陽気なガールは転生したのちボールを転がす   作:敏捷極振り

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7話 灼熱の特訓

 

 

 

「アジア予選第2試合の対戦相手が決まった。カタール代表デザートライオンだ」

 

 アジア予選初戦突破を無事果たし、翌日いつものように練習していると、久遠監督がみんなに集合をかけた。どうやら次の対戦相手が決まったらしい。

 

「どんなチームなんスか?」

 

「このチームの特徴は、疲れ知らずの体力と、当たり負けしない足腰の強さを備えていることだそうです」

 

「彼らと戦うためには、基礎体力と身体能力の強化が必要になってくる。カタール戦までに、この2点を徹底的に鍛えること。いいな」

 

「「「はい!」」」

 

 それだけ言うと、久遠監督はまたどこかへと姿を消してしまった。いつもどこで何してるんだろ。たまに練習見に来てたりとかするけど、それ以外は何をやっているのかさっぱり分からない。籠りで相手国の情報とか対策でも練っているんだろうか。

 

「……とは言うものの、基礎体力を身につけるってどんな練習をすればいいんだ?」

 

 先ほど意気込んだは良いものの、どうすればいいのか全く浮かんでいない円堂が唸る。

 

「そりゃあ、走って走りまくるしかねぇだろ。体力つけるにはそれしかねぇ!」

 

「それもそうだな、よし! これからみんなで走り込みだ!」

 

 うへぇマジか……。

 走り込みとか私の一番嫌いな練習なんだけど。確かに基礎体力をつけるには走ったりする有酸素運動が一番手っ取り早いと思うしスタミナもつく。地味だけど足腰も鍛えられて、やればやるだけ身にはつくからそれで良いと思う。良いとは思うけど、やっぱり地味だしキツいし面白くない。けど仕方がない、強くなるためにはそうするしかない。

 そう思いながらいざグラウンドへ行くが、そんな日に限って灼熱の太陽が照りつける猛暑だ。めっちゃ暑い。

 

「うわぁ暑っつい……」

 

「今日に限って嫌になるくらい天気が良いな」

 

「あ、日焼け止め塗っとこ」

 

「やっぱり女の子って日焼けしたくないものなのか?」

 

「そりゃそうよ。みんながみんなって訳じゃないと思うけど、私はあんまり日焼けしたくないかな。ヒリヒリするし」

 

「へぇ、でも確かに結城の肌って白いし綺麗だよな」

 

 風丸が急にそんなことを言い出すのでドキッとする。ハッと我に返るように風丸も頬を赤らめ顔を晒す。

 

「うん? どうしたんだ二人とも?」

 

「放っておけ円堂、それよりも早く練習を始めよう」

 

「ったく、イチャつくなら他所でやれよ……」

 

 不動はともかく、鬼道にまで呆れられる始末だ。

 うるさいな、私だって分かってるよ。てか一番恥ずかしいのは他でもない私と風丸だからね。そりゃ嬉しかったけど、何もこんな大勢の前で言わなくても。

 嬉しいけど恥ずかしいというなんとも言えないこの感情はどうすればいいものか。それはもう練習にぶつけるしかない。そう思った私は、私と風丸を置いて一定の速度で走り出していた円堂たちを一気に追い抜き、グラウンドのトラックを猛ダッシュで走り出す。風丸も同じような答えに至ったのか、私の隣を猛スピードで走っている。

 

「あいつら凄ぇな! おれも負けてられないな!」

 

「なんだか分かんねぇけど、俺も負けねぇ!」

 

 そんな私たち二人に追いつこうと、円堂と綱海が猛ダッシュをし始める。いやいや、あんたらはついてこなくてもいいから。てか円堂はちゃんとみんなを引っ張ってやれよ。

 

「……俺たちは普通のペースで行こう」

 

 鬼道がどこか諦めたようにみんなを先導する。ごめんね、私たち四人ともバカでごめんね。

 そんなこんなでトラックを数十周したところで、私と風丸はグラウンドにへたり込み、二人で顔を見合わせる。そこにあるのは走りきったという達成感と、くたくたでとても疲れた顔。それがどこか可笑しくって、二人とも吹き出して笑い合った。走り込みを始める前の恥ずかしさは既にもうどこかへ行ってしまった。

 

「ハァ、ハァ……速ぇーな二人とも」

 

「あー疲れた! でもなんで二人ともあんなに張り切ってたんだ?」

 

 少し遅れて走り終えた円堂と綱海が駆け寄ってくる。

 

「んー、なんでだろうね」

 

「なんでだろうな」

 

 あまりにくだらないし、特に言うようなことでもないので二人で言葉を濁すように言う。

 

「なんだそりゃ」

 

「まぁまぁ、やる気があるのは良いことだ!」

 

「んで、この後はどうすんの?」

 

「うーんそうだな……」

 

「あとは各々で自主練で良いんじゃないか?」

 

「そうだな、そうするか!」

 

