陽気なガールは転生したのちボールを転がす   作:敏捷極振り

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めっちゃ久しぶりの投稿です。





17話 それぞれの想い

 

 

 

 さて、ついに決勝戦の試合当日がきた。

 雷門の校門前にはスタジアムへの足となるイナズマキャラバンが停まっており、その周りには選手の皆んなとマネージャー達が集合していた。ある一部を除いて……

 

「あれ? 久遠監督とふゆっぺは?」

 

「先にスタジアムへ行ってるらしいわ」

 

「なら、これで揃ったな。じゃあ出発だ!」

 

 円堂の誰に問うでもない疑問の声に、木野が応える。そして円堂の号令で、皆んなが徐々にキャラバンに乗り込んでいく。

 円堂は不思議に思わなかったみたいだけど、なぜに選手を置いて監督だけ先にスタジアムへ向かったのか疑問に思うのは私だけ? 私が細かいことを気にする女なだけなの?

 さて、軽い自虐はそこまでにしておいて、各々が適当にもしくは仲の良いメンバー達で座席に座っていく中で、私は風丸の隣というライブコンサートの最前列並みの特等席を見事にゲットした。

 

「この試合に勝てば、ついに本戦に出られるんだよな!」

 

 隣にいる綱海がちょっとばかし残念だけど……。まぁ嫌いなキャラじゃないし、むしろとっつきやすいから、どちらかといえば好きな方なんだけどね。

 

「でも相手はあの韓国だからね。一筋縄ではいかないんじゃないかなぁ」

 

 なんたってあの美しさと実力を兼ね備えた、まさに神クラスのアフロディがいるんだからね。あとは元エイリアのガゼルとバーンだっけ。もうその三人がいれば最強じゃない? あと一人だれか忘れてるような気がするけど、全然思い出せないな。まぁいいや。

 

「アジアの中でもトップレベルの強さって聞くからな。でもまあ、相手にとって不足はないだろ?」

 

 風丸がなかなかに強気な発言をする。まるで円堂みたいな言い回しだね。その表情もどこか凛々しくて、強い相手と戦いたくてうずうずしてるって感じだ。この短期間で変わったね風丸。最初の頃は俺なんて……って言ってたのに。

 

「へっ、確かにな。波は高い方が乗り甲斐があるってもんよ!」

 

 そんな風丸に触発されたのか、綱海もニヤリと口角を上げ、拳を作っていかにもやる気満々といった様子。うんうん、やる気があるのはいいことだ。けど、あんまり出し過ぎて空回りしないようにね。

 

「なんにせよ、今までの特訓の成果を発揮する時だね!」

 

「そうだな!」

 

 いい感じにお互いの士気を高められた所で、急にキャラバンが甲高いスキール音を立てながら停止した。いきなり急停止したもんだから、座席に座っていた皆んなが前のめりになりながらも耐え、やがて顔を上げて何があったのか状況を把握する。

 

「皆んな大丈夫か!?」

 

 円堂が立ち上がってまず皆んなの安否を確認する。幸いにも怪我人はおらず、きちんと皆んなシートベルトをしていたようだ。不動と飛鷹もちゃんとしてたんだね、意外。

 

「古株さん! どうしたんですか!?」

 

 急いで木野がドライバーの古株さんに声をかける。と、古株さんはあまりの驚きに声を失いつつも、フロントガラスの前方を指差す。そこには道路のど真ん中に陣取る、明らかに不良っぽい出で立ちのヤンキー達がたむろしていた。先頭にはいかにもリーダー格っぽい男が単車に跨ってこちらをニヤニヤしながら見ていた。感じ悪っ!

