ハーフタイムが終わり、それぞれのチームの選手がポジションに行き、後半戦が始まろうとしていた。ちょっとタンマ、靴紐結びたいから待って。
「後半、いつでも出れるようにアップしておけ」
「あ、はい!」
私が靴紐を結んでいる時、ベンチにいるメンバーはというと、監督からいつ出てもいいようにアップをするよう指示を受けていた。その指示に、立向居は少し不思議そうな顔をしていた。大方ボックスロックディフェンスを乗り越えた今のメンバーのままで充分だとでも思っているのだろう。けど今のままでは駄目だ、ビッグウェイブスの勢いはまだ止まっていない。たぶん後半から試合展開はガラッと変わるだろう。
「さてと、いっちょ行きますか……ん、なにあれ?」
前半終了時、監督から新必殺技を完成させろと告げられた綱海が、ヒントとして与えられたフィールドに寝そべって何かを感じ取ろうとしていた。はたから見れば怪しすぎる。
「綱海さん、後半始まるっスよ!」
「お、おう!」
ホイッスルが鳴り、ついに後半が開始される。ボールはビッグウェイブス側からだ。試合開始早々ゴールを奪ったジョーンズがドリブルで上がってくる。それと並行するように、リーフが走り込んできているのが見えたので、私はジョーンズにプレスをかけに行きつつ、二人ともマークする。
『結城が積極的にディフェンスに行った!』
その時、ジョーンズがリーフにパスを出し、私のディフェンスを躱して抜き去る。リーフが再びジョーンズにボールを戻し、まるでお手本のようなワンツーパスで私の背後にパスを通そうとした。が、それを読んでいた私は足を後ろに曲げてかかとを使い、そのパスを背面でカットする。
「「なっ!?」」
『なんと結城! 華麗なプレイで二人からボールを奪っていく!』
ごめんね虎丸、パクらせてもらったよ。
ぶっちゃけ虎丸のプレイって小学生のくせに凄すぎると思う。マジで。なんかもう自分の身体機能を余すことなく駆使してる感じがして、私の中ではサッカーが上手いキャラランキング(あくまで個人的)には余裕でベスト5に入ってると思う。
ってなわけで、私はボールを奪いそのままドリブルで上がっていく。が、少しして違和感を覚える。前半でアホかってくらいボックスロックディフェンスを使ってきてたビッグウェイブスだが、前半と大幅にメンバーが変わっており、連携して動くのではなく個々で動いている。
「グレイブストーン!」
「くっ、危なっ!」
ディフェンスにきていたダニエルの必殺技により、突如地面から勢いよく岩が突き出てくる。なんとか身は躱したが、ボールは奪われてしまった。てか普通に危ないでしょ、怪我したらどうすんの。ダサい名前のくせに……ダニエルファンの人はごめんね。
『ビッグウェイブス再びボールを奪い取ったぁ! 前半とは打って変わって個々の力を使った戦術になっている! 必殺タクティクスが攻略されるや否や、瞬時にプレイスタイルを変えてきたか!?』
実況さんご説明どうも。
私からボールを奪ったダニエルはそのままホリーにパスを出す。おっ、イケメンくんキタコレ! と思ったら胸の辺りが少し膨らんでいるのが目に入る。お前も女だったのか……。
「カンガルーキック!」
「うわっ!」
どう見ても海ではなく陸っぽいドリブル技でディフェンスに入っていた木暮を吹っ飛ばし、難なく突破する。てかやばいじゃん、もうゴール前だよ。と思っていたらホリーのノーマルシュートを円堂が割とあっさりキャッチする。あれだね……私が思うに、円堂ノーマルシュートなら絶対防げる説でも唱えられるんじゃないかな。
円堂が大振りのスローイングで中盤の鬼道にまでボールを届かせる。いや肩強っ!
