してないという……。
ハーフタイムが終わり、後半からはデザートライオン側のボールからスタートする。審判のホイッスルが鳴り、後半開始の合図となる。ふと気が付いたけど、デザートライオンは後半からFWを3トップにし攻撃的な陣形に変えてきたようだ。
「行くぞ!」
FWのザックがまずはドリブルで攻め上がってくる。それを見た鬼道と緑川が二人でマークしにかかる。
「邪魔だ!」
「ぐっ!」
が、ザックのパワーに押し負けてしまい割とあっさり突破されてしまう。てか二人とも前半に比べて若干動きが悪くなっている。まだ後半が始まったばかりにもかかわらずだ。緑川は大分疲れが出ているようで、鬼道はスタミナ切れというよりかは暑さに参っているみたいだ。
「DF陣はラインを下げてゴール前を固めて! 私と風丸くんも後ろに下がって守りに入るよ!」
私の指示で、DFのみんながゴール前に位置をとる。
こちらのDFラインを下げることで、相手側のオフェンスエリアは増えてしまうが、あまり動き回されないようになる。あらかじめゴール前を固めることで裏を取られることがないから、走り回らずとも少量の運動量で守りに入れる。両サイドのMFである私と風丸もポジションを下げて、少しだけ守備よりのMFに移行する。いわゆるボランチというやつだ。
『おっとここでイナズマジャパン、前半でもぎ取った2点を守り切る体制に入ったか!? DFラインを下げ、後半は守りに専念するようだ!』
「フッ、そんなことをしても無駄だ」
キャプテンのカイルがほくそ笑みながら言う。確かに、イナズマジャパンのスタメンはもう既に大半がスタミナ切れの状態にある。今さらこんなことをしても単なる時間稼ぎくらいにしかならないかもしれない。けど私にだって考えがあるから指示を出しているんだ。何も闇雲に守りに入れば良いとか思ってるわけじゃない。
「これ以上は行かせない!」
「なにっ!?」
風丸がスライディングでザックからボールを奪い取る。そしてそのまま私に鋭いパスを繋げる。
DFラインを下げると相手のオフェンスエリアが広がり、更にはこちらのDFとMFの間にスペースが空いてしまう。それを私と風丸が両サイドのボランチに入ることで、その空いたスペースを埋める。
細かいことを言えば、二人とも同じボランチでも私と風丸で役割が少し違う。どちらかというと私は中盤のMFへのパスを繋げる攻撃的なボランチ、風丸が相手のボールを奪取する守備的なボランチだ。
要するに、風丸が相手からボールを奪って攻撃の芽を摘み、私がそれを前線に繋げてカウンターの起点を作るって感じだ。みんなの動きを最小限にした分、二人の負担が少しだけ重くなる。
私はまだスタミナに余裕があるから大丈夫だけど、風丸の方は大丈夫だろうか。元陸上部ということもあってかまだまだ走り回れる体力はあるみたいだけど。
「鬼道!」
私が中盤に位置する鬼道へパスを出し、イナズマジャパンの反撃が開始する。といっても私的には今は積極的に点を取りに行かなくてもいいと思う。入ったらラッキー程度だ、今はまだ攻め入る時じゃない。けど、試合前の監督からの命令『コートの端から端まで全力でプレイしろ』があるから仕方なく攻撃にも参加しに前線へ駆け上がっていく。
「吹雪!」
鬼道が吹雪にパスを出す。いつも通りの鋭いパス、だけど普段の吹雪なら余裕で取れていた。しかし鬼道のパスに足がついて行かず、ボールは吹雪を追い抜いてそのままコートの外へ出てしまう。
「ハァ、ハァ……ごめん鬼道くん」
「いや、今のは俺の出した位置も悪かった」
「吹雪くん大丈夫? 大分疲労してるみたいだけど……」
吹雪が膝に手をついてゼェゼェと肩で息をしている。もうほとんどスタミナが切れかかっている。気温が高く暑い中で、立っているのもやっとだろう。
「もう少しだけ、コートにいさせてくれないかな。次は足を引っ張らないように頑張るから」
そう言って吹雪はニコッと笑顔を見せる。なるほど、これは確かに女の子にモテるのも納得だ。守ってあげたくなる母性が駆り立てられると同時に、男らしさも垣間見えるという見事なギャップ。風丸がいなかったらきっと私の推しメンになっていたに違いない。
「無理はしないでね」
「俺たちもなるべくカバーには入ろう」
「うん、ありがとう」
MFのメッサーのスローインでカイルにボールが渡り、試合が再開する。ボールを受け取ったカイルはそのままドリブルでこちらに攻めてくる。すかさず緑川がプレスをかけにいく。
「そろそろ体力の限界が来ているのだろう?」
「……っ!」
「数日そこらで基礎体力をあげようとしたつもりみたいだが、所詮付け焼き刃だ」
カイルのタックルであっさりと緑川が跳ね除けられる。
「ザック!」
カイルがFWのザックにパスを出し、一気に中盤まで攻め上がってくる。そして同時にゴール前まで走ってきていたFWのマジディに高めのパスを上げる。
「マジディ!」
「させるかよ!」
そのパスにゴール前で守りを固めていた綱海も反応し、マジディと同時に飛び上がる。
「はあぁぁぁッ! 吹っ飛べ!!」
マジディと綱海が同時にヘディングでボールに食らいつくが、マジディの力に押されて綱海もろともゴールにボールを押し込む。
「なっ……!?」
「綱海!」
円堂が反応するが時すでに遅く、ボールと共に飛ばされた綱海を止めきれずにゴールを許してしまった。