 皆んなが窓から顔を出し、誰だアイツら的な嫌悪感を露わにする中で、飛鷹だけは顔をしかめて目の前の不良たちを睨んでいた。

 

「お久しぶりですねぇー、飛鷹センパーイ! そう怖い顔しないでくださいよぉー」

 

 喋り方からしてウザい。

 あとよく見たら跨ってるの単車じゃなくて改造したママチャリじゃん。ダサっ。無駄にめっちゃ鬼ハンだし。

 

「カラス!! てめぇ何のつもりだ!」

 

 ドスの効いた声で飛鷹が威圧するが、全く気にする様子もなくそのカラスと呼ばれたリーダー格のチャリ野郎は続ける。

 

「これから大事な試合らしいじゃないですかぁー。なんでぇー今まで世話んなった奴らが駆けつけてくれたんすよぉー」

 

 その後ろでは5、6人程度のお仲間と見られる輩がこちらをジロジロと面白そうに眺めていた。

 そんな中、円堂と綱海、飛鷹はキャラバンを降りて不良グループの前に立つ。

 

「そこを退いてくれ、おれ達はスタジアムに行かなきゃならないんだ」

 

「えぇー? せっかく応援に来たのに追い返すんですかセンパーイ?」

 

「何が応援だ! タチの悪い嫌がらせじゃねーか!」

 

 短気な綱海が腕を捲って握りこぶしを作る。如何にも戦闘態勢といったところだけど、それは悪手だ。

 

「あれぇー? いいんですか? こんなところで暴力なんて、せっかくの決勝戦が『出場停止処分』になっちゃいますよぉー?」

 

 相手はそれを見越して、さらに挑発をかけてくる。

 さすがの綱海もその一言が効いたのか、苦虫を噛み潰したような表情で一歩下がる。このままでは試合が始まってしまう。もし間に合わなければ韓国の不戦勝で私たちの挑戦がここで終わる。悔しいけど何も出来ず、私たちは固唾を呑むしかなかった。てかホントに間に合わなかったらこいつらフルボッコにしていいかな? 太○の達人には結構自信あるよ私? フルコンボかましちゃうよ?

 

 

「お別れです皆さん!」

 

 

 その時、飛鷹が決心したように沈黙を破る。

 

「お別れって、どういうことだ?」

 

「行ってくれキャプテン。オレがこいつらの相手をする」

 

「飛鷹……」

 

「元々はオレが招いた問題だ。こんなことで、皆んなの夢を台無しにしたり出来ない」

 

「へぇーやるんですかぁ?」

 

「あぁッ!」

 

 飛鷹が覚悟を決めていまにも飛びかかろうとするのを円堂が制す。

 

「やめろ飛鷹」

 

「大丈夫ですよ、こんな連中オレ一人で!」

 

「違う! お前も一緒に来るんだ。誰一人欠けちゃいけない。俺たちは全員でイナズマジャパンなんだ!」

 

 円堂のその言葉に飛鷹が一瞬驚いて目を見開くが、徐々に先ほどよりも落ち着きを取り戻し我に返る。

 

「キャプテン……」

 

「ハァ〜、美しい友情っすねぇー……そんなもん、全部おれたちがぶち壊してやんよ!!」

 

 雄叫びを上げ、今にも円堂たちに襲いかかってきそうな様子を見て、私は咄嗟に運転席の古株さん越しに車のヘッドライトのスイッチを入れ、さらにはハイビームに切り替えて奴らに目くらましをかます。日中だけど割と近距離だから多少効果はあるはず。

 

「ぐわぁッ! なんだぁ!?」

 

 呻き声に近い声を上げる不良供。意外と効いたみたいだ。

 しかし咄嗟に目を覆う奴らと円堂たちの間に、道路脇から新たな数人の人影が飛び出す。これはきっと、増援かな?