「みんな上がれ!」
鬼道の指示で一斉にイナズマジャパンのメンバーは前線へと上がっていく。まだまだ後半は始まったばかりだが、ここで点を取っておかないと後がキツくなる。それをみんなも感じているのか、気迫が溢れていた。
「ヒロト!」
鬼道がマークの空いていたヒロトにパスを出し、ヒロトが完全にフリーの状態でシュートに持ち込む。
「ここで決める! 流星ブレード!!」
「グレートバリアリーフ!」
ヒロトの気迫のシュートは、やはりキーパーのジーンの必殺技に阻まれてしまう。思わずヒロトが苦い表情をする。今のフリーの状態で決まらなかったのは少し痛い。だがまだだ、ボールが前線にあるうちに一気に押し込む。
ジーンがキャプテンのドルフィンにパスを出したが、それをすかさず風丸がインターセプトしボールを奪う。
「おれにボールを回せ!」
何か必殺技のヒントを掴んだのか、綱海が猛ダッシュでゴール前まで駆け上がってきていた。風丸がそれに合わせるようにパスを出す。
「うおぉぉぉ!! 喰らえっ!」
「ふっ、グレートバリアリーフ!」
普通のツナミブーストではなく、少し回転がかかったシュートを放つ。相変わらずジーンの必殺技に止められてしまったが、一瞬拮抗した様子を見せた。
「まだだ、まだ足りねぇ!」
血が? なんて冗談は置いといて、シュートを止めたジーンはパスを出し、ビッグウェイブスのメンバーも個々のテクニックで私たちのディフェンスを躱していき、あっという間に円堂が構えるゴール前まで迫る。ボールを持つのは前半にシュートを決めたジョーンズだ。
「行くぞ! メガロドン!」
『イナズマジャパン! ここで追加点を許すと厳しい状況になってしまうぞ! 果たして円堂止められるのか!?』
「この技は一度見た……」
その時、円堂が目を瞑る。
途端にその場にいた全員が驚く。そりゃそうだ、目の前には相手のシュートが迫っているのに、目を瞑るなんて舐めプもいいところだ。しかし円堂は至って真剣で、気合いと集中力を高めたのかパッと目を開いて必殺技で対抗する。
「正義の鉄拳G3!」
進化した正義の鉄拳で、前半にゴールを許したジョーンズのシュートを見事跳ね返す。跳ね返ったボールはちょうど私のところに来たので胸でトラップし、鬼道にパスを回す。
「行かせん!」
鬼道にボールが渡ったその時、相手のディフェンスが鋭いスライディングで鬼道からボールを奪おうとするが、タイミングが悪かったのか鬼道の足にもろに当たってしまった。
「ぐっ、おおぉぉ!」
「鬼道っ!?」
あまりの痛みに足を抑えて倒れ込む鬼道。審判がファウルを告げるホイッスルを鳴らし、試合は一時ストップ。
「大丈夫か?」
「痛っ!」
「この試合は無理そうね……」
木野が手当てをするが、この試合の復帰は難しそうな様子だった。それを見て監督も素早く指示を出す。
「虎丸、鬼道と交代で入れ」
「は、はい!」
「そのまま鬼道のポジションに入り、前にボールを回せ。それと吹雪、お前は中盤に下がって、相手の攻撃の芽を摘め。結城、お前は吹雪と入れ替わりで前線に上がり、ボールを繋げつつ積極的にゴールを狙っていけ」
「そんな大事な役目、おれなんかで良いんでしょうか?」
「お前がやるんだ。出来なければ下がってもらう」
「は、はい! 皆さんの足を引っ張らないよう頑張ります!」
「私らはポジションチェンジだね」
「うん、ディフェンスは任せてね」
鬼道がベンチに下がり、虎丸がピッチに入ることで試合は再開。私と吹雪は互いのポジションを変わって吹雪がMF、私がFWに入る。
風丸のスローインから始まり、ボールは早速入ったばかりの虎丸に渡った。そのままドリブルで上がっていくが、それをダニエルが止めようとディフェンスに来る。すると虎丸は迷うことなくダニエルの股下にボールを通し、なんなく突破する。にゃろう、股抜きは私の専売特許だってのに。まぁ全然構わないし、そもそも誰のものでもないけどね。