『ゴォーール!! デザートライオン、ついに1点を奪い取りました! このまま勢いに乗れるのか!?』
「くっ、なんてパワーだ……綱海? おい綱海! 大丈夫か!?」
ゴールに押し込まれ、倒れ込んだまま立てずにいる綱海に円堂が必死に声をかける。
それと同時に、ピッチに立っていた緑川が急にフラッと倒れそうになり、たまたま近くにいた私が慌てて支える。
「緑川くん!? ちょっ、大丈夫!?」
完全に息が上がっており、それに加えて足が僅かに痙攣していた。過度なオーバーワークがここで響いてきたのか。
「ここからがおれたちのサッカーの始まりだ」
キャプテンのカイルが私たちの前に立ちはだかる。
「おれたちは灼熱の砂漠のフィールドで育った。鍛え上げられた身体と無限の体力、それがおれたちの最大の武器だ」
「彼らの目的は、イナズマジャパンのスタミナを削ぐことだったんですね!?」
メガネが合点がいったかのように立ち上がる。まぁ監督と私は既に気づいてたし、知ってたけどね。
「だからあんなにラフプレーを……!」
「みんなの消耗が激しいのもそのせいね」
「しかも今日のこの気温の高さ、非常にまずいですよ。このままでは……」
「お前たちは砂漠を彷徨う旅人同然……あとは息の根が止まるのを待つのみだ。せいぜい足掻くがいい」
◇◆◇◆◇◆
「選手交代だ。土方、飛鷹、準備しておけ」
続行不可能になった緑川と綱海に代わり、土方と飛鷹がそれぞれピッチに入る。ちなみに飛鷹は綱海が元いたポジションそのままで、土方はDFとして入り、1-4-3-3のフォーメーションに変更される。
FW 吹雪、豪炎寺、基山
MF 風丸、鬼道、結城
DF 飛鷹、壁山、木暮、土方
GK 円堂
フォーメーションの変更に伴い、ボランチに下がっていた私と風丸も元のポジションに戻り、一度リセットして試合に臨む。
イナズマジャパンのボールから試合は再開し、私が先陣を切ってドリブルで前線に上がっていく。
「もらったぜっ!」
ザックが勢いよくスライディングタックルを仕掛けてくるが、ボールを浮かせて短くジャンプしてかわす。続けてプレスをかけに来たメッセも、浮かせたボールをヒールリフトで蹴り上げてもう一度ボールを浮かせ、メッセの頭上を通り越して突破する。
「あの女、少しはやるようだな」
カイルが呟きつつ、ディフェンスを固める。
「僕にパスを!」
吹雪の要求に応え、私はすぐさまパスを出す。私のパスをトラップした吹雪はシュート態勢に入る。
「ウルフ……レジェンドッ!!」
どこか力の入っていない、いつもよりも威力が落ちた吹雪のシュートがゴールに迫る。
「ストームライダー!」
しかしGKのナセルの必殺技に阻まれ、吹雪のシュートはいとも簡単に止められてしまった。
「くそっ……僕は、こんな所で……」
そう呟きつつ、ついに吹雪までも倒れてしまった。
すぐさまチームメイトのみんなが駆け寄るが、とてもプレーを続行できるような状態ではなかった。
「選手交代だ、虎丸」
吹雪のいたポジションにそのまま虎丸が入り、試合は再開する。どうでもいいけど、そういえば不動って今のところ完全に空気だね。さっきとか今の交代で不動が出るのかと思ったけど、わざわざポジション変えてまで土方たちを入れてきたし。まぁ不動の反応がいちいち面白いから私は別に構わないけどね。
『さぁキーパーのナセルのゴールキックから試合は再開です! 後半も残り時間が少なくなってきた中、試合はどう動いていくのか!?』
ナセルがザックへとパスを出し、続けてザックがカイルへと繋げようとする。
「カイル!」
「もらった!」
そこを入ったばかりの虎丸がインターセプト。ボールを奪っていき、素早いドリブルでカウンターを仕掛けにいく。
「止めろ!」
「……行ける!」
相手DFのファルとジャメルが二人掛かりで虎丸のディフェンスにつくが、それをあっさりとフェイントで抜いていく。
「いいぞ虎丸!」
そのままゴール前まで持ち込んでいった虎丸は、キーパーと一対一というチャンスにもかかわらず、一瞬シュートモーションに入ったかと思えばクルリと向きを変えて後方の豪炎寺へとパスを出す
「なっ……!? くっ、爆熱ストーム!!」
「ストームライダー!」
虎丸の予期せぬパスに一瞬狼狽えた豪炎寺だったが、すぐさま意識を切り替えシュートを放つ。が、惜しくもナセルにがっちりシュートを止められてしまった。
「虎丸、なぜ今の場面、自分からシュートを打たなかった?」
「えっと、豪炎寺さんの方が確実にゴールを決められる確率が高いと思ったので」
「あれだけフリーの状態で、それもキーパーとの一対一の場面でか?」
「はい……」
ここでこれ以上言っても意味がないと悟ったのか、今はそれ以上は口を開かなかった豪炎寺だったが、その表情はどこか不満そうな様子だった。
しかし、その直後に事は起こった。キーパーのナセルから受け取ったボールをザックが一人で運び、カイルにラストパスを送る。
「ミラージュシュート!!」
「はあぁぁぁッ! 正義の鉄拳G3!!」
円堂の必殺技でカイルのシュートを辛うじて弾くが、その弾いた先に走りこんできていたザックによりヘディングでボールを押し込まれてしまう。
『な、なんと! ザックのゴリ押しで2点目の追加点! これは試合の展開が大きく変わってきました!!』