ガラクタと呼ばれた少女達   作:湊音

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私だって一人前のレディなんだから少しくらいは大丈夫よ!

止めた方が良い?

でも、那智さんも足柄さんも美味しそうに飲んでるし少しくらいは……。

ま、まぁ想像通り大人な味ね。

……誰かお水! 喉が焼けてるみたいに痛い!

えっ? ジュースを混ぜて飲むと飲みやすい?

そうなの……?

確かに少し飲みやすくなったかも……?

これで私も1人前のレディの仲間入りね!


お風呂とお酒(2)

「霧島って綺麗な目をしているな」

 

「あ、あの教官? 近くないですか……?」

 

 比叡お姉様に言われて教官にお酒を飲んで頂いたのは良いけど、何やら様子がおかしい。と言うより近いです!非常に近いです!

 

「教官! それ以上は見過ごせませんよ!」

 

 比叡お姉様が必死に私と教官を引きはがそうとしてくださっていますが、教官はそれに逆らうように私の腰に回した手の力を強めているようでした。

 

「後で相手をしてやるから比叡は大人しくしていろ、今の俺には霧島しか見えないんだ」

 

 男の人に抱き締められるというのは初めて経験しましたが、結構悪くないですね……。

 

「べ、別に相手をして欲しいなんて言ってないじゃないですか! 良いから霧島から離れてください!」

 

「比叡はああ言っているが霧島はどうして欲しい?」

 

 耳元で囁くような教官の言葉に私はなんと答えれば良いのか悩んでしまう、教官は金剛お姉様の想い人です、間違いなく今の状況はお姉様を裏切る行為だと思う。それでも後少しくらいはこのまま抱き締めてもらって居ても良いのでは無いのでしょうか?

 

「霧島も何顔を赤くしてるんですか! いい加減離れてくださいよー!」

 

「あ、あの……。 もう少しだけこのままでも私は構わないのですが……」

 

「そういう事だ、本人が嫌がってないのであれば何の問題も無いだろう?」

 

 教官の手が私の頬に触れます、出撃する前よりも胸が高鳴っていてとても苦しいです。一体この気持ちは何なのでしょうか。

 

「眼鏡、外しても良いか?」

 

「は、はいっ……!」

 

「ひ、ひえー! 誰か教官を止めてくださいぃぃぃ!!」

 

 まるでガラス細工でも扱うかのような慎重さと優しさで私の眼鏡を外した教官は、私の気持ちを見透かしているかのようにまっすぐと私の目を見つめてくれている。心臓が破裂してしまいそうな程強く脈打っているのが教官に知られてしまいそうで恥ずかしい。

 

「緊張しているのか?」

 

「少しだけ……」

 

「妙高さーん!? 叢雲さーん!? どこですかー!」

 

 教官の顔がゆっくりと近づいてくる、これはまさか接吻というやつなのでしょうか!?い、息は止めておいた方が良いのでしょうか?いや、そんな事よりこれ以上は流石にまずいのではないでしょうか!

 

 そんな事を考えながら私は目を閉じると、教官の次の行動を待つ。結局息は止めてみたのですが、額に柔らかな感触を感じた。

 

「えっ……、額ですか……?」

 

「なんだ、霧島は唇が良かったのか?」

 

 言葉されると一気に顔が熱くなってきました、私は一体何を期待していたのでしょうか。恥ずかしさを誤魔化すように頭を振ってみたが、教官は乱れた私の前髪を撫でるようにして直してくださりました。

 

「き、教官……。 私もうダメみたいです……」

 

「霧島ー! 気をしっかりー!」

 

 極度の緊張で意識が遠くなってきました、金剛お姉様には申し訳ありませんがこのまま教官の腕に身を任せるというのも悪くは無いですよね───。

 

 

 

 

「眠ってしまったか、久しぶりの出撃で疲れていたんだろうな」

 

「あのー……、教官さん大丈夫ですか……?」

 

 教官さんは霧島さんを椅子に座らせると、数度頭を撫でて再びお酒を飲み始めてしまいました。先ほどはお酒は強くないと言っていたはずなのに、水でも飲んでいるかのようなペースで瓶の中身を減らしていきます。

 

「心配してくれるのか、羽黒は優しいな」

 

「い、いえ。 優しいだなんてそんな……」

 