 

「なんとか間に合ったみたいですね、飛鷹さん!」

 

 またもや不良っぽいグループが登場する。

 ただしこっちの方はなんというか、正直あんまり脅威というか悪さは感じないかな。まぁいうてチャリ野郎たちもそんなに凄みは感じないけど。

 

「お前たちはまさか、スズメか!?」

 

 飛鷹の様子からしてこちらも知り合いのようだ。まぁ知ってたけど。ただしこちらは私たちの敵という訳ではないらしい。

 

「ここは俺たちに任せて、先へ急いで下さい!」

 

「お前たち……」

 

「俺たちの夢を終わらせないで下さい。俺たちの夢は、飛鷹さんが活躍することなんです。どうか羽ばたいてください……世界へ!」

 

 その言葉を聞いて完全に吹っ切れた飛鷹は、小さく「ありがとよスズメ!」と呟いて踵を返しキャラバンに乗り込む。円堂と綱海も急いで駆け込み、古株さんがアクセルを全開にして不良たちを後にする。

 キャラバンが走り出した後も、飛鷹はしばらくの間後方を気にした様子で見つめ、その目には今まで以上の覚悟と闘志を宿らせていた。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 その後古株さんの超絶ドライビングテクニックのおかげで私たちはなんとか試合に間に合うことが出来た。スタジアムに着いてすぐさまユニフォームに着替え、久遠監督のミーティングもほどほどに、ベンチの前で皆んなで円陣を組んでいた。

 

 

『さぁいよいよ始まります! FFIアジア予選決勝戦!勝って世界への切符を手に入れるのは果たして日本か!韓国か!戦いの火蓋がいま、切って落とされます!!』

 

 

「みんな、絶対に勝って、世界へ行くぞ!!」

 

「「「おぉーーッ!!」」」

 

 円堂の掛け声で気合いを入れて、ウォーミングアップを始めようとしたその時、見覚えのある人影がこちらに向かってくるのが見えた。あれはまさか……

 

 

「元気そうだね。それでこそ、全力で倒す価値がある」

 

「あ、アフロディ……!?」

 

 おいおいマジですか。

 神々し過ぎて直視できないんだけど。何あの髪、めっちゃサラッサラじゃん。なんのシャンプー使ったらそんなになんの? えぇ? 顔小っさ。整い過ぎてもはや神だわ……あ、なんだ神か。

 ふぅ、私の思考がちょっと可笑しなことになったけど、気を取り直して改めてアフロディを見てみる。うん、やっぱり只者じゃない。見た目もそうだけど、雰囲気というかオーラというか。今まで予選で戦ってきた相手とは格が違う。これは確かに一筋縄ではいかないね。と思っていると、アフロディの背後からニュッと二つの人影が出てくる。

 

「やっと会えたね」

 

「長くて退屈してたぜ、決勝戦までの道のりはよ」

 

「ガゼル!?」

 

「バーンまで……なぜここに!?」

 

 ボリューミーな白髪を揺らす涼野(すずの)風介(ふうすけ)と、真っ赤な赤髪に闘志を燃やす瞳の南雲(なぐも)晴矢(はるや)がそこに立っていた。

 

「フッ、彼らもまた、ボクのチームメイトだからさ」

 

「じゃあ、まさか……」

 

「そう……ボクたちこそが、韓国代表ファイアードラゴン!」

 

 かつてフットボールフロンティアで戦い、そして対エイリア学園での共闘でもはや戦友となったアフロディを目の前にし、円堂は言葉を失う。というよりかはいきなり知ってる顔が出てきたもんだから驚きで言葉が出ないみたいだ。

 

「別に不思議でもないだろう。ボクが母国の代表選手に選ばれても」

 

 私知らなかったけどアフロディって韓国が母国なんだね。アフロディくらいのレベルなら日本代表に選ばれててもおかしくないとは前々から思ってたけど、そもそも国籍が違うんじゃ選ばれないよねそりゃ。

 

「俺たちはアフロディからスカウトされてこのチームに入った」

 

「君たちと、また戦うためにね」

 

「かつてのボクたちとは思わない方がいい。各々が特訓を重ね、格段にパワーアップしている。そしてなによりこのチームには、チェ・チャンスゥがいる」

 

 そういうとアフロディ達の横から細目のもさもさ頭が姿を現す。彼がチェ・チャンスゥだというのは私は元から知っているが、他のみんなは誰これ状態だ。唯一メガネだけが知っているような素振りを見せていた。

 

