ガラクタと呼ばれた少女達   作:湊音

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from :大淀と愉快な仲間達

sub :神通です

湊教官にご相談なのですが、一部の駆逐艦の子達が私に対してどこか遠慮しているような気がします

私ってそんなに怖い容姿をしているのでしょうか?

今日は身体がなまらないようにと訓練を提案したのですが、逃げられてしまいました

川内姉さんにはすごく懐いているようですが、どうも私や那珂ちゃんに対しては怯えてしまっているようです

どうしたら良いのでしょうか?


あだ名は親しみを込めて(2)

「やりました」

 

「あぁ、当たったな」

 

 大湊の提督にお願いしていた道具が届いたので実際に弓の練習をしているのだが、手持ちの矢をほとんど撃ち尽くしてようやく的の端に当てた加賀が自慢げにこちらを見ていた。

 

「それで、命中率は?」

 

「1割無いくらいかしら」

 

 的との距離は30メートルくらいだろうか、実際この距離で1割ってまずい気もするのだが初日で的に当たったと考えれば十分なのだろうか。

 

「うーん、なんかお腹空かない? 朝、少し軽かったかなぁ?」

 

「飛龍、真面目にやらないと怒られちゃうよ?」

 

 蒼龍と飛龍も同じように的目掛けて矢を放っているのだが、やはり中々上手くいかないようで的の周囲に矢が散乱していた。

 

「1度休憩にするか、各自矢を回収したら10分休憩」

 

「分かりました」

 

「「はーい!」」

 

 俺が教える事ができれば良いのだけど、弓を使った経験は一切ない。余り適当な事を言って間違えた方法を教えるとまずいと思ってできるだけ口は出さないようにしているのだが、ただ見ているだけと言うのもつまらなかった。

 

「なぁ、俺にもやってみて良いか?」

 

「それじゃあ私の弓を貸してあげるね」

 

 俺は蒼龍から弓を受け取ると、的に向かって構えてみる。真っ直ぐに的を見つめていると左目が痛み咄嗟に矢を持っている手を離してしまう、放たれた矢は前に飛ぶのではなく明後日の方向に飛んで行ってしまった。

 

「いや、ちょっと目にゴミが入っただけだからさ」

 

「言い訳ですか?」

 

「加賀さん、ここは湊さんの言葉を信用しませんか?」

 

「私は言い訳だと思うけどね」

 

 彼女達の視線が痛い、左目に痛みが走ったというのは本当なのだが今は何を言っても信用してくれないだろう。

 

「それじゃあもう一回行くぞ」

 

 落ちていた矢を拾うと再び的に向かって構える、大きく深呼吸を繰り返し7割ほど息を吸った所で呼吸を止める。そこからは的に当てる事以外は余計な事を考えないように意識を集中させていく。

 

 これから矢が飛んで行く軌道を頭の中でイメージすると、矢を握る右手を離した。俺の放った矢は真直ぐと的に向かって進み地面へと落ちる。

 

「届いてないのだけど?」

 

「届いていれば的に当たってたかな……?」

 

 正直すごく恥ずかしい、内心的に当ててやろうと真剣だったのだが距離が足りないって下手に外すよりも恥ずかしい事をしてしまった。

 

「やっぱり教えてくれる人が居ないと無理なんじゃないかな」

 

「そうね、二航戦の言う通りだと思うわ」

 

「流石にこの時代に弓が使える人間ってほとんど居ないと思うぞ」

 

 これが銃であれば扱える人間は多いし、俺が教える事もできるのだが流石に弓となると扱える人間に心当たりは無い。それでも何か良い案が思いつかないかと悩んでいると胸ポケットに入れている携帯が振動を始めた。

 

「悪い、ちょっと電話」

 

「もしかして彼女さん?」

 

「ただの部下だよ」

 

 茶化してくる飛龍を否定すると、画面に表示されている緑色のボタンを押してみる。

 

 《ヘーイ、教官ー! 私デース!》

 

 てっきり大淀かと思って油断してしまった、突然の大声で耳鳴りがし始める。俺の肩に顎を乗せて盗み聞きしようとした飛龍もその被害にあってしまったらしい。

 

「うるせぇ、何の用だ?」

 

 《相変わらずつれないデース》

 

「まぁ丁度いい、大淀に代わってもらえるか?」

 

 《うー、教官は大淀の方が良いんデスカー?》

 

 なんというかめんどくさい。暇なときになら付き合ってやっても良いのだが、今は横で俺に聞こえないように何かを話している蒼龍と飛龍の視線が気になって仕方が無い。

 