 いつもは割とムスっとした表情で居る事が多い教官ですが、優しく微笑みかけるような表情もできるんだなと目を奪われてしまいました。

 

「俺の顔に何かついてるかな?」

 

「そ、そうじゃなくて。 あの……ごめんなさいっ!」

 

 気まずくなって逃げ出そうとした私の手を教官が掴みました、必死で振り払おうとしたのですが先ほどの笑みとは逆にとても悲しそうな表情をしているのに気付いて抵抗をやめてしまいます。

 

「羽黒は俺が嫌いなのか……?」

 

「べ、別に嫌いとか好きとか……、どちらかと言えば嫌いの反対と言いますか……」

 

「なら逃げないで欲しい、羽黒に逃げられるととても胸が苦しくなるんだ」

 

 どういう意味なのでしょう。いえ、分かってはいるのですが明らかに教官さんの様子がおかしいです。お酒に酔うと本音が出ると姉さん達から聞いたことがありますが、これが教官さんの本音だとしたら……。

 

「羽黒はもっと自分に自信を持つんだ、謝ってばかりじゃ折角の美人が台無しだぞ」

 

「び、美人!? そ、そんな私は姉さん達に比べると子供っぽいですし……」

 

「それも羽黒の可愛らしさの1つだろ、守ってやりたくなると言うか頭を撫でてやりたくなると言うか、とても魅力的だと思う」

 

 教官さんが私の頭を撫でるのを黙って耐えます、別に痛いとか辛い訳じゃないのですが少しでも長く撫でてもらいたいと言うか……。

 

「湊教官、お酒に飲まれて部下に手を出すと言うのはいかがな物かと思いますが?」

 

「羽黒さん、妙高さんを連れてきましたよ!」

 

 比叡さんが妙高姉さんを呼んで来てくれたようでした、私としてはもう少しこのままでも良いかなと思っていましたが、誰かに見られていたという事を思い出して私は走ってその場から逃げ出しました───。

 

 

 

 

「すまない、どうにも俺の周りには魅力的な女性が多すぎてな」

 

「お説教はしたくはありませんが、少しお話いいですか?」

 

 嫌がっている子は居ないようなので問題は無いと思いますが、これ以上はこの基地の風紀の乱れに繋がる事が容易に想像できます。ここは1度湊教官には落ち着いてもらった方が良いでしょう。

 

「それじゃあ2人きりになれる場所へ行こうか、君の言葉を聞き逃すなんて事はしたくないからな」

 

「い、いえ。 別にこの場でも問題は無いのですが……」

 

 教官は2つある空のグラスにウィスキーを注ぐと、1つを私に手渡してきた。何かあった時に対応できるようにと飲むつもりは無かったのですが、上官に勧められた以上は断るのも悪いでしょうか。

 

「君には本当に感謝している。 佐世保からの帰り道で君が俺の元で戦ってくれると言ってくれた事は本当に心強かった」

 

「その件はお互い様です、私達があなたに救われている事も事実ですから」

 

 行動を改めるようにお話するだけだったはずなのですが、なんだか妙な雰囲気になってしまった。決して恥じる発言では無いのですが、こうして改めて言葉にされると少しだけ照れてしまう。

 

「今回の作戦はたまたま上手く行った、しかし次も同じように全員で生きて帰れるとは限らない……、不安なんだ」

 

「湊教官の仰る言葉も分かりますが、あまり弱音を吐くのはみっともないですよ。 私達はあなたの期待に応えられるように努力をする、だからあなたは胸を張って私達が帰って来ることを信じてくれていれば良いんですよ」

 

「ありがとう、妙高は良い女だな。 男をやる気にさせる女ってのは貴重な存在だよ」

 

 私達はグラスを打ち合わせると中に注がれていた液体を口に含む。優しい木の樽の香りが口の中に広がる、湊教官が子供のような笑顔を浮かべてこちらを見ていたので私もそれにつられて笑ってしまう。

 

「これからもよろしくな」

 

「はい! この妙高、期待に応えられるよう誠心誠意努力しますね」

 

 湊教官は空になったグラスを軽く持ち上げると、歩いて行ってしまった。欠陥兵器だと蔑ろにされていた私達だけど、こうして私達と共に悩み歩んでいける相手が居るのであればここで腐る訳にもいかない。

