陽気なガールは転生したのちボールを転がす   作:敏捷極振り

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14話 アンクルブレイク

 

 

 

 突然だけど、私はつい最近イナイレ世界に来た転生者だ。かといって前世でサッカーをやっていたかというと、そういう訳でもない。まぁ知識くらいならあるにはあるけど。ただイナズマイレブンが好きだからという理由で勢いで来たようなものだ。

 けど成り行きでも、こうして円堂達と共に戦っていくことになったからには手は抜きたくないし、どうせなら一緒に頂点を目指したい。

 幸いにも私には神様から底上げしてもらった力がある。サッカーの知識も人並みにはある。足を引っ張らない程度にはみんなについて行けたらいい。欲を言えば華麗なプレーをして目立ちたい。

 そう思っていた時期が私にもありました。

 

「行け砂木沼!」

 

 円堂が先ほど弾いたボールは、ネオジャパンのスローインによりコートに再び戻り、試合がリスタートする。

 下鶴のスローインからデザームにボールが渡り、デザームが自身でドリブルでゴール前まで運ぶ。

 

「行かせないっての!」

 

 その間に割って入るように私がルートを塞ぎ、デザームの前に立ちはだかる。さっきのリベンジといこうじゃないの。

 

「フン、八神にあっさり抜かれて自信を無くしたか。さっきよりも隙が多いぞ」

 

「なっ……!?」

 

 デザームにフェイントでいとも簡単に突破されてしまう。

 さっきから思うようにプレーが出来てない気がする。前半までは良かったものの、後半からはネオジャパンに押されつつある。たぶんきっかけは、緑川のフォローに入った時のデザームとの競り合いだ。あそこを境に、自分でも分かるくらい私の動きが悪くなっている。

 一体なにが原因なんだろ……?

 

「止めてみせろ! 円堂守ッ!」

 

 デザームがシュート体制に入り、まるで天使のような綺麗な純白の羽を生やしてボールとともに飛び上がる。そして上空で羽が一瞬大きく膨張すると同時に、ボールがプラズマのようなものを纏う。

 

「ゴッドノウズ改!!」

 

 それを力強く蹴り付け、デザームが神の力を宿らせた全身全霊のシュートを放つ。そのパワーは、本家であるアフロディにも劣らないだろう。私は本家を実際に間近で見たことはないけど。

 

「点はやらせない! 正義の鉄拳G5!!」

 

 円堂がデザームのシュートと正面からぶつかり合う。が、円堂の熱い想いが通じたのか、正義の鉄拳はデザームのゴッドノウズを跳ね返す。

 

「よぉしッ! 反撃だー!!」

 

 円堂ののろしと共に、跳ね返ったボールは風丸に渡る。

 途端にスピードの乗ったドリブルで駆け抜けていき、風丸が中盤まで持ち運んで行く。

 

「平良!」

 

 デザームの指示で、DFのヘラが風丸にプレスをかけに行く。が、構わず風丸はギアを更に上げ、ドリブルのスピードを増して行く。

 

「風神の舞ッ!!」

 

 必殺技でヘラを突破し、続けてヒロトにパスを出す。

 

「打て! ヒロト!」

 

「うん、いくよ! 流星ブレード!!」

 

 ヒロトの必殺技が炸裂し、その名の通り流星のような豪快なシュートがゴールへと突き進んでいく。

 しかしゴール前を守るのは、帝国のキングオブゴールキーパーと言われた源田だ。その両隣には牧谷と郷院が仁王立ちで立ちはだかる。

 

「「「真・無限の壁!!」」」

 

 またも鉄壁の守りを誇る進化した無限の壁で、ヒロトのシュートをがっちりと止めてしまった。

 

「くっ、ガードが固いね」

 

「あの壁を破るには、相当パワーがある必殺技でないと打ち破れないだろう」

 

 シュートを止められて思わず顔をしかめるヒロトと、その隣で鬼道が考え込むように腕を組んで口を開く。

 そして時を同じくして、ネオジャパンのベンチで試合の状況を観察していた瞳子監督もまた、イナズマジャパンのベンチにいる久遠監督を見てある一つの疑問を浮かばせていた。

 

 

 なぜフォーメーションを変えようとしないのか?

