タクシーに乗り込んだ2人。
寂園に強引にTAXIに乗せられた凛はある場所に連れてこられることになった。
それはお洒落な隠れ家的なバー、そのバーは外国人の人々など、日本人に限らず色んな人種の人達が中に居た。
「ヘイ! トム、どんな感じ?」
「上々さ、マイケル、言われた通り奥部屋は確保しといたぜ」
「thank you、流石トムね、凛、ほらfollow me」
「ちょ! ま、待ってよ舞!」
トムと呼ばれる黒人のバーテンダーと握手を交わした寂園に目を丸くする凛。
しかし、寂園はいつものようになんでもないような表情で笑みを浮かべてどんどん奥へと進んでいく。
そして、寂園がバーの奥部屋の扉を開くとそこには広々とした空間が広がっており、あるのは大きな鏡が張られているのと、様々な音楽機器が設置されている部屋だった。
「こ、ここは…」
「私のBest placeネ、まぁとはいえ今日からは凛のBest placeになるかもしれないけどね!」
そう言って、寂園は嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべていた。
まさか、こんなバーの奥に広い部屋があるなんて予想もつかなった。そして、立てかけられているギターなどの音楽機器もどこか年季が入っているような色をしている。
そんな中、年季が入ったギターをジッと見ている凛に寂園は近寄ると耳元でこう囁いた。
「oh…、凛はお目が高いネ、あのギターはジミーのだよ」
「へ? ジミーって…?」
「神様、ロックンロール好きの皆が崇めてるね、あのギター1個だけで下手すると数億くらいいく代物ヨ」
そう告げた途端、凛の身体が面白い様にぴたりと固まった。
ギターだけで数億、次元が違う、そして、それだけではない、いたるところにある楽譜やドラム、ギターの数々は全て計り知れない価値があるものばかりだ。
しかも、それが、全部、寂園の所有物であるというから凛はその光景に開いた口が塞がらない。
見る人が見れば気絶してしまう様なそんな凄い部屋だった。
そして、舞はにこやかに笑みを浮かべるとパン!っと手を叩く、そうここに来た理由は凛にlessonを施すためだ。
「それじゃ凛、STARTしようか」
「? 始めるって何を…」
「dancing lesson! 私が貴女を凄いstarにしてあげる」
そう言って寂園は嬉しそうに笑って設置した音楽機器を弄り始める。
そして、ストレッチ、寂園の関節の軟らかさは異常で凛にもdanceの高いレベルを求めるには寂園の様な関節の軟らかさを身につけてもらう必要がある。
もう限界くらいに関節を伸ばしているのに舞は更にそこから凛は追い打ちをかけられていた。
「あだたたたた! 痛い! 舞! これ以上は…!」
「HAHAHAHA! NO problem、凛、今日からは風呂上がりにちゃんとストレッチをする事ネ、足首も股関節もしっかりする様に」
「わ、わかっ…痛っ! いたたたた!」
そう促してくる寂園の言葉に頷く凛。
しかし、ストレッチから既に幸先は不安だが、ひとまず一通りの関節を伸ばし切ったところでいよいよ、寂園は本題のdanceのlessonへと入りはじめる。
「まずはmy danceを真似て一緒に踊りながら振り付けを覚えてみて?」
「お、OK、舞」
「よし! それじゃ行くよ!」
そして、舞はお洒落なハットをいつもの様に深く被るとキレのある動きからピタリと静止する。
凛はそれをできる範囲で寂園の後ろから見ながら真似をしていた。もちろん最初であるからやはり動きもぎこちない、しかし、それは致し方ない事である。
次に寂園は音楽に合わせて踊りながら曲を歌いはじめた。そして、楽しそうに踊りながら凛に歌を振っていく。
「dangerous♪ はい!」
「デ、デンジャラス♪」
「NO! STEPが雑だよ! 凛! もっとcoolに!そして滑らかに! そして、enjoyしてやるのが1番だよ」
