陽気なガールは転生したのちボールを転がす   作:敏捷極振り

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1話 日本代表候補集結!

 

 

 

 気が付いた時には、私は学校の体育館のような場所で壁に寄りかかっていた。所々にカミナリマークのシンボルがある、ということはここは雷門中の体育館か。どうやら無事にイナイレの世界に転生されたみたいだ。あの自称神様はホンモノらしい。

 周りを見てみると、なぜか雷門中サッカー部の面々や帝国の佐久間、白恋中の吹雪にエイリアのヒロトまで豪華なメンツが勢ぞろいしていた。なんだろ、まるで日本中からかき集めた精鋭たちでも集ってるかのような。あれ、てかもしかしてこれって……。

 

「みんな揃っているみたいだな」

 

 その時、体育館の入り口が開いてグラサンかけたヒゲのおっさんが現れた。つーか響木監督じゃね!?

 

「いいかよく聞け! お前たちは、日本代表候補の強化選手に選ばれた!」

 

 どこかで見たことある展開だぞコレ。

 もしかしなくても、FFI編っぽいぞこれ!

 イナズマイレブン初期の頃からの世界を楽しみたかったけどこの際しょうがない。てか私日本代表候補に選抜されたのね。

 

「日本代表? 一体何の?」

 

 この世界の主人公、円堂が尋ねる。うわぁ生の円堂守だよ、マジすげーよ。でもなんだろ、未だに実感湧かない感じだ。てかよ円堂、このメンツ見りゃ十中八九サッカーのことだって分かるだろうよ。

 

「今年からサッカーの世界大会フットボールフロンティアインターナショナル、通称FFIが開催されるーーー」

 

 響木さんの長々しい説明を聞き流しつつ、私は改めてこの場にいるメンツを見渡す。おっ、鬼道発見! マジでドレッドヘアにゴーグルなんだな。隣には豪炎寺か、いずれファイアートルネードDD習得して一緒に打ちたいなー。あっ! 風丸くん見っけ! てか壁山でけーなオイ! 何食ったらあんななるんだろ。

 いやーもう凄い。感激すぎる。まだ何も始まってすらいないけどもう満足だわ。

 

「すげーぞみんな! 次は世界だ!!」

 

 急な円堂の声でビクっとする。

 声が大きいからびっくりするんだよね。ちょっと心臓に悪い。けどどこか元気の出る声だ。さすが竹内順子さんVoice。

 

「世界か……」

 

「ついに世界と戦えるんだな!」

 

「あぁ!」

 

 みんなそれぞれの思いに浸りながら世界を相手にすることを楽しみにしているようだ。ただ私の場合はいきなりすぎてまったく実感わかないけど。

 

「あくまでもこの場にいる22人は候補だ。ここから16人に絞られる」

 

「てことは6人落とされるってことか」

 

「全員がライバルか、腕がなるぜ!」

 

 出来れば代表に選ばれたいな。神様曰く私の身体能力とかはイナイレ世界に合わせて調整したとかなんとか。必殺技も練習すればちゃんと覚えられるようにしたらしい。

 

「まず初めに、11人ずつ2チームに分けます。その後2チームで試合をしてもらいます」

 

「その試合でそれぞれの能力を見極める。持てる力を存分に発揮してくれ!」

 

「「「はい!!」」」

 

「それではチームメンバーを発表します」

 

 

 Aチーム

 円堂・土方・染岡・佐久間・綱海・吹雪・マックス・壁山・ヒロト・飛鷹・武方(勝)

 

 

 Bチーム

 鬼道・不動・風丸・木暮・豪炎寺・立向居・緑川・シャドウ・メガネ(弟)・虎丸・私

 

 

 ふーん鬼道と一緒のチームか。最初は円堂と一緒にサッカーしたかったけどまぁいっか。てか栗松の代わりに私が選ばれたのね。ごめんねイガグリボーイ、きみのことはたぶん忘れないでやんす。

 

「それぞれのチームキャプテンは円堂、鬼道。お前達だ!」

 

「「はいっ!」」

 

「試合は2日後だ。それと、今回は個人の実力を測るため連携技は禁止とする。練習は各チームに任せる。2日後楽しみにしているぞ」

 

 そう言って響木さんは去っていった。

 

「はい、皆の新しいユニフォームよ」

 

「うおー! すっげー!」

 

「青は海と同じ色、気に入ったぜ!」

 

「これを着て早速練習だ!」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 というわけで、私たちBチームは現在帝国グラウンドにいる。キャプテンの鬼道のある意味でのホームグラウンドだ。今回の試合は個人の力量を示す為のもので、いわゆるアピールの場ではあるけど、ある程度の連携等は取れるようにしたいと、個人の技を磨きつつ全体で動きを確認しながら練習するらしい。特に私や虎丸のような新参のメンバーは実力が未知数なため積極的に参加するよう言われた。

 

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな」

 

 鬼道から言われて気がつく。そういえばまだ誰にも名乗っていなかった。どうしよう、前世の名前をそのまま使おうか。

 

