とあるマンションの一室。
寂園は自分のベットの上で携帯端末を使い音楽を聴いていた。新しい作詞作曲をする為の参考にと聴いているのは洋楽ばかりである。
たまに口ずさんでみたり、気になる、もしくはパッと思い浮かんだフレーズを紙に書き込んでいく。
そして、暇があれば部屋の中で少しだけステップを踏んで確認。
「That's right! 思った通りね! このフレーズは使えるわ」
寂園はグッと嬉しそうに小さくガッツポーズ笑みを浮かべてメモに気に入ったフレーズを書き込む。
新しい物、新しい音楽、そして、改めて音楽やダンスと向き合うだけ新しい発見がここ最近になって増えてきた。
そんな時、音楽を聴いていた寂園の携帯端末に着信が入る。
「ん? 誰かしら?」
その携帯端末を確認する寂園は表示された名前に目を丸くする。
その着信は先日、花屋で知り合った渋谷凛からのものだった。寂園は首を傾げてその着信に出る。
「hello もしもし?」
『あ、舞? 凛だけど』
「oh、凛、掛けてきてくれたんだねー。なになに? どんな
そう告げる寂園はどこか楽しそうな声でそう凛に問いかける。
すると、電話先の凛は明るく問いかけてくる寂園に静かに話をしはじめた。
声色からしてどうやら相談事のようだった。
『実は最近、私、アイドルをやらないかってスカウトを受けてて』
「oh、アイドル!? 良いじゃない、凛ならきっと上手くいくよ」
『いえ、その…私、その話を一度断っちゃったんだよね』
「why? どうしてまた」
凛がアイドルのスカウトを断ったという話を聞いて首を傾げる寂園。
彼女の場合、アイドルを断る理由は無いような気がする。少なからず寂園はそう思っていた、何故なら、花屋で寂園がダンスを披露したその日、聞き入っていた凛の姿を見ていたからだ。
しかし、次に凛の口から寂園にこんな話が飛び込んでくる。
『先日、見せてもらった舞のダンスに正直、釘付けになっちゃって…、あのレベルのダンスは今の私には真似できないって…』
「oh…、なるほどネー」
『それに実家の花屋の仕事も手伝わないといけないし、あ、先日の舞の歌とダンスで新規のお客さんがたくさん増えたんだ!ありがとう!』
「
そう電話で告げる寂園はにこやかに笑っていた。
しかし、気になるのは相談を持ちかけてきた凛の意思の方だ。もしかしたら、自分のせいで彼女はアイドルになるのを躊躇っている節があるのかもしれない。
すると、しばらく考えた後に、寂園は凛にこんな話を持ちかけはじめる。
「ok、凛。貴女はアイドルになりたい?」
『あ、いや、別に…。私がステージに上がってもそこまでの技術はないし』
「そんなtechniqueは後から付いてくる、心配しなくても大丈夫よ」
『…そう、かな?』
「そんなものよ、明日空いてる?」
『え? 明日? まぁ、夕方からなら…』
そう告げる凛の言葉を聞いて寂園は自分のスケジュール帳を確認する。
スケジュール帳を見てどうやら明日は予定は大丈夫そうだと確認したところで、寂園は電話先の凛にこんな話を持ちかけはじめる。
「ok、それじゃ明日夕方に待ち合わせね? 花屋まで迎えにいくわ」
『え、えぇ!? 』
「それじゃまた明日ね、see you」
驚いたような声を上げる凛を他所に一方的に要件を伝えて、手早く慣れた様子で通話を切ってしまう寂園。
迷える子羊は導いてあげなくてはいけない。それも、迷っている原因の一端が自分であるからなおのことだと寂園は思っていた。
アイドルになるかどうか迷っている。ならば、彼女の背中を今押してあげられるのは自分ではないのかと。
「明日が楽しみね」
そして、寂園もまた、一通り音楽を聴き終えるとベットに横になり静かに眠りにつきはじめる。
渋谷凛という少女がいったいどんな可能性を秘めた少女であるのかを楽しみにしながら…。
日は明けて、翌日。
昨日話していた通り、寂園は渋谷凛と待ち合わせしていた花屋の前に夕方ごろに訪れる事にした。
いつもの様にお洒落なハットにビシッとお洒落なスーツ姿、一般の女性がそんな格好をしていれば男装しているのかと思われるかもしれないが彼女がその格好をしていても自然に見えてしまうから不思議な光景である。
「んー…リン、もしかして少しだけlate coming かな?」
そう呟きながら、寂園は時計を確認する。
夕方ごろに待ち合わせと言ったが思いの外、彼女の姿がなかなか見えない、待ち合わせ場所が実家なので遅れる事はあまり無いと思われるが。
すると、寂園の耳に聴き慣れた声が飛び込んでくる。
「ご、ごめん! 舞! 遅れちゃった!」
「ん?」
そこには手を振りながら駆けてくる制服姿の凛の姿があった。
制服を見る限り、女子高生の制服を身につけている。これから察するに学校帰りだったという事が寂園にはわかった。
「ヘイ、遅かったじゃない?」
「ごめん! 昨日言ってたスカウトに捕まっててさ…」
「ん? スカウト?」
「そう、アイドルのスカウト。断ったんだけど何故か学校の側まで来てて」
