魔法少女リリカルなのは~魔王の再臨~   作:シュトレンベルク

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第一特異世界編、飛び飛びながらスタートです。
勝手ながらマテリアルズたちの質問は、活動報告でさせていただきます。


初めての地獄

 日夜を徹した作業により、機動六課は七つの特異世界の発見に成功した。その後、まずは第一特異世界と呼称されたアルフォッグへの調査に乗り出す事が決定された。

 

 アルフォッグはそこまで有用な世界ではない。昔からの自然が豊かな国であり、魔法技術などに関しては未だ黎明期と言っても差し支えない程には覚束ない物だ。少なくとも、ミッドチルダ式魔法やベルカ式魔法を持っている彼女たちからすれば、まったく問題ないレベルだった。

 だからこそ、彼女たちは勘違いをしてしまった。魔法を至上の物として扱っている管理局の人間だからこそ、魔法の存在しない世界での戦闘がどういう物なのか理解する事ができなかった。彼女たちは最初の世界で一つの地獄を見た。

 

 血みどろの戦争。誰も彼もが目の前にいる敵を殺すため、全力を尽くしている。総ては自分たちが生き残るためにという題目を掲げ、彼らは殺し合う。人間がその身に宿している原罪を体現するように。それこそが貴様らの逃れられない業なのだと刻み込むように。

 

「なんなのよ、これ……」

 

 ティアナは目の前に広がる惨状に思わずそう呟いた。他の者たちも大小様々ではあるが、同じ事を思った。戦乱の時代を知らぬ彼女らにとって、目の前で繰り広げられている闘争は、何よりも信じがたい物だった。

 食事をするよりも簡単に人が死んでいく。情けもなく、容赦もなく、慈悲もない。彼らが求める物のために、彼らは一切手加減しない。だからこそ、その眼の前にある惨状は何よりも酷く、少なくとも彼女たちの及びもつかない程の命が目の前から失われていった。

 

 そして彼女たちは知った。この戦争は大聖杯を巡って行われた物であるという事を。一つの小国が大聖杯を手に入れ、その大聖杯の力を使って世界の支配を目論んだ。間一髪のところで大聖杯の奪取に成功し、けれど敵側に大聖杯に搭載されたある機能を起動された。

 それが大聖杯に搭載された緊急機能――――両陣営に七騎のサーヴァントを齎し、殺し合うシステム。サーヴァントは基本的に一騎当千の英霊であり、普通の人間には勝つ手段など存在しない。だからこそ、サーヴァントと戦える存在は基本的にサーヴァント以外には存在しない。それが基本的な道理なのだ。

 

 しかし、敵である小国にはバックに帝国が付いている。戦場には天剣保持者が確認されており、既に三騎のサーヴァントたちが敵側に討ち果たされていた。今この瞬間も、世界は力で支配される悪鬼の世界へとなり果ててしまう可能性があるのだと。

 管理局の存在を知っていたのか、連合国側は機動六課に救助を求めた。次元世界の治安が仕事である彼女らにとって、それは願ってもない事だった。もし、その国家が本当に力による支配を望んでいるなら、それは阻止しなければならないと思ったからだ。

 

 それはきっと真っ当な人間であれば当然の理屈だったのだろう。しかし、だからこそ、サーヴァントたちはその理屈に納得してはいなかった。戦争の中を生きてきた彼らにとって、マスターである彼女たちの言葉は甘いと言わざるを得なかった。

 

「馬鹿馬鹿しい。何故、俺たちが弱者の尻拭いをしてやらなければならない?弱いのが悪いだけだろうが」

 

「アヴェンジャー!そんな言い方は……!」

 

「ふん。しかし、俺は当然の事しか言っていないぞ。寧ろ、その小国は当然の事を言っているだけじゃないか。力による支配。大いに結構だろうが。始まりが力でも、治世が優れていれば文句をいう人間などいない。いるとすれば、くだらないプライドを持っている人間だけだ。俺の言っている事は間違っているか?なぁ、三騎士様方よ」

 

「「…………………」」

 

「間違ってはいないね。でも、力による支配には反発が生まれる物でしょう?だったら、彼らの言葉も間違ってはいない。でも……正直、私も彼らに手を貸したくはないかな」

 

「それは、どうして?」

 