結城(ゆうき) 悠香(ゆうか)、好きなように呼んでくれていいよ」

 

 内心ドキドキしつつ右手を差し出す。すると鬼道も「あぁ」といって握手を交わしてくれた。はい、もう今日は手は洗いません。

 

「虎丸、結城。ポジションはどこができる?」

 

「キーパー以外ならどこでも!」

 

「私も同じ感じかな」

 

 それから練習は始まりだしたが、やはりというかこっちのチームは色々と懸念材料はあるようで、

 

「おい不動、パスを回せと言ったはずだ! 勝手に行動するな!」

 

「なんでテメーなんかの指図を受けないといけねーんだ鬼道? オレはオレのしたいようにするぜ」

 

 うん、やると思ったよこの二人。

 ホントに仲が悪いな、まぁ二人の過去というか生い立ち的に知ってるからしょうがないと思うけども。

 

「豪炎寺さん!」

 

「ナイスパスだ虎丸!」

 

 ふと横を見れば豪炎寺と虎丸が結構息のあったプレイで練習をしているが、私には分かる。やはり虎丸は決定的な場面では自らは行かずに豪炎寺や他のメンバーにパスを出し、それはまるでひたすらに自分を抑えているかのよう。

 

「大丈夫か? ボーっとしてるけど」

 

「ん? あぁ、風丸くんか」

 

 ふと傍観してみんなの練習風景を眺めていると、風丸に声をかけられた。大好きなキャラクターから急に声をかけられたから驚いた、ここは平常心に。

 

「どこか具合でも悪いのか?」

 

「いや、そういう訳じゃないよ。ただみんな凄いなって」

 

 とりあえず当たり障りのない感想を述べる。すると、風丸は少し表情を曇らせて俯く。

 

「あぁ、凄いよな。鬼道はどんな状況でも瞬時に判断できる頭脳、豪炎寺はどの場面でも点を取れるキック力、不動だって口は悪いけど実力は確かだ。俺なんて……」

 

 前世では画面から見てただけだからなんとなくは感じてたけど、リアルだと結構ネガティブなんだね風丸。ここは私が人肌脱いであげますか。

 

「そんなことないと思うよ。練習してて思ったけど、風丸くんって足速いし、そのスピードなら世界でも通用するんじゃないかな」

 

「でも、それだけで世界を相手にできるのか…」

 

「そのためには練習しないとね」

 

 あまり風丸の表情は変わらない。この程度じゃダメか。意外とめんどくさい性格してるな風丸よ。まぁそんなこと口が裂けても本人には言わないけど。少し円堂風にくさい感じのセリフでいってみるか。

 

「風丸くんってさ、なんでサッカーやってるの?」

 

「えっ?」

 

「楽しいからじゃないの?」

 

「まぁ、それもあるけど……」

 

「じゃあさ、とりあえず勝ち負けとか強さとか関係なしにさ、思いっきり楽しめばいいんじゃないかな」

 

「でもそんな甘い考えじゃ、世界には通用しな「じゃあさ」」

 

 私は風丸の言葉を途中で遮って続ける。

 

「もし勝てたとして、もし世界に通用したとして、それが何か卑怯な手を使ったりとか、はたまたドーピングとかしてたとしても、楽しかったって思える?」

 

 風丸が顔を上げ、黙って私を見つめる。

 

「勝てたとしても、楽しくなかったら意味がないと思うんだ。楽しんで勝ってからこそ心から本当に喜べると思う。ただ勝つだけじゃ面白くないじゃん、どうせなら楽しもうよ」

 

「……そうだな」

 

 少しだけ表情が晴れたが、後もう一押しだ。

 

「私さ、雷門イレブンに憧れてたんだ。フットボールフロンティアで戦ってた姿を見て一気にファンになっちゃって。その中でも、颯爽とフィールドを駆け回る1人のDFがもうカッコよくてね。今では世界を相手に、こうして日本の代表候補として一緒にフィールドに立ってプレーしてる」

 

嘘偽りのない、全部私の本音だ。画面越しで見ていた世界を、キャラクターを、想いをこうして共有し分かち合えるなんて夢にも思わなかった。今でも信じられないくらいだ。

 

「男の子だから勝ち負けに拘るのはしょうがないと思う。けど、私は風丸くんと一緒に楽しくサッカーがしたい。だからさ、楽しく勝つために今は練習頑張ろう?」

 

 最後に私は風丸に微笑みかける。どうだ、これで少しはその弱気も治ったか。と思っていたら、なぜか風丸の顔が少しだけ赤くなっていることに気がついた。

 

「……ありがとな、結城」

 

 俯き気味に呟いた風丸は、立ち上がったと思ったら走って練習に参加していった。よし、これでとりあえず風丸はもう大丈夫だろう。大好きなキャラクターに途中で離脱とかされたら正直たまらんからね。不安要素は取り除いておくべきだ。

 

「おいおい、テメーはここにラブコメでもしにきたのか?」

 