「初めまして、イナズマジャパンの皆さん。いい試合にしましょう。でも、お気をつけて……決勝戦のフィールドには、龍がいますから」

 

「龍……?」

 

「ではまた、すぐにフィールドでお会いしましょう」

 

 意味深な言葉を残して相手ベンチに去っていくアフロディ達。

 

「にしてもアフロディ達が相手か、これは相当手強いぞ」

 

「ですが、警戒すべきはあのチェ・チャンスゥです」

 

 珍しくメガネが必殺のネーミング以外で口を開く。いつになくメガネ輝かせてるね。

 

「そんなに凄いやつなのか?」

 

「……知らないんですか?」

 

 そんなことも知らないのか、といった様子でちょっと小馬鹿にした感じにメガネが口を尖らせる。なんだろう、さっきのチャリ野郎並みにウザいな。殴ってもいいかな。

 

「フィールドを支配する韓国の司令塔で、その巧みなゲームメイクは、完全なる戦略と言われるほどです。これまでにあらゆる敵を打ち砕いてきたとか」

 

「イナズマジャパンで言う鬼道みたいなもんか」

 

「まあ平たく言うとそうですが、頭脳・実力ともに引けを取りません。希代の天才ゲームメーカー、龍を操る者、とそう呼ぶ人もいます」

 

「すっげぇな……でも、面白いじゃないか! なぁみんな!」

 

「あぁ、そうだな」

 

「龍がなんだってんだ! だったらこっちは鬼だぜ!」

 

「……鬼?」

 

「それって、もしかして“鬼”道のこと?」

 

「あー、それで鬼か。なるほど……うん?」

 

 綱海の訳の分からない超理論に全員が首を傾げるが、細かいことは抜きにして、とりあえず円堂がシメる。物理的にじゃないよ、この場の雰囲気だよ。

 

「よぉーし! みんな決勝戦だ、気合い入れて行くぞッ!!」

 

「「「おぉーー!!」」」

 

 それから各々でウォーミングアップを始める。

 が、そこで私はふと気付く。みんなやる気は十二分にあるけど、何人か少し雲行きが怪しい。なんとなくだけど、どことなくチームとして一つにまとまってない、なんというかもどかしい感じがする。飛鷹はさっきの件もあって気負い過ぎな節もあるし、豪炎寺に関しては、これは家庭の事情だからまだ仕方ないのかもしれない。ヒロトと緑川に至ってはバーンとガゼルとの元エイリアの過去もあってか色々と深く考え込んでいるみたいだし。

 しかもこういう嫌な雰囲気の時に限って……

 

「やれやれ、厄介な連中が来たもんだ。まぁこっちにも、天才ゲームメーカー様がいるから心配ないってか?」

 

「いいか不動、これは皆んなの力を合わせないと決して勝てない試合だぞ!」

 

「ハッ、いいじゃねーか。どうせオレは今日も出番ナシさ。精々頑張ってくれよ、鬼道クン?」

 

 こいつらの口論が始まるんだもんなー。

 この二人実は仲良いんじゃないかってくらいにたまに言い合うよね。まぁただ時と場所はホントに考えてほしいんだけど。

 

「円堂」

 

 そんな時だった、監督が豪炎寺とアップをしていた円堂を呼ぶ。

 

「はい、なんでしょう監督」

 

「この試合、イナズマジャパンは勝てると思うか?」

 

「え……もちろんですよ! おれたちは絶対勝ちます! 勝って世界に行きます!」

 

「……お前には、何も見えていないようだな。キャプテンでありながら」

 

「えっ!?」

 

 円堂の力強い意気込みを即座に否定し、まるで失望したかの様に立ち上がって円堂の横を通り過ぎる。

 

「今のままでは、イナズマジャパンは絶対に勝てない。それが分からないお前は、キャプテン失格だ」

 

「なっ!? どういうことですか監督!」

 

 円堂に背を向けたまま、目線だけを微かに動かして久遠監督は言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のお前は、チームに必要ないということだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アレスの天秤見た時の
コレじゃない感。。。



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