彼らが同じように(・・・・・・・・)ならないとは限らない(・・・・・・・・・・)から(・・)。マスター、私たちは人類総てを救わなくてはいけない。あの程度の犠牲なら切り捨てなければならないんだよ。大事の前の小事を気にしている余裕は私たちにはないの」

 

「あんまりその意見には賛同したくないな。大勢を救うためなら、少数を犠牲にしても構わないという意見には賛同できない。それはあんまりにも報われない意見だ。まぁ、セイバーの方針に反対な訳ではないけどね」

 

「どういう事?ライダー」

 

「その前に……アヴェンジャー、眼は?」

 

「全部殺した。どうやら連中も、俺たちの事を信用しきれてないみたいだな。監視なんてしてくるとは……これは黒じゃないか?」

 

「どうかな。それで、マスターの質問だけどね?正義の反対は悪とは限らない。そして、一方の意見が絶対に正しいとは限らない。早急に結論を出すべきではないと思うけどね」

 

 ライダーの言葉に、彼女たちは考えを改めざるを得なかった。確かに、連合国側の意見が正しいとは限らない。一面的な考え方では碌な結末にならない事を、隊長陣はよく理解していた。世の中の問題は敵を斃せば解決するほど生易しくはない。

 善意は大切な物だ。それは疑いようのない事実であり、サーヴァントたちも否定する事はしないだろう。しかし、それだけで世界が回るほど、世界は優しくはない。それを知っている彼らはマスターたちの善意を全面的に肯定することは出来なかった。

 

「どちらにしても、私たちはサーヴァント。マスターの指示には従うよ。私たちの考えはどうあれ、マスターたちは好きな方針でやってもらって大丈夫。失敗したって私たちがサポートするから、どんどん挑戦して良いよ」

 

「でも、セイバーたちだって絶対じゃない。もしかしたら死んじゃう事だって……」

 

「あ、そう言えば言ってなかったね。私たちは死んでも本部にあるシステムに戻るだけなんだ。私たちを召喚したあの機械に零基は記録されているから、またすぐに呼び出せるよ」

 

 必要であれば使い捨てろ、とセイバーは言外に告げていた。たとえ死んだとしても、自分たちにはまた次の機会があるのだからと。そしてそれを、周りのサーヴァントたちは一切否定しようとはしなかった。アヴェンジャーですら、セイバーの意見は正しいと思っているのだ。

 

「……セイバー、そんな事を言わないで」

 

「マスター?」

 

「確かにセイバーたちは既に死んだ人なんだと思う。でも、私たちの目の前にいるのは今のあなた達だけ。たとえ、同じ記憶を持って蘇ったとしても、それは今のあなた達とは違うの。それだけは、分かって」

 

 高町なのはは死んでも構わない人などいないと思っている。それは彼女の父親が意識不明の重体に陥った時、彼女の家族が大変だったという経験があるからなのかもしれない。はたまた、親友の家族の命を救えなかった後悔ゆえなのかもしれない。

 何にしても、彼女は救う事を諦めない。目の前に涙を流す人がいるのなら、立ち向かう事を諦めない。それは彼女の生き様と称しても変わりない物だ。だからこそ、人々は彼女の事をこう称えるのだ――――『不屈のエース・オブ・エース』と。

 

「分かったよ、マスター。我が身命、そして我が宝具に誓う。私は必ず生きて帰る。マスターのサーヴァントは最強なんだと、世界に知らしめてみせる」

 

「うん。よろしくね、セイバー。……それで、これからの方針を相談したいんだけど良いかな?」

 

 なのははセイバーから視線を離し、他のサーヴァントたちに視線を向けた。サーヴァントたちは自分たちに視線を向くと思っていなかったのか、少し驚いた表情を浮かべると頷いた。

 

「この身で良ければ、いくらでも」

 

「マスターの上司の言葉だ。従わない訳にはいかない。それに、君のあり方は僕にとっても好みだ」

 

「問題なく。まぁ、僕は戦略とかには疎いから助言なんて出来ないだろうけどね」

 

「僕に手伝える範囲で良ければ」

 

「助言はしない。……口を挟むだけならしてやる」

 

「うん、ありがとう。フォワードチームは先に休んでおいて。フェイトちゃんはエリオとキャロと一緒にいてあげて。ティアナたちもそうだけど、エリオとキャロには特に負担が大きかっただろうし……」

 

「……分かった。でも、なのはもすぐに休んでね?ショックが大きかったのは、なのはもそうだし、ね?」

 

