作者の妄想が多大に含まれております。
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ブラウザバックを……。
それでも読むという方は
せめてコーヒーを持参で
カタールを制した試合の翌日、アジア予選決勝進出を果たしたイナズマジャパンは、朝の練習を終わらせ宿舎の食堂で鬼道を中心に軽いミーティングを行っていた。
「新必殺技?」
「あぁ、オーストラリア戦とカタール戦の2試合を戦って、みんなも世界のレベルの高さは実感したと思う。アジア予選を勝ち抜き、本戦へ進むためにはより強力な必殺技が必要になってくる」
この超次元サッカーの世界において、必殺技というのは持っているか持っていないかで大きく力の差が変わってくる。それだけ必殺技というものは純粋なパワーと爆発力があり、更には観る者を魅了する。余程の実力差がない場合に限るけどね。
「次の決勝までにいくつか新必殺技を完成させようって訳か」
「俺からいくつか案がある。まずは風丸、お前の俊足を生かして新しいドリブル技を身につけてほしい。MFとして自分でボールを運べる突破力を風丸が身につければ、このチームのボールの支配率は一気に引き上がる」
「ドリブル技か……確かに、今持ってる『疾風ダッシュ』じゃはっきり言って世界に通用するとは思えない。となると、新しい必殺技を作るべきか」
風丸が顎に手を当てながら考える仕草をとる。新しいドリブル技のイメージを模索しているのだろう。
「次に土方と吹雪、2人には連携必殺技のシュートを習得してもらいたい」
「僕たちの連携必殺技?」
「あぁ、パワーと安定したボディバランスの土方と、スピードの吹雪。2人の連携必殺技があれば、強力な武器となる」
「攻撃の幅を広げるんだな。よし、任せとけ! やろうぜ吹雪!」
「うん、頑張ろう!」
土方と吹雪も意気投合して新必殺技の開発にやる気十分のようだ。うんうん、仲良きことは良いことだね。
「最後に結城、お前にはここ一番で点を取れるようシュート技を習得してもらいたい」
「……えっ、私?」
「そうだ。お前のテクニックとサッカーセンスはピカイチのものだ。恐らく女子サッカー界でお前の右に出るものはいないだろう。ただ、その中で得点を狙いに行けるシュート技を持っていない」
まぁシュート技どころかドリブル技もブロック技も持ってないけどね。つまるところ私には今現在で使える必殺技は一つもない。
あれ、むしろ良くその状態で世界を相手にしてたな私。それも今のところ2試合連続スタメンフル出場だし。やっぱ神様転生の補正すげーな。
「結城が点を取れるようになれば、イナズマジャパンの攻撃力は格段に跳ね上がると思うんだが……」
「それについては心配ご無用だよ。まだみんなには言ってなかったけど、実は緑川くんと2人で連携技の特訓をしててね。もうすぐ完成しそうなんだ、ね?」
そう言って私は緑川にウィンクをする。それに応えるように緑川もグッと親指を立ててサムズアップ。それを見て鬼道は「ほう……」と意味ありげな表情をしつつ納得し、なぜか風丸が若干不機嫌そうに「へぇ……」と呟く。あれ、なんか選択間違ったかな?
「連携技かぁ、オレたちもやってみっか! な、壁山?」
綱海が面白がって壁山と肩を組む。2人の連携技か、正直言って全く想像つかないね。
「えっ!? おれっスか!?」
「綱海と壁山か……なかなか面白そうな組み合わせになるかもしれないな」
「よし! そうと決まれば特訓だ!!」
「「「おう!!」」」
◇◆◇◆◇◆
その日の夜、必殺技の特訓も終え、みんなで夕食を取った後ののんびりとした時間の中、私は宿舎の廊下を1人でぶらぶら歩いていた。その時ふと、窓からグラウンドに立っているヒロトとその側で地面に膝をつく緑川の姿が見えた。
「何を見てるんだ?」
「あっ、鬼道……と風丸くん」
立ち止まって窓から2人の様子を眺めていると、鬼道と風丸が歩いてきて私に声をかける。
「どうしたの? こんな時間に」
「少し今後の戦術について風丸と話し合っていたところだ。結城の方こそ、何してたんだ?」
「ちょっと暇だったから散歩。適当にぶらぶら歩いてたんだけど、ふと窓の外を見たらあの2人を見つけてさ」
クイッと親指で真っ暗闇のグラウンドを指す。その先ではヒロトと緑川が練習をしていた。
「元エイリアの2人か……確か在籍していた頃はヒロトがトップクラス、緑川はその2ランク下の階級にいたんだったな」
