日本代表の座を決める紅白戦当日。
会場の雷門中は他校のギャラリーで満員だった。
「おぉ、すっげー人数」
「ちょっとキンチョーしてきたかも」
「このくらいでたじろいでたら、本物の舞台では雰囲気に飲まれちゃうよ。もっと背中張りなよ」
同じチームの木暮の背中を軽くパシっとはたき、気合を入れてあげる。と、ふと緑川を見ると何やら手のひらに文字を書いてそれを飲み込む行為を繰り返していた。
「意外と人間っぽいことするんだね」
「だから僕は宇宙人じゃない! ってなんだ結城か、なんか用かい?」
「いやぁ、ちょっとばかし緊張をほぐしてあげようかなと」
そう言いつつ私は両手をワキワキといやらしい動きをさせながら緑川に迫る。風丸もそうだけど、緑川も中々抱え込んじゃうタイプだよね。
「わー!? ちょ、なんだいその手つきは!?」
「はっはっは、良いではないかー」
なんだろう、私の立ち位置的なポジションが既に確立されつつある気がする。悪くはないんだけど、もうちょっとお淑やかな感じが良かったな。
さて、肝心のフォーメーションだけど、
Aチーム
FW ヒロト・染岡・吹雪
MF マックス・武方(勝)・佐久間
DF 綱海・壁山・土方・飛鷹
GK 円堂
Bチーム
FW 豪炎寺・緑川
MF シャドウ・虎丸・不動・鬼道
DF 風丸・メガネ(弟)・結城・木暮
GK 立向居
今回の私はディフェンダー。けどチャンスがあれば積極的に上がっていくよう鬼道からも指示を受けているので、もちろんガンガン攻めていくつもりだ。
「お互い頑張ろうね」
「あぁ、もちろんだ!」
風丸と鼓舞しあいつつ、互いの意識を高める。
最初はAチームからのスタートだ。センターサークルにボールが置かれ、ホイッスルの笛が鳴る。試合開始だ。
吹雪が染岡にボールを蹴り、染岡はヒロトにパスを出す。ボールを受け取ったヒロトは左サイドから攻め上がって行く。
「シャドウ! 虎丸! プレスだ!」
「「おう!/ はい!」」
鬼道の指示でシャドウと虎丸がプレスをかけにいく。二人に捕まる前にヒロトはセンターの染岡にパスを出す。受け取った染岡はすぐさま上がっていくが、前方では不動が待ち構えていた。
「へっ、来いよ」
「ふん、ぶち抜いてやる!」
一度フェイントで左へ揺さぶりをかけ、右に切り返して不動を抜き去る。
「どうだ!」
「ちっ……フン」
しかし抜かれた不動は悔しがるどころか嘲笑うかのように染岡を見送った。とその時、不動に気を取られていた染岡から風丸がスライディングでボールを奪い取る。
「よし、鬼道!」
鬼道が風丸からパスを受け取る。
近くにいた佐久間をタイミングをずらして緩急で抜き去り、中盤まで自分の足で運んで行く。
「豪炎寺!」
前線まで上がっていた豪炎寺にパスを出し、プレスをかけにきた土方と豪炎寺が対峙する。一呼吸置いて豪炎寺が土方を股抜きで突破し、ゴール前に差し掛かる。
「行くぞ円堂!」
「来い! 豪炎寺!」
ボールを打ち上げ、豪炎寺は炎を足に纏い回転しながら上昇して行く。そしてボールの元まで差し掛かったところで、炎を纏った左足を蹴りおろす。
「ファイアトルネード改!」
「真ゴッドハンド!」
対する円堂は進化したゴッドハンドで迎え撃つ。豪炎寺のシュートを巨大な神の右手が受け止めると、やがてシュートの威力を完全に殺し円堂の手に収まる。
「やるな円堂!」
「へへっ、さすが豪炎寺。すげーシュートだ!」
「いきなりキャプテンと豪炎寺さんの対決っス!」
これはイナイレファンにはたまらない展開だよね。ゴッドハンドとファイアトルネードの元祖必殺技対決とも言える、名シーンだよ。
確か、ここまでほぼ原作通りだったはず。
てか生で必殺技みるとマジで迫力すげーな。
「よしみんな! 反撃開始だ!」
円堂が土方にパスし、続けてフリーだった佐久間にパスが通る。そのままドリブルで進んで行くが、鬼道が前方からプレスをかけ間合いを詰めていく。