 

 

 瞳子監督の考えは、今の現状でイナズマジャパンが無限の壁を破るには、円堂をリベロにいれて攻撃型にシフトさせるしか方法はない。

 にも関わらず、久遠監督は一切フォーメーションを変える気配がない。それどころか選手たちにほとんど指示を出したりしていない。

 

「まるで何かを待っている(・・・・・・・・)ような……そんな気がするわね」

 

 誰にも聞こえないくらいの小さな声で、瞳子監督は呟く。そしてその予感は、見事に的中することとなる。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 後半戦も残り少ない時間となり、もうすぐロスタイムに入る手前まできていた。

 両チーム1ー1の同点のまま試合展開は膠着しており、決定的な瞬間は何度かあったものの、今ひとつゴールネットを揺らすまでには至っていない。

 

『さぁ残り少ない試合時間の中、どちらのチームが先にゴールを決めるのでしょうか!? おぉっとここで結城がドリブルで中盤まで持ち込んで行く!』

 

 私がドリブルでボールを運んでいると、すぐさま横からウィーズにスライディングでボールをカットされ、ボールが一旦コートの外に出る。

 

『あぁっとしかし! 伊豆野のスライディングに止められてしまった! しかしボールはまだイナズマジャパンの手にあります。このチャンスをものに出来るか!?』

 

 試合が一旦止まり、コートの外へと転がっていったボールを私が取りに行っていた時、ふと後ろから声をかけられる。

 

「結城、お前なら今のスライディングくらい避けれていただろう」

 

「さっきから、らしくないプレーが続いてるぞ。一度落ち着いて深呼吸でもしたらどうだ?」

 

 鬼道と風丸だった。

 私を心配しにきたのか、それとも情けないプレーをしていたから喝を入れに来たのかは分からない。けど……

 

「……らしくない? じゃあ聞くけど、逆に私らしいプレーってなに?」

 

 なぜか、そんな気は全くないのに自分でも驚くくらい、棘のある言い方でつい返事をしてしまっていた。

 

「この短期間で俺が感じたのは、お前はスピード、フィジカルよりもテクニックで相手を翻弄する技術型のプレーをするタイプだということだ。俺の目にはお前のテクニックは世界を相手に通じていたように見えていたが」

 

 鬼道が私のことをそんな風に分析していたことに驚きつつも、私は卑屈気味に言い返す。

 

「でも、ネオジャパンを相手にこのざまだよ。今まで私のテクニックが通じてたのはたまたまだったんだ」

 

「いや、今日の試合でお前は自分の力を活かしきれていない。気づいていないのか?」

 

「えっ……?」

 

「自分よりも遥かに体格の劣るデザームにフィジカルで張り合い、速さで負けているウルビダのスピードについていこうとする。自分の不得意な分野で挑めば、望まない結果になるのは当たり前のことだ」

 

 自分では気付かなかったことだ。

 いつも通りプレーをしていたつもりが、私の弱点であるスピードとフィジカルで相手と張り合っていたなんて。

 

「さっき自分で言ってたよな、自分には自分のサッカーがあるって」

 

 今度は風丸が諭すように言う。

 そうだ、私には私のサッカーがある。出来ないことは出来ない、自分のやれる事をやる。

 11人それぞれが得意な分野を活かし、苦手な分野はみんなで補い合う。それがチームプレーというものであり、チームのみんなで戦うという意味だ。

 

「結城だからこそ出来ることもある。逆に言えば結城に出来ないこともある。誰しも完璧じゃない。だから、その出来ない部分はおれたちでカバーするさ」

 

「一郎太くん……うん、ありがとう。おかげでもやもやしてた気持ちが吹っ飛んだよ。鬼道もありがとね」

 

「フッ、イナズマジャパンの主力の一人がいつまでも情けないプレーをしていては、チームの士気に関わるのでな」

 

「後半の時間も残り少ない。たぶんこれがラストプレーになる。やれるか結城?」

 

「オッケー任せてよ。今の私ならなんでも出来る気がするわ」

 

 鬼道と風丸のおかげで、すっかり気持ちの切り替えが出来た。心なしか先程よりも身体が軽い。

 

『風丸のスローインから試合再開です! そしてここで、ボールは再び結城へと渡りました!』

 

 風丸から受け取ったボールをトラップし、ゴールを見据える。狙うはあの先のゴールネットだ。

 

「行かせん!!」

 

 デザームが正面からディフェンスにくる。

 さっきデザームが言ってた言葉をそっくりそのまま返すようだけど、今の私の相手ではない。

 怯むことなく私はドリブルのスピードの乗ったまま、速度を落とす事なく鮮やかなルーレットでデザームを躱す。うん、今までプレーしてきた中で一番綺麗に決まったと思う。

 

「くっ、動きのキレがさっきよりも上がっている……八神、止めろ!」

 

「言われなくても……!」

 

 ウルビダが即座にフォローに入り、私の前に立ち塞がる。けどここで止まる訳には行かない。でもスピードではウルビダの方が上だ。ただ抜き去るだけではすぐ追いつかれるかもしれない。

 ならば……と私は右、左へと細かくボールを振り、フェイントをかける。が、ウルビダはそれに釣られることなくついてくる。

 

「その程度のフェイントで私を躱すのは無理だ」

 

「だったらこれはどうかな……?」

 

 ダッ、と一気に加速して右から切り込んでウルビダを抜こうとする。が、これにもウルビダはついてくる。ここまではいい。

 私は急にドリブルをピタッ、と止めて切り込んでいくと見せかけたフェイントをかける。すると、一瞬だが釣られてついてきていたウルビダの体勢が崩れる。

 