「豪炎寺さん!」
虎丸お得意のゴウエンジサン! でパスを出そうとするが、豪炎寺は相手DFにマークされており、パスを出せる状況ではない。
「自分で行け虎丸!」
豪炎寺からそう促されるが、虎丸はその場で一旦止まり後ろの方から走りこんできていた綱海にバックパスを出す。
「うおおぉぉぉッ!!」
綱海がボールをサーフボードに見立て、突如出現した大時化のような荒れ狂う海の中からボールに回転を加えシュートを放つ。
「行っけえぇぇ!!」
「グレートバリアリーフ!」
本日何度目になることやらのジーンの必殺技とぶつかり合うが、ボールに凄まじいトップスピンが掛かっているため大波の壁を突き破り見事にゴールが決まった。
『イナズマジャパン、綱海の新必殺技で遂にゴールをもぎ取った! ここから反撃となるか!?』
「よっしゃあ!!」
「すげーぞ綱海!」
「荒れ狂う嵐のようなシュート。名付けるなら"ザ・タイフーン"!」
メガネが眼鏡をキラリと光らせながら誇らしげに言う。いやいや、そんな誇らしげにしてるけど、お前は一切何もやっていないからな?
「あの回転は……! 試してみる価値はあるな」
「うん? どしたの豪炎寺?」
「いや、なんでもない。ただ、もし次にシュートチャンスがくれば、俺にボールを回してくれないか?」
「オッケー、任せてよ。その代わり、もちろんゴールは決めてくれるんだよね?」
「あぁ、必ず決める!」
先ほどの綱海のシュートを見て、豪炎寺が何かヒントを得たようだ。まぁ早い話がボールに回転が加わればそれだけ貫通力は上がる。拳銃の弾丸と同じようなもんだね。ビッグウェイブスのジーンの必殺技は、大波による水の抵抗でボールの勢いを失速させるものだ。けど今日この試合、今まで何回も見てきた中で思った。
意外と波の厚さが薄い。
並みのシュートなら止められそうだけど、回転をかけて貫通力が増したシュートなら突き破れるくらいに。久遠監督は最初に豪炎寺のシュートを止めた1回目でそれに気づき、綱海に助言をしたんだからやっぱり凄い。
『さぁビッグウェイブス、1点を返されたがここからどう出るのか!?』
ビッグウェイブス側からボールはスタートし、リーフがドリブルし攻めてくる。ヒロトがマークしに行くが、フェイントで躱されてしまう。が、素早く吹雪がフォローに入る。
「アイスグランド!」
アイススケートのようにクルクルと鮮やかなスピンをしながら着地すると、途端にフィールドが凍りつきリーフも氷漬けになる。吹雪がボールを奪い、そして私へとボールは渡る。
「これ以上点はやらせるか!」
「そうはいかないね、もう1点もらうよ」
ホリーがプレスをかけにくるが、私はドリブルしながら加速し、速度を一切落とさずにマルセイユルーレットで華麗にホリーを抜き去る。
「豪炎寺!」
左サイドから前線に上がっていき、豪炎寺にセンタリングを上げる。豪炎寺は私のパスに合わせるように爆炎を纏いつつ回転しながら上昇し、ボールに強烈な回転を加えて思いっきり蹴りつける。
「爆熱ストームの進化系、まさに"爆熱スクリュー"!」
うるさいメガネ。
「グレートバリアリーフ!」
豪炎寺のシュートはジーンの必殺技と衝突するとギュルギュルと凄まじい回転で波を貫き、そのままゴールへと突き刺さる。
『イナズマジャパン追加点! 今度は豪炎寺の新たな必殺技でジーンの必殺技を突き破ったぁー!!』
そして同時に試合終了を知らせる、審判の長いホイッスルがフィールドに鳴り響く。結果は2ー1でイナズマジャパンの勝利。私たちは初戦突破を果たしたのだった。