「こっちだ!」
フリーだった武方にパスし、そのままワンツーで佐久間にボールを戻し鬼道を抜き去る。
「やられたな」
しかし鬼道はどこか嬉しそうな様子だ。
私も人のこと言えないけどさ、アンタ佐久間好き過ぎだろ。いや、きっと友達以上の気持ちは抱いていないんだろうけどさ。なんだろうね、ちょっと不純な妄想思い浮かんじゃったよ。すぐかき消したけど。
「ここは通さないよ、旋風陣!」
木暮が必殺技で佐久間からボールを奪う。そして近くにいた私にそのままパスが通る。
「結城!」
ついに念願のボールが来る。
さてどうするか、今この瞬間でパスを出せそうなコースはない。うん、自分で持って行こう。とりあえず中盤までドリブルで駆け上がって行く。日本代表候補唯一の女性プレイヤーの底力を見せてやろうじゃない。
「行かせない!」
マックスとヒロトが二人でプレスをかけてくる。パスを出そうと横目でチラリと虎丸を見る。一瞬私の視線に二人とも釣られて虎丸を捉えるが、すぐさま私の方に視線を戻す。今ので二人は虎丸へのパスを警戒するはず。右足を振り切って虎丸にパス……すると見せかけて右足を切り返してマックスの股からボールを通し二人を突破。
「「なっ!?」」
「緑川くん!」
前線まで上がっていた緑川にパス。
ギリギリオフサイドにならないラインに位置を取っていた緑川の前に、ディフェンスはいない。良いポジショニングだ。残るはキーパーとの一対一。
「アストロブレイク!」
「正義の鉄拳G2!」
緑川渾身の必殺シュートは、しかし円堂の捻りを加えた鉄拳によって弾き返され、そのままボールは綱海の元へと飛んで行く。
「よっしゃあ行くぜっ!」
その掛け声とともに、綱海の背後から津波が出現する。何を言ってるか分からないと思うけど、私もどう説明したらいいものか分からない。だってそのまんまの意味なんだもの。ボールに乗って津波を流れるようにサーフィンし、飛び上がってオーバーヘッドキック。
「ツナミブーストォ!」
「ってそこからシュートっスか!?」
波を裂くようなシュートはDFラインからフィールドを横断するかの如く一直線に進んでいき、相手側のゴールに向かって行く……ことはなく、右サイドから前線に走りこんできた吹雪への強烈な超ロングパスとなる。
「決めろ吹雪!」
「うん、行くよ!」
一度トラップしてボールの勢いを殺し、シュート体勢に入った。吹雪がボールを引っ掻くように蹴る。
「ウルフレジェンド!」
背後に狼が出現し、赤く光った3つのボールが1つに重なって突き進んで行く。
「絶対に止める! ムゲン・ザ・ハンドG4!」
いくつもの手のオーラを伸ばして、ボールに張り付けるようにしてシュートを止めようとする。2本、4本とボールを止めようとする手のオーラは段々と増えていき、最終的には10本の手のオーラがボールに張り付いてシュートを止めようとしていた。
「ぐっ、負けるもんかぁ!!」
シュートの勢いは中々留まることを知らず、立向居は必死に踏ん張っていた。が、やがて勢いに押されムゲン・ザ・ハンドは破られ、吹雪のシュートはゴールネットを揺らした。
「吹雪のやつ、気合入ってるな」
「立向居も惜しかったね」
「吹雪さんのシュート、物凄いパワーでした。でも次は止めて見せます!」
うんうん、いい心構えだね。その名前負けしてない前向きな姿勢は良いと思う。ところで立向居って近くで見るとなんか女々しいというか、女の子っぽいね。小動物みたい。
さて、話は戻ってBチームボールから試合はリスタート。緑川、豪炎寺へとボールは渡り、豪炎寺が鬼道にパス。鬼道がドリブルで上がって行き、前線のメンバーはそれに従って敵陣のコートに切り込んで行く。
鬼道を止めようと武方と佐久間が二人でボールを奪いにくる。
「こっちだ!」
不動がフリーの状態でパスを要求する。