「なのはさん、私も同席させてください!」

 

「ティアナ?でも、ティアナも休んだ方が良いよ。これから先、いつでも休んでいられる訳じゃない。休める時に休んでおかないと」

 

「それでも、私は休んでなんていられないんです!……正直、あの戦場はショックでした。でも、これから私たちの動き次第で助けられる人がいるなら、私はその力になりたいんです!」

 

「……分かった。じゃあ、力を貸して?ティアナ」

 

「はい!」

 

 その後、ティアナやなのはと共に今後の方針について話し合った。話し合い終了後、セイバーは空を見上げていた。一人で黄昏ているセイバーの後ろから近付いてきたのは――――ライダーだった。予想外の人物が現れた事にセイバーは少し驚いたが、それでも強く反応する事はなかった。

 

「……セイバー、君は確か未来の英雄なんだよね?」

 

「そうだよ。そういうライダーは過去の英雄なんだっけ?」

 

「まぁね。まさか僕の子孫に早速会う事になるとは思わなかったけど、そういう事もあるよね」

 

「それって……あの子供たちの事?」

 

「そうだよ。僕にも一応子供はいたけど、僕の方が先に死んじゃったからね。その後にどうなったのか……僕にはほとほと分からないんだよ。ねぇ、相棒?」

 

 ライダーがそう言うと、白銀色の鱗の龍が肩に留まっていた。その龍はキャロの相棒であるフリードに酷似していた。セイバーが顎の辺りを撫でていると気持ちよさそうにしていた。そんな龍のあり様にライダーは呆れたように言った。

 

「おいおい、そんな子龍みたいな反応をするほど若くないだろうに。なに?外見に精神まで引っ張られているのかい?」

 

『そのような事を言うな。昔はこれほど美しい女傑に巡り会った事もなかろう。それに、この者中々に撫でるのが上手いぞ』

 

「えっ」

 

 突然聞こえてきたその声に、セイバーは思わず手を離した。その姿にライダーも相棒である龍もケラケラと笑っていた。しかし、驚かざるを得ない程に外見と音声のギャップが酷かったのだ。五歳ぐらいの子供がとんでもなく渋い声で喋ったぐらいのギャップだった。

 

「今は魔力量が多くないからね。そんななりだけど、本来は何百メートル級の龍なんだよ。歳だって僕らみたいな人間じゃ比べ物にならないレベルだしね。見た目ほど若々しくはないよ。まぁ、それは僕も同じだけどね」

 

「それは私もそうだよ。サーヴァントは全盛期の姿で召喚される物だからね。年齢と外見が合わないのは仕方ないよ」

 

「……セイバー、君も薄々感じていると思うけれど。この事件には間違いなく、あのクラス(・・・・・)に在する存在が関与している事は疑いようがない。それは分かるかな?」

 

「……そうだね。私も生前は英霊召喚に関する研究をした事があるから、分かってるつもりだよ。でも、だとすればどうして上位存在が動かないの?」

 

「そうだね……候補がいくつかあるけれど、何から聞きたい?」

 

「ライダーが知っている事を教えてくれれば、私はそれで構わないけど?」

 

 ライダーの言葉に、セイバーは悪戯を思いついたかのような表情でそう言った。セイバーの言葉にライダーは苦笑を浮かべ、空に浮かぶ星を見た。そして何度か顎を指で突いた後、思いついた事から挙げるように口を開いた。

 

「一つは僕らの存在。この世界に存在するように、きっとこれからの世界にもサーヴァントは存在する。そして、その地にいるサーヴァントたちと手を結んで事に挑めば、どうにかなると思われているから。というのはどうだろう?」

 

「理由付けとしては、弱いんじゃない?抑止力はそんなに甘い考えで行動したりはしないよ」

 

「そうだね。他に挙げるとすれば、帝国側も挙げられる。あちらの天剣保持者や女帝は素質だけ見れば、僕らサーヴァントに匹敵する。そして、彼らの気質は『英雄』だ。この危機に対し、傍観しているという事はない。間違いなくね」

 

「……そうだね。彼らは強い。ソロモン王が生きていた頃、ソロモン王の助けがあった場面もあったとはいえ彼らは不敗だった。でも……」

 

「彼らはソロモン王以外の言葉には従わない。今の彼らも見ているのは血統であって、王本人じゃないだろう。彼らが無益と定めれば、特異世界から去る可能性は十二分にある。だからこそ、彼らの行動は些か不可解だ」

