陽気なガールは転生したのちボールを転がす   作:敏捷極振り

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最初ほんの少しだけ豪炎寺side入ります






15話 風前の灯火

 

 

 

 

 俺は今、サッカーを続けるか迷っている。

 小学生の頃から始まり、中学生に入った時にはとある事件をきっかけに一時的にサッカーから遠のいたものの、仲間の説得に背中を押され、今では日本の代表として世界を相手に戦っている。

 正直言うとサッカーは好きだ。これからもずっと仲間たちと一緒にサッカーを続けたい。だが現実はそういう訳にもいかなかった。

 俺の父は病院を営んでいる医者だ。そしてその父は、将来俺にその職業を継がせる気でいる。親なら当たり前のことだ。子供には将来安定した職業、名誉ある仕事をやらせたいと思うはずだ。その考えは分からない訳でもない。でもだからと言って、今この世界大会の予選決勝の舞台間近の時に、ドイツに留学させるなんてあまりにも酷だと思う。

 

 確かに、前々から留学の話は聞いてたし、それを断って先延ばしにしていた俺も悪かった。もしかしたら今までその話題から逃げていたことのツケが回ってきたのかもしれない。しかも今回に限っては父は本気で俺をドイツに行かせる気だ。そう簡単には逃げられない。でも、本心から言うとサッカーをやりたい。

 合宿所から練習用の着替えの服を取りに自宅に戻って来ていた俺は、もやもやとした心情の中、どうか父が帰っていませんようにと密かにそう願いつつ、俺は玄関の扉に手をかけた。

 

「お兄ちゃんおかえりー!」

 

 扉を開けると、打って変わって元気な声が俺の帰りを迎えてくれた。声の主は妹の夕香だ。俺が入ってくるや否や、夕香は小走りで嬉しそうに駆け寄ってくる。

 

「ただいま、夕香」

 

 頭に手を置いて優しく撫でると、夕香は眩しいくらいの笑顔で俺を出迎えてくれた。数分前まで父のことで悩んでいたが、その瞬間だけは記憶から消え去った。

 

「おかえりなさいませ。これ、洗濯物ですね」

 

「ああ、頼むよ」

 

 少し遅れて家政婦のフクさんが奥から顔を出す。今は亡き母の代わりに身の回りの世話をしてくれている。

 汚れた服をフクさんに預け、新しい着替えを取りに自分の部屋へと入ると、夕香は楽しそうに今日あった出来事などを一生懸命に話しかけてくる。

 

「えっとえっと! それとね、エリちゃんとミキちゃんと、マイちゃんとでなわとびをして、あとてつぼうもしたんだよ!」

 

 夕香は一時期事故に遭って入院していたことがあり、その期間中は当然学校に行けていない。退院してから他の子と上手くやれてるか少し気になっていたが、どうやら杞憂だったようだ。友達と遊んだ内容を楽しそうに話している夕香を見て、俺は安心したように頬を緩める。

 

「いっぱい遊べたんだな」

 

「うん! 明日もね、遊ぶ約束したよ!」

 

「そうか……良かったな」

 

「あ〜あ、早く明日にならないかなぁ」

 

 ベッドに座って夕香と話している間に、新しい着替えの服をカバンの中に入れ終えた俺は、この時間が名残惜しいと思いつつも立ち上がる。

 

「じゃあ、お兄ちゃん合宿所に戻るよ。そろそろ行かないと」

 

「え〜! もう行っちゃうの!?」

 

 夕香がまだ話し足らないとでも言わんばかりに俺の服にしがみつき、残念そうに眉を落とす。

 

「夕香ちゃんいけませんよ。修也さんは今、毎日練習で大変なんですから」

 

 フクさんが優しく諭すように夕香を宥める。

 

「むぅ、つまんないなぁ……」

 

 ほんの少しだけむくれた様子で呟く夕香の頭に手を置き、俺は目線を合わせるようにしゃがんで話しかける。

 

「またすぐ戻ってくるよ」

 

「……うん、わかった!」

 

 少々残念がりつつも、納得してくれた夕香は元気よく応え、その顔には再び笑顔が戻る。

 

「気を付けて、お戻り下さいね」

 

「ああ、ありがとうフクさん。行ってきます」

 

 玄関まで見送りに来てくれたフクさんに礼を言い、夕香に再度別れを告げる。といっても、また近いうちに会えるはずだ。そう思いつつ靴を履き、立ち上がって玄関を出ようとしたその時、ちょうど玄関の扉が開き、外から父の顔が見えた瞬間俺の表情は固まった。なんというタイミングの悪さだ。

 

「お帰りなさい……父さん」

 

 父も俺の姿を認識した途端に顔を曇らせる。

 中へ入ると無言のまま三和土で靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。そして俺に背を向けたまま、父は立ち止まり口を開く。

 

「こんな時間からどこへ行く……?」

 

「……合宿所に、戻ります」

 

 そのまま俺は逃げるように玄関から家を出る。未だに俺がサッカーをやることに否定的な父に対して、正面から話し合おうとすることが出来ない自分への情けなさと、そんな中途半端な気持ちでサッカーをしてしまうやるせなさで俺は自分がどうすればいいのか、本当はどうしたいのかが見つけられずにいた。