普通に考えれば即パスを通すところだが、相手が不動となると鬼道もやはり迷ってしまうようで、一瞬躊躇する様子を見せる。が、試合でそのような考えはパフォーマンスにおいてただの邪魔でしかない。瞬時に決断した鬼道は不動に鋭いパスを出した。
何人かのメンバーは少し驚いた様子だったが、すぐに真剣な表情に切り替わり試合に集中する。
「通すな! 飛鷹!」
「う、うっす」
どこか挙動不振な飛鷹が不動にプレスをかけにいく。やはり不安だったのか、キーパーの円堂も前に出てくる。
「お前ごときじゃ……止められねーよ」
上空にふわりと蹴り上げ、ループシュートを放つ。ボールは飛鷹とキーパーの円堂をも超えてゴールに入りそうになる。
「させっかよ!」
綱海が横から飛び込んできてボールをギリギリの所でクリアし、ボールはコートから出て審判の笛がなる。
「助かったよ綱海」
「おう。しっかりしろ、ゴールは波打ち際と一緒だ。舐めてると足元すくわれるぞ」
「お、おう」
綱海に言われて空返事をする飛鷹。
飛鷹よ、お前の不器用さは知ってるけど「おう」か「うっす」しか言えないのか。まだ今の時点ではみんなに馴染めてないからしょうがないっちゃしょうがないけど、完全に一人浮いちゃってるよ。
「ドンマイだ、飛鷹」
「……うっす」
そう言いつつ髪を整える始末。
うん、ザ・不良って感じだね。
「飛鷹か……全くデータが無いので警戒していたが、考えすぎだったのか?」
「ケッ、今更気付いたのかよ」
「飛鷹くん、動きがぎこちないわ」
「まるで初心者です。彼が何故代表候補に選ばれたのか、謎ですね」
相変わらずひどい言われようだね。
鬼道や不動はまだしも、マネージャーの木野にまで言われるなんて。そしてメガネ、お前は人のことを言えるの?
Bチームのスローインで試合は再開される。シャドウが虎丸にパスを出し、虎丸はそのまま豪炎寺へとパス。
「爆熱ストーム!」
虎丸からパスを受け取った豪炎寺が、爆炎を纏う強烈なシュートを放つ。
「正義の鉄拳G2!」
円堂の必殺技と豪炎寺のシュートは拮抗しているかのように思われたが、円堂がシュートの勢いに押されてゴールが決まる。と同時にホイッスルが鳴り、この試合前半が終了した。
現在の得点は1-1と中々の良い勝負を繰り広げている。少しの休憩を挟んで後半が始まり出すと、両チームのFW陣が本領発揮し、まるで代表の座は渡さんとする勢いでゴールを掻っ攫う。
「ワイバーンクラッシュV2!」
染岡が力強いシュートでゴールを決め、
「アストロブレイク!」
緑川も負けじとシュートを放ち、
「流星ブレード!」
ヒロトが渾身の必殺技でゴールを割った。
得点は2-3でAチームが1点リードしている。
そろそろ私もゴールを狙いに行きたいな。多少強引ではあるけど前に出てみようか。と、思っていると風丸にボールが渡り、素早いドリブルで上がって行く。ここがチャンスだな。勢いに乗って私も前線まで駆け上がっていった。
風丸が左サイドからドリブルで突破していくのと並行して、私は中からゴール前まで一気に上がって行く。チラっと風丸の方を見ると、風丸も私の方を見たようでちょうど目が合い、互いにアイコンタクトを取る。
「結城!」
風丸から高めのセンタリングが上がり、ゴール前まで上がっていた私は空高く飛んでボールの高さまで辿り着く。そのまま体を捻ってオーバーヘッドキックでゴールを狙いに行く。
ゴールの左上ギリギリのコースを狙ったシュートは、円堂が飛びついてパンチングしたことにより防がれたが、弾かれたボールの元には風丸が走り込んできていた。
「まだだ!」
「なっ!?」
体勢を立て直すのが遅れた円堂は反応出来ず、風丸が放ったシュートはそのままゴールに吸い込まれる。
「よし!」
「やったね」
パシッと風丸とハイタッチ。
結構息のあったプレイが出来たと思う。てか思ったんだけど、この試合って確か連携技禁止だったよね。今のは完全に連携とってたけどいいのかな? 必殺技ではないからオッケーみたいな、ワンチャンある?