「今度相手してやるから今は代わってくれ、ちょっと確認したい事があるんだ」

 

 俺が真面目な話をしていると察してくれたのか2度目は素直に大淀に代わってくれたようだった、上手く聞き取れないが電話先で大淀に文句を言っている金剛の声が聞こえてくる。

 

 《はい、大淀です。 どうしましたか?》

 

「ちょっと聞きたい事があるんだけど、お前達って飯とか食わなくても大丈夫なのか?」

 

 正直赤城の状態を考えると真っ先に疑問に思ったのはそこだった、点滴や胃にチューブを通して無理やり栄養を摂取させれば眠り続ける事も可能だとは思うのだが、それも無しで長時間眠り続けると言うのは可能なのだろうか。

 

 《少しくらいなら大丈夫ですけど、基本的には人と変わらないので食事は必要ですよ。 艦種によって食事量に差があるという話は聞いたことありますが、何も口にしなくても大丈夫という話は聞いたことありませんね》

 

「そうか、てっきり冬眠とかできるのかと思ってた」

 

 《私達は熊じゃ無いんですから……》

 

 大淀には否定されてしまったが、赤城は冬眠に近い状態なのかとも考えて居た。

 

「艦娘について詳しい人間を知らないか?」

 

 《それはどういう意味でしょうか?》

 

「艤装の開発も勿論なんだが、身体の構造について詳しい人間が好ましいな」

 

 よく考えたら彼女達の身体の構造について知りたいと言う発言はどうなのだろうか、実際真面目な会話なのだが心なしかこちらを見ている蒼龍達の目が冷たい。

 

 《うーん、詳しい事は分かりませんが1人心当たりはあります。 少し変わった方なのですが間違いなく私達の身体には詳しいと思います》

 

「教えて貰っても良いかな、割と急用なんだ」

 

 俺は大淀が教えてくれた電話番号を木の枝を使って地面に書いていく、横須賀鎮守府の工廠への連絡先らしいが技術員でも居るのだろうか。

 

「ありがとう、連絡してみるよ」

 

 《たまには湊さんから連絡してあげてくださいね、寂しがってる子も多いですよ?》

 

「あぁ、気が向いたらな」

 

 俺はそれだけ言って通話を終わらせる、大淀には少し変わっている人だと聞いたが正直今まで出会って来た子達よりも変わっている人間などほとんど居ないと思う。俺はそんな事を考えながら地面に書いた数字を携帯に入力していく。

 

「こちら大湊の湊少佐です、艦娘について詳しい方がそちらにおられると聞いて連絡をしたのですが」

 

 《あぁ!? このクソ忙しい時に何の用だ!》

 

 何度目かのコール音の後に通話が繋がった音が聞こえてきたのだが、こちらが自己紹介してやったというのに急に男に怒鳴りつけられてしまった。

 

「艦娘についてお聞きしたいことがあるのですが」

 

 《そんなの知るかよ! 他所に当たってくれ!》

 

 男はそれだけ言って通話を切ってしまったようだった、いきなり通話を終わらせると言うのは何度か金剛にやった記憶があるが予想以上に頭に来る事に気付いた。

 

 そんな事を考えながらもう1度連絡しようとしたが、それよりも先に再び携帯が震える。画面に表示されている番号は地面にかかれた番号と同じだし、かけ直してくれたのだろうか。

 

「はい、こちら湊です」

 

 《もしもーし、こちら横須賀守府第一工廠ですがー。 先ほどのご用件は何でしょうか?》

 

 どうやら先ほどの男とは違う人らしい、電話先からは女性の声が聞こえてきた。

 

「急な連絡で申し訳無いのですが、そちらに艦娘に詳しい方が居ると聞いて連絡させてもらいました」

 

 《んーと、修理とか工作機械の手入れとか、色々やることあるから忙しいんですけど……》

 

「忙しいのは重々承知しています、しかしこちらも急ぎで艦娘について確認したい事があるんです」

 

 先ほどの男も忙しいと口にしていたからには忙しい事は既に理解している、しかし赤城を起こすためにもここで通話を終わらせるのは流石に困る。

 

 《急ぎですか、どのような状態なんですか? 中破以上は流石に各鎮守府にある入渠施設を使ってもらうしかありませんが》

 

「艦娘が眠ったまま起きないんです、息はしているし声も届いているようですが」

 

 俺は簡潔に赤城の状態について電話先の女性に伝える、なんとなく個人名だけは言わない方が良いと思って微妙に誤魔化しておいた。

 

