「集合! 今日は2チームに分かれて練習試合を行う。いいな!」
「「「はい!!」」」
ある日の朝、久遠監督がチームのみんなを集め、今日の練習内容の指示を出していた。今日はミニゲーム形式で総合的な練習をやるみたいだ。
「それではチーム分けを行う……」
久遠監督の指示でそれぞれのメンバーが2つのチームにバラけようとしたその時だった。
円堂を目掛けて勢いよくサッカーボールが飛んでくる。明らかに誰かが狙ってシュートを打ったかのような軌道だ。
「な、なんだ!?」
怯みつつも、正面からそのシュートをキャッチし、ボールの勢いを止める。さすが円堂、反応が早い。つかその前に誰だよ蹴ってきたやつは。
「流石は円堂……素晴らしい反応だ」
「お前は……デザーム!? 久し振りだなぁ!」
そこに立っていたのは、元エイリア学園イプシロンのキャプテン、デザームだった。どうやらシュートを打ったのは彼のようだ。久しぶりに出会ったライバルに、円堂も思わず感嘆の声を上げる。
「デザーム……? 今の私は砂木沼 治だ。チーム『ネオジャパン』のキャプテンとしてのな」
あぁ、そういえばいたね。
日本代表候補に選ばれなかった悔しさを元に、厳しい鍛錬を積んでイナズマジャパンに勝負を挑んでくるんだったっけ。
「……ネオジャパン?」
円堂が聞き返すと、デザームの横へずらりとネオジャパンのメンバーと思われる選手たちが立ち並ぶ。ん? 何人か原作と違うキャラ混じってるね。てか数人女の子いるね。
「帝国にエイリア学園、御影専農に世宇子に木戸川清修までいるっス!」
「まさにオールスターって感じだな」
「でも監督の姿が見当たらないけど……」
「久しぶりね、円堂くん」
懐かしのメンバーにみんなが若干の感傷に浸っていると、ネオジャパンのメンバーの後ろから一人の女性が現れる。間違いない、この凛とした声色はあの人だ。脅威の侵略者編で円堂たちを率いた大胆不敵な監督といえば、
「えっ、瞳子監督!!?」
「どうして……姉さんが……?」
ヒロトと緑川の元エイリア組は、自分たちのよく知る人物が急に出てきて驚いているようだ。
「初めまして、久遠監督」
久遠監督と瞳子監督が向かい合うように立った。
「君のことは響木さんから聞いている。地上最強のイレブンを率いた監督だとか」
「ご存知なら話は早いですね。私はネオジャパンの監督として、正式にイナズマジャパンに試合を申し込みます。そしてこちらが勝った暁には、日本代表の座を頂きます」
「「「えぇーっ!!?」」」
瞳子監督の宣戦布告を聞いて、イナズマジャパンのメンバーたちは驚愕の声を上げる。
しかし瞳子監督はそれを気にすることもなく、構わず話を続ける。
「私たちの挑戦……受けて頂けますか?」
少しの沈黙が流れた後、久遠監督は割とあっさりとその問いに対して応えた。
「……いいでしょう」
久遠監督のその一言に、場の雰囲気が一変する。イナズマジャパンは日本代表の座を奪われるかもしれないという不安と、それをかけた試合に対する緊張。ネオジャパンは日本代表になれなかったことへのある種の嫉妬と、もしこの試合で勝てれば日本代表になれるかもしれないという希望と高揚感。
世界を相手に戦える資格を持った者と、持たざる者が今、相見える。
「なんか大変なことになったね」
試合に備えてベンチで靴紐を結び直していた風丸に声をかける。
「あぁ、まさか瞳子監督のチームと試合することになるなんてな。結城はあの監督のことは知ってるのか?」
「うん、久遠監督が言ってた通り、地上最強のイレブンを率いてた監督でしょ。結構奇抜なフォーメーションとか大胆な作戦を取る監督で割と有名だとか」
「おれもあの監督には世話になった……本当に」
風丸がなんともいえないような表情でそんなことを呟いた。大方旅の途中で離脱した事への申し訳なさと、当時の特訓の日々のおかげで強くなれたことへの感謝が混ざり合って複雑な心情になっているのだろう。
「なら、あれから強くなった一郎太くんを見せつけてあげないとね」
ニッと笑って風丸に微笑みかける。風丸は一瞬だけ目を丸くしたけど、すぐに微笑み返してくれた。
「あぁ、もちろんだ!」
「全員集合! 今回のスターティングメンバーを発表する」