他のメンバーも後半になってからは、最後の力を振り絞るかのように、全力を出しきり世界大会への切符を掴もうとしていた。
「虎丸!」
そんな中、虎丸へとパスが通る。
マックスと武方がボールを奪いに来るが、あっさりと二人を抜き去りドリブルで上がって行く。やっぱり上手い。目立つ活躍はしてない、というよりかはしようとしていないんだろうけど、それでも隠し切れないくらいのボールのキープ力やテクニック、突破力を持っているのが分かる。
「行け! 虎丸!」
豪炎寺が二人からマークされているため、虎丸に自らゴールを狙うよう指示を出す。しかし虎丸はゴール前まで来ると立ち止まり、シャドウへとバックパス。
「っ……ダークトルネード!」
パスが来るとは思っていなかったシャドウだったが、シュートチャンスであることは変わらないのでそのままシュートを放つが、咄嗟に打ったため威力は少し落ちていた。
「くそっ、今度こそ!」
飛鷹が遠くから闇雲にボールに向かって足を振り上げる。普通に考えればそんなことをしてもシュートが止まる訳がないが、
「っ!?」
「なんだと!?」
飛鷹の蹴りの風圧でシャドウのダークトルネードの威力が完全に封殺され、円堂はシュートの勢いをほとんど失ったボールをキャッチする。
「ボールが、急に失速した……?」
その時、長めのホイッスルが鳴った。試合終了の合図だ。これで日本代表メンバーが決まり、選ばれなかった者は居残りとなる。
みんな己の力を出し切ったかのように、くたびれて仰向けに寝転がったり、膝をついて息を整えてたりしていた。私はというと、結構動いたつもりだったけどまだまだいけそう。神様の恩恵のおかげか、スタミナもアップしてるみたいだ。
「みんな良くやったな。さて……これで運命の選択をしなければならん」
◇◆◇◆◇◆
代表候補のメンバーが全員並び、目の前には響木監督とマネージャー達が立っていた。
「選考通過者発表の前に、日本代表チームの監督を紹介する」
響木監督のその言葉に、みんなが動揺する。
あんたが監督するんじゃないのか、とでも言いたげな表情の円堂と鬼道だったが、構わず話は進んでいき、響木監督の隣から寡黙そうな男の人が現れる。
「私が日本代表チームの監督、久遠道也だ。よろしく頼む。では早速だが、代表メンバーを発表する」
いよいよ運命の瞬間だ。
「鬼道有人! 豪炎寺修也! 基山ヒロト! 吹雪士郎! 風丸一郎太! 木暮夕弥! 綱海条助! 土方雷電! 立向居勇気! 緑川リュウジ! 不動明王! 宇都宮虎丸! 結城悠香! 飛鷹征矢! 壁山塀五郎! 最後に、 円堂守! 以上の16名だ」
割とあっさり発表され、あまり実感が湧いてこなかったが選ばれたのは選ばれたんだ、素直に喜ぼう。てか正直めっちゃ嬉しい。
「いいか、世界への道は険しいぞ。覚悟はいいな」
「「「はい!!」」」
これから世界を相手に戦うんだ。
必ず円堂たちと、世界一になろう。