからないはずだ。
と、言い聞かせるものの、不安の影は消えず。
なにせ、自分の不運のほどは自他共に認めるほどであるのだからして。
不穏な空気が部屋に流れるなか、タイミングの悪いことに来客を告げるチャイムが鳴り響く。
ピンポーンと、間延びした音とは裏腹に二人の間に緊張が走る。
「いいい、出久さん!?」
「お、おち、落ち着いて。まだそうだと決まったわけじゃ」
慌てる二人。と、そこに部屋のドアをノックする音が。
「出久ー。あなたにお客さん……って、どうしたの!?」
インコお母さんが部屋に入るとすごいオーバーな反応をした二人の姿が。
うーん、カオスだな。
「「サポート企業互助組合?」」
出久と発目の二人がそろって疑問の声を上げる。
差し出された伊藤と名乗るスーツの女性から渡された名刺にかかれた肩書にはそう印されていた。
聞いたことがない組織名に戸惑っていると、女性のほうから説明をはじめてくれた。
「はい~、私どもは近年に発足しましたサポート企業間による技術提携や情報共有を目的とした組合でして~、サポート企業のヒーローへの貢献を通して社会をより良くしていこうと尽力している組織です。はい~」
「そうなんですね」
「はい~。このたびは緑谷さんにご提案をさせていただきたく~、こうしてお邪魔をさせていただいた次第でして~」
妙に語尾を伸ばす独特な喋り方に戸惑うも、ヒーロー活動に深く関わるであろうサポート企業の組合からの提案というものが気になる出久と発目。
一応、話を聞いてみることにした。
「提案……ですか?」
「はい~。端的に言いますと~、緑谷さんに雄英高校のサポート科に新設される専攻コースをお受けしていただけないか~というお話でして~、お受けしていただけるなら私どものほうから推薦状もお出しさせていただく予定です。はい~」
「ゆゆゆ、雄英高校の推薦!? しかも新設の!?」
雄英高校に新設の専攻コースができるということと、自分がそこの推薦を受けられるという二つのビッグニュースに驚くしかない出久。
しかし、興奮よりも戸惑いのほうが大きく、さらに詳しく話を聞くことに。
新しく新設されることになったのは“テスター専攻コース”というサポート科に追加される専攻コースで、内容はヒーローの現場を知りつつも開発側の知識を併せ持った人材の育成ということらしい。
この決定はサポート企業の組合が各方面に働き掛けをしてようやく許可が降りたものだとか。
そうまでして新設した理由はというと、
「最近では開発者がヒーローの現場や実状を知らずに本人の理論や趣味だけでアイテムを作ってしまったせいで起きるトラブルが多くなってきているのです、はい~」
「なるほど。それでヒーロー側と開発者側との間を取り持つ人間が必要になったんですね?」
「はい~。お恥ずかしい話なのですが、開発畑に進む人間は癖の強いというか、ぶっちゃけ変わり者が多い傾向がありまして~、その暴走を止める人材を強く希望しているところもあるわけです。はい~」
ちょっとガックリときた様子で話す伊藤さんに、出久はすごく同情した。
予想するに思いついたら試さずにはいられない人間ばっかりなんだろうなあ。結果としてどうしてこうなった的なことも多いんだろう。
ふと、自分の彼女を横目で見てみる。
………………なんだろう。既に自分がその求められているポジションにいるような気がしないでもない出久だった。
「そういう事情もありまして~、テスター専攻では企業から送られてきたものやサポート科で開発したアイテムを実際のヒーロー科の実習と一緒に使ってもらったり、実際に自分でサポートアイテムを作ってもらったりと、ヒーロー科とサポート科の間みたいなカリキュラムを受けていただくことになります」
テスター専攻コースのことはよく理解した出久。
しかし、最大の疑問が残っている。
「その専攻コースのことは分かりました。でも、なんで僕なんかにこんなお話を?」
ただの中学生でしかない自分にこんな大きな話が舞い込んできたことに疑問を投げかける出久。
ヒーロー科との合同実習に参加できるなど願ってもないことなのだが、いままでの自分の不運具合をみると、素直には受け入れかねるのだ。
だが、そんな不安も伊藤さんの言葉で木っ端みじんに吹き飛ぶのだが。
「理由ですか? 出久さん、これまで多くのアイテムを購入、または試供されてきた実績があるではありませんか~。毎回使用後の感想や改善点の考察を詳しく話してくれる方なんてそうそういませんよ~」
生真面目でオタク気質な出久は、毎度使ったアイテムの感想や改善点の考察をメーカーや販売店などに送っていたのだ。
日々アイテムの有効な活用法を考えなければ普段からの不運に対応できないという悲しい事実があるのだが、サポート企業からしてみれば滅多に使われない防犯グッズの使用後の感想が詳細な改善点の考察までつけて送ってきてくれるお得意様であるのだ。
しかも、詳しく調べてみれば独学ではあるが護身術を学び、ある程度の修羅場もくぐり抜けてきた人材である。
放っておくわけがない。
つまりは出久自身が理由である。
そのおかげで雄英の推薦がもらえるのだから喜んでいいはずなのだが、いまいち嬉しくないと感じてしまう。
「ハハハ、どうしよう明ちゃん。嬉しいはずなのに涙がでるよ」
「大丈夫ですよ出久さん。私もサポート科受かる予定ですから! 一緒に頑張りましょう!!」
発目からの励ましを受けてすこし元気になる出久。
しかし、入学後に彼女の発明したアイテムで苦労することをこの時はまだ考えてもいなかったのであった。
――――サポート互助組合本部
「そうか、彼は受けてくれたか」
葉巻をくわえた人物が報告を満足げに受けとる。
そのレポートには出久の名前が記されていた。
「クックック、これであの計画を進められるぞ! ヒーローをサポートアイテムで補助するのでは無い、サポートアイテムを使って戦うヒーローを作り出すのだ!」
上機嫌な様子で誰に言うでもなく一人語りつづける。
そこ、変な人だとか言わない。
「そうしてヒーローを作り出したあかつきには、民衆のためではない、我が社のためのヒーローが誕生するのだ!」
HAPPY BIRTHDAY! と、叫んでケーキに燈してあったロウソクの火を吹き消す。
誰に見られているわけでもないのに演出過剰である。
寂しい人とか言ってはいけない。
ついでにケーキは自分で朝早く起きて作ったらしい。
……暇人とか言ってはいけない。
「我が社のロゴをつけたヒーローが活躍し、我が社のCM、イベントへの出演! 我が社のマスコットヒーロー!!」
語る野望はけっこう健全というかささやかというか。
てか、その程度なら既存のヒーローに頼んでもやってくれそうな気がしないでもない。
それでも新しくヒーローを作りだそうとする理由とは……
「ああ、まさしくロマンだ」
サポート企業の人間は経営陣も一癖あるらしい。
続く?
高校生探偵……いったい誰なんだ!?
ゲスト出演なので二度と出しませんけどね。
次はヒロイン(not魔性)の予定。