ジェネシスのグラン、ジェミニストームのレーゼ。エイリア学園として振る舞っていた時は階級の差もあり、堅苦しい仲だったが、エイリア学園が無くなり自由の身となってからはお互い仲良くやっていけてた筈だ。特に緑川に至ってはまるで別人のように変わり、サッカーのプレイスタイルも変わった。いや、変わったというよりは自分本来の姿へと戻ったと言った方が正しいのかな。
「ヒロトくんから聞いたけど緑川くん、そのエイリア学園? が無くなってから自分本来の姿を取り戻してたんだって」
この世界での私の存在はあくまで世界編から登場したもので、周りの皆はエイリア学園どうこうを私が知らないものだと思っている。その方が自然だし、逆に私が関わってもいないのにその辺の事情を知ってるとなればちょっと面倒くさいことになる。
だからここはあえて知らないフリをしたり、誰かから聞いたという素振りを見せる。
「でも、世界のレベルの高さと日本代表のプレッシャーで我を見失いかけてるって。あまり自分本来のプレーを出来てないみたいだって言ってた」
「確かに、ここ最近の緑川の練習量は少し過剰だったかもしれないな」
「だから今回私が緑川くんと連携組んだのも、何か力になれないか考えた結果なんだよね」
緑川のオーバーワーク気味な練習は、自分への自信の無さから来るものだ。ならそれをただ止めさせるのは得策ではない。まずは自分に自信を持たせてあげて、本来のプレーを取り戻していかないと。そのために、私は緑川の力となれるよう2人で必殺技を習得しようと考えたのだ。決して後付けで考えたとかそういう訳じゃないよ。ホントだよ。
「そうだったのか……」
風丸がどこかバツが悪そうな顔で呟く。
「……少し2人の様子を見てくる」
鬼道がそんな風丸を見て、なぜか1人でグラウンドへと向かった。その途中、鬼道が一度チラリと私の方に振り向き、ニヤリと口角を上げたのが見えた。
なんだ? 何か良からぬ事を企んでいるかのようなそんな表情をされたけど、一体ヤツは何を考えているんだ。
「……結城ってさ、緑川のことどう思ってるんだ?」
「えっ? 急にどしたの?」
風丸がそんなことを言い出すので、私は思わず聞き返す。そりゃまぁ私にとって緑川は推しメンの1人でもあるし、もちろん大事なチームメイトでもある。
「緑川がそんな状態に陥ってるなんて、おれは気付けなかったし、力になれなかった。けど結城は違った」
「ううん、私も気付けたのはたまたまだよ。でも、なんだか放っておけなかったんだよね、緑川くんのこと。どこかの誰かさんに似ているみたいで」
「誰かに、似てる……?」
「うん、自分1人で抱え込んじゃって、周りが見えなくなっちゃって、本当の自分を見失いかける。まるで私の憧れの誰かさんみたい」
「それって……」
「うん、風丸くんみたいに、どこか放っておけなかったんだ」
それを聞いて風丸の頬がほんのりと赤くなる。たぶん私も同じ状態になってるだろう。その状態のまま、数秒間2人の間に沈黙が訪れる。
「「あのっ!」」
何か喋らなければと思い口を開くが、風丸も同じ事を考えていたようで2人の声がちょうど重なる。
「あ、えっと、風丸くん先にどうぞ……」
「いや、結城が先でいいよ……」
しばし2人でおどおどしていたが、それが可笑しかったのかどちらからともなく吹き出し笑い合った。
「あー、なんか疲れちゃった。部屋戻ろっか、風丸くん」
「一郎太」
「えっ?」
「風丸じゃなくて、一郎太って呼んでくれないか?」
風丸がまた急にそんなことを言い出すので、私の顔がボッと赤く染まる。風丸の方はというと、もう吹っ切れたのか全く顔色が変わっていない。むしろけろりとした様子だ。
「え、えっと……一郎太……くん」
なんだ、急に風丸が積極的になってきたぞ。
私としてはめっちゃ嬉しいけど、正直恥ずい。まだ展開についていけてないんだけど。
「それと……いるんだろ
「バレてたか……」
風丸の言葉で、少し離れた所の陰からグラウンドへ向かったはずの鬼道が姿を現わす。おいちょっと待て、ゴーグルマジふざけんな。
「風丸、いつから気付いてたんだ?」
「ついさっきな……にしても鬼道がまさか盗み聞きをするやつだとは思わなかったよ」
「俺だって中学生だ、他人の色恋沙汰にも多少なりとも興味はある」
「はぁ……なんかしてやられた気分」
多少気持ちが落ち着き、私が一つため息を吐く。けど第三者の鬼道からすれば、私と風丸の度々のイチャつきを見て、心の中では早くくっつけやとでも思っていたんだろうか。だから今回、あえて私と風丸の2人きりの空間を作り上げ、自分は身を隠した。
もしそれが本当に狙ってやったのであれば、色んな意味で多芸なゲームメーカーだな。
「だが風丸への気持ちは変わらんのだろう?」
「ゴーグルカチ割られたいかこの野郎」