 

「彼らは忠義のためなら何でもする人たちだと思うけど?」

 

「天剣や女帝はあくまでもソロモン王に仕える者。彼らは誰の指示にも従わない存在だ。たとえ、それが彼の血統であったとしても、彼らはソロモン王以外の決定には従わない権利がある。そんな彼らがサーヴァント相手にするなんて早々ないさ」

 

 サーヴァントは基本的に一騎当千の相手。場合によっては天剣や女帝ですら敗北する可能性がある。そんな相手に態々挑む事を彼らが自ら決定する事はない。ソロモンが天剣や女帝に求めたのは敗北しない事であって、勝利する事ではないのだ。

 

「だからこそ……彼らに指示した人間がいる。無敗ではなく、最強を天剣や女帝の代名詞にするために。もしかしたら、サーヴァントたちも彼らにとっては踏み台に過ぎない可能性すらあるね。それがどういう意味なのか……君なら分かるんじゃないかい?セイバー」

 

「まさか……」

 

「そう。上位存在が現れない理由……既にその地位にある人物がいるから。僕の中の有力説はそれかな。でも、だとすれば『彼』の行動する意図が見えない。『彼』だけで特異世界など終えてしまえるのに」

 

「……多分、信じてるんだと思うよ。人間は、この逆境を打ち破る事ができるって。過去の英雄ではなく、未来を生きた英傑でもなく、現在を生きる人間だけがこの事態を打開できる。そういう可能性を信じてるんだと思う」

 

「……なるほど。それなら確かに『彼』らしいと言えるだろうね。それで、君はこの後どうなると思う?」

 

「……あの人は欲しい物を確実に手に入れる。その為に必要な事は何でもする人だから……きっと」

 

 セイバーがその先を言いかけた瞬間、爆発音のような物が響き渡った。それと同時に城を固く守っていた城壁の一部と城門が粉々に消し飛んでいた。そしてそこから武装した男女の集団が現れた。

 

「……予告通り、大聖杯を戴きに参った。誰ぞ、おらんのかな?」

 

「そのような強盗モドキのあり様を歓待する者がいると思うのか!?」

 

「そのような事はどうでも良い。我ら、ソロモン猊下の剣なれば騎士のあり様など持たぬ。我らはただ猊下の願いを叶えるだけで良い。それに逆らう貴様らは総て罪人なり」

 

 そう言い放った男は腰に吊るされていた剣を抜き放った。あからさまな敵対行動を繰り返す相手に我慢しきれなくなったのか、兵士の一人が突っ込んで行った。しかし、相手はソロモンから選抜された大騎士だ。たとえ、ソロモンからの評価は低くとも、それでも大騎士と呼ばれるに値するだけの力がある。

 高々城を守るだけの兵士に負けるほど、大騎士は弱くはない。それだけの力がなければ、ソロモンの騎士を名乗る事などできはしないのだ。だからこそ、その場にいた誰もが次の瞬間に首を断たれている兵士の姿をイメージしていた。

 

 しかし――――

 

「まっ、そういう訳にはいかないよね」

 

 予想は外れ、振るわれた剣は弾かれ兵士は放り投げられていた。そして剣を弾かれた大騎士はセイバーに殴られ、吹き飛ばされていた。突如として現れたその女に対し、大騎士たちは警戒心を露わにした――――瞬間、上から強烈な一撃を受けて意識を失った。

 そこには白銀の龍と龍に乗っているライダーの姿があった。虐殺の現場となってもおかしくなかったであろう現場を、たった二人の英霊が制圧した。セイバーとライダーの姿は、その場にいた兵士たちにとって希望となり得るものだった。

 

「ふむ、付き添いは要らないかと思っていたが……そうでもなかったようだな」

 

「……そういうあなたは真っ当な騎士、って感じじゃなさそうだね」

 

 闇から突如現れたその人物の短剣を事もなげに受け止めたセイバー。空を裂くように放たれた拳を躱し、その人物は闇に紛れていった。その瞬間、空間を支配するように咆哮が響き渡る。その咆哮に誰しもが身体を硬直させ、その間隙を縫うようにセイバーが闇に向けて大剣を揮う。

 

「……っと、危ない危ない。なるほど、あなた方があの方の言っていた管理局のサーヴァントたちですか。これは中々に分が悪いようだ。ここは引かせてもらうと致しましょう」

 

