陽気なガールは転生したのちボールを転がす   作:敏捷極振り

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今の所だいぶ風丸くん贔屓してます。




4話 呪われた監督

 

 

 

 練習2日目の昼。キツ〜い朝の走り込みを終えて、食堂にて昼食前のゆったりなひと時を過ごしていた代表メンバーの一同は、マネージャーの音無が放った言葉に驚愕した。

 

「えっ! 久遠監督がサッカー部を潰した!?」

 

「間違いありません! サッカー協会の資料室で見つけたんです!」

 

「サッカー協会……?」

 

 いつの間に調べたんだろ。つーかよく入れたね、普通ならサッカー協会の資料室なんて極秘とまではいかないけど関係者以外立ち入れないだろうに。一体どんな手を使って調べたのやら。恐ろしい行動力だ、さすが鬼道の妹。

 

「久遠監督がどんな人なのか、気になって調べてみたんです。久遠監督は10年前、桜咲中という学校の監督をしていたみたいなんですが、桜咲中はその年にフットボールフロンティア予選を大量得点差で勝ち進んでいたんです」

 

「やっぱり! 凄い監督じゃないか!」

 

「FF予選を余裕で突破出来るくらいのチームの監督だったのか」

 

「じゃあ、今の監督はなんであんなに……?」

 

「いえ、この話にはまだ続きがあるんです」

 

 まるで本当の話はここからだとでも言わんばかりに、音無がみんなのどよめきを鎮める。

 

「その桜咲中なんですが、決勝戦の直前になって久遠監督が事件を起こしたことで、チームは決勝の試合を棄権してしまったんです」

 

「な、なんだって!?」

 

 久遠監督は10年前に有望視されていた桜咲中というチームを潰し、それからも黒い噂が絶えず『呪われた監督』と呼ばれていた。この話、実のところは全くの誤解なんだけど、今のイナズマジャパンのメンバーはほとんどが監督に不信感を覚えているし、なにより情報源がサッカー協会であるためにガセネタって可能性はまず考えないからまぁ信じちゃうよね。音無ちゃん可愛いし。

 

「やっぱりあの監督、普通じゃないっス」

 

「久遠監督が、呪われた監督……」

 

「だからどうしたってんだよ。今更代表を降りんのか? 結局今のお前らじゃどうしようもねーんだよ」

 

 話を聞くのが馬鹿らしくなったのか、不動が悪態をつきながら自分の部屋へと戻っていった。

 

「あいつ、あんな言い方はねぇだろ!」

 

「よせ綱海!」

 

「結城はどう思う?」

 

「私は……不動に同意かな」

 

「えっ!?」

 

 信じられないとでもいうかのように、みんなの視線が私に一斉に集中した。いや、そんなに見つめられても。

 

「いまさら久遠監督がどんな人だろうと、私たちに出来ることは何もない。それに、私は監督はそんなに悪い人じゃないと思ってる。なんせ響木さんが監督を託したくらいなんだし」

 

「結城……」

 

「あ、別に音無ちゃんの話が嘘くさいとか、つまんなかった訳じゃないよ。もちろんその情報は確かなものなんだと思うし、音無ちゃんのことも信じてるから」

 

 一応誤解されないようフォローしておく。

 これをきっかけに内部分裂したりとか、みんなに嫌われたりしたら嫌だ。そんなことがあってしまってはもう私は死ぬしか無い。イナイレのキャラに嫌われるなんてとても耐えられない。

 

「結城の言う通りだ。久遠監督がどんな人だろうと、俺たちはただ前に進むだけだ!くよくよしてても仕方ないじゃないか!」

 

「それに、みんな忘れてないかな? 私たちにはもっと気にすべきことがあるでしょ」

 

 私の言葉を聞いても誰一人……いや、一部のメンバーは気づいたようだけど、他のメンバーは何のことか皆目見当がつかない様子だ。おいおい、さすがに知っておくべきでしょ。

 

「確か今日、アジア予選トーナメントの対戦カードが発表されるんでしたよね」

 

「そそっ、さすが音無ちゃん」

 

