読みづらいかもしれません。。。
『さぁFFIアジア予選決勝の火蓋がいま、切られようとしています!ファイアードラゴンにはかつての強敵アフロディに加え、天才ゲームメーカーと呼び声の高いチェ・チャンスゥがいます!対するイナズマジャパンは……あぁーっと!!?』
両チームがそれぞれポジションについて試合がスタートする前に、実況が韓国と日本のスタメン紹介的なものをしている最中、何か衝撃的な光景でも見たかのような驚嘆の声を上げた。
『な、なんと!!キーパーに入ったのは
そう、このアジア予選決勝という大事な大舞台で、久遠監督は何を思ったかあの円堂を差し置いて立向居を起用した。別に立向居が悪い訳じゃない、日本の代表に選ばれたその実力とセーブ率は大したものだ。けどそれでも、イナズマジャパンの支柱、正ゴールキーパーは誰がなんと言おうと円堂しかいない。
まぁこの流れも知っていたんだけどね。だけど監督以外は、なぜ円堂を外して立向居を入れたのか分からず混乱しているようだ。
FW 吹雪、豪炎寺
MF 緑川、基山、鬼道、風丸
DF 木暮、土方、壁山、綱海
GK 立向居
そして何を隠そう私自身も混乱している。
そう、かく言う私も円堂と同じくスタメンを外されたのだ。いや、正直今までが自惚れていたのかもしれない。みんな特訓して強くなったし、私みたいなヘボプレイヤーが出る幕はもうないのかもしれない。どうせ私なんて……いや、不動みたく(?)弱気になってはダメだ。チャンスがあればきっと出られる、前向きに考えよう。さっさと出せや(貪欲)
「円堂さん……」
立向居が不安そうに呟く。なんだかんだで今大会初出場というだけでも緊張するのに、どこか調子の悪いわけでも無さそうな円堂を差し置いて自分が出ることに対する不安とプレッシャーは、多分相当なものだと思う。
「気にすんな立向居!今は試合に集中しろよー!」
そんな立向居を気にかけて綱海が声をかける。流石、見た目軽いように見えて実は気遣いが出来るタイプの良いヤツだ。けどそんな綱海でさえも、その表情はどこか固いようにも思える。やはり円堂がいないことによる不安感が拭えていないのか。
私の隣では円堂が思い詰めたような顔でジッとフィールドの方を見つめているし、雰囲気最悪だなコレ。逆に言えば、円堂がいなくなるとここまで歯車が狂い出すのは返って危ないのかもしれない。イナズマジャパンの精神的支柱である円堂に、色んな意味で頼り過ぎていたのかもしれない。仮に本当の意味で円堂が試合に出られない状況になった時に、こんな状態で果たしてイナズマジャパンは戦えるのか。
「行くぞ吹雪」
「うん!」
そんな私の思考を遮るように試合開始のホイッスルが鳴り、豪炎寺のキックオフでついに試合が始まる。
早速吹雪がドリブルで相手陣地に切り込んでいくが、アフロディが前方から走りこんできてプレッシャーをかけにくる。
「吹雪!右サイドだ!」
「あぁ!」
右翼から上がってきていた風丸に合わせるようにスルーパスを出し、右サイドから攻め上がる。ボールが繋がった風丸はぐんぐんと加速していき、ドリブルのスピードを上げて一気にペナルティエリア付近まで駆け抜けていく。
途中、中央から上がってきていた豪炎寺、吹雪の方にチラリと目を向け、続けてスライディングで迫り来る相手DFをボールを浮かせて躱す。
「……よし!頼むぞ!」
浮かせたボールをそのままダイレクトで蹴り、ゴール前中央へセンタリングを上げる。
『風丸のセンタリングに豪炎寺、吹雪が詰める!早くも先取点のチャンスだぁ!!』
それを見た相手国のチェ・チャンスゥが無駄にカッコつけたような意味深なポーズをとって合図を送る。なんだアレ、マイ○ル・ジャクソンか?
