イナズマジャパンのキックオフで試合はリスタート。状況は1-0で未だシュートチャンスは一回きり。思った以上にネオジャパンのDF陣が固い。つーか必殺技使いすぎだろ、って嫌味が言いたくなるくらいに連発してくる。
必殺技を持ってない私からすれば、真っ向からの必殺技同士のパワー勝負が出来ないわけだから、完全に不利だ。いくら神様から底上げしてもらった地力でも限界がある。
一体どうすればいい……？
「鬼道！」
豪炎寺が鬼道へとボールを回す。
「結城！」
続けて鬼道がダイレクトパスで素早く私にパスを送る。私はそれをトラップしてドリブルで上がっていく。
「キラースライド改！！」
成神が早速必殺技でボールを奪いにくる。このくらいならまだいける。私はヒールリフトでボールを浮かせ、飛び上がって成神のキラースライドを躱す。しかしすぐさまゾーハンがディフェンスのフォローに入ってくる。
「アースクェイク！」
「くっ……！」
ゾーハンに阻まれ、ものの見事にボールを奪われてしまう。さっきからこの繰り返しだ。こちらの攻めがことごとく止められてしまう。何かいい突破口はないものか。
「皇！」
みるみる内に、ゴール前までボールを運ばれてしまい、ボールが渡ったマキュアがシュートを放つ。
「グングニルV2！！」
「これ以上点はやらせないぜ！ 正義の鉄拳G4！！」
円堂が進化させた必殺技で向かい打ち、見事にマキュアのシュートを防いだ。はいそこ、ご都合主義とか言わない。主人公だからとか、そんな曖昧な理由で進化したんじゃないよ。円堂の強い気持ち、サッカーを愛する気持ちがさらなる飛躍を生んだんだよ。
「っ……！ マキュア邪魔されるのってきらい！」
「ははっ、良いシュートだったぞ！」
知らなかったけど元イプシロンのマキュアって自分のことマキュアって名前で言っちゃう娘なんだね。でもなんだろ、ぶりっ子とかそういう気は全然しないし、そのーなんだ……ぶっちゃけ可愛い。妹に欲しいわ。
さて、円堂が弾いたボールは土方に渡り、続けてマークの空いていた虎丸へとパスを繋げる。そのまま軽快なドリブルで虎丸が前線へと切り込んでいく。
「郷院、石平！」
「「おう！！」」
郷院とゾーハンが2人で虎丸を挟み込むようにスライディングタックルで迫り来る。
「「ハーヴェスト！！」」
「くっ、うわぁッ！！」
巨体な2人からのスライディングをモロにくらって、ボールを奪われるのみならず吹っ飛んでしまう虎丸。
はたから見れば小学生を虐める怖いお兄さんにしか見えないよあんたら２人組。
「砂木沼！」
奪ったボールをデザームへとパスを送り、カウンターを仕掛けにくる。
「今度こそ……やってやるっ！」
緑川が固い面持ちでデザームにプレスをかけにいく。また色々と余計なことを考えながらプレーしてるみたいだけど、そんな焦りと雑念が混じったまんまじゃ隙だらけだ。
「今のお前など、相手にならんわ！！」
ドリブルの速度を上げ、強引に突破して緑川を抜き去っていく。
「じゃあ私なら、少しは相手になるのかな？」
そんな軽口を叩きながら、私が続けざまにデザームをマークする。すると少しは警戒してくれたのか、一度止まって私を見据えた後、フェイントをかけて抜き去ろうとしてくる。
「バレバレだよ、それ。まだ緑川くんの方がマシだね」
「……そっちこそ、女でありながら唯一日本代表に選ばれたとはいえ、実力は所詮この程度か」
私の挑発に乗ったのか、テクニックよりフィジカルに切り替えてタックルで競ってくる。が、もちろん背もガタイも負けている私なんかが競り勝てる訳もない。