 

「明日からも頑張らないとですね」

 

 先ほどの湊教官の笑顔を思い出して頑張って行こうと改めて自分に言い聞かせる。何か目的を忘れてしまっている気もしますが、今はこの暖かい気持ちを何度も噛み締めて居たかった───。

 

 

 

 

「ねぇ、教官? さっきのは一体何のつもりだったのかな?」

 

 僕は比叡さんから港教官が霧島さんに抱き着いたという話を聞いて、本人に理由を尋ねる必要があると思った。

 

「さっきのって何のことだ?」

 

「霧島さんに抱き着いたって聞いたけど?」

 

「何か問題があるのか?」

 

 問題があるような気がするけど、確かに何が悪かったかと聞かれてしまえば良く分からない。なんとなく湊教官が他の人に抱き着いたという行為が嫌な気持ちにさせている原因だとは分かっているのだけど、それを嫌だと思ってしまうのは僕の我儘なのかもしれない。

 

「じゃあ、はい」

 

「両手を広げてどうした?」

 

 あれ?酔った勢いで色々な人に抱き着いているのだと思ったけど、違うのかな?僕を抱き締めるように促してみるけどまったく反応してくれない。こうなったら僕の方から行くべきなのかなとも思ったけど、両手にグラスを持った山城がこちらに歩いて来た。

 

「欠陥戦艦とか艦隊にいる方が珍しいとか、どうせ私は役に立たない戦艦ですよー……」

 

「……もしかして飲んでる?」

 

 山城はお酒は飲まないと言っていたはずだけど、顔がほんのりと赤みを帯びているような気がする。

 

「飲んでないわよー! テーブルに置いておいたはずのお茶が変な味がしただけね、まったく不幸だわ……」

 

「だ、大丈夫……?」

 

 着物が若干はだけてしまっているし、同性の目から見ても酔った山城は妙な色気があるように感じてしまう。ふらふらと歩いている山城が心配になって支えようとしたのだけど、先に山城の肩を抱いたのは湊教官だった。

 

「大丈夫か、あまり飲み過ぎは良くないぞ」

 

 いや、湊教官がそれを言うのはどうかと思う。明らかにいつもと違うし少し話しただけで相当飲んでしまっている事が分かるくらいお酒の匂いがするし。

 

「うるさいわね……、私なんて囮くらいにしかならない役立たずよ……」

 

「それは違う、佐世保で君が囮になって居る姿を見たが仲間を守るんだって強い意志を感じた。 例え性能が悪くたってその気持ちが俺は何よりも大事だと思う」

 

「意志だけじゃ何にもならないわよ……」

 

 良く分からないうちに2人だけの世界に入ってしまった。僕が2人の名前を呼んでみてもまったく相手にされない。

 

「俺は君を高く評価している、俺が君の傍に居る限りもう誰にも欠陥戦艦とは呼ばせない。 約束するよ」

 

「そ、そんなの信じられる訳無いじゃない……。 私なんかを使うくらいなら金剛型の人達を使った方が……」

 

「今は他の子なんて関係ない、俺は山城に期待していると言っているんだ。 それを信じてくれるかどうかの話をしている」

 

 湊教官、その手は何だい?気安く女性の腰に手を回すものでは無いと思うんだ。山城も不幸だ不幸だ言いながら湊教官に寄りかかるのは止めた方が良いよ?

 

「防御力も速力も無い私だけど、信じても良いのかしら……?」

 

「不足している部分があるなら補うために努力をしたら良い、だからいつまでも不幸だと後ろを向くのでは無く一緒に前を見て頑張って行こうじゃないか」

 

 うん、良い話だね。でも僕を無視するのはいい加減やめてくれないかな?