なんか横の方からメガネが「アレは!?」とか呟いて眼鏡光らせてるし。反射して眩しいからやめてほしいんだけど。
さて、チェ・チャンスゥの合図のせいか、豪炎寺と吹雪にはピッタリと相手のマークがついていた。そして風丸のセンタリングの行方はというと、ゴール前中央へ落ちていくのかと思いきや、ここで強烈なカーブがかかり、大きく曲がって豪炎寺達から少し下がった位置にいたヒロトの元へと吸い込まれていく。
「いくよ!流星ブレードッ!!」
空中で一回転しながら繰り出される強烈なハイキックにより蹴り出されたボールは、流星の如く凄まじいパワーを纏い相手ゴールに迫る。多分純粋なパワーだけで言えば、単体技の中では歴代トップクラスの高火力シュートだと思う。なによりカッコイイし。
「大爆発張り手ぇーッ!」
対する相手キーパーは両手のひらに炎を浮かべ、その手でボールを張り手のように何度も打ち付けていく。次第にシュートのパワーが薄れていき、そして最後はダメ押しに両手でボールを押さえつけた瞬間爆発が起こり、完全に勢いを失ったヒロトのシュートは難なく爆発の勢いに跳ね返されてしまった。
「なっ……弾かれた!?」
「嘘だろ!ヒロトの流星ブレードが!?」
『惜しいッ!だが基山のシュートは正面!キーパーのチョ・ジョンスの必殺技に阻まれてしまったぁ!!』
ゴール前の豪炎寺、吹雪を囮にして本命をヒロトにしてたことさえも見破っていたという訳ね。わざわざ正面から打たせたのも、そっちの方がキーパーの視界が開けてゴールを守りやすくする為か。
サイドを使って揺さぶりをかける鬼道の戦術にも素早く対応してたし、中々侮れないねチェ・チャンスゥ。さっきの意味深なポーズはちょっと気に食わないけど。
「へぇ、意外とやるじゃねぇかあの7番」
ふと不動が口を開く。ちなみに7番とはチェ・チャンスゥの背番号だ。普段ベンチにいるとやはり暇なんだろうか。
「だから言ったじゃないですか不動君、彼は鬼道君にも負けず劣らない、希代の天才だって」
不動とメガネのやり取りを鼓膜からシャットアウトし、目の前の試合を見ることに集中する。
相手キーパーのジョンスが弾いたボールを鬼道とチャンスゥが追いかけるが、ボールはチャンスゥの元へと渡ってしまう。まずい、韓国のカウンターが来る。
「涼野、南雲、アフロディ、上がりなさい!」
「「「おう!!」」」
チャンスゥのかけ声で3人が一斉にゴール前まで上がりにくる。3人とも単体で得点を狙えるストライカーな為、奇しくも先ほどイナズマジャパンが取った戦術に似ている。誰が囮で誰が本命で来るか分からない。
「ここは通さないっス!」
「行かせるかぁ!!」
ゴール前を壁山が固め、土方がボールを持つチャンスゥに飛び出してスライディングでボールを奪いに行く。
が、土方の足が届く直前に大きく山なりのセンタリングを上げる。その先に走り込んできているのは……。
「……っ!狙いはアフロディか!」
「まずいッ!」
横で円堂が思わず立ち上がるが、もう遅い。すでにアフロディはシュート体制に入っている。
そして、私はその姿を見て思わず見とれてしまった。背中から天使のような純白の6枚羽を生やし、空高く飛び上がると同時にボールに白いプラズマのような力を宿らせる。大きく振りかぶってそれを勢い良くアフロディが蹴りつけると、ベンチからでも伝わるほど強大なパワーを持って立向居が守るゴールへと突き進んでいく。
「凄い……」
思わず鳥肌が立ち、言葉が漏れて出た。
シュートの威力、技の完成度、どれを取っても一級品だけど、私が惹かれたのは何よりその美しさだった。ネオジャパン戦で砂木沼が見せた借物なんかじゃなく、本物の。
確かにアフロディだからこそ、その綺麗な容姿を持っているからこそ魅力があるという点もあるかもしれない。けど私にとってはそこは重要じゃない。洗練された動き、純粋な強さと美しさを兼ね備えた、見るもの全てを魅了するかのようなプレー。
エースストライカーのハットトリック。
ファンタジスタの華麗なテクニック。
ゴールキーパーの連続スーパーセーブ。
技術や力を持って相手に勝つのはもちろんのこと、観客やオーディエンスを沸かせるような、見ているだけでも楽しい魅力的なプレーに、私は憧れていることに気づいた。そしてその強い憧れを元に、私の今のプレースタイルが確立されていることも。
「ははっ……」
不意に笑みが溢れた。誰にも聞こえない程度に。こんなピンチの状況なのに、自然と笑ってしまった。今まで何気なくプレーしていたスタイルの根源に今更ながら気づかされるなんて。初めて正面からサッカーと向き合った気がした。
何故だろう、原作知識以外で特にこれといった理由は無いけれど、この試合、私にとって、みんなにとって、チームとして成長する良いきっかけになるかもしれない。
ふと前を向けば、立向居がガッチリとアフロディのシュートをキャッチしていた。
◇◆◇◆◇◆
その後、立向居の決死のセーブ虚しくあっさりボールを奪われてしまい、それを取り返そうと豪炎寺の少々危なっかしいスライディングがファウルを取られ、相手のボールからリスタートが始まろうとしていた。
「焦るな豪炎寺、試合はまだ始まったばかりだぞ」
「あぁ」
鬼道が気持ちを落ち着かせるように嗜めるが、当の豪炎寺にはあまり響いていないようだ。にゃろうまだ親御さんの事でもやもやしてるな。そんなんでよく虎丸にボールぶつけれたもんだよ。まぁあの時は私も流石にイラついたけど、虎丸が全部悪い訳じゃないしなぁ。
円堂も早く監督の考えに気付いてよ。じゃないと試合出れないよ?
