俺はあの後人気の少なそうな路地を見つけ、そこにあの肉塊が入ったビニール袋を捨て、帰路についていた。
そして俺はもう一度あの少女を思い起こす。ストレートの黒髪で、不思議と「あいつ」を彷彿とさせた。最もそいつにはもう二度と会わないと誓ったのだ。もう、あんなことはしたくないのだから・・・。
下を向きながら歩いていると気づけば既に「青桐」自分の家についていた。俺は考えていたことを切り上げ、ドアを開け、一、二階上までなら聞こえる声の大きさで
「ただいま、メリ姉」
と言った。その直後、階段を急いで降りるような音がし、彼女が目の前に現れた。
「大丈夫銀斗君!?帰りがコンビニの買い出しの割には遅くてびっくりしたんだよ!?」
「・・・心配するんだったら行かせんなよ・・・」
「そ、それは・・・仕方ないじゃない。「錬金術」を使って悪戯したのは私すごっく怒ったんだからね!」
「はいはい、分かりましたよ」
「本当に分かっているの!?」
メリ姉が耳元で叫んできた。
「本当に分かってますよ・・・だから上がらせてください」
そう言い、俺は家に上がった。しかしメリ姉はしつこく
「本当に心配したんだからね!」とか「少しは心配する身にもなってよね!」などと俺に後ろで何回も叫び続けていた。
彼女はマエリベリー・ハーン。みんなからはメリーと呼ばれているらしく、俺は年下なので「メリ姉」と呼んでいる。メリ姉は名前からわかる通り、ハーフでしかも超美人である。彼女は俺が小学生のころ近くに越してきて、小さい頃は俺の面倒を見てくれたそうだ。・・・今も十分面倒を見てもらっているが・・・。しかも、俺と同じく能力持ちで彼女曰く「境界が見える程度の能力」の持ち主だが、俺はこの能力を使ったメリ姉を見たことがない(外観だけではわからないのかもしれないが)。そして彼女は大学生で、通っている大学の友達と「秘封倶楽部」というオカルトサークルのメンバーである。今までの情報からするとメリ姉が危ない人に見えるのかもしれないが、彼女は普段は寡黙で、ずっと本を読んでいる人だ。だが俺のことになると人が変わったように世話焼きになるのである。・・・なんで俺にだけそんな世話焼くんだろ・・・。今度問いただしてみようと頭の中で考えた矢先、メリ姉が何か思い出したように目を見開かせた。
「あ、そうそう。なんか銀斗君宛に手紙が届いていたわよ」
「俺宛に?何かの間違いだろ」
「いや、でもしっかり宛名のところに「青桐銀斗様」って書いてあったし・・・」
そう言ってメリ姉は「上に置いてあるから」と言って階段を上がった。俺もメリ姉についていくように階段を上った。しかし、俺に手紙か・・・出しそうなやつが一人もいない。俺は能力を理由に自分の中で他人との交流を拒絶していた。そんな俺に手紙を出す奴なんていないはずなんだが
「はい、これ」
メリ姉から渡された手紙には確かに宛名が「青桐銀斗」となっていた。差出人の名前はなし。怪しみながら俺は手紙の封を切った。中には一枚の写真と便箋が入っていた。
「!」
・・・だが、中に入っていた写真は普通の写真ではなかった。
「?どうしたの、銀斗君?」
メリ姉が俺の写真をのぞき込んできた。俺は写真をすぐに後ろに隠した。
「いや、超美人なメリ姉に対するラブレターだと思ったが違ったから拍子抜けしただけだ」
「び、美人・・・」
隣でメリ姉がフリーズした。そのメリ姉を横目に俺は内封されていた便箋を開く。
『先ほどの戦闘、拝見させていただきました。大変目を見張るもので、私も感激のあまり貴方が去っていっても、ただ茫然としていました。
さて、前置きはその程度のし、本題に参りましょう。
貴方を忘れられしものの楽園、幻想郷にご招待いたします。
ただでとは言いません。貴方が一番会いたいと思われるあの方が幻想郷にはおられます。しかし、これでもあなたは動かないかもしれません。よって私は保険としてがらではありませんが少し脅迫まがいのことをさせていただきます。封筒に入っていた手紙を拝見なさりましたでしょうか?もし貴方が幻想郷に来られないというのなら・・・その写真を各地
・・・・・・・・・・
でばらまき、ある噂を流させていただきます・・・この男とマエリベリー・ハーンは人殺しである、と。それでも良いのならお好きにどうぞ。ですが、もし幻想郷に来る意思があるというのなら、明日の正午、下に書いてある地図の場所に来てください。来てくれることをお待ちしています。
幻想郷の賢者 八雲紫』
それを読んだ俺の胸には・・・怒りしかなかった。いや、少し嬉しさもあったのかもしれ
・・・
ない。あいつに会えるかもしれないという嬉しさが。だがそれ以上の怒りが俺の胸からこみあがる。
(ふざけんな!俺はともかくメリ姉まで巻き込むか・・・あいつのことを知っているということは、あのことも知ってるんだろ!それなのになぜ他人を巻き込ませるような真似をする!・・・上等だよ、「八雲紫」!てめえが売った喧嘩俺が買ってやるよ!)
俺は心の中でそう叫び、明日について早速考え始めた。
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「ふふ、明日が楽しみね、青桐銀斗君♪」
賢者はひとり呟き、彼のために準備を始めた。
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