陽気なガールは転生したのちボールを転がす   作:敏捷極振り

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主人公の必殺技お披露目は
もう少しだけ先になります。





10話 ハードワーカーとファンタジスタ

 

 

 

『さぁ2対2と同点に追い付かれたイナズマジャパン、残された時間の中でもう一度突き放すことが出来るのか!?』

 

 後半もロスタイムに入り、私たちには限られた時間しかない。けど今の流れは完全にデザートライオンに来てる。このままだと正直かなり厳しい。せめて何か一つ、きっかけさえあればこの状況を打破できるかもしれないけど。

 そんなことを考えてる内に、虎丸のキックオフで試合は再び動き出す。

 

「みんな上がれ! 最後まで攻めるんだ!!」

 

 鬼道が前線に上がりながら必死でみんなにはっぱをかける。それを聞いてみんなも最後の体力を振り絞って駆け上がっていく。

 

「体力の限界がきているこの状態で延長戦に入れば、今のイナズマジャパンでは勝つ可能性が限りなく低くなってしまいます。このラストプレーで1点をもぎ取れなければ……」

 

 ベンチでメガネが悔しそうに呟く。確かにその通りだ。このまま延長戦に入れば、まず間違いなく負ける。

 なんとしてもここで点を取らなければ、と思っているとボールを持っていた虎丸が相手のディフェンス陣を抜き去り、ゴール手前まで持ち込んでいた。その後ろからは豪炎寺も走りこんできているが、この場面ではまずパスはない。普通に考えて自分からシュートに持ち込む場面だ。しかし……。

 

「豪炎寺さんっ!」

 

 虎丸はまたしても、ゴールを目前にして豪炎寺にバックパスを出した。そのボールを受け取った瞬間、豪炎寺の顔は怒りの色へと変わり、思いっきりシュートを放つがその先はゴールではなく虎丸に向かっていき、見事に直撃した。豪炎寺、とうとうキレたか。てかやっとキレたか。正直もっと早めに"治療"は始まると思ってたけど、案外経過観察の期間が長かったな。

 

「いってて……何するんですかっ!」

 

「さっきからなんだ、お前のプレーは? 試合時間は残っていないんだぞ。精一杯、ベストと思えるプレーをしろ!」

 

「これがおれのベストです! おれのアシストで、みんなが点を取る。それが一番なんです。そうすればおれが、みんなの活躍の場を奪わなくて済む……みんなで楽しくサッカーが出来るんです!!」

 

「ふざけるなっ!!」

 

 虎丸の主張を豪炎寺が真っ向から否定する。そりゃそうだろうね、そんなことを言われりゃ私だって怒る。要するに接待でサッカーされてるって意味だからね。大人社会じゃまだしも、子供同士の真剣勝負にそんなクソみたいな理由で手抜きされれば誰だって怒る。けど、虎丸にも事情があるのは知ってるし、それは多分育った環境が悪かった。

 子供ながらにサッカーの天才だった虎丸に、嫉妬の目を向ける子供達。それに耐えきれず、自分を押さえ込んで他人を持ち上げることで、自分が目立たずに自然と輪に溶け込めるようになる。

 まだ小6だというのに、そんな歪んだ付き合い方を知ってしまったのは、環境が悪かったとしか言いようがない。

 

「そんなサッカーは、本当の楽しさじゃない」

 

 豪炎寺も虎丸の言葉からその事を感じ取ったのか、先ほどのように声を荒げることはなく、諭すかのように静かに言い聞かせる。

 

「見ろ……ここにいるのは、日本中から集められた最強の選手たち」

 

 そう言いながら、豪炎寺は私たちイナズマジャパンのメンバーたちを示すように手を広げる。

 

「そして……敵は世界だ!」

 

 続けて今度は相手コートのデザートライオンを示すように手を広げる。

 

「俺たちは世界と戦い、勝つためにここにいるんだ。その事を忘れるな」

 

「そうだぞ、虎丸。全員が全力でゴールを目指さなきゃ、どんな試合にも勝てないぜ」

 

「もっと私たちチームメイトを信じてみてもいいんじゃない?」

 

 豪炎寺に続けて円堂、私も虎丸の元へと近づき声をかける。コートにいたイナズマジャパンのメンバーも集まってきたようだ。

 

「チームメイト……」

 

「そうだ、今の思いを全部サッカーにぶつけろ。おれたちが全部、受け止めてやる!」

 

「キャプテン……!」

 