てか監督もちょっとは喋ってよねぇ。ここの身内の駆け引き無駄じゃない?
なんていってる内にボールは蹴り出されてリスタート。土方と相手MFの競り合いで零れたボールが飛鷹の元へ。そしてそのままドリブルで攻め上がっていく。
「飛鷹!あまり持ち過ぎるな!緑川とヒロトがノーマークだ!」
またもや鬼道が静止の声をかける。円堂いないから大変だな鬼道。当然やる気に満ち溢れて周りが見えていない飛鷹はそのままぐんぐんと加速して突っ走っていく。
「うおぉぉぉッ!!」
雄叫びを上げて走るその様はまさに暴走。
これがまだ鬼道や風丸だったらそのテクニックとスピードで突破出来るかもしれないが、ボールを持っているのはまだまだ素人の飛鷹だ。
「なんだこいつ、隙だらけじゃねぇか!」
「フッ、所詮その程度のスピードでは……私たちを突破する事など出来ない!」
南雲と涼野が両サイドから挟み、飛鷹の持つボールをいとも簡単に奪ってしまう。
いつもよりもボールの保持率が悪い。みんなの気持ちがそれぞれ別の方向に向いてしまっているために、試合に集中できず連携が取りにくくなっているんだ。一部のメンバーは特に酷い。
「飛鷹さん、どうしてパスを出さなかったのかしら」
その時、珍しく冬花が口を開く。
これは……少し乗っかってみるか。
「緑川さんもヒロトさんも、マークがついていなかったのに」
「単純に周りが見えていないからじゃないかな」
冬花の誰に問うでもない疑問に私が応える。
すると不動を除いた全員がこちらの方を向く。
円堂に監督の考えを少しでも分かりやすくすることで、ピッチに戻るタイミングを早める事が出来るかもしれない。円堂にキャプテンとしての自覚を持たせる良いヒントになるかも。
「あの飛鷹の様子を見るに、あれは緊張とか不安じゃなくて、ただただやる気が空回りしてるんだと思う」
「でも、あそこまで酷いのは見たことないけど……」
「うん、それはたぶん、今までは自分で制御出来てたり、誰かからフォローしてもらってたからだね」
「それが今回の試合で制御出来なくなったってこと?」
「その通り。いつもなら自分で抑えたり、誰かに嗜められるけど、今回はなにかをきっかけに自分でも抑えが効かないくらい高ぶって、あまつさえ誰も飛鷹の心境に気付けなかった」
スポーツにおいて気持ちのコントロールというのは案外大事なものだ。気持ちひとつでプレーが変わるとは良く言ったもので、リラックスしている状態が基本的に一番本来の力を出し切れる。逆に興奮し過ぎていたり、気持ちが高ぶり過ぎると返って望まない結果になることが多い。ついこの前私もネオジャパンとの試合で経験した。
「本来なら誰よりも先にそのことに分かってあげないといけない人がいるんだけど、誰だか分かる?」
「え、えっと……監督とか?」
やばっ、いま吹き出しそうになった。
娘からダメ出しくらう監督……マジ笑えるね。
「ううん、残念だけど違うよ。こういう時はーーー
ーーーキャプテンがいの一番に気付いてあげないといけないんだよ。
一見文字に起こしただけに
見えるかもしれませんが、
何個か本戦への布石を打ってあります。