 このまま父の言うことを聞いてドイツに行くべきか、父を説得して仲間たちとサッカーを続けるべきか。

 合宿所への帰路につく中、俺は1人で葛藤していた。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 私は今、非常に胸アツな必殺技の特訓を目の前にしている。

 時刻は昼頃。予選の決勝相手がまだ決まっていない段階のため、監督から自主練の指示を受けていた私たちは、己の必殺技に磨きをかけるため自身のシュート技だったりドリブル技だったりの技の練度を高めていた。

 そしてその中でも、これからの強豪たちを相手にするのに強力な武器となるだろうと虎丸が考案した必殺技「タイガーストーム」の特訓は、みんなの期待の目もあり注目されていた。

 イナズマジャパンのエースストライカー豪炎寺の「爆熱ストーム」と、ズバ抜けたセンスと身体能力を持つ虎丸の「タイガードライブ」の連携必殺技であり、個々でも強力な二つを合体させてより強力にするという安易な発想だが、事実今後の武器になる可能性を強く秘めていた。

 

「タイガードライブッ!」

 

 虎丸のシュートは上空に飛んでいき、それに合わせるように豪炎寺が高く飛び上がりながら炎を纏った左足でボールを蹴りつけ、シュートにチェインを重ねる。

 

「爆熱……ストォームッ!!」

 

 まるで炎を纏った虎のようなパワーが乗ったシュートは、しかし途中でそのパワーが分散してしまいゴールを大きく逸れてしまう。

 

「まだタイミングがズレている。2つの技を完全にシンクロさせるんだ」

 

「はいっ!!」

 

「面白いモン始めやがったなぁ」

 

「あれが完成すりゃ、まさに無敵だぜ」

 

 土方と綱海が2人の特訓の様子に期待の眼差しを向ける。あれ、ていうか2人も確か連携技の特訓してたよね?

 

「そういえば土方は最近どう? 吹雪と連携技の特訓進んでる?」

 

「おっ、よく聞いてくれたな! それがよ、あともう少しで完成しそうなんだよ」

 

「ほう、そりゃ楽しみだね。綱海の方は?」

 

「へっ? 俺か?」

 

「えっ、うん。壁山と連携技の特訓してるんじゃないの? 前に食堂で言ってたやつ」

 

「あー……あれな」

 

 私が聞いてからさも今思い出したかのように綱海が若干遠い目をする。あぁ、こりゃ進んでないな。

 

「なんていうかこう、必殺技のイメージはなんとなく浮かんでるんだけど、どうもおれと壁山でやるような感じじゃないんだよなぁー」

 

「ふーん、ちなみにどんな感じ?」

 

 完全に言い訳にしか聞こえないけど、一応イメージだけは出来てるみたいなので尋ねてみる。

 

「まずこう2人で飛び上がって、バーンとやってガッとしてドーンとぶちかますんだけどよ」

 

「うんゴメン、全ッ然分かんないんだけど!?」

 

 残念ながら擬音満載の円堂語は私には通じない。もしもほんやくコン○ャクがあったとしても多分理解できないだろうね。

 

「えぇ? 割と分かりやすく説明したつもりだけどなぁ。まあ要するにあれだ、ノリだよノリ!」

 

「いや、全く要せてないよ……」

 

「つまりは考えるより感じろってこった! 頭ん中で色々考えるより、直感を信じた方が良い時もあんだよ」

 

「ウシシ、アンタの場合はいつも直感で動いてるように見えるけどね」

 

 木暮が私の背後から顔だけを覗かせて軽口を叩く。

 それを聞いて綱海が不機嫌そうに木暮を睨むが、自分でもそう思っているのか言い返しはしなかった。おい、否定はしないのかよ。

 

「ふーん……直感ねぇ……」

 

 綱海の言葉を聞いて、私は腕を組んで少しだけ考えてみる。確かに直感を信じるのは悪くはないと思う。それは長年の経験とかその時の閃きで突然やってくるもので、何の確証もないけどどこか信憑性の湧いてくるような不思議な感覚だ。それに身を委ねるのも一つの手段ではあるか……。

 ふと、ちらりと豪炎寺と虎丸の「タイガーストーム」の特訓風景に目を向ける。

 

「今の! さっきよりも、いい感じじゃなかったですか!?」

 

「全く駄目だ、タイガードライブの速度が遅い! だから、俺の蹴りがトップスピードから打てない。もう一回だ!」

 

「は、はい!」

 

「豪炎寺のやつ、今日はやけに熱いな」

 

 いや、あれは見る限りでは気合が入ってるというよりかは何かに駆られて焦っているようにも見える。私の思い過ごしならそれでいいけど、もし1人で何か隠してることがあるなら多分それが解決しない限り「タイガーストーム」は完成しないだろう。それだけ連携必殺技は2人の息を完璧に合わせないと出来ない。

 とその時だった、何処からともなく響木さんがグラウンドに入り、豪炎寺に近づいて行く。

 

「豪炎寺、ちょっといいか?」

 

「はい……?」

 

「理事長が呼んでいる。来てくれるか」

 

「……はい、分かりました」

 

 突然の響木さんの訪問に戸惑っていた豪炎寺だったけど、理事長から呼び出しを受けていることを聞いた途端に何かを悟ったらしく、覚悟を決めたように重い足取りで理事長待つ校舎へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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