外伝・短編集(仮題) 作:幻龍
2500文字くらいで前編と後編の二つしかありません。主人公は一応ザフトの名参謀? キラ・ヤマトの中の人が再び転生した話です。
前編 新生?
前世で原作を崩壊させて自らに降りかかる死亡フラグを全て叩き折り、平和を謳歌し外宇宙を旅したキラ? は最後は平穏の無事のまま人生を終えるときが来た。
(これで終わりか……中々波乱万丈の人生だったが悪くない人生だった……)
こうして外宇宙で機体と共に粒子となって彼は人生に幕を降ろしたのであった。
――筈だった。
「ふぅ……今日はこれぐらいにしておくか」
12歳ぐらいの金髪の少年は手に持っていた剣を地面に刺して近くにあった岩に腰を掛ける。
日課の素振りと一通りの修行を終えて一息ついていた。
彼は水を飲んで喉を潤し、軽い食事をする。
「何でこんなことに……」
その理由はこの世界での自分の状況に由来する。
まず、目が覚めたら寿命が尽きて消滅した筈なのに身体があることに驚き、更に何故か監獄に入れられている境遇に愕然とした。
しばらく、思考停止していると徐々に霧が晴れるかのように頭の中の違和感が取れていき、全てを悟ることになった。
「まさか、RAVEの世界とは……おまけにラスボスであるルシアに生まれ変わるなんて……」
ルシア・レアグローブ。
レアグローブ王国の王族で現行世界の生き残りの血を引く者。DBを極めしダークブリングマスターであり、原作主人公のライバル兼ラスボス。
それが今の自分の境遇である。
(どうしてこうなった? 確かに某宇宙人さんが例の能力を習得した時、生まれ変わる運命にあるとか遠まわしで言っていたような気がしたけど、何でラスボスに生まれ変わったんだ!?)
新たに転生したことにも驚いたが、ラスボスに生まれ変わってしまった己が境遇を呪いたくなる。
幸い前世で得た経験や知識・力等は使える上、シンクレアが力と知識を与えてくれるので確実に強くなっているが、強くなれば強くなるほど自分がラスボスであることを自覚させられる。
「やるしかないのか……」
主人公達を倒して並行世界を消し去るということは、この世界で生きる者達の存在そのものを消すということだ。
戦争やテロ等足元にも及ばない最悪の所業を実行する役目。
例えそれが遂行できても滅んでいる現行世界を再生しなければならないという重労働が待っている。
正に詰みの状態である自分の境遇に半ば絶望したくなるが、冤罪で牢獄にずっと閉じ込められる境遇等御免である。
「だが、俺は死にたくない……」
平行世界とこの世界の人達の為を思うのならこのまま時の流れに任せるだけでいい。
最終的にハル・グローリーが自分を倒すのだから。
しかし、それは自分の消滅=死。消滅させられたエンドレスと融合するせいなのか、ラスボスは消滅するという王道物語のお決まりに従ったのせいなのかはわからないが、最終的にエンドレスと共に自分も跡形もなく消えてしまう。それは自分にとってはバットエンドである。絶対に許容できない。
「フリーダムを出してこの星から脱出する計画はエンドレスに阻まれてできない」
ルシアに生まれ変わったことを知った時、前世で得た能力を使いこの世界を脱出することを考えた。
だが、それはエンドレスというかマザー(シンクレア)に阻まれた。己の役目を果たさない限りそれは許さないと。
並行世界を消し去った後なら好きにしてもいいと言われたが、この最終手段が封じられた所為で並行世界を消滅させる道しか自分には残っていなかったのである。つまり、最初から詰みの状態でどんなに抗っても意味がないのだ。
「逃げ道はない。誤魔化しもできない。生き残る為にやるしかないな」
空を見ながらそう呟き、俺は絶望しそうになる心を奮い立たせる。
これから待ち受ける自分の運命に精神が何度も擦り切れそうになった。だが、最早覚悟を決めるしかない。
「古来より勝った奴が正義。それが万物共通の価値観。それならばどっちが生き残るか戦いで決着をつけるしかない」
尤も勝つだけならそう難しいことではない。
一番簡単なのは魔導精霊力を持つエリー(リーシャ)を始末してしまえばいい。今は魔導精霊力研究所の地下で眠っているが、ジークが襲撃した後エリーは少しの間気絶するからその時を狙って襲撃すれば片が付く。
罪も何もない少女を直接手に掛けるのはなるべくやりたくないが、己が生き残る為なので割り切りしかない。
幸いRAVEは対の関係を徹底させているせいか、自分が勝利してもおかしくない未来も造ることが可能なことが唯一の救いである。
「取り合えず今は力を蓄えるしかない。できれば実戦経験を得たいけどハードナーと戦うことを考えるとな……」
原作知識は基本的に都合のいい所だけ利用し、それ以外は無視するつもりでいる。だから、ハル達が勝手に闇の組織を倒してくれるのなら邪魔をするつもりはない。少なくともドリューはレイヴマスター一行に倒してもらい、そこを襲撃すれば難なくシンクレアを手に入れられる。
一番の問題はBGの首領のハードナーの持つシンクレアの力。持ち主をほぼ不死身にさせる再生力も厄介だが、一番恐いのは、再生の力で敵の今までの傷を全て再生させ、相手を倒す
「この技のことを考えると下手に傷を負えない。だが、地力をつけないと羅刹の剣にやられるからな」
TCM第九の剣・
原作のルシアはシンクレアの力を使いながら、この剣で戦ったハルに手も足も出なかった。
無論最初から全力で奇襲して剣を使わせる前に勝負をつけることもできるが、レイヴマスターであるハルにDBを持つ自分の気配を悟られずに奇襲できる保証はないので、この案はすぐに却下した。
羅刹の剣に対処すべく死ぬ気で修行するか、
3日以上どちら選択すべきか悩んでおり、思考の海に沈むことが修行中に多々あった。
「まだ、時間はある。焦る必要はないか。今はとにかく修行に打ち込んで地力をつける。大怪我を負わない様に注意しながら」
再びネオ・デカログスを手に持ち修行の為だけに生み出したDBを使い、専用空間で誰にも邪魔されずに修行を再開する。
「現行世界が勝つか、平行世界が勝つか。どちらが勝つかは時が交わる日に答えが出るだろう。その時を待っていろレイヴマスター」
前世とは比べ物にならないくらい最悪の状況を打開すべく修行に懸命に取り組む。
破滅の未来を回避する為に手を抜くことはできない。
それが平行世界の破滅と引き換えだとしてもだ。
「国家の安全と国益の為に前世で散々やったのだ。今更いい子ぶるなど寧ろ己の人生の侮辱だな」
誰もいない空間でそう呟きながら、幻術で作られた戦士を斬り捨てるのであった。
最初は話として書こうと思ったのですが、主人公の性格上こうするだろうと結論づけた結果、前編と後編しか書けないことを悟ったのですが、暇つぶしの一環として投稿しました。