soul of oratoria   作:変態転生土方

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第一章終わりっ、平定!


ソウルオブオラトリア6

一匹の”世界の蛇”は言った。

王のソウルを集め、一つとし、最初の火を継ぐことこそが真の使命であると。そしてその使命を全うする資格がジョンにはあるのだと。

消えかかる最初の火を継ぎ、神々の時代を存続させる。それもまた、選択肢の一つだった。

しかし長い旅路の光景を思い浮かべ、ジョンは思った。

光りある、力ある神々は道を外れ、己が欲望に溺れ、あるいは闇を恐れて逃げた。

不死人たちを世界の果てへと追いやり、助けもせず、救済も施さずにただ傍観していただけの神。

そんな神々を、そんな時代を救うことに果たして意味はあるのかと。

もう一匹の”世界の蛇”は言った。

ならば、神々を滅ぼし、人のための、人の時代を貴公が作るのだと。

ただ在るだけの神など、消し去ってしまえと―――。

 

 

 

 

 soul of oratoria

 

 

 

 

「あの、旦那様? 早着替えがお上手なのですね」

「いや、俺はお前の客じゃない。……とりあえず静かにしておいてくれ」

 

目の前の春姫と名乗った娼婦にそう告げ、ジョンは壁際に移動し、息をひそめた。

外は相変わらず喧騒に塗れており、それが酔っぱらった冒険者のモノなのか、自分を追う追っての怒声なのか、入り混じりすぎていて、判別はできなかった。

 

「もしかして、そういう―――」

「なにか言ったか、娘」

「い、いえっ! こ、この春姫! お客様に全力でお応え―――ぇっ!?」

 

勢いよく立ちあがり、服を脱ぎながら前へと進むものだから、服の裾を踏んづけて春姫は見事に転んだ。

床には布団が敷いてあったからよいものの、それでも華奢な彼女には相当の衝撃だったようで、目を回して唸っていた。

その様を見たジョンは一言、

 

「なんなんだ……?」

 

と小さく唸った。

すると、唸るジョンの視線の先、入ってきた襖が開けられる。

即座に背中の”クレイモア”に手を回し、息を殺して闇に潜んだジョンは動作を止めた。

 

狐人(ルナール)の君よ……。ハッハッハ、待ち切れなかったのかな―――ぁっ!?」

「許せ」

 

男が部屋へと入り、襖を閉めたタイミングで部屋角へと引きずり込み、当て身で気絶させる。

この男には申し訳ないが、ここは今絶好の隠れ場所。

ジョンは”内なるソウル”から金貨を数枚取り出して男の懐へと忍ばせた。

少女と時間を買った金の代わりになればいいが、と呟いて。

 

「いるんだろ? 入るよ」

「……お前は」

「キツイボディブローの礼を言ってなかっただろ?」

 

新たな侵入者は、ジョンが気絶させ、神イシュタルへの道として利用したアマゾネス、アイシャだった。

未だに少し赤い腹部を擦り、小さく彼女は笑う。

 

「悪いが、今度は気絶では済まないぞ」

 

”クレイモア”に手を掛けてジョンは言う。

その仕草とジョンの背中から見える”クレイモア”の切っ先が鮮血に染まっているのを見たアイシャは、

 

「イシュタル様を殺したんだってね」

「ああ。お前も敵討ちか?」

 

張りつめた空気の中、アイシャはどこか空虚な笑みを浮かべた。

 

「まさか。死んで清々してるよ。ようやく、ようやく呪縛から解き放たれたんだ」

「お前も、神に翻弄された人の子か」

「……昔の話さ。馬鹿なアマゾネスが、世話してた狐人(ルナール)に同情して主神に逆らった結果、痛めつけられ、骨の髄まで”魅了”されたってだけの話」

 

「でも」とアイシャは続ける。

 

「もう自由だ。もう、あの姿を見ることもない。震えることも……。ないんだ」

 

そっと自分を抱きしめるアイシャをジョンは黙って見続けた。

 

「お前たちを苦しめる神々は俺が消し去ってやる。もう怯えることはない」

「……そうかい。そりゃ頼もしいね。でも、仮にも神を殺したんだ。他の神々が黙ってないよ?」

「問題ない。最終的には全員死ぬのだからな」

 

「殺す順番が前後するだけだ」とジョンは静かに言い放つ。

そんなジョンに背筋が粟立つのを感じたアイシャは、同時に鎧兜のスリットの奥に、ぼうっと光る二つのリングを見た。

 