 《なるほど、聞いたこと無い症状ですね。 基本的には艦娘も人と同じで食事や睡眠をとる必要があります、艤装を動かす際や修理をする際に燃料や鋼材を使用しますが艤装を外した状態であれば普通の人間と同じだと考えても良いですよ》

 

「やっぱりそうですか、起こす方法って聞いたこと無いですかね?」

 

 女性の説明を聞く限り、俺の予想と大体一致していた。これが彼女達特有の病や故障と言った状態であれば俺には手の付けようがなかったのだがそうじゃないなら、まだ可能性はあると思う。

 

 《残念ですが、事例が無いのでなんとも言えませんね。 私個人としてはどうして起きないのかという事より、どうして眠り続けられるのかが気になる所ですけど》

 

「どういう事ですか?」

 

 《艦娘になるための適性検査って、事前に持病が無いかとかも確認するんですよ。 一応眠り病って呼ばれる病気もあるようですけど、そんな持病があるのならそもそも艦娘に選ばれる事も無いでしょうしね》

 

 艦娘になるのも大変なんだなと感心してしまう、俺も軍に入る際に身体の検査や水虫のチェックなんかもやられたが、それ以上に艦娘になるには細かい確認があるのだろう。

 

 《それで何ですが、そうして眠り続けるって何か外部的な要因があるような気がするんですよね》

 

「外部的な要因ですか」

 

 《実際直接見た訳じゃないので分かりませんが……、ってクレーンにあまり触ったら危ないって! えっ? 電話が長い? 分かりましたよー!》

 

「あまり時間を取らせる訳にもいかないので、大丈夫です。 聞きたいことは聞けましたのでありがとうございました」

 

 何やら電話先でガチャガチャと鉄のぶつかるような音が聞こえる、これ以上向こうの仕事の邪魔をする訳にもいかないしこの辺で話を終わらせておいた方が良いだろう。

 

 《申し訳無いです、それでは何か新しい事が分かったら教えてくださいね》

 

「最後に名前だけでも……、切れたか」

 

 もう1度連絡するのであれば名前を聞いておこうと思ったのだが、それよりも前に通話を切られてしまった。

 

「何か分かったの?」

 

「少し気になる事は見つかった」

 

 質問をしてきた加賀にそう答える、赤城を起こすことに関しては正直なんの回答も貰えなかった。その事を伝えると加賀は少し寂しそうな表情をしたような気がした。

 

「それじゃあ練習の続きをしようかしら」

 

「私達も続きやろっか」

 

「多く当てた方に少なかった方が晩御飯を奢るってどう?」

 

 3人は弓を持って立ち上がると、再び的目掛けて矢を放ち始めた。俺は地面に座り込むとこの鎮守府に来てからの事を思い返してみる。

 

 大湊の提督は彼女達にかなり友好的だとは思う、少しふざけた所もあるが龍驤なんかは特に好意的に接している。俺が提督になる事に関しても協力的だとは思うのだけどだからこそ1つの違和感ができてしまった。

 

「なんや、随分と難しい顔しとるな」

 

「龍驤か、どうしたんだ?」

 

 考えて居るとビニール袋を持った龍驤が話しかけてきた、それとなく中身を確認すると人数分のペットボトルが入っているようだし差し入れを持ってきてくれたのだろう。

 

「1つ聞いても良いか?」

 

「なぁに? 真面目な話やったら場所を変えるけど?」

 

「どうして赤城の事を黙っていたんだ?」

 

 彼女達に友好的で俺が彼女達の提督になるという事も理解してくれている、だったらどうして提督は俺に赤城の事を黙っていたのだろうか。それだけじゃない何故赤城を起こそうとしないのだろう。

 

「あぁー、何や……その、うちらも黙ってた訳じゃ無いんよ。 いきなり赤城の事を教えて暗い気持ちになっても困るやろ?」

 

「そうだな、それもありえない話じゃ無いと思う。 もう1つ聞くけど横須賀の技術員が赤城について調べてみてくれるらしいんだけど大丈夫だよな?」

 

 実際そんな約束なんてしていないけど、龍驤の態度を考えるに引っかけてみる価値はあるだろう。

 

「うちが決めてええ話じゃ無いし、なんとも言えんかなぁ」

 

「そうか、ちょっと直接提督と話をしたいんだが大丈夫か?」

 

「い、今は次の作戦に備えて準備してるみたいやし、もうちょっち後の方がええかなぁ」

 

 完全に否定してくれたのなら話は早かったのだが上手い事はぐらかされているような気がする、逆に考えれば俺に肯定して来ないという事は赤城を起こすことに関して肯定的ではないようにも思える。

 

「作戦?」

 

「北海道への海路を確保しようって作戦なんやけど、兵装も不足しててちょっち手こずってるみたいやね」

 

「成功しそうなのか?」

 

 近隣海域とは言え確保となるとかなりの規模の作戦になると思う、ただ通るだけなら行きと帰りの2度敵を撃退したら問題無いが確保となるとその後の防衛についても考える事も必要になってくる。

 

「あの人の考えてることは分からんけど、負ける試合はせん人やし大丈夫やと思うけどなぁ」

 

「いつ始まるんだ?」

 

「まだ未定やね、数日に分けてやるって言ってたし長期戦になるかもしらんなぁ」

 

 加賀達の様子を見る限り今回は彼女達の出番は無いと思う、簡単な偵察なんかはできるとは思うけどリスクを考えれば下手に出撃しない方が良いように思える。

 

「ちょっと提督と話をしてくるよ」

 

 俺を引き留めようとした龍驤を無視して俺は執務室に向かう、作戦について色々と聞いてみたい事もあるけど赤城についても少し話をしておいた方が良いだろう。そんな事を考えながら歩いていると会いたくない男に出会ってしまった。

 

「女相手にだらだら話していて給料が貰えるなら俺も少しは仲良くしておくべきだったな」

 

「大尉は逆に女性にだらだら話を聞いてもらってお金を払う方が似合ってるように思いますが」

 

 流石に前回のように手を上げてくることは無かったが、やはり俺の事が気に入らないのかこちらを睨みつけてきている。

 

「あんま調子に乗るなよ、てめぇが良い思いをするのも後ちょっとだろうしな」

 

「どういう事ですか?」

 

 大尉は俺の質問には答えずむかつく笑みを浮かべながら歩いて行ってしまった、何か意味ありげな事を口にしていたし注意しておいたほうが良いのだろうか。追いかけて問いただしても良いのだが今はそれよりも提督と話をした方が有意義だろう。

 

「失礼します、少しお話があるのですが」

 

 執務室に入ると提督と見慣れない制服を着た男が話をしていた、陸軍でも海軍でも無いようだが一体何者だろうか。

 

「お久しぶりです、湊さんもお元気そうで何よりです」

 

 男は俺の事を知っているようだったが、生憎俺はこの男を知らない。久しぶりだと言われたからにはどこかで会った事があるのだろうか。

 

「この男は大本営から派遣された憲兵だ」

 

「憲兵ですか、何か問題ごとでも?」

 

 憲兵と呼ばれる支援科がある事は知っていたが基地で余程の問題を起こさない限りは、基本的には口出ししてこないと聞いている。

 

「提督には軍資金の着服や、部下への不当な扱いの容疑がかけられています。 これから調査を行ってから結果を出しますが、しばらくは行動に制限がかかりますのでご了承ください」

 

「分かった、作戦も控えておるのであまり時間を無駄にしたくは無いのだけどな」

 

 あの男が俺に言っていたのはこの事なのだろうか、随分と汚い手を使って来た物だ。

 

「それでは私は部下を待たせて居ますのでこれで失礼します」

 

 まずい事になった、憲兵が彼女達に対してどちらの考えを持っているかは分からないが、彼女達のために作った宿舎や食堂がどう判断されてしまうのだろうか。それに山になった嘆願書の量を考えると部下に対して不当な扱いを行っていると思われてしまうのでは無いのだろうか。

 

「疑っている訳ではありませんが、本当に着服しているんですか?」

 

「まさか、宿舎も食堂もほとんど儂の金だ。 許可は大本営に取っておるし問題にはならん」

 

 この男が実費で彼女達のための施設を作ったと聞いて驚いてしまった、何がこの男をここまでさせているのだろうか。

 

「赤城について話をしておきたかったのですが、日を改めた方が良さそうですね」

 

「すまない……」

 

 提督からはいつものふざけたような雰囲気は全く無かった、施設に関しては問題無いのだろうがやはり部下への不当な扱いと言った点で不安を感じているのだろう。何か手を打たないといけないだろうし、俺も今は大人しく撤収する事にした───。




to :大淀と愉快な仲間達

sub :定期報告なのか?

なんだか悩み相談みたいになってるな

以前訓練を担当したと報告を受けているがその時はどんな訓練をしたんだ?

俺としては教官は下手になめられるよりも怖がられるくらいが丁度いいとは思うけど、それで距離を開けられるようなら少しまずいな

まずは訓練生の話をしっかり聞いて、その子達のために厳しく接しているんだと互いに信頼関係を築くことが大切だと俺は思ってる。

なんか真面目な話になったけど、要は訓練をする前にはしっかり仲良くなってからって事だな

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