 

「……み、湊教官」

 

「山城……」

 

 それ以上はダメだよ?いい加減離れないと怒るよ?2人の顔がゆっくり近づいていくのを見て僕の苛立ちは頂点を迎えた。

 

「君たちには失望したよ……」

 

 僕は湊教官と山城の脇腹を摘まむと思いっきり指に力を入れる。突然の痛みに我に返った2人に水の入ったグラスを押し付けると山城を連れて少しでも湊教官から離す事にした、山城の酔いが醒めたら何から話そうかな───。

 

 

 

 

「本日はお疲れ様でした」

 

「那珂ちゃんのステージ見てくれたかなー?」

 

 那珂ちゃんのステージのお手伝いが終わった私は2人で教官へと挨拶をしようと彼の元を尋ねました。

 

「神通に那珂か、そっちこそ良いステージだったぞ」

 

 食堂の一角に食料品の箱を並べただけのステージでしたが、那珂ちゃんが楽しそうで何よりでした。教官も随分と飲まれているようですし、本当に楽しんでくれていたのであれば準備した甲斐がありました。

 

「那珂ちゃんはー、みんなのものなんだからー、そんなに触っちゃダメなんだよー?」

 

「すまない、つい可愛らしくて頭を撫でてしまった」

 

「那珂ちゃん、教官は善意で撫でてくださったのでしょうし、あまり邪険にするのも悪いですよ?」

 

 那珂ちゃんはアイドルは1人のファンを贔屓する訳にはいかないからねと一言残して川内姉さんの元へ行ってしまいました。

 

「姉を頼むと言われたけど、川内には助けられてばかりだったな」

 

「び、びっくりしました……、まさか覚えて下さっているとは思いませんでした」

 

「あの時は返事はできなかったけど、心の中じゃ絶対に無事で川内達を基地に送り届けないとって覚悟したんだよ」

 

 そう言って教官は優しく頭を撫でてくれました、どこか物寂しそうな表情に私はどうしてそのような表情をしているのか聞いてみたいと思った。

 

「あの…教官、そんなに触られると、私、混乱しちゃいます……」

 

「すまない、つい昔の事を思い出してしまった。 さっき那珂に怒られたばかりなのに俺はダメだな」

 

「そ、そんな事無いです……。 教官の手はとても暖かく……、上手く言えませんがとても安心しました」

 

 きっとこの方は私達が想像もできないような辛い過去を持っているのかもしれません、表情こそ悲しそうでしたが、頭を撫でる手からは優しさを感じさせるような温かみを感じました。

 

「挨拶が遅れちゃったけど、これからもよろしくな」

 

「はい……。 こちらこそどうかよろしくお願いします」

 

 頭から離れていく手に若干の寂しさを感じてしまいましたが、川内姉さんがこの人について行きたいと言い出した気持ちが少しだけ分かった気がします。とても不思議な方ですが、ぶっきらぼうな態度の中には確かな優しさを持った方なのだと知ることができました───。

 

 

 

 

「お姉様こちらです!」

 

「教官! どういう事デスカー!?」

 

 正直比叡の話を聞いたときは耳を疑いたくなるような内容でした、私の色仕掛けに乗らなかった教官がどうしてそのような事をしているのか、俗にいうお酒の勢いというやつなのでしょうか。

 

「こ、これはどういう事デース!?」

 

 間違えてお酒を飲んでしまった暁を宿舎へと運んでいる短い間でしたが、あれだけ騒がしかった食堂も静まり返っていました。艦娘達は上の空となり何やらブツブツと呟いている子も居れば、両拳を握りしめ静かに闘志を燃やしている子も居る。

 

「雷電は何を怒っているのデスカ……?」

 

「名前をまとめないでよ! 私だって後数年もしたら立派な女性になってるんだから……!」

 

「雷ちゃんも一緒に牛乳を飲むのです! いつか戦艦や重巡の人達を見返してやるのです!」

 

 何やら完全に自分の世界に入ってしまっているこの2人にはこれ以上関わらない方が良いだろう、それよりも問題は今まで見た事が無い程緩んだ表情をしている霧島と榛名だった。

 

「霧島、榛名! しっかりするデース!」

 

「流石は教官……、私のデータ以上の方でした……」

 

「は、榛名は大丈夫……じゃないですぅ……」

 

 2人の肩を掴んで揺すってみてもどうにも反応がおかしい。一体何があったと言うのだろうか、周囲を見渡してみれば時雨が山城に正座させて居たり、妙高や神通が自身の妹達に何か説教をしているようでした。

 

「比叡、教官は何処に……?」

 

「分かりません、一体何処に行ってしまったのでしょうか……」

 

「湊教官なら風に当たりたいって外に行ったわよー?」

 

 天龍を背負った龍田は教官が外に行ったと教えてくれた。顔を真っ赤にした天龍も気になりますが、龍田も表情には出ていないが耳が赤くなっているような気がする。

 