「あんたそれ―――」

 

とアイシャが言いかけた時、遊郭全体に「ゲゲゲゲゲッ」と特徴的な笑い声が響き渡った。

 

「―――!! フリュネか……!!」

「知り合いか?」

「忌々しい……。あたしを痛めつけた張本人さ……!」

『匂う、匂うよお……! いい匂いだあ……!』

 

近づく地面の揺れに、一筋の汗を流したアイシャは未だに目を回している春姫を脇に抱えると、

 

「裏口まで案内する! 行くよ!」

「それは是非頼む」

 

襖を勢いよく開け放ち、アイシャは駆ける。

それに追従し、ジョンは遊郭の中を疾走した。

娼婦を避け、客を押しのけ、角を曲がって徐々に遊郭の外側へと向かう。

 

「あともう少し……!」

「ゲゲゲッ! なあにがあともう少しだってえ?」

 

角から現れたのは二メートルを超えるおかっぱの巨女だった。

ずんぐりした胴体に、短い手足、大きな目に裂けた口。

一見モンスターかと思えるような風貌をした女は、

 

「フリュネ……!!」

「どこへ行こうってぇ? アイシャ! イシュタル様を殺した輩を引き連れてさぁ~」

 

その巨体と過去のトラウマに押されてか、アイシャは一歩下がる。

同時に、ジョンは一歩前へと踏み出した。

それを見、アイシャは叫ぶ。

 

「待ちな! フリュネはレベル5だ! まともに戦って勝てる相手じゃない!」

「問題ない」

「問題ないって……。ああもう!」

「ゲゲゲッ! いい度胸だぁ。好きだよぉ、あんたみたいな男はさぁ~」

 

品定めするような視線を鬱陶しい、と言わんばかりに手で払ったジョンは、

 

「訊きたいことがある。お前はモンスターか? それともデーモンの類か?」

「ゲゲゲッ! アタシは人間さぁ! とぉっても上等なぁ!」

「人の身でそこまで変異するとは、随分と人道に外れたことをしてきた様だな。お前の人間性も限界と見える」

 

ジョンは背中の”クレイモア”を引き抜き、フリュネへと突きつけた。

 

「お前の業、俺が払ってやろう」

「面白いねぇ。アタシのレベルを知って()ろうってぇ? ゲゲゲッ! いいよぉ、無理やりってのが一番好きなのさぁ!」

 

そう言い終えると、舌舐めずりを一つ、フリュネは拳を振りおろす。

巨体からは想像もできない俊敏さで繰り出された拳は、アイシャが瞬きする間にジョンへと届いていた。

 

「やられた……!?」

「あぁ……。どうしてやろうかぁ? 薬? 道具? たまんないねぇ」

 

すると砂煙の中で、ガチャリ、と鎧の擦れ合う音が鳴る。

同時に、フリュネの拳が宙へと跳ねあげられた。

 

「なぁっ!?」

「無駄口は獲物を仕留めてから叩くのだな。まあ―――」

 

隙だらけのフリュネの胴体に、”クレイモア”が根元まで突き刺さる。

ジョンは続けて蹴りを入れ、反動で”クレイモア”を引き抜いた。

 

「もう遅いがな」

「無傷……!? は、はは……。あんた、ホントに何者さ?」

「どうでもいいことだ。行くぞ」

 

ジョンは剣に付着した血を振り払い、背中に戻して歩き始める。

それにつられて歩き出したアイシャは、倒れたフリュネにまだ息があることに気が付いた。

 

「まだ生きてる……!」

「放っておけ」

「……生きてたらまたあたしたちを追ってくるかもしれないよ? 執念深い女だからね」

「その女を助ける人間が現れると?」

「……ないね」

「だろう」

 

軽く会話し、ジョンは次いでアイシャが脇に抱えた春姫を見た。

ジョンの目線に気が付いたのか、アイシャも春姫を見つめる。

 

「どうして連れてきた?」

「あー……」

 

とばつの悪そうな声をもらしたアイシャは、

 

「つい、咄嗟に」

 

と答えた。

 

 

 

 

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荷物を取ってくる、と春姫を託して暗闇に去って行ったアイシャを見届けてから、ジョンは歓楽街を抜けて裏路地の一角に座り込んでいた。