その時、久遠監督がみんなを集め、この試合のスタメンが発表される。
FW 吹雪、豪炎寺、緑川
MF 虎丸、鬼道、結城、基山
DF 土方、壁山、木暮
GK 円堂
うん、風丸がいないからやり直せ。
なんてことは言わず、久遠監督にも考えがあってあえてスタメンから風丸を外してベンチに入れているみたいだ。
全員がポジションにつき、両チーム試合の準備は万端だ。とその時、鬼道が異変に気付く。
「なっ、デザームがミッドフィールダー……?」
「あいつ、フォワードかキーパーだけじゃなかったのかよ!」
デザームだけじゃなく、他のメンバーも元のポジションから移行しており、知ってる人から見れば変則的なフォーメーションとなっていた。
FW ウィーズ、ゼル
MF ウルビダ、デザーム、マキュア、下鶴
DF 成神、ゾーハン、郷院、寺門
GK 源田
帝国学園でエースストライカーだった寺門はDFにいるし、御影専農でFWだった下鶴もMFにいる。てか全体的に元FWだった選手が多くて、やたら攻撃的なメンバー編成になってる感じだね。しかもMFのマキュアやウルビダなんかは原作にはいなかった女の子の選手だし。
思ったけどウルビダってヒロトと同じくらいには実力があるのに、なんで代表選考には呼ばれなかったんだろうか。まさか響木監督の趣味に合わなかったとか……?
「見せてもらおうか……貴方の作り上げた、新たな最強のチームを! 鍛え上げられた選手たちのプレーを!」
久遠監督が含みのある言い方で瞳子監督に啖呵を切る。もしかすると今回の試合でネオジャパンから良い選手が見つかれば、現イナズマジャパンのメンバーと入れ替えるつもりなのかもしれない。FFIには試合ごとに代表選手を入れ替えることができる選手起用の特別ルールがある。
そしてそのチャンスはなにも日本代表の選考試合に呼ばれた選手たちだけではない。呼ばれなかった選手でも幾分可能性はあるのだ。
急遽審判を頼まれた古株さんのホイッスルにより、試合開始の合図が出される。まずはイナズマジャパンの先攻で、センターサークルの中で豪炎寺が吹雪にボールを渡し、吹雪がドリブルで攻め上がっていく。
『イナズマジャパンのキックオフで試合が開始しました! まずは吹雪がドリブルで上がっていく!』
「行かせない!」
マキュアが早速吹雪をチャージしに行く。が、吹雪は加速してそのままディフェンスのマキュアをあっさりと抜き去っていく。
「いいぞ! 吹雪!」
「……郷院! 寺門!」
それを見て即座にデザームがDF陣に指示を送る。そしてすかさず郷院と寺門はダブルチームで吹雪を抑えた。
素早い状況判断と見事な連携だ。一瞬で吹雪の侵攻を阻んでしまった。
「くっ、虎丸くん!」
吹雪が2人のディフェンスの僅かな隙間から、針の糸を通すような鋭いパスで、横から走り込んできていた虎丸へとボールは渡った。
『これはナイスパス! 吹雪、ボールを奪われることなく虎丸へと繋いだ!』
うん、今のはマジでナイスパスだ。
受け取った虎丸は勢いを止めることなくドリブルで上がっていく。
「成神!」
またもデザームの素早い指示で成神がスライディングで虎丸に仕掛けに行く。
僅かに虎丸の反応が遅れ、成神がボールをカットしたことにより一旦コートの外へとボールが出る。
「いいぞ吹雪、虎丸! その調子だ!」
「すみません吹雪さん、せっかく良いパスをもらったのに」
「ううん、全然大丈夫だよ。次に繋げていこう」
今の吹雪から虎丸への連携は特に悪い所はなかった。むしろスムーズに繋げた良い連携だった。しかし、思った以上にネオジャパンの対応が早い。その主軸はデザームが握っているみたいだ。彼の素早い状況判断からの的確な指示は、たぶん天才ゲームメーカーの鬼道にも負けず劣らないものだろう。
木暮のスローインから試合は再開し、最初に鬼道へとボールが渡り、続けて鬼道が前線へと上がっていたヒロトへとロングパスを送る。
「八神! 石平!」
八神 玲名ことウルビダ、石平 半蔵ことゾーハンの元ジェネシスコンビがヒロトをマークする。
「なんでキミたちがネオジャパンに……!」
「別に、姉さんに誘われただけ……でも、心のどこかでは私も世界を相手に大舞台でサッカーをしたかったのかもしれない。だからこの試合、容赦なくいかせてもらう!」