 いつの間にか不動が練習を抜け出して後ろで壁にもたれかかっていた。てか今のやりとり聞かれてたとなると中々恥ずいな。

 

「な訳ないじゃん、ちょっとお悩み相談受けてただけだよ。それよりいいの? ちゃんと練習しないとまた鬼道に怒られちゃうよ?」

 

「お前も一緒だろ」

 

 所々嫌味ったらしいね、さすが不動、嫌いじゃない。むしろ好きな部類に入るキャラクターだ。

 

「私はこれから参加するよ、不動は?」

 

「オレはしねーよ。やらなくても十分だしな」

 

「そう言ってると選抜落とされるかもよ?」

 

「ああいうのは決める時に決めときゃいんだよ」

 

「へぇ、そりゃいいこと聞いた。それが日本代表候補最後の言葉じゃなきゃいいね、自信過剰気味の不動クン?」

 

「テメェ……調子に乗ってんじゃねーぞ」

 

 あれ、なんでこうなったんだろ。

 不動と話してたらいつの間にか一対一で戦うことになったけど。なんか不動につられてつい私も煽り口調になってしまった。後悔はしてない。

 

「おい、勝手に何してる」

 

「ちょっとしたゲームだよ」

 

「ごめんね鬼道。でもまぁお互いの実力を知るという意味で許してよ」

 

「ルールはたった一つ、先にゴールした方が勝ちだ。シンプルでバカにも分かりやすいだろ?」

 

「なるほど、とっても分かりやすいね」

 

 帝国のグラウンドはいくつかあり、その中の一つを丸ごと使った中々豪華なミニゲームだ。なぜかみんな練習を中断して私と不動の対決に釘付けだ。いやいや、鬼道はまだしも他のみんなはグラウンド他にもあるんだから練習しててもいいのに。

 センターサークルに置かれたボールを挟んで、私と不動は互いに向き合う。

 

「んじゃあ、まずはそちらからお先にどうぞ」

 

 両手を広げて余裕綽々といった感じで最初のボールタッチを私に譲るという。舐められたものだね。ここは豪快にその鼻へし折りたいけど不動も曲がりなりにも代表候補だ。実力は確かにある。ここは慎重に選ぶか。

 

「負けて泣きべそかいても知らないからね」

 

 私がドリブルで相手陣地のコートを駆けていく。

 

「ほう、速いな」

 

 鬼道が感嘆の声を漏らす。多分それは女の子にしてみればという所だろう。実際には風丸の足元にも及ばない。

 私と相手のゴールを挟んだ所に不動は佇んでいる。が、油断しているようで実質その隙はあまり無い。

 

「このまま抜かせてもらうよ!」

 

「させるかよ!」

 

 マルセイユルーレットで華麗に抜き去ろうとしたけど、不動も体を捻ってしっかりついてくる。なら股通しだ。柔らかいボールタッチで不動の股下にボールを通し、一瞬抜き去ったが即座に追いつき強烈なチャージをしてくる。

 

「結城のやつ、意外とやるな」

 

「あぁ、あのボールさばきは見事なものだ。代表候補に選ばれただけのことはある。データが一切無かったから少々警戒していたが、ある意味ではこのゲームも役に立ったかもな」

 

 体格差や男女の力の差があるせいか、不動のチャージに押されつつある。現状なんとかボールキープできている状態だ。このままだとすぐ奪われてしまう。何か良い手はないものか。

 

「さっさとボールを寄越しなァ!」

 

「くっ、かくなる上は!」

 

 飛び上がって宙返りしつつ、不動の頭上を通り越してなんとか抜き去る。

 

「なにっ!?」

 

「もらった!」

 

 そしてそのまま目の前のゴールにシュート。

 やった、あの不動に一対一で勝っちゃったよ。

 

「よし! 私の勝ち!」

 

 勝利のVサインを不動に見せつける。

 

「ちっ、なに熱くなってんだよ、ただのゲームだろ」

 

 あれ、なんかそう言われると恥ずい。

 とっくに不動は冷めてしまったようで、ポケットに手を突っ込んでこの場を去ろうとしていた。

 

「どこ行くの?」

 

「トイレだよ」

 

 なんだ、我慢してたのか?

 不動がトイレタイムに行って姿を消すと、みんなが私の元へと駆けつけてきた。

 

「結城、大丈夫だったか?」

 

 最初は風丸に心配された。

 別にみんなが思ってるほど不動は悪い奴じゃないと私は思ってる。まぁみんなからしてみれば以前までの不動がやらかしたことは許さないんだろうけど。

 

「うん、全然大丈夫。むしろまだまだやれるよ」

 

「あのボールさばきとキープ力、見事だ」

 

「結城さん! 今度おれにルーレットの上手いやり方教えてください!」

 

「中々力強いシュートだったな」

 

 鬼道、虎丸、豪炎寺から褒め頂きました。

 不動には悪いけど、今回のミニゲームでみんなと少しだけ打ち解けれたような気がする。

 

 

 

 


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