そう言うと、寂園は後ろで踊りを真似ている凛ににこやかに微笑みかけると自分が被っていたハットをお洒落に凛に被せた。
スパンという革靴の音にキレキレダンスが音楽と共に凛の目の前で披露される。
凛はハットを寂園がいつもやっている様に被るのを真似ながら、その動きに必死についていく。
「ポゥ!」
声高い寂園の声が部屋に木霊する。
気がつけば凛は笑顔で寂園と共にdanceを繰り広げていた。なんだか、魔法が掛かったみたいに身体が不思議と動く。
そして、先日、花屋の目の前で披露したムーンウォークを凛の面前で寂園は披露する。
「これはちょっと凛にlectureするのは先かもね?」
「はぁ…はぁ…す、凄い」
あれだけ踊っているにも関わらず寂園は全く息一つ切らしていない、それどころか余裕すら感じさせられる。
初めてdanceのlessonを受けた凛はついていくのがやっとだ。でも、踊るのは楽しかった、左右に身体を振るたびに鏡に映る自分の身体が別のものの様にさえ感じる。
そして、一通り、danceと音楽が終わると寂園はにこやかな笑みを浮かべて尻餅をついて息を整える凛の側に近寄ってきた。
「どうだった?」
「…す、すごくキツかった…。でもなんだか…」
「楽しかった、でしょ?」
そう訪ねる寂園の言葉に凛は静かに頷く。
確かに最初の練習でついていくのに必死で体力的にもキツかったが、何より踊って歌を歌ってみて凛は楽しかった。
凛はにこやかな笑みを浮かべると真っ直ぐに寂園の目を見つめてこう告げる。
「ありがとう、舞。なんだか…今日で色々と吹っ切れた気がする」
「そう…。 もう凛の中でanswerは出たみたいね?」
凛は寂園のその言葉に静かに頷く。
色々と迷っていた部分があった。果たしてアイドルがどんなものか知らないしわからない、けれど、少なくとも自分の目の前にいるこの人を目標にするにはこれが1番良い手段だと凛は思っていた。
目の前にいる踊りと歌の次元が違う人物に追いつきたい、隣で踊りを踊ってみたい、歌を歌ってみたい。
だったらやる事は一つだけだった。
「うん、私…、舞みたいなエンターテイナーに成りたい。だから、アイドルになる」
「いい顔ね! very cute だよ凛! そうだネ、私がdanceの先生してあげるからすぐに上手くなるよ」
「うん!」
凛は力強く頷くと差し出された寂園の手を力一杯握りしめて立ち上がる。
そして、寂園は凛の肩をポンポンと叩いた。彼女ならきっとアイドルとして大きな成功を収めることができるだろう。
できることなら自分はそんな彼女の手助けが出来れば良い、寂園はそう思っていた。
寂園はパッと腕時計の時間に目を通す。もう良いくらいの時間だろう。
「今日のlessonはここまでネ、凛、この後ちょっと時間貰える?」
「へ…? あ、うん大丈夫だけど」
「OK! 今日、ここで私のLiveを行うからさ、良ければ見てってよ」
そう言うと、寂園は笑みを浮かべて親指で先ほどのバーを指差していた。
寂園はこのお店で定期的に外国人ややってくるお客さんに向けてライブを行っている。そして、やってくるお客さんは数知れず、彼女を一目見ようといつもこのバーはパンパンに膨れ上がり、彼女のdanceや歌をなかなか見ることが出来ない。
しかし、寂園はそこの店主であるトムとは仲が良く、莫大な収入をもたらしてくれる寂園にトムも信頼を置いている。
そして、今回、凛には最前列の席をそのトムにお願いして用意してもらっていた。
「見たい…、絶対見たい!」
「ふふ、凛ならそう言ってくれるって思ってたヨ、それじゃまた後でね! トム! 凛をお願いネ!」
「OK! さ、嬢ちゃんこっちのSpecial席に案内するヨ」
まるで、VIPの様な扱いを受けながら凛はトムから案内され、寂園が用意してくれた席に着席する。
辺りを見渡せば物凄い数の外国人の人達が来ていた。まさか、日本にこれだけの外国人を見ることになるとは凛も度肝を抜かされた。
彼らの目的はただ一つ、全員、寂園のライブを見に来ているのだ。