「出来ると思う?」

 

「出来る出来ないではなく、やるしかないのですよ。何の成果も残せないどころか逃げ出すしかないのは残念ですが、この場は引かなくてはマスターがあの御方に殺されてしまいますから」

 

「ふぅん……ねぇ、あなたは何て呼べばいいのかな?あなたって呼ぶの分かりにくいんだけど」

 

「……不思議な事を気になさる御方だ。では、こう名乗らせていただきましょう――――『黒のアサシン』と。では、失礼」

 

 黒いフードを身に纏う人物――――黒のアサシンの服が解け、それに続くように真っ黒な霧が広がっていく。焚いている篝火すら覆い尽くすほどの闇を前に、セイバーとライダーは動こうとはしなかった。黒のアサシンがどこにいるのか分からない訳ではない。討伐のために動けば、兵士を皆殺しにすると言外に主張した動きをしているのだ。

 ここで動く事は容易い。しかし、マスターたちが行動するためにはここで動くのは得策ではない。信頼と引き換えにするには、目の前のサーヴァントは弱いと言わざるを得ない。それに、二人は英雄だ。犠牲を許容していても、犠牲を率先して容認している訳ではないのだ。不要な犠牲は失くした方が良いと思っている。

 

 黒のアサシンの気配が完全に消えると、セイバーは剣を振り上げた。その風圧によって霧は完全に吹き飛ばされ、そこにはただ破壊された城壁と城門、そして唖然としている兵士たちだけが残されていた。そして、ある方向を見つめていたライダーは後ろを振り向いた。そこには同じ方向を見ているアヴェンジャーがいた。

 ライダーの視線を受けたアヴェンジャーは心底面倒くさそうにしながら、懐からナイフのついたリボルバーを取り出した。そして、その銃口を先ほどまで見つめた方向に向け、引き金を引いた。しかし、その銃口から何かが放たれる事はなく、アヴェンジャーはそのまま銃を仕舞った。

 

 その頃、アサシンは見晴らしのいい草原を走っていた。既に城のある都市からは数キロ規模で離れている。警戒するとすれば、アーチャーからの狙撃位だがそれでも何かしらの予兆があってもおかしくはない。しかし、そのような兆候がない辺り、逃げ切れたと判断した。

 

「……アサシン、聖杯はどうしたの?」

 

「おっと、これはこれはアンタレス殿。口にするのも憚られるが、失敗だよ。しかし、あのままでは彼らが死んでいた可能性もあったんだ。だから……」

 

「……そう。言い訳はそれだけかしら?」

 

「なに……?」

 

「負けたら死ぬ。当然の事でしょう?寧ろ、猊下の命令を果たせない塵屑など死んで然るべき。そうじゃないかしら?」

 

「……味方が死んでも構わなかったと?」

 

「構わない訳ではないけれど。猊下の命令は何を差し置いても果たすべき物。それすら果たせないのなら、死んで詫びるのが当然でしょう。それが当然だし、その程度の事も出来ない穀潰しなら私か他の天剣に殺されているわよ。つまり、あなたは自ら失点を増やしただけなのよ」

 

「……これは何とも恐ろしい。流石は帝国きっての狂信者集団に属しているだけある、と言うべきですかな?」

 

「狂う程度であの御方に仕える事ができるなら、誰もが狂っていると思うけれど。それで……いいえ、これ以上あなたを責めても致し方ないわね」

 

「ほう。温情を戴き、感謝いたしますと言うべきですかな?」

 

「いいえ?そんな事を言う必要はないわ。だって、あなた――――これから死ぬんだもの」

 

「……は?――――ガッ!?何、を……!?」

 

「私じゃないわよ。凄まじい力量ね。あれだけの遠距離であなたの霊核だけ(・・・・・・・・)を分断するなんて……まさしく神懸った、という言葉が相応しい。世の中にはあんな人間もいるのね。嬉しい誤算、と言うべきかしら?あんなサーヴァントが敵方にいるとはね。猊下に報告できることが増えたわ。ありがとう、アサシン。最後に役立ってくれて」

 

 アンタレス――――シャウラ・C・アンタレスは地に斃れ伏すアサシンに礼を告げた。しかし、礼を告げられたアサシンはそれどころではない。現界するために必要な、文字通りの生命線である霊核を断ち斬られたのだ。死んでしまうまで秒読みとはいえ、その激痛たるや並大抵な物ではない。