 そうこうしている内にみんなを引き連れて走っていた鬼道たちも走り終えたようで、円堂がすかさずこの後の指示を伝えに行く。

 

「さてと、自主練ってことは……アレ(・・)やりますか」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「うーん、イマイチ上手くいかないな。何かが足りてない気がするんだよね」

 

「あともう少しで形にはなりそうなんだよなぁ」

 

 走り込みが終わった後、予定通り自主練となった時間帯で私は以前緑川に持ちかけていた連携技の特訓をしていた。必殺技のイメージは出来ているというか、既に前世で見たことあるからやってみれば案外出来るかなと思っていたけど、全然そんなことはなかった。さすがにそう簡単にはいかないか。

 

「タイミングも特にズレている訳でもないし、パワーが足りてないってこともないと思う。だとしたら上手くいかない要因はなんなんだろ……」

 

「考えても無駄さ、こういうのは回数を重ねていく内に気づいてくるものだよ」

 

 緑川にそう諭され、私たちは再び連携技の特訓に励む。元々エイリア学園で使われていた技というだけあって、難易度はなかなか高い。けどその分威力は申し分ない。これをマスターすれば、恐らく世界にも通用するはずだ。

 

「おっ、今いい感じだったんじゃない!?」

 

「少しずつ近づいてきてる。完成までもうすぐさ!」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 カタール代表デザートライオンとの試合当日、私たちは再び舞台のフロンティアスタジアムの前に来ていた。

 

「よし、行くぞ!」

 

「虎丸く〜ん!」

 

「えっ、乃々美(ののみ)姉ちゃん!?」

 

 気合十分、いざ戦場へ! と張り切ってフロンティアスタジアムの中へ入ろうとした瞬間、虎丸を呼ぶ謎のお姉さんが大きなBoxを抱えて歩いてくる。

 えーと、確か虎丸の実家のお店を手伝いに来ているお姉さんだったっけ。私は実際に行ってなかったけど、円堂と豪炎寺、マネージャーたちは虎丸の事情を知るべく色々と探ってたみたいだ。そのためかそれ以外のメンバーはこのお姉さんが一体誰なのか分かっていない様子だった。

 

「誰あれ?」

 

「虎丸くんのご近所さんよ」

 

「綺麗な人っス……」

 

 おい壁山、鼻の下伸びてんぞ。

 

「な、何しに来たんだよぉ」

 

 虎丸がいかにも照れた様子で乃々美に詰め寄る。おいおい、応援に来てくれたっぽいのにその言い方はないでしょ。まぁでもあれか、小学生の頃って大体そんなもんか。運動会とかで親族が応援に来てても恥ずかしがったり、そういうお年頃だもんね。

 

「今日大事な試合なんでしょ? はい、みんなの分。お弁当作ってきたの」

 

「うおーっ! マジっスか!?」

 

 乃々美が中身を開けて見せてくれる。うわぁ、めっちゃ美味そう。綺麗な三角おにぎりに豊富なおかずのレパートリー。こりゃ将来は良い嫁さんになるね。なんなら私がもらいたいくらいだ。冗談だけど。

 

「へぇ、美味そうじゃねぇか」

 

「こりゃあ力が湧いてくるぜ」

 

「これ食べて、必ず勝ってねみんな!」

 

「「「はい!!」」」

 

『FFIアジア予選第2試合、日本代表イナズマジャパン対カタール代表デザートライオンの一戦が今! いよいよ始まります!』

 

 今回の試合、スターティングメンバーの編成は前回初戦の時と少しだけ変わっている。

 

 

 FW 吹雪、豪炎寺、ヒロト

 

 MF 風丸、鬼道、緑川、結城

 

 DF 綱海、壁山、木暮

 

 GK 円堂

 

 

 DFを一人減らし、MFを追加したことで攻守にバランスの取れた陣形となっている。もうちょっと詳しくいえば、前回よりも若干攻撃的なフォーメーションだ。

 

『フィールド上では初戦でオーストラリアを下した、イナズマジャパンのスターティングメンバーが並んでいます!!』

 

 ふとチラリと相手国のベンチを見てみると、妖艶な雰囲気を漂わせる女性監督と、目の下の隈が特徴的で腕にキャプテンマークを付けた選手……確か名前がカイルだっけか。その2人の姿が目に映った。

 

『対してエリザ・マノン監督率いるカタール代表デザートライオン。キャプテンのカイル選手を筆頭に並外れた身体能力と、優れた個人技を誇るプレイヤーが揃っているとのこと!』

 

 両国のチームがセンターラインに並んで立ち、それぞれのキャプテンの円堂とカイルが前に出て握手を交わす。

 

『さぁ両チーム、一体どのような試合を見せてくれるのか!? 間も無く試合開始です!』

 

 審判のホイッスルが高らかに鳴り響き、ついにカタール代表デザートライオンとの試合が始まる。

 

 

 

 

 

 


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