2017/08/27 投稿
いずくアンラッキー
人は生まれながらに平等じゃない。
これは緑谷出久が齢4歳にして直面した現実。
そして10年経った今でも痛感している事実だ。
「待てや、ゴルァ!!」
「クソガキ、ブッ殺してやる!!」
「うわあああ! ふ、不幸だぁー!!」
ガラの悪い見るからに不良の少年たちに追いかけられている緑谷出久。
走り去る彼を見送る同級生たちは、驚いた様子もなく呆れた表情をしていた。
「またかよ。あいつも大概だな」
「俺、ありふれた没個性だったけど、あいつみたいな個性じゃなくてよかったと思うよ」
「ケッ! あんな無個性以下のクソ雑魚個性のやつなんかどうでもいいわ!」
緑谷出久の個性。
自分にマイナスにしか働かない最低の個性だ。
『不運を引き寄せる個性』
母親のものを引き寄せる個性が変質して遺伝した結果、発現した個性。
日々、日常において不運が重なるというバッドな個性だ。
今日のように不運にも不良に目をつけられたりするほか、逃げる時に財布を落とす、小学生の投げたボールが飛んでくる、土砂降りの雨の日に傘を盗まれるetc……
とにかく不運の連続に悩まされている毎日だ。
もしもの話だが、並行世界に“無個性”で生まれてしまった出久がいたとしても、この“不運”の出久を見たら「まだマシだな」と納得するであろう。
そんな不運を人の形にしたような出久だが、最も怖いのはヴィランの事件に巻き込まれてしまうことだ。
個性犯罪に巻き込まれ、理不尽な暴力の前に死の恐怖を感じたことは一度や二度ではない。
都合よくいつもヒーローが近くにいてくれるとも限らないとなれば、出久は自然と対抗手段を身に着けていくしかなかった。
「いい加減くたばれ、クソガキ!」
「これじゃない、これじゃない……あった!」
ゴソゴソとカバンを逃げながら漁っていた出久は、目的のものを見つけ、安全ピンを抜いて投げつける。
不良たちの前で弾けたそれは強烈な臭気を周りに発して不良たちの嗅覚にダメージを与えた。
「臭っさ! なんじゃこりゃー!」
「てめえ! なめやがって!」
「うわああ、大して効いてない!? 前のトウガラシ煙幕は無関係の人にも被害が出たから改良したって言ってたけど、コレじゃ弱くなり過ぎだ! また要望書をレポートにまとめておかないと……」
「ブツブツいってんじゃねー!」
持ち歩いていた護身アイテムの感想をブツブツとつぶやきながら逃走する出久。
こうした事件に巻き込まれることが多いため、彼の背負っているカバンの中には護身アイテムが数多く入っていたりする。
個性の特性上、警察からも許可はもらっているのだが、知らない人が見たら危険な少年である。
スタンガン携帯している中学生なんて、どんな奴だ!
「この間の腕部装着式のフックショットがあればすぐに逃げられるのに! 代わりにって渡された小型エアジェットは爆発しそうな気配が漂ってるし……キック力増強シューズは準備に時間がかかりすぎる。こんな時に限って時計型麻酔銃は針が入ってないなんて……不幸だー!!」
手持ちのアイテムを思い出しながら逃げる出久だが、とうとう袋小路に追いつめられてしまう。
不良三人はようやく追いつめた獲物を前に舌なめずり。
「へっへっへ、やっと捕まえたぞ。どうしてやろうか?」
「とりあえず、有り金はいただきだな」
「それだけじゃものたりねーよ。身ぐるみ全部剥いで吊るし上げだ!」
口々に好き勝手な言葉で脅す彼らをみて、出久は覚悟を決める。
もう、やるしかない。
カバンから取り出したのは一本の特殊警棒。下にサッと振り下ろすとカシャッという音と共に三段に分けて警棒が伸びる。
相手の拳を受け流して掬うようにあごに一撃、怯んだところを仲間の所へ蹴り飛ばす。
そのまま流れるように残りの二人を打ち据えて地面を舐めさせた。
「痛ってー!」
「なんだこのガキ強ええぞ!」
「はぁー、もうこういうのもなれちゃったなぁ……」
迫りくる危険にアイテムだけでは危険だと、護身術も身に着けた出久である。
柔道・空手・剣道をベースにいくつかの鉄火場を経験した喧嘩殺法は、街の不良程度なら軽く相手にできる。
それなのに、真っ先に迎撃よりも逃走を選ぶあたり、ヘタレ気質がでている。