 私は音無ちゃんにウィンクをして応える。途端に音無ちゃんの表情がパァァと明るくなる。うん、惚れてまうやろ。可愛すぎるわ、この後輩っ娘可愛い過ぎる。

 まぁそれは置いといて、初戦はどこと戦うかなんて情報は早めに知れた方が得だ。それだけ早く対策を取れるってことになる。なんならせっかくテレビで中継されるんだからリアルタイムで観た方が良いに決まってる。てかみんな対戦相手について気にならないのかな。監督の変わった指示に気を取られてそれどころじゃなかったのか。

 誰かが食堂のテレビの電源を入れると、ちょうどタイミング良くアジア予選の対戦カードが発表されるところだった。

 

「えーと、イナズマジャパンの対戦相手は……ビッグウェイブス。オーストラリア代表か!」

 

「アジアでは韓国、次いでオーストラリアが優勝候補として名前が挙がっていますね」

 

「てことはいきなり優勝候補かよ!」

 

「だが、相手にとって不足はないな」

 

「噂では、奴らには相手の攻撃を完全に封じ込めるフォーメーションがあるらしい」

 

「スッゲー! そんな凄い奴らとサッカー出来るなんて最高じゃないか!」

 

「くぅ〜っ! 燃えてきたぜ!」

 

「よーし! ご飯食べたら昼からまた練習だー!!」

 

「「「おぉー!!」」」

 

 なんか良い感じに円堂がまとめてくれた。さすがキャプテンといったところか、みんなの心をまとめるのが上手い。自覚はないんだろうけど、こうやってみんなを引っ張っていくのはやっぱり円堂にしか出来ないと思う。

 このまま良い感じで試合までに仕上げていって、無事に初戦突破といこうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、練習禁止!?」

 

「これは命令だ。オーストラリア戦までの2日間、合宿所から出ることも許さん」

 

 昼食をとった後、これから練習だぁ!と食堂をみんなで出て行こうとした際、突如現れた監督からきっぱりとそう言い放たれた。そういえばそうだったね、確か最初は軽く監禁されるんだったっけか。すっかり忘れてたよ。

 

「久遠監督、どういう意味ですか?」

 

「言葉通りの意味だ」

 

「俺たちは日本代表に収集されたばかりで、まだチームとしての連携も取れていません。この2日間は、全体で動きを確認して調整に当てるべきです」

 

「監督は私だ。命令には従ってもらう」

 

 鬼道の抵抗も虚しく、監督の有無を言わさぬ一言に、誰も文句は言えずみんな押し黙ってしまった。

 その後それぞれ自分の部屋に戻るよう促され、合宿所内での行き来は自由だが、外に出るのは禁止だと念を押された。

 

「さてと、どうしましょうかね」

 

 私はというと自分の部屋でベッドに寝転がってのんびりと寛いでいた。グラウンドが使えないのは厳しいけど、ボールさえあれば最悪屋内でも練習出来ないことはない。狭いしちょっと物足りないと感じるだろうけど。

 

「ーーっ!」

 

「ーーーー!?」

 

 さっきから部屋の外がうるさいな。

 ドアを開けて廊下の様子を覗いて見てみると、案の定円堂たちが合宿所を脱走しようと模索しているようだった。

 

「何やってんの?」

 

「あ、結城。お前も何か外に出る良い方法がないか一緒に探してくれよ」

 

「残念ながら、私にはこれっぽっちも思い浮かばないね」

 

 というよりかはそもそも考えようとすらしてないけど。そんな私の言葉を聞いて、あからさまにがっかりする円堂だった。そんな時だった。

 

「みなさーん!! この私がビッグウェイブスの情報を入手して参りましたよー!!」

 

 メガネがそんなことを言いながら、メンバー全員に食堂に集まるよう招集をかけた。でもどうせ大した情報はないだろうと思いつつも、私もみんなと一緒に食堂へと向かう。

 

「僕の情報収集能力、お見せしましょう!」

 

 懐から取り出した一枚のDVDをデッキに入れ、ビデオを再生する。画面にはビッグウェイブスの選手たちがユニフォームを着て試合に臨もうとしている場面が映った。

 あれ、意外とマジなやつ……?