「まだまだ!」

 

 ウルビダの体勢が崩れたのを見て、私はボールを左へと鋭く切り返し、緩急をつけて瞬時に加速して左からウルビダを抜き去って行く。

 

「なっ……!?」

 

 ウルビダがなんとか反応し、私の動きについて行こうとするが、うまく体勢を立て直すことができずに足をもつれさせて転倒してしまう。

 スピードで負けるなら、テクニックで圧倒させてやればいい。追いつかれるなら追いつかれないように体勢を崩してやればいいだけのことだ。

 

「まさか……フォーメーションを変えなかったのは、この為だったの? 結城さんが本来のプレーを取り戻し、再びイナズマジャパンに流れを持ってくることを予想して……!」

 

 ベンチで瞳子監督が驚いた様子で久遠監督の方に顔を向ける。

 

「打て! 結城!!」

 

「このチャンス、無駄にはしない……絶対に決めるッ!」

 

 ゴール前までボールを持っていき、私はシュート体制に入る。即席で作ったものだけど、破壊力はあるはずだ。

 踵で軽くボールを浮かせ、横から引っ掻くように蹴る。するとボールに強烈な回転がかかり、次第にギュルギュルと風を巻き込みパワーが増幅していく。やがてボールの回転速度が限界に達し、空気の摩擦でバチバチと静電気のような火花が散り出し、私はそれを回し蹴りで思いっきり蹴りつける。ボールはドリルのような鋭い回転を維持したまま、吹き荒れる風を纏って一直線にゴールに突き進んでいった。

 

「「「真・無限の壁ぇッ!!」」」

 

 源田、郷院、牧谷の3人が無限の壁で対抗するが、限界まで貫通力を高めた私のシュートはその分厚い壁を突き破り、見事にその先のゴールネットを揺らした。

 

『ゴォォールッ!! なんと結城の新必殺技で、真・無限の壁を打ち破りました!! これで点差は2ー1!』

 

 そしてそれと同時に試合終了の合図を知らせる、長めのホイッスルがコートに鳴り響く。

 

『そして試合終了のホイッスル!! イナズマジャパン、ネオジャパンを下し日本代表の座を守りきりましたッ!!』

 

「やったな、結城」

 

「すげぇシュートだったぞ!!」

 

「限界を超えた強烈な回転に突風を纏うシュート。ずばりリミットブラスターと名付けましょう!」

 

 メガネが私の必殺技に勝手に名前を付ける。何その厨二っぽい名前。

 でもまぁいいか。カッコいいっちゃカッコいいし、なにより語呂が気に入ったわ。

 

「いつの間にあんな必殺技を覚えてたんだ?」

 

 ふと豪炎寺から尋ねられる。

 ぶっちゃけいうと即席だけど、参考にしたものはある。オーストラリア戦での綱海と豪炎寺が見せた、回転を加えた新たな必殺シュート。貫通力を上げるというあのアイディアを取り入れたのだ。けど、私の脚力では2人のようにシュートを放つ瞬間にボールに回転を加えて蹴りつけることはできない。

 だから一度、ボールに回転をかけるための予備動作を設けた。それが最初にボールを引っ掻くように蹴る動作だ。ここは吹雪のウルフレジェンドを参考にした。

 豪炎寺にその事を簡潔に伝えると、少しだけ驚いたように目を見開いた。

 

「へぇ、即席であの完成度か」

 

「ていっても予備動作がいるし、その分シュートを打つまで若干時間がかかるけどね」

 

「今後の課題って訳だな」

 

 豪炎寺と話していたその時、後ろからウルビダ、デザームが近づいきて声をかけてくる。

 

「今回の我々の敗因は、イナズマジャパンの力を見誤っていたことだな」

 

「最後のシュート、見事だったぞ」

 

 そう言いつつ、ウルビダが右手を差し出してくる。

 

「そっちこそ、速すぎて全然スピードについて行けなかったよ」

 

 私もそれに応えるように右手を差し出し、お互いに健闘を讃え合い握手を交わす。

 

「今回は負けたが、今後情けないプレーを見せるようであれば、我々はいずれまた日本代表の座を奪いに来るぞ」

 

「もちろん、望むところだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前話でウルビダが主人公へ、
今回で主人公がウルビダへやり返した、
相手を転ばせる技「アンクルブレイク」

本来バスケで使われるテクニックですが、
実はサッカーでも以前、かの有名な選手
リオネル・メッシがその高い技術で実際
にドリブルで相手DFを転ばせ、世間を
騒がせたことで話題になってました。



ちなみに今回登場した主人公の必殺技
ですが、空気の摩擦でうんたらかんたら
書いてるところは完全に適当な理論です。

ホントの物理法則ではそんなのありえない
とか、マジな指摘はどうかご勘弁下さい。
あくまで超次元サッカーなので、
カッコ良ければすべて良しなのです。



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