「てっめえ、ブッ殺してやる!」
「ちょ、ちょ、個性使用反対! ドーピング反対!」
キレた不良の一人がポケットから針無しの簡易注射器を取り出して首筋に注入。
全身から巨大な針を出したハリネズミの怪人のような姿になって襲ってくる。
こうなると、特殊警棒一本ではどうにもしがたく、出久は奥の手を取り出す。
カチャリと引き金に指をかける音と機械の起動音が人気のない路地に反響する。
『瞬時状況診断システム起動……個性違法使用パターン996を確認。脅威対象と認定。パラライズモード、スタンバイ』
「な、あ、なんじゃそりゃ!?」
出久が取り出した銃に似た何かにビビる不良たち。
高性能AI内蔵の瞬時状況診断機能付き非殺傷銃“ジャッジメント”
対個性用に作られたこの高性能テイザーガンが出久の奥の手だ。
『セーフティを解除。落ち着いて照準を定め、対象を無力化してください』
「悪いけど、これで終わり!」
アナウンスに従い、三連射。
あっという間に相手を鎮圧したが……
「はっきり言って、もう遅刻だよなぁ……」
時計の時刻はもう9時過ぎ。完全に遅刻である。
「不幸だー!」
むなしい勝利の雄たけびであった。
「いやあ! 今日も相変わらず幸薄そうな顔してますね。出久さん!」
「……なんで家に居るの? 発目さん」
帰宅早々にハイテンションな
一応聞いてみたものの、答えは予想がついているのだが。
「そんなの決まってるじゃないですか! 今日も悪党に襲われたんでしょう? そうでしょう? ならデータを早速見せてください!」
「わかっちゃいたけど、僕の心配を少しはしてくれてもいいんじゃないかな!?」
襲われたことを嬉々として言われると正直複雑な気分になる出久。
まぁ、そんなこと気にしていたら彼女とは付き合ってはいられないのだけれど。
発目と出久の出会いは約一年前。
自作のサポートアイテムを目当てにヴィランに狙われていた発目を、事件に巻き込まれた出久が救け出したことが始まり。
それ以降、不運体質がサポートアイテムのテスターにちょうどいいと交流を深めはじめた。
必然、二人そろって事件に巻き込まれることも多くなり、吊り橋効果的なものもあって現在に至っている。
「ふむふむ。その状況なら新作のエアジェットを使えば逃げられたんじゃないですか?」
「なんか、爆発しそうな予感がしたんだよ。こういうときの勘は割と当たるから……一度チェックしてくれない?」
「えーッ! いちいちチェックするより一度使ってもらったほうが楽なんですけど。というわけで、今から試してみません?」
「やだよ! 安全第一でお願いしますッ!」
こんな我が道を行く発目に振り回されている出久。
「仕方ありませんねぇ。なら改良のためにちょっと参考に見に行きたいところがあるんですが付き合ってもらえません? てか、付き合って下さい!」
「ご、強引!?」
「来ないんですか? オールマイトのコスチューム展もやってますよ?」
「行きます!」
オールマイトをダシにしたら簡単に釣れる出久に内心ほくそ笑む発目。
『ちょろいもんですねー。まぁ、そこが可愛らしいんですけど。さてと、インコママさんに頼んで出久さんの服のコーディネートをお願いしておかなければ!
デートにあのダサいTシャツは勘弁してほしいですからね』
さりげなくデートの約束を取り付け、裏で段取りを考える。
普段から出久を振り回しているのだが、惚れ込んでいるのはどちらかというと彼女のほうであったりする。
現在も、出身の京都から出久のいる静岡県まで毎週通い妻のように訪れているあたり、お察しである。
お互いオタク気質なところもあり、案外相性も悪くないのだ。
……やっちまえよ、爆豪!
前回、“ラッキーボーイ”を書いた後にメンテ空けでガチャったら良いのが来たんだ。
呼符1枚でメデューサ(槍)と十連でランスロット(剣)が来たんだ。
ピックアップすり抜けてくるあたり、よっぽどだよなぁ。きっと代わりに彼がガチャってくれたんだろう!
今回のアンラッキー出久は書いててかわいそうになったので最後に巨乳の彼女を付け足してあげた。
発目さんはヒロインにすると面白いと思うんだ……