 アンタレスの言葉に反応する事も出来ないアサシンにアンタレスはため息を吐いた。そして、懐から銃を取り出しアサシンに向け――――何の躊躇いもなく、その頭を撃ち抜いた。残り数秒程度とはいえ仲間の命を何の躊躇いもなく断ち、アンタレスは城の方に視線を向けた。

 

「ここで戻るのは簡単……でも、何もせずに帰るというのも問題よね。少しは情報集でもしていくとしましょうか」

 

 アンタレスはそう呟くと、いつの間にか握っていた狙撃銃を構える。その銃口を城の方に構え、引き金を引いた。その銃口からは想像しがたい程の質量のエネルギー弾が真っ直ぐに城の方に飛んでいった。何の抵抗もなければ、城を木っ端微塵にしてしまうエネルギー弾はしかし、空中で撃ち落とされた。

 それだけであれば、きっとアンタレスは何も思わなかった。元々、駄目で元々程度の考えで放った弾丸なのだ。数キロ先の敵の急所を分断するなどという神懸っている技量の敵がいるのだ。撃ち落されたとしても何も思わなかっただろう。

 

 しかし、アンタレスは一度に九発の弾丸(・・・・・)を放っていたのだ。同時に放たれ、しかし総て着弾点の違う魔弾。小手調べ程度であったとはいえ、アンタレスに手抜きはない。そのアンタレスの狙撃を、相手は総て同時に撃墜した。ソロモンから認められたアンタレスからすれば、その行為は侮辱に等しかった。

 もし、これが戦場におけるタイマンであれば、アンタレスは再び狙撃しただろう。天剣として、何より狙撃手として、アンタレスには絶対の自負がある。少なくとも、狙撃という領分に関しては誰にも負けてはならないと思っている。それは彼女にとって、誰にも譲れない物なのだ。

 

「覚えておきなさい……私は絶対にあなたを射殺す。あなたを殺すのは私の魔弾だけと知りなさい。アーチャー」

 

「覚えておこう……と言いたいところだけれど。君ほどの狙撃手を忘れる事なんて早々できそうにないから、その点は心配しなくていいよ」

 

 アンタレスの狙撃を射落とした射手――――アーチャーは手に持っていた銃を降ろしながら、そう呟いた。そして、転がっている大騎士たちを放置して転移魔法で帰還していくアンタレスを見送った。それから大騎士たちが転がっている場所を通達し、回収に向かわせた。

 

「さてはて、一日目にしてコレか……これからは中々劇的な日々になりそうだ。これは俺たちも暇を持て余している時間は無さそうだ」

 

 アーチャーはその言葉と共に霊体化し、マスターたちの警護に戻ったのだった。




~ソロモンと作者のQ&Aコーナー~

「そんな訳で最初の特異世界アルフォッグが始まりました。序盤から急展開で申し訳ない。シュトレンベルグです」

「主人公ながら、一度も顔を出さなかったソロモンだ」

シュ「あ、暫くあんたの出番はないんで」

ソ「……そうか。まぁ、それは良い。暫くは天剣たちに任せればいいのだろう。気ままにやらせてもらうとしよう。では、最初の質問へ行くとしよう」

Q.選ばれなかった女帝候補は天剣もしくは他の仕事に継いたの?

シュ「この質問が過去か現在かで内容が変わってくるんですけど、女帝候補たちは天剣にはなりません。天剣は実力、女帝は異能力によって選ばれているからです」

ソ「単純な実力勝負では女帝は天剣に及ばない。異能力を交えた戦闘であれば、奴らは天剣に匹敵するだろうが……物理的な戦闘力で叶うぐらいなら、そもそも天剣になっているだろうしな」

シュ「女帝候補は神官見習いのような扱い、という事になります。ちなみに今の帝国では天剣や女帝の一切存在しません。大量の騎士がいるだけになっています。
望み通りの返答だったかは分かりませんが、こちらの返答は以上になります。では次の質問へ」

Q.初代光華の破壊女帝について聞きますが、どんな人でした?