 

「一体、どんなプレイをするんだ?」

 

 円堂がゴクリと生唾を飲み込み、全員が固唾を飲んで画面に集中している中、試合が始まろうとした……が、キックオフの瞬間に画面が切り替わってしまい、打って変わって選手たちが海辺で遊んでいる場面に切り替わった。

 

「メガネ、なんだこれ?」

 

「さすがに国と国との戦い。代表チームの情報を手に入れるのは格段に難しくなっています。ですが! プレーは無理でも、海で遊ぶシーンを手に入れて参りました!!」

 

 その場の空気がシーンとなる。

 静寂とした空気の中、不動がボソッと呟く。

 

「それって見る意味ねーじゃん」

 

「てか、もはやただの役立たず?」

 

 私の追い討ちが効いたのか、メガネが崩れ落ちる。

 

「映像ではないけど、私たちが手に入れた情報もあるの」

 

「ビッグウェイブスは海で心と体を鍛え抜いたチーム。特に守備が固く、相手の動きを完全に封じてしまう未知の戦術があるそうなんです」

 

「へぇ、おもしれーじゃねぇか」

 

「相手の動きを完全に封じる……か」

 

「聞けば聞くほどじっとしていられない。練習しなくちゃ!」

 

 と、勢いよく食堂から飛び出す円堂だったが、ゆっくりと後ろ向きのまま戻ってきた。なんかあったのか?

 

「どうした円堂?」

 

「監督がいた……」

 

 残念、ゲームオーバーだ。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「監督、帰らせて下さい」

 

 虎丸がカバンを提げて監督に交渉していた。それを円堂と風丸、壁山が見守っている。

 

「あれじゃ無理っスよ」

 

「分かった、今日はもういい」

 

「っ!?」

 

「また明日、よろしくお願いします!」

 

「なんで虎丸は通ったんだ?」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「小細工なんか性に合わねー、オレは堂々と行くぜ!」

 

「今度は綱海か」

 

「あんなんで行けるんスかね?」

 

「おっ、ラッキー。監督がいねー!」

 

「っ!?」

 

「おい、あいつ普通に行ったぞ」

 

「俺たちも今なら行けるかも!」

 

「どこへ行く……?」

 

「あ……監督」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「飛鷹さーん! 居るんでしょー! 面貸してくださいよー!」

 

「あいつら……!」

 

「飛鷹?」

 

「監督! 許可して下さい、あいつらとはケジメをつけないといけないんです!」

 

「……いいだろう」

 

「すぐ戻ります!」

 

「っ!?」

 

「飛鷹さんも通ったっス」

 

「なんなんだ一体……?」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 円堂たちが色々と苦戦しているであろう間、私はというと相変わらずのんびりと自室のベッドで寛いでいた。

 と、ふとドアからコンコンとノックする音が聞こえた。誰だろうと疑問を持ちつつも返事をして中へ入るよう促す。

 

「……えらい余裕っぷりだな」

 

「え、そう?」

 

 訪問者は風丸だった。中へと入るや否や、私の寛いでる姿を見て苦笑する。

 

「練習出来なくなって、その……不安じゃないのか?」

 

「うーん、まぁ不安じゃないって言えば嘘になるけど、別に監督が見てない所だったら練習しても良いんじゃない?」

 

「でも、外には出るなって……」

 

「ボールさえあれば、例えばこんな小さな部屋の中でもやりようはあるかもよ?」

 

 そういって私は手元にボールを引き寄せて、座った状態でリフティングをし始める。

 

「私からボールが奪えるかな? なんてね」

 

 ポンポンと挑発するかのようにボールを柔らかいタッチで上げ続ける。

 

「ふっ、面白い!」

 

 風丸がその気になってボールを奪いにくる。私はそれをヒラリと立ち上がって躱し、部屋の外に出て廊下へと場所を移す。

 

「そこだ!」

 

「おっと危ない」

 

 風丸が必死に食らいつくが、私も負けていられない。なんとかボールを奪い取られないようボールをコントロールする。

 

「あーー!!」

 

 とその時、突然誰かの叫び声が聞こえたのでそちらに気を取られてしまった。その一瞬の隙を風丸は見逃さず、私からボールを奪おうと距離を詰めに来る。私は咄嗟に一歩下がろうとしたが足がもつれてしまい、転んで後ろに倒れ込んでしまった。風丸も私との距離を詰めに来ていたため、勢いを止めきれず一緒に倒れてしまう。

 

「いてて……」

 