「なっ……!?」
ウルビダが素早い動きでヒロトからボールを奪っていく。
その後もイナズマジャパンは何度か攻め上がっていくが、あと一歩のところで阻まれてしまい、中々シュートチャンスに恵まれずにいた。
しかし、チャンスは突然現れた。
ディフェンスに囲まれていた虎丸が、絶好の位置にいた吹雪へとパスを出し、吹雪にシュートチャンスが生まれる。
「行けっ! 吹雪!」
「ウルフレジェンドォォッ!!」
吹雪の力のこもった必殺シュートに、誰もが決まったと思っていたその時だった。
「ドリルスマッシャー……V2!!」
キーパー源田が右手に巨大なドリルを発現させ、ドリルを高速回転させながら向かってくるシュートにぶつける。ギャリギャリと凄まじい衝突の末、少し拮抗した様子を見せたものの、シュートの威力を完全に殺してしまい、上空に弾き返してキャッチしてしまった。
「い、今のって……」
「ドリルスマッシャーだと……!?」
吹雪のウルフレジェンドを止めたことにも驚きだが、それ以上に帝国学園の源田がエイリア学園の必殺技を使ったことにみんなは驚いていた。特に緑川とヒロトの元エイリア組と、源田を知る元帝国の鬼道は目を丸くしていた。
「デザームの必殺技だよな、今の?」
「源田のやつ……いつの間に」
「驚くのはまだ早い、源田!」
「おう!」
デザームがパスを要求し、源田がデザームへとボールを送る。デザームはドリブルでそのまま攻め上がってくる。
「結城!」
「うん、止めるよ!」
鬼道と私のダブルチームでデザームにプレスをかけに行く。が、デザームはここでもイナズマジャパンのメンバーたちの度肝を抜く行動に出る。
「イリュージョンボール改!」
ボールがいくつかに分裂し、まるで私たちを惑わせるかのようにデザームの周りを舞い、気が付けばデザームは私たちを抜き去って突破されていた。
「なにっ!?」
「今のは、帝国学園の必殺技……」
続けてDFの土方が立ちはだかり、デザームの猛攻を止めようとする。
「スーパーしこふーーー」
「ダッシュストームV2!!」
土方のディフェンス技の発動前に、素早くデザームが必殺技を繰り出し、なんなく突破していく。おいおい、そこは最後まで言わせてやれよ。土方可哀想過ぎだよ。
その時ふと、何気なしにベンチの様子が目に入った。そして同時に違和感を覚える。ベンチにいるはずの風丸が姿を消していた。トイレにでも行ってるのかな?
「世宇子中の必殺技まで……」
「まさかあいつら、他の選手の必殺技をマスターしているのか?」
鬼道の言葉に、みんなが驚愕する。
それぞれの学校において、その流儀やプレイスタイルに合った必殺技があり、世宇子中なら神や天災に関連したもの、エイリア学園なら宇宙に関連した必殺技が存在する。そしてそれは在学生にも当てはまるが、一朝一夕で身につくものではない。他校の生徒なら尚更だ。もちろんご都合主義を抜きにしての話だけどね。
「行け! アラタ!」
デザームが1人でボールを持ち運び、下鶴へとパスを出す。あっという間にゴール前まで持っていかれ、下鶴がシュート体制に入る。
「グングニルV2!!」
異空間から放たれる強烈なシュートは、上空から降りかかってくるように円堂の待ち構えるゴールへと向かっていく。
「くっ、正義の鉄拳G3! はあぁぁぁッ!!」
ダンッ、と地面を踏みしめ、円堂が捻りを加えた拳を突き出す。すると巨大な拳の形をしたオーラのようなものが出現し、回転しながら向かってくるシュートと激突する。
「っ……! うおぉぉぉ!!」
懸命にシュートを跳ね返そうと拳を突き出すが、やがてシュートの威力に負けて正義の鉄拳を破られてしまい、虚しくもゴールへと突き刺さってしまう。
『な、なんと!? 正義の鉄拳を破って、ネオジャパン先制点です!! イナズマジャパン、相手の必殺技に手も足も出ません!』
「なんなんだ、今のパワーは……」
ゴールに座り込んであまりの威力に呆然とする円堂を見下ろすかのように、デザームが正面に立ちはだかって口を開く。
「円堂 守……私はお前からサッカーとは熱く、楽しいものだと学んだ。だが、同時に勝負とは辛く険しく、そして厳しいものなのだ!」
次回、緑川くんが頑張ります。