ソ「ユーリを成長させて、もう少し顔付きを大人っぽくした感じ……とでも言えば良いのか?少なくとも、あんなにポワポワしてはいなかったな」

シュ「まぁ、ある程度は成長してるからね。ユーリは魔法少女に当てはまるぐらいの年齢だし、容姿に関してはしょうがないんじゃない?」

ソ「そうだな。性格に関しては……真面目な人間だな。あいつも多少なりとも狂っている人間だったが、それでも女帝におけるストッパーだったな。煉獄女帝は俺の参謀だったが、一番安心できたのはあいつだったかもしれないな」

シュ「まぁ、まともな枠だしね。話に登場する予定は一切ないけど」

ソ「まぁ、それはそうだろうな。過去の話など早々予定はないのだろう?」

シュ「うん。あんたの親族は出る予定だけど」

ソ「なんだと?お前は今なんと言った?」

シュ「それじゃあ、この質問はこの辺で。では次」

ソ「おい、勝手に進めるな!おい!」

Q.スカさんが指輪はソロモンでも万能では無いって言っていたって言ってましたが、使ってる部分を軽く見ても万能感凄いんだけど、何が出来ないの?

ソ「あるぞ。時間逆行やら因果の改変……世界の根幹や運命への介入は出来ない。総てに干渉する事は出来ない。世界の物資の生産やらは錬金術の一環だしな。万能と言い切るにはまだまだ遠いという事さ」

シュ「それに、指輪の力は魔力ありきですからね。魔力という膨大な量のエネルギーを加工して使用しているだけなんです。なので、干渉できるのはあくまでも表面的な物がほとんど。10個揃うまで、その状態は変わらないです」

ソ「他人から見れば神に等しく見えるかもしれんが、結局はエネルギー転換でしかない。無から有を生み出しているという訳ではない、という事だ。これで良いかな?」

シュ「まぁ、そう言うしかないよね。じゃあ、次の質問へ」

Q.ソロモンって、何歳まで生きたの?

ソ「さて、幾つだったかな?あまりきちんと覚えてはいないな」

シュ「自分の事だろうに……えっと、質問の答えですけども。この王様は大体、70歳前後ですね。100歳とかまで生きた訳ではありません」

ソ「できない訳ではなかったがな。しかし、そこまで長生きしても仕方がないと思っていたからな。俺がそのぐらいでもう良いだろう、と思っただけだ」

シュ「自分で死期も選べる辺り、この王様ヤバいですよね」

ソ「とはいえ、いつかは老衰で死んでいただろうがな。流石に龍種ほどの生命力を持っている、などという事はないさ。では、次へ」

Q.ソロモンってインセントだと、どんな感じになり、どのような立ち位置になるの?今の性格のままなら痛い子認定待った無し確実だよね。

シュ「イノセントのサービス終わっちゃいましたよね。作者としても好きだったので残念です。それで、この王様の立場としてはジェイルの遠縁の天才少年って感じですね」

ソ「身も蓋もない言い方だな」

シュ「しょうがないでしょ。実際、あんたはバグキャラその物だから。どうしたって扱いようがないよ?マスターモードすら素の状態で打ち破るスペックな上に、頭の回転も化け物。どうしろと?恋愛小説でも書けと?こちとら、あんたほどの化け物じゃないけど、それでも化け物を主人公にした作品エタってるからね?(やけくそ」

Q.アミタの事はどうするの?キスまでしたけど。

ソ「どうするとは?結婚するも何も、俺は戸籍がないし結婚などは出来ないぞ。まぁ、それでも良いなら娶る事は構わない。日々に困らない程度の生活は保障するし、贅沢したいというなら別にそれも叶えられん訳ではないが」

シュ「ほんとにこの王様頭おかしい。言ってる事がヤバい」

ソ「おかしいと言われもな……実際、物欲面は叶えられると思うが愛がどうこうという問題を俺がまとめられるとは思えないがな。俺はそういう方面に関しては特に疎いからな」

シュ「まぁ、神に近い代わりに人から最も遠い人間だからね。そういう情念的な物はまったく分からない。だからこそ、不思議だよね」

ソ「何がだ?」

シュ「あんたみたいな奴が育てた子があんなに良い子になるって言うのがさ」

ソ「やかましい。燃やすぞ」

シュ「アッツ!熱い熱い熱い!勘弁してくれよ!」

ソ「要らん事を言うからだろうが。さて、質問はこの辺りで終わりか……こやつは火達磨になったし、質問コーナーはこの辺りで終わりにしよう。それではまた次回」

シュ「(灰から手だけ生えて)サヨウナラ~」

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