しばらくして、ライトが消灯し、用意されたステージにスポットライトが当たる。そこにはいつもの様にハットを被った寂園の姿があった。
「thank you everyone …let's go…」
そして、寂園の掛け声と共に音楽が始まり、凄まじい歓声が巻き起こった。
そこからは寂園の独壇場である、ターンをして、ポーズを決めると聞き惚れる様な滑らかな英語の歌声が店内に広がっていった。
寂園が繰り広げるキレキレのダンスに周りからは驚きの声が上がる。
「how funky strong♪」
そして、声高に歌う歌声は同じ女性だというのに目が釘付けになってしまうほど、思わずときめいてしまう。
男性だけではなく女性の外国人は悲鳴をあげながら寂園に手を振って一目彼女に見てもらおうと必死だ。
その女性に気がついた寂園はにこやかに微笑みウインクを飛ばし、また、キレキレのダンスを披露しながら凛の方へ身体を向けると近寄っていき、軽い投げキッスをした。
凛はその姿を見て思わず顔を真っ赤にする。
ただただ、凄いの一言だった、ダンスを真似してみようとする者、はたまた、曲を口ずさむもの、身体を上下させている者。
凛が辺りを見渡せば色んな人達がいた。ただ彼らに共通しているのは一つだけ、視線の先で踊っている寂園に釘付けということだけだ。
「〜〜♪」
そして、寂園は歌を歌い終えるといつもの様にキレの良いポーズで曲を締める。
その瞬間、全員が大声をあげての拍手喝采の嵐だった。それを目の当たりにした凛は目をキラキラとさせて彼女を見つめた。
やっぱり、寂園は凄いと、これだけの人達を全員感動させられるだけの卓越した技術や歌声を披露させられれば、凛も彼女を誇らしく感じてしまう。
「thank you very much!」
彼女はその場でお辞儀をすると被っていたハットを深く被り、ステージから立ち去っていく。
そして、彼女が立ち去ったバーの客からは止むことの無い拍手喝采が惜しむなくずっと鳴り響いていたのだった。
それからしばらくして、トムに連れられ凛はバーの裏口へと案内される。
そこには、笑顔で手を振る寂園の姿があった。
「どうだった? princess、私のLive」
「…すごかったよ! 私、思わずときめいちゃったし」
「oh、thank you! でも、私は凛もきっとあれくらいできるようになると思うよ」
寂園は嬉しそうに感想を述べる凛の肩をポンポンと叩くと笑顔でそう告げる。
そして、寂園はしばらくして腕時計で時間を確認すると凛に笑顔でこう告げる。
「さっ、今夜は遅いから私が自宅までescortするネ」
「本当に? でも…」
「いいから、私がそうしたいのヨ、私は凛のことがlikeだからね! 」
寂園は笑顔でウインクし、サムズアップして凛に応える。
それに女性だけでは夜道は危ない、寂園は凛の側で今日、彼女をエスコートしてくれたバーの店主であるトムにこうお願いする。
「トム、車回して貰うようにジェイクにお願いしといて」
「OK! 今日も最高だったヨ! マイケル!」
「thank you、売り上げも上々でしょ?」
「YES、お陰様でね」
トムは寂園に応えるようにサムズアップしてにこやかな笑顔を浮かべていた。
寂園がこのバーでいつもLiveをしてくれるお陰でこの店は物凄く繁盛している。そのお陰でわざわざ米国から著名人が彼女の元を訪れたりしてくれるのでそれを見に来ようと新規のお客さんが米国からわざわざ遥々この日本まで追っ掛けてくるとか。
そんな話しを寂園から聞かされた凛はdanceのlessonをした部屋のことを思い出す。
確かにあれだけのギターやら値打ちがありそうな楽器があの部屋に置かれていたのに妙に納得がいってしまった。
「それじゃ、帰りましょ、リン!」
それから2人はトムが呼んでくれたジェイクに車を運転してもらい、トムが開いているバーを後にした。
なんだか、知らない世界に触れた今日、凛は隣で座っている寂園のお陰でまた一つ大人になったなと実感することができた不思議な日になったのだった。