凛のその言葉にあぁ、と納得する寂園。
昨日、話していたスカウトがどうやらまた声をかけてきたらしく、それで、いつもより帰りが遅くなってしまったという事に納得した様子であった。
しかし、一度断られていながらも再び声をかけてくるというのはそのスカウトもなかなか目利きだなと寂園も感心する。
さて、それはさておき、今回、待ち合わせをした本題について凛の方から寂園にこう質問を投げかけはじめた。
「それで? 舞、待ち合わせって今日は何するつもりで待ち合わせしたの?」
「oh、そうだったネ、実はアイドルになるかどうか迷ってる凛の背中をpushしにきたんだよ」
「へ?」
「だから、starに成りたいんでしょ? とりあえずそんなヒラヒラのskirt履いてちゃダンスはcan't だからとりあえずジャージかmoving しやすい格好にchangeしてきて」
「え? 着替えるの? っていうかダンスって」
そう言って突然、着替えて来いと要望してくる寂園に凛は戸惑いながら問いかける。
唐突に今日、待ち合わせしたと思いきやいきなり動きやすい格好に着替えて来いと言われればそうなるのも無理はない。
しかし、戸惑う凛を見た寂園は肩を竦めて溜息を吐くと仕方ないといった具合にこう告げはじめた。
「別にリンのskirtの下に履いてるlingerieが見えて良いならそのままでもいいけど?」
「!? …すぐ着替えてくる!」
それを寂園から聞いた凛は顔を真っ赤にして慌てた様に自宅へ鞄を抱えて、駆けていく。
何をするのかわからないが、スカートを履いたままで自身のパンツを晒すという醜態を公衆の面前で晒したくはない。
しばらくして、ジャージに着替えてきた凛が花屋の前で待つ寂園の元へとやってくる。
だが、それを見た寂園はまたしても難しい顔をしていた。
「ごめん!待たせた!」
「んー…なんかしっくり来ない、仕方ないネ」
「え? 言われた通りジャージだけど…」
「YES、そうなんだけどね…。凛、悪いけど貴女のmeasurements教えてくれない?」
「へ?」
寂園の突然の言葉に目を真ん丸くする凛。
それに着替えてジャージで来たというのに何故かあまり納得してない様子の寂園。そして、寂園は凛が言葉を理解していない事を察すると改めてこう告げる。
「スリーサイズって言ったらわかる? 貴女のbustとかhipとかのsizeね」
「は、はぁ!?」
「とりあえず教えて? please」
再び顔を真っ赤にする凛に至って冷静にそう告げる寂園はメモ帳とペンを取り出して凛に手渡す。
ジャージの次はスリーサイズを教えろとなれば年頃の女の子である凛にも流石に動揺せざる得ない。
しかし、寂園は早く書いてと言わんばかりにメモ帳とペンを自身に手渡して来た。
何を考えているのか、全くわからない。寂園と知り合ってからまだ浅い付き合いであるし、まさかスリーサイズまで彼女に教えなくてはいけなくなるとは凛には予想外であった。
ひとまず、自身のスリーサイズを書き終えたメモ帳を凛は変わらず顔を赤くしたまま寂園に手渡す。
「へぇ、なかなかsizeあるのね」
「どこ見て言ってるの? ねぇ、どこ見て言ってるの!?」
「HAHAHA、jokeよ、ok、thank you リン、とりあえず受け取ったわ」
そう言って、メモ帳を仕舞う寂園、しかし凛はどこか納得してない様子で寂園を見据えている。
それを見ていた寂園は肩を竦めて仕方ないとスリーサイズを凛にいきなり聞いて来た理由を話しはじめる。
「don't worry これは貴女のスーツを新調する為に使わせて貰うだけだから」
「え? スーツ?」
「そ、ジャージじゃお洒落じゃないでしょ? 何事も形から入るのが1番、頼むのはbrand品だから大切に着てよね」
「ちょ!? そんな…」
「いいの、私がしたいだけだから」
そう語る寂園は笑みを浮かべて凛にウインクをする。
ジャージだと見栄えが良くないと感じた寂園は凛にスーツを新調する為にスリーサイズを訪ねたのである。
これは寂園がそう感じたからそうすると決めたわけでもちろんお金は全部、寂園持ちである。
そんなブランド物のスーツを買って貰えると聞いた凛は訳が分からず目がグルグルと回っていた。
知り合って間もないはずの彼女がここまで自分にしてくれる理由がわからなかったからである。
「おっと、もうこんな時間。それじゃ凛、行きましょうか?」
「え? 行く? 舞、行くってどこに…」
そう言って、凛はいきなり手を引かれて歩きはじめる寂園に訪ねる。
すると、凛の手を引く寂園はにこやかな笑みを浮かべて親指を立ててサムズアップしたまま、彼女にこう告げた。
「決まってるじゃない、let's dancing しによ」
「えぇ!?」
「ヘイ!TAXI!」
「ちょ! まっ…!」
驚いたような声を上げる凛を他所にタクシーを止める寂園。
トントン拍子に話が進む中、凛は寂園からタクシーに乗せられて後部座席に座る。
そして、2人を乗せたタクシーはある目的地に向かって走り始めたのだった。