「悪い、結城……っ!?」

 

 率直に言おう、私はいま風丸に押し倒されたような形で床に倒れている。もちろんただの偶然だし、不慮の事故である。決して狙ったわけじゃない。

 

「ご、ごめんっ!!」

 

 すぐさま私の上から飛び退いた風丸の顔は、すでに真っ赤だった。たぶん私の顔も真っ赤だろう。ほんのり体も暑いし。

 

「ま、まぁ事故だよね。うん」

 

「そ、そうだよな」

 

 お互いに気まずい空気が流れる。

 ホントなら恥ずかしくて誰にも見られたくはなかったけど、残念ながら見物人は結構いた。

 

「大丈夫か二人とも!? 悪い、俺が大声出したからか?」

 

「よせ円堂、2人きりにしてやれ」

 

「末長くお幸せにね」

 

 なんかすっげぇ誤解されてる。円堂は純粋だし素直に謝ってるからまだ良い。ていうか大声の正体お前かよ。後の2人、鬼道とヒロトは完全に茶化しに来てる。

 いや私的にはそれも悪くはないしむしろ全然良いんだけど、なんか無性に腹が立つ。

 

「ご、誤解だ!!」

 

 風丸が必死で弁解する。

 いや、確かにそれで正しいんだけど、そこまで必死に否定されると逆に傷つくっていうか。

 

「あっ、いや、別に結城が嫌いって訳じゃないんだ。むしろそんなことはないっていうか」

 

 私が少し寂しそうな顔をしていたからか、風丸が顔を赤くしながら今度は私に弁明する。

 

「ううん、いいよ別に。私もそんなに嫌じゃなかったし。むしろ風丸くんだったから良かったかなって」

 

 特に不快ではなかったという意思を表しつつ、少し風丸をからかってみた。もう私の方は落ち着きを取り戻したので、あたふたしてるのは風丸だけだ。

 

「〜〜〜っ!?」

 

 耳まで真っ赤にさせ、風丸は風のようにどこかへ走り去っていってしまった。ダジャレじゃないよ?

 

「まるで小悪魔だな……」

 

「ん? なんか言った鬼道?」

 

「いやなんでもない」

 

「そうだ! それより結城! さっきまで廊下で風丸と二人で練習してたよな!?」

 

「えっ? あぁ、まぁそうだね」

 

「俺たちもそうすれば良いんだよ! 部屋の中だったり、階段なり廊下なり、練習に使える場所ならここにあるんだよ!」

 

「ふっ、お前らしい発想だな」

 

「なんの騒ぎだ?」

 

「なにかあったの?」

 

 騒ぎを聞きつけた豪炎寺と吹雪が近寄ってくる。

 

「例えグラウンドが使えなくとも、ボールさえあればどこだって練習場所だ!」

 

「部屋の中で練習か……狭い空間でのボールコントロールを鍛えるのに使えそうだな」

 

「キーパーなら壁にボールを蹴りつけて跳ね返ったボールをキャッチする瞬発力も鍛えれそうだな」

 

「おっ、いいなそれ!」

 

 みんなが集まって知恵を出し合い、それぞれが工夫しあって限られた環境の中でいかにレベルアップするかを考える。なんかいいねこういうの、少しだけイナズマジャパンの一員として実感できた気がする。

 

「なぁ、世界一って考えたことあるか?」

 

「世界一か……一度は夢見たくらいだね」

 

「FFIでは世界中から選りすぐりのプレイヤーが集まってくる」

 

「どんなシュートを打つのか、どんな技を使ってくるのか、楽しみで仕方がないんだ!」

 

「それを知るためには、俺たちは勝ち上がる必要がある」

 

「なら、私たちはこんなところで躓いてちゃいけないよね」

 

「あぁ、目指そうぜ。世界一を!」

 

「世界一……!」

 

「「世界一に!」」

 

 私たちが声を揃えてそれを唱える。

 

「「「世界一に!!」」」

 

 そして次の瞬間には他の部屋からみんなが顔を出して一斉にその言葉を唱える。なんだ、みんな聞いていたのか。てかなんかミュージカルみたいだな。

 

「よぉーしみんなぁ! 目指すは世界一だ!!」

 

「「「おぉーー!!」」」

 

 

 

 

 

 


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