いとも簡単に体制を崩されて倒れそうになる。けど、あっさり当たり負けしてやるのもなんか癪だな。
「女だからって関係ない、私には私のサッカーがある！ この程度で……負けてたまるもんかッ！！」
グッと足を踏ん張って倒れそうになる身体を堪える。そして今度は私からデザームにチャージをかけに行く。
「むっ、意外とやるな」
「そりゃどうも……っ！」
とは言うものの、やっぱりダメだ。
デザームの重たいショルダーチャージをくらってよろけてしまい、突破されてしまう。
「……ったく、今度こそは気張りなよ、
「なに……？」
「うおぉぉぉぉッ！！」
抜き去り際、私が意味深な言葉を呟いたのが気になったのか、デザームが顔をしかめるがもう遅い。
先ほどデザームにあっさりと突破された緑川が走りこんで来ており、鋭いスライディングでデザームの足元からボールをカットし奪っていく。
「なんだと……！？」
「蛇の生殺しは人を噛むってね。結城の言葉で気づいたのさ、おれにはおれのサッカーがあるんだって！」
そういって軽やかにドリブルで攻め上がっていく。
その途中で成神と郷院が2人で緑川をマークするが、緑川は構わずにドリブルのスピードを上げる。
「行ける……抜いてみせる！」
緑川が光を纏いだし、一瞬にして加速し消えたと思ったら目にも止まらぬ速さで成神と郷院を躱し、一筋の光を残して駆け抜けていく。それはまるで電光石火のようだ。
「ライトニングアクセルと命名しましょう！」
ベンチでメガネが吠える。
そしてついにネオジャパンのDF陣を突破し、この試合2回目のシュートチャンスが生まれる。
「結城！」
「うん、いくよ！」
私と緑川で左右から同時にボールを上空へ蹴り上げる。するとボールの周りに歪みが生じ、小宇宙が出現する。そこへ私と緑川は飛び込み、ボールをフロントキックで蹴り出す。
「「ユニバースブラストV2！！」」
私と緑川が特訓して修得した、連携必殺技だ。エイリア学園セカンドランクの必殺技だからといって侮ってはいけない、その威力は中々のものだ。
「ドリルスマッシャーV2！」
源田が必殺技で対抗し、少し拮抗した様子を見せる。が、次第にドリルスマッシャーの高速回転の勢いが弱まり、更にはドリルにヒビが入り始める。
「「いっけえぇぇぇッ！！！」」
「ぐおぉぉぉッ！！？」
そしてついに拮抗は破られ、私たちのシュートは源田の必殺技を打ち破り、見事にゴールネットへと突き刺さった。
『決まったぁぁッ！！ 結城と緑川の連携必殺技で同点ゴォール！！ これで得点は1-1の振り出しに戻りました！』
そしてそれと同時に長めのホイッスルが鳴り、前半戦終了の合図となる。
「すごいぞ結城、緑川！」
「やるなーお前ら！ こりゃおれたちも負けてらんねーぜ！」
とその時、ベンチから姿を消していた風丸が突然姿を現す。どこに行ってたの？ と聞く前に、ある異変に気付く。
「わっ、一郎太くん……その汗どうしたの！？」
「風丸先輩大丈夫ですか！？」
尋常じゃないほどの汗をかいていたのだ。
それはもう、なにをしてたら短時間でそんなに汗をかけるのか不思議なくらいに。
「ハァ、ハァ……ちょっとな……」
「とりあえず水分とって……はいこれ」
「あぁ、ありがとう」
スポーツドリンクの入ったボトルを風丸に差し出す。それを一口飲んでからゆっくりと息を吐き、久遠監督の方に顔を向ける。
「監督、なんとか完成させました。いつでも行けます」
「……分かった、後半からは虎丸と交代で入れ」
風丸と久遠監督の間で意味ありげな会話が繰り広げられる。私は大方どういう内容の話か予想がつくけど、周りのみんなは何のことだかついていけてない様子だ。