天気は変わり、雨が降り続ける中で、ジョンは目の前の建物、その二階を見上げる。

アイシャとの合流地点でもある宿屋で、見つめる部屋の中に春姫を放りこんでおいたのだ。

雨が鎧を打つ中、ジョンは裏路地に現れた客を注視した。

軽装に、片手に一振りの直剣。

金色の長髪は雨にぬれ、髪と同じ色をした瞳がジョンを射抜いていた。

 

「いつぞやの、風使いか」

「ようやく、見つけた」

「お前たちは俺を追わない。そういう取り決めだった筈だが?」

 

ジョンの問いにアイズ・ヴァレンシュタインは沈黙した。

ただ、剣を握る手に力が入っていることだけは分かった。

 

「ロキは、みんなは、殺させない……」

「前者はともかく、後者を殺す予定はない」

「みんなは、私が、まもる……!」

「渇望に溺れたか。哀れだな」

 

言葉の終わりと同時にアイズは駆け、”デスペレート”を振るった。

技も、魔法もない。

純粋な力のみの一撃。

それはあっさりと、ジョンの片手によって防がれていた。

アイズが振り切る寸前で持ち手を押さえ、攻撃を不発にさせたのだ。

 

「どうして……!? どうして、あなたはそんなにも強いの……!? どうして、私はこんなにも―――」

 

「弱いの…?」とアイズは言葉を並べ、崩れ落ちた。

ジョンはその姿を見下ろし、「戦わないのか?」と告げる。

その問いかけに”デスぺレート”を握るアイズの手は小さく震えた。

続けてゆっくりと立ち上がり、剣の切っ先をジョンへと向ける。

 

「弱い自分が許せないか? だから無謀と分かっていても俺へ立ち向かってきたのか? それは勇気ではない、ただの蛮勇だ。愚かな行為そのものだ」

「それでも、それでもロキ達が殺されるのを黙って見ているなんて、できない!」

「ならばここで死ぬがいい。そうすれば、その渇望からも、葛藤からも、絶望からも解放される」

 

背中から”クレイモア”を引き抜き、構える。

それに呼応してアイズは素早く”デスぺレート”構え直し、ジョンへと打ちこんだ。

 

「私は死ねない! 死なせない! だから……!」

「だから?」

 

打ちこまれる剣を一振りで払う。

宙で回転し、距離を取ったアイズは剣の切っ先をジョンへ向け、唱えた。

 

「”目覚めよ(テンペスト)”……!!」

「風か。しかしどうする? ここは一本道、後ろか、上か、前しかない。高機動は意味をなさない」

(エアリアル)、最大出力……!」

 

自身の背中に展開、圧縮した(エアリアル)を踏みつけ、アイズはジョンを見据えた。

 

「リル」

「……! 面白い……!」

「ラファーガ……!!」

 

アイズ・ヴァレンシュタインの必殺技とも言える”リル・ラファーガ”。

風を纏い、超高速の突撃による一撃必殺の技は、タイミングを合わせたジョンの切り上げによって、呆気なく打ち砕かれた。

 

「これでも―――」

「お前はよくやった。敬意を持ってその命奪わせてもらう」

「届かないんだね……」

 

”内なるソウル”から取り出されたるはグウィン王の四騎士の一人に数えられた無双の騎士の名を冠した大剣。

その神聖さから刀身はわずかに光を帯びており、夜の雨の中で映えた。

剣が突き刺され、アイズは僅かに呻いた。

 

「さらばだ」

 

これで終わる。

アイズの脳内で記憶がフラッシュバックし、最後に映った光景は、

 

「―――」

 

美しい、風のような母の姿だった。

 

「おわ、れない……!」

 

そう、まだ。

 

「なに……? 確かに心の臓を貫いた筈……」

「終われない……!」

 

剣はまだ、この手の中に。

己の身体を貫通している剣、その根元を押さえ、血を吐きながらアイズは俯いていた顔を上げる。

 

「お前、それは―――!!」

「終わらせない……!!」

 

ジョンを見据えるアイズの双眸に、黒い輪(ダークリング)が浮かび上がった。

 

 

 

 

 to be continued......

 

 

 




どうなるんだろうね、これ(無責任)
ちなみに次章で完結するゾ これホント

次章タイトルは「神と人と」です。

このタイトルジャ○ラックさん的にアウトなんですかね?
タイトルだけならオッケー? 教えてエロい人。

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