「さぁ、やろうぜ虎丸!」

 

「……いいんですか? おれ、思いっきりやっちゃっても!」

 

 虎丸の顔付きが変わり、子供らしい満面の笑みで白い歯を見せる。おっと危ない、今の笑顔を見て目覚めそうだった。相手はまだ小6だ、抑えろ私。

 

「あぁ、俺を驚かせてみろ虎丸!」

 

「はいっ!!」

 

 後半ロスタイムになってやっとチームが一丸となったところで試合は再開。ザックのスローインから始まり、マジディにボールが渡りザックへと戻される。そのままザックが攻め上がってくるが、飛鷹が気合いを入れながら髪を整え、そしてザックに気迫に満ちたプレスをかけにいく。

 

「うおぉぉぉっ!!」

 

「くっ、なんだコイツ!」

 

 それにビビったのか、ザックはカイルへと即座にパスを出そうとする。

 

「させるかっ!!」

 

 そのパスを風丸が割り込みインターセプト。続けて私にパスを送る。ナイスパス。

 

「しまった……!?」

 

「いいぞ飛鷹、風丸!」

 

『ここでボールは結城へと渡った! イナズマジャパン反撃のチャンスとなるか!?』

 

 このボールは絶対に何があっても前線へと繋いで見せる。この試合、負ける訳には行かない。

 

「行かせるか!!」

 

 カイルが私をマークし、ボールを奪いに来る。

 

「女のひ弱な体格なら、体さえ当てればこっちのものだ。大人しくボールを寄越せ!」

 

 横から激しいタックルをかまそうと、私に体を当てに来る。が、それは空振りに終わり、カイルのタックルは虚しく空を切る。

 

「なっ、消えた……!?」

 

 カイルが驚きで目を見開く。しかし異変に気付き、足元の影を見てハッとする。

 

「まさか……()か!!」

 

「気付いても遅いよ」

 

 私はカイルの頭上からニヤリと笑う。

 本人は消えたと言っていたが、そんな訳ない。いや、超次元のこの世界だとあり得るのかな。けどまぁそんな大したことはしてない。ただカイルのタックルのタイミングに合わせて瞬時に高く飛んだだけだ。カイルの頭上を越えるくらいまで飛んだから、一瞬消えたように見えたのだろう。

 ちなみに豪炎寺のファイアトルネードや爆熱ストームはこれよりもさらに3倍くらい高く飛んでるからヤバい。

 

「虎丸!」

 

 私の空中からのパスを、虎丸は受け取る。

 その前方ではデザートライオンのMF陣たちが立ちはだかっているが一人、二人、三人と怒涛の勢いでぶち抜いて行く。おいおいヤベーな、とても小6とは思えない突破力だわ。

 

「あいつ、あんな力を……まさか! 分かっていたと言うのか、あいつの実力を」

 

 ベンチで座っていた不動がいきなり立ち上がり、驚いたように久遠監督を見る。コートで楽しそうにプレーをする虎丸を見て、久遠監督はほんの僅かに口元を緩めた。

 

「こいつっ!」

 

 続けざまにスライディングタックルで相手がボールを奪いに来るが、虎丸は難なく飛び越えて突破していく。

 

「激しいチャージを躱す身体のしなやかさ。崩されても倒れないボディバランス。特訓して身につくものではない。あれが……虎丸の個性だ」

 

 ベンチのメンバーたちに言い聞かせるかのように、久遠監督が珍しく口を開く。それを聞いて不動も不敵に笑い、監督の狙いや考えを悟ったようだ。

 

「あいつの実力を見抜いていて、このタイミングで投入。さらには初っ端のあの馬鹿げたルール。全て分かっていた上で仕組んでたってのか」

 

「そうか! 虎丸くんを存分に動かす為には、敵を消耗させておく必要があった。そしてそれは、監督が試合前に結城ちゃんに課したルールと関わってくる」

 

 吹雪が久遠監督と不動の話を聞いて、納得したように口を開いて呟く。

 

 

 

ーーー今回の試合、攻守の主軸は右サイドの結城を中心に組み立てていけ。結城、お前も攻撃は常に最前線、守備はゴール前でプレイするくらいのつもりで意識しろーーー

 

 

 

「味方のために激しく動き回って献身的なプレーをし、さらには相手の運動量を増加させ体力を消耗させる。今のイナズマジャパンでそれを成せる選手は彼女しかいない」

 

「いわゆるハードワーカーってやつか」

 

「走り続けてもプレーの質が落ちない無尽蔵のスタミナ。どんな相手にも通用する圧倒的なテクニックとボールコントロール。スピードやフィジカルはまだまだ世界には遠く及ばないが、それをも補う力を彼女は持っている」

 

「へっ、全て見抜いていた訳か」

 

「選手には活躍すべき場面がある。チームには勝つべき状態がある。選手たちの能力を結集し、出し切らない限り勝ち続けることは不可能。力を出し惜しんで行ける世界は無い」

 

 久遠監督が今回の試合のハイライトを語っている内に、虎丸はどんどん駆け上がっていく。

 

「ヒロトさん!」

 

 虎丸が正面のディフェンス陣を躱すために、逆サイドのヒロトへと大きく振ったパスを出す。

 

『宇都宮、サイドにボールを大きく振る! しかし基山、これを取れるか!?』

 

「このボール、繋いでみせる……虎丸くん!」

 

 ヒロトが意地を見せてボールに追い付き、足を伸ばしてトラップし再び虎丸へとボールを戻す。

 

「行け! 虎丸!」

 

「はいっ!!」

 

 虎丸の目の前に、ディフェンスは居ない。キーパーとの一対一だ。ここが正真正銘最後のラストプレーとなる。

 

「来いっ!!」

 

 相手キーパーのナセルが待ち構える。

 

「ずっと封印してきたおれのシュート……」

 

 ダンッ! と力強く地面を踏み込み、空手の型のような構えを取る。その時、私には一瞬だけ背後に虎の幻影が見えた気がした。そして体を捻りつつ右足でボールを思いっきり蹴りつける。

 

「タイガードライブッ!!」

 

 まるで猛虎のような強烈なシュートは、キーパーのナセルが守るゴールへと一直線に突き進んでいく。

 

「ストームライダー!!」

 

 ナセルも必殺技で対抗しようとするが、それを突き破り見事虎丸のシュートはゴールネットに突き刺さった。

 

『決まったぁぁぁッ!! 宇都宮、試合終了直前にデザートライオンを突き放す強烈なゴォーール!!!』

 

「これが虎丸の本当の力か……」

 

「すげぇ……すごいぞ虎丸!!」

 

 そしてそれと同時に、審判の長いホイッスルが鳴り響き、試合終了の合図が流れる。この瞬間、イナズマジャパンのアジア予選トーナメント決勝進出が決まった。

 

「勝ったんですね……おれたち」

 

「あれがお前の本気か?」

 

 勝利の余韻に浸っている虎丸のそばに、豪炎寺がゆっくりと歩み寄る。その顔は嬉しそうだが、どこか満足していない様子だ。

 

「俺たちについてくるには、まだまだ時間がかかりそうだな……虎丸?」

 

 虎丸を挑発するかのように、笑いかけながら豪炎寺がわざと意地悪っぽい言い方ではっぱをかける。

 

「でもおれ、まだ本気出してませんから……先輩?」

 

「おっ、言ったな?」

 

「さぁ、次の試合も勝ちますよ! アジア予選くらいで立ち止まってられませんからねっ!」

 

「……なんか性格変わってないか?」

 

 鬼道が少し呆れつつ豪炎寺に尋ねる。

 

「いいじゃないか、おれは大歓迎だぜ!」

 

「でもなんでこんな凄いやつがフットボールフロンティアで出てこなかったんスかね?」

 

「出られないんですよ」

 

 壁山の疑問に、虎丸がキッパリと答える。

 

「えっ、なんで?」

 

 円堂がその理由を尋ねると、虎丸はどこか恥ずかしそうに少しだけ頬を赤らめる。

 

「だっておれ……まだ小6ですから」

 

 フットボールフロンティアは中学生(・・・)の全国大会。当時小学生だった虎丸には出場資格が無かったから出られなかったって訳だ。世界大会は各国の事情を考慮して15歳以下の選手なら男女問わず参加できる。だから虎丸のデータは能力の割に今のところ世界どころか全国区にすら広まっていないだろう。

 小学生の間ではちょっとした噂になってるかもしれないけど、所詮その程度の認知レベルだ。

 そんな虎丸の衝撃の事実を知り、私以外のメンバーは数秒固まって一呼吸置いたあと、一斉に驚きの声を上げた。

 

「お前小学生だったのか……」

 

「だからって甘く見てたら、エースの座は頂きますよ。いつかおれ、豪炎寺さんを超えてみせますからねっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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