「何があったか聞かせて欲しいのデスガ……?」

 

「抱き締められるってのも案外悪くないものねぇ、天龍ちゃんはすぐに倒れちゃったけど♪」

 

「教官ー、何してるデース!? 比叡は皆を正気に戻してくれるカナ……? この際バケツで水でもかけてやってくだサーイ!」」

 

「ひ、ひえー!」

 

 私は食堂から飛び出すと教官を探す、風に当たりたいと言っていたようだし恐らくは桟橋辺りにでも居るのだろう。教官が皆と仲良くすること自体は良いとは思うのだけど、私には冷たくしたくせにどういうつもりなのだろうか。

 

「うぅ~! 何で私じゃダメなんデスカ……?」

 

 ネガティブな思考に負けて足が止まってしまう。私が教官に理由を尋ねても嫌われてしまう可能性もある、嫌われてしまうよりは今日の事はこれ以上触れない方が良いのでは無いでしょうか。

 

「でも、諦めたく無いデース……」

 

 少しずつだけど足を動かす、ここで諦めてしまえばきっとこれ以上教官にとっての特別にはなれないような気がする。もっとリラックスするようにと言われてから、私は本当の私になるために自分の感情を押し殺す事をやめた、ここで教官の事を諦めてしまえば再び昔の自分に戻ってしまうような気がする。

 

「見つけマシタ。 隣、座っても良いデスカ……?」

 

 予想は当たっていたようで、教官は桟橋から足を投げ出すようにして海を眺めていた。教官は返事をしてくれなかったけど、私も隣に座る。

 

「比叡から話は聞きマシタ、一体どういうつも……り?」

 

 教官の顔を見た瞬間私は黙ってしまった、どうしてこの人は泣いているのだろう。そんな事を考えていると、突然教官が私の膝へ頭を乗せてきた。

 

「さ、触ってもイイけどサー、時間と場所をわきまえなヨー!」

 

 突然の事に胸が高鳴る、男の人の涙は初めて見ましたがここは何も聞かない方が良いのかもしれない。きっと何も知らずにこの基地に来て、自分の指示で少女達を危険な戦場へと送り出す、それだけじゃなくこの人は自分の命をかけてでも作戦を成功させようとしてくれた。

 

「お疲れ様デース……」

 

 きっとそれは私が思っている以上の重圧なのだと思う、もしかしたら今日の騒ぎもその重圧から解放された結果なのかもしれない。私は寝息を立て始めた教官の頭をそっと撫でてみる、少しチクチクとした髪質だけど、それがなんだか可愛らしく感じた───。

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ、頭が痛い……。 吐き気もする、一体何があったんだ……」

 

 着信を知らせる電話の音で目が覚めると俺は何故か執務室に居た、丁寧に布団まで敷かれているという事は誰かが俺をここまで運んで来てくれたようだがまったく思い出せない。

 

「はい、こちら鹿屋基地の湊ですが……」

 

 俺は何度か咳ばらいをして声を整えると電話に出る。しかし電話先の相手が分かると一気に眠気が吹き飛んでしまった。

 

「儂だ、改めて先日の作戦の成功を褒めてやろうと思って連絡したのだが、まさか今の時間まで眠っていたとでも思えるような声だな」

 

「し、失礼しました! 今朝まで作戦での問題点や消費資材をまとめておりまして……」

 

 まずい、絶対にばれてる。恐る恐る時計を見てみるとすでに昼前になってしまっているし、作戦が成功したからとだらけているのでは無いかと叱られる事も覚悟する。

 

「まぁ良い、貴様の今後について呉の狸を含めて話し合いが開かれる。 貴様は陸軍に戻るか海軍に移るかはっきり決めて置け」

 

 爺はそれだけ言って電話を切ってしまった。確かそんな話もあったなと思い出す、陸軍へと戻り自らの手で戦うのか、海軍に移って少女達に戦ってもらうのか、俺の答えは───。




第1章としてはこれで終わりです。

艦娘との出会いから、初めての作戦完了までです。

結構長い間書いている気分でしたが、実は小説の中では1週間という短い期間しかたっていませんでした……。

2章以降の進め方に関しては、活動報告の方に書かせていただきますので興味のある方は1度目を通していただけると嬉しいです。

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