soul of oratoria   作:変態転生土方

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所謂、嵐の前の静けさ


神と人と
神と人と


様々な風景が風のように流れていく。

火山、城、森、遺跡。それら全てに共通することは、人の気が無く、廃墟のような風貌をしていることだった。

やがて光は消える。天高くに光の残滓が煌いて、闇の中で孤独と絶望に苛まれた()()()は、声にならない悲鳴をあげた。

手を高く挙げる。必死に光へと手を伸ばし思う。

この果てない絶望から、この無上の孤独から逃げ出せるのならば。

()()()()()()()()()()()()と。

 

 

 

 

 soul of oratoria

 

 

 

 

「それが俺だ」

 

ハッと、アイズは現実に戻ってきた。

辺りを見回し、此処があの暗闇ではなくオラリオであることを知り、ホッとする。

体中に雨とは別の冷汗が流れ、動悸が激しくなる。

 

「あれは……なに?」

「俺の現実だ。俺はずっと、あそこにいる」

 

「見ただろう、あの光を」とジョンは続けた。

 

「あれこそが()()()の救いの光だ。あそこに向かうために屍を積み上げている」

「神様の屍を積み上げて、そこまでして求める光……」

「ヒトの時代だ。ヒトが、ヒトの為に生き、ヒトの為に死ねる時代。……ヒトだけの時代」

 

「そして」とジョンは言葉を並べる。

 

「そこに奴ら(神々)の居場所はない」

 

「故に、消えてもらう」ジョンはそう続けて口を閉じた。

ザーザーと雨が降りしきる中、アイズは瞳の奥、薄っすらと輝く”ダークリング”をジョンへと向ける。

 

「だからって、みんな殺すことは――!」

「時代を造るとはそういうことだ。目も塞ぎたくなるような犠牲の上にこそ、時代は成り立つ。その犠牲の業は全て俺が背負おう。恨みも憎しみも全て」

 

そう言って、ジョンはゆっくりと手を差し出した。

 

「お前も一緒に来い」

「え……?」

「その”輪”が発現した以上、お前はもう()()()の中へは帰れない。いつか、俺と同じ絶望に突き当たることになるだろう」

 

その手をじっと見つめるアイズに、

 

「お前が求めるモノはなんだ? 仲間か? 偽りの()か? 無頼の強さか?」

 

そう告げられ、思い返す。

アイズ(自分)にとって必要なモノはなにかと。

Lv.5に成り三年、長期の遠征で得た”熟練度”は僅か。

強くなりたかった。もっと、もっと。しかし現実は非情だ、目の前にはLvという大きな壁が立ちふさがっていた。

 

「強くなりたいのだろう?」

 

そうだ。とアイズは心の奥底で肯定する。

他にはなにもない。なにも、なくなってしまったのだから。

だが、強くなりたい。それを追い求めて、自分は仲間を裏切れるのか?

自分を仲間と言い、共に助け合ってきた仲間を。

そんな心中を察したのか、ジョンは口を開く。

 

「仲間……。それも良いだろう。ならば帰るがいい。傷ついたお前を、彼らは温かく迎えるだろうさ。そうしてお前は生きていける。傷ついた体を彼らに委ね、共に。()()()()()()()()()()な」

「過去の……残骸……」

 

アイズの記憶の淵に、輝かしい過去が思い浮かぶ。

しかしそれは既にひび割れ、引き裂かれ、虚無を舞う残骸だ。

 

「だが、それでも思い果てぬならば。お前が求めた高みが何よりも眩しいのなら。積み上げるがいい、お前に残された全てを。俺たちと共に」

 

……そう。

必要なモノは強くなれる場所(ダンジョン)。強くなれる環境だけ。

他にはなにも要らない。そんな余裕など、ない。

アイズ(わたし)の全ては、強くなるために。

差し出された手に、アイズは縋り付いた。

 

 

 

 

 1

 

 

 

 

夕方、”ロキ・ファミリア”本拠地、黄昏の館。その一室にフィンはいた。外には雨が降り続き、陰鬱な雰囲気が部屋を包んでいた。

対面のソファにはファミリア最古参の二人であるリヴェリア、ガレスが顔に影を落としながら座っている。

 

「神イシュタルが、殺害されたそうじゃ」

「……そうか」

 

深く重いガレスの言葉に、フィンはそれしか言えなかった。

超越存在である神、崇められ、奉られ、しかし人と生きることを望んだ神。その一神が死んだ。

 

「信じたくはなかったがどうやらあの男、本気で殺し尽くす腹積もりらしいな」

「……手に負えないのはそれを成し遂げられるだけの力を持っていることだ」

 

不死。決して死なぬ体。それに加えて理不尽なまでの武技の極み。

大剣、直剣、短剣、魔法……。一人が持つにしては大きすぎる力。

 

「ではどうする? このまま黙って見ておるつもりか?」

 

ガレスの問いにフィンは、「それはない」と即答した。

 

「ロキを見捨てることはしない。……それに、手がないわけじゃない」

「……やるのか、フィン」

「ああ。僕らでは彼に勝てない。でも、()()()()()()()

 

しかし、間違いなく多くの犠牲を払うことになる。とフィンは続けた。

 

「……仕方なかろう。無血の勝利など、あり得ん」

「僕かガレス、どちらかが死ぬかもしれない」

「ふん。後進に道を譲る時が来ただけのことじゃろう」

 

淡々と答えるガレスに、フィンは小さく笑った。

立ち上がり、頭を切り替える。

 

「オッタルに連絡を。それと、ギルド経由で全冒険者に伝達を」

 

無言で頷くリヴェリアとガレスを一瞥し、フィンはドアへと向かう。

 

「―――反撃開始だ」

 

 

 

 

 2

 

 

 

 

「……イシュタル様が亡くなられました」

 

ギルドの応接間の一室にロイマンの震え声が響いた。

ソファに座るフレイヤは不動のまま、ロキは小さく「そうか」とつぶやく。

 

「ま、まさか本当に神々の方が……! 由々しき事態です、早急に手を打たなければ!」

「止めておきなさいな。下手を打てば、敵対者としてギルド諸共消されるかもしれないわよ?」

「そ、そんな……」

 

ロイマンの情けない声に、ロキは薄っすらと目を開けてフレイヤを見る。

 

「んで、刻一刻とギロチンへ向かっとるわけやけど」

「私たちになにが出来て?」

「……”神の力(アルカナム)”の解放」

 

ロキの言葉に一瞬目を細めたフレイヤが、「正気?」と問う。

 

「正気も正気や。このまま殺されるわけにはいかへん」

「確かに解放すれば彼を消せるかもしれないけど……。貴女も天界へ逆戻り、一生下界へは戻れないのよ?」

「せやけど、他の神々(連中)も解放は渋るやろ。それが例え自分たちの命の危機でもな。だったらうちが……」

 

「片、付けたる」ロキはそう言い放ち、目の前に置かれた紅茶を一気に飲み干す。

 

「……イシュタルは、どないなっとった?」

「団員の証言によりますと……。その、背後から心臓を貫かれて首を斬り落とされた、と」

「えっぐいやっちゃな、ほんま……」

 

「それと、なんですが」とノイマンは続ける。

 

「神イシュタルのご遺体が……。霧のようになって消えたそうです。これはどういうことなんでしょうか? 天界に戻られた、と考えても?」

「霧のように……?」

「ええ、更には”イシュタル・ファミリア”団員の”神の恩恵”が消失していないという報告も上がってきておりまして……」

「それはおかしいやろ。契約した神が死んだら”神の恩恵”も消える筈や。イシュタルは死んでないんとちゃうか?」

「首を落とされていますので……。考えにくいかと」

 

言い合うロイマンとロキを他所に、フレイヤはぽつりとつぶやく。

 

「”ソウル”」

「あん?」

「覚えてないかしら、ロキ。天界で伝わっていること……。生物を構成する三つの要素」

「あー……。なんや、確か……。肉体と、精神と……」

(ソウル)

「それや。んで、それがどないした?」

「肉体は死すとも魂は死せず……。ロキ、どうやら私たちはただ殺されるだけでは済まなさそうよ?」

 

疑問符を浮かべるロキにフレイヤはそう言い放ち、薄く笑った。

 

 

 

 

 ×××

 

 

 

 

「貴方が、神様を殺す人ですか?」

 

雨が降りしきる路地裏、大通りに面した出口に、フードを被った少女がいた。背中には身長に合っていない大きなバッグを背負い、頬を腫らして暗く濁った瞳をジョンに向けている。

人を呼ばれることを警戒したアイズを手で制し、ジョンは告げる。

 

「そうだ」

「……なら、殺してほしい神様がいます」

「名は?」

「”ソーマ・ファミリア”主神、ソーマ様です」

 

to be continued......

 

 




次回、いっぱい死ぬ(小学生並の感想)
   主人公敗北する
   ヘスティア頑張る
   
の三つでお送りしまーす。
準備会なので字数自体は少なめ。おにいさんゆるして

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