オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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変態おまたせ……じゃなくて大変お待たせしました。


亀更新ってレベルじゃねえぞ!
もはやカタツムリ更新だよ。
いや、カタツムリに失礼だよ!

ほんとすんません。リアルの方も忙しくなってまして←言い訳。

しかしまだ読んでいる方がいるので意地でも終わらせたいです。



俺じゃなきゃ死んでるね

 

「最近変わった本が流行ってる?」

 

 

駒門は訝しい顔をする。

 

 

「ええ、内通者(協力者)のデリラたちによれぼ、特地では変わった本が流行っているとか」

 

 

公安の分析官が報告する。

 

 

「それは、アルヌスや帝国領、その他地域でもか?」

 

「その他地域に関しては未調査ですが、アルヌスでは日本が奪還した時点で地域住民で既に流行っていた模様です。帝国領では最近流行り始めたとか」

 

「どんな本だ?プロパガンダ本か?」

 

「いえ、絵本だそうで」

 

「絵本?しかしなんで急に絵本なんかが……」

 

「恐らくですが、識字率を上げるために本を配ったのでは、と言われてます。配られた本の殆どが子ども向けの絵本です」

 

「ふーむ、意図はよう分からんが、奴ら(加藤)もそれなりの統治をしようとしているのか。で、どんな本が出されているのか?」

 

「主に現地のおとぎ話をわかりやすくしたものや、我々の『白雪姫』、『桃太郎』など童話が多いですね」

 

「ざっくりでいいから、何がどれくらい流行っているとか調べてくれ」

 

「既に簡易的なものはできてます」

 

「仕事が早くていいねえ」

 

 

駒門はサッと目を通す。

 

 

「この『龍と悪魔と姫』という本が流行っているみたいだが、どんな本だ?」

 

「まだ未調査ですが、すごく簡単に説明すると、一国の姫が龍とともに悪魔を倒してめでたしめでたし、と言った感じらしいです」

 

「まあよくあるおとぎ話か。引き続き調査を頼む、何か分かれば連絡を」

 

 

***

 

 

暗い城内廊下を少数の兵士が警戒しながら進む。

 

 

(おかしい……ベルナーゴから陸路では馬を使っても数日はかかる……怪異がここにいないはず……)

 

 

グレイは先の戦いで満身創痍にも関わらず身体に鞭打って哨戒に当たった。

 

 

(……まさか間者(スパイ)か?しかし警報とは少しやり過ぎな気もするが)

 

 

グレイは嫌な予感がした。

 

城内の薄暗い通路を少数で進んでゆく。

 

 

(血の匂い……)

 

 

普段使わない地下通路だが、すぐ異変に気づいた。

そこには数名の兵士の無残な姿があった。

 

 

「どうした、何があった?」

 

 

かろうじてまだ息のある兵士に問いかけた。

 

 

「く……か……う、うさ……」

 

「うさ?」

 

 

しかしそれを言い終わる前に事切れた。

 

 

「グレイ隊長!生存者らしき者がいます!」

 

 

支給されたライトを向けるとそこに真っ白な肌に真っ白な髪の少女らしき者がうずくまっていた。

しかも衣服を身に纏ってなかった。

 

 

(子ども?なぜこんなところに)

 

 

グレイは嫌な予感がした。

 

 

「君、大丈夫か?」

 

 

兵士の一人が手を差し伸べる。

 

 

「待て、そいつに触れるんじゃあない!」

 

 

その者にはウサギのような耳があった。

 

 

 

 

「しかし起きて早々トラブルとは。ついてないね」

 

 

加藤は歩きながらあたりを警戒する。彼も城内の通路を捜索していた。

急だったので上下ジャージ姿に拳銃を構えていた。

 

 

「まあリハビリだと思って動けばいいじゃねえか」

 

「それもそうだな、身体を鳴らすのにちょうどいい」

 

「マスター、前方に人型(ヒューマノイド)と思しき者がいます。いかがなさいますか?」

 

 

見ると肌が白い子どもがフラフラと歩いていた。

 

 

「……怪しいから排除」

 

「正気ですか?」

 

「何か問題でも?」

 

「……了解」

 

 

隊員の数名が銃を構える。

 

しかしそれに気づいた相手は恐るべきスピードで突進してきた。

 

 

「っ!?てっー!」

 

 

銃口から火が吹く。しかしジグザグに動き、壁や天井を器用に跳び回って射線をかわしながら接近してきた。

 

そして相手の射程距離にまで接近を許してしまう。

 

 

「あ……」

 

 

そして手に持っていたナイフを J の頸動脈に向けて斬りかかる。

 

 

「ざんねんでした」

 

 

しかし切先が首に届く前に加藤は相手の手首を掴みそのまま相手の勢いを利用して首に突き刺す。

 

 

「うっく!?」

 

 

そしてその子供の見た目の敵は首から鮮血を噴き出して崩れ落ちた。

 

 

「……マスター、すみません」

 

「お前らたるんでるな。子ども相手だとやはり躊躇うか?次同じ失敗したら少年兵を的に射撃訓練やっぞ。いやマジで」

 

「肝に銘じます」

 

「しかし、何だこいつは?」

 

 

加藤は敵の遺体の顎を掴むと、顔の側面を覗き込む。

 

 

「……ヴォーリアバニーですかね?」

 

「まあ、ウサギの耳あるからそうかもしれないが……こんなやつ見た事ないぞ?それにあのデリラより身体能力高かったぞ」

 

「確かに見ない顔ですね」

 

「それにこいつ……珍しく雄だ。業界(オタク)用語的には幼児(ショタ)だ」

 

「マスター、言い方……」

 

「色白で赤目のアルビノのウサギ耳美少年……マニア受け良さそうだな。生捕りにしたら売れるかな?」

 

「マスター、流石にまずいですって」

 

「冗談よ、冗談半分。まあショタがいるなら幼女(ロリ)もいるぞ、絶対に。絶対に売れる……あ、別に売るとは言ってないからな。売らないとも言ってない」

 

 

加藤は何やら邪悪な思考に陥ってる。

 

 

「しかしだな、今はそんな事やってる暇はないので取り敢えず老若男女問わず、敵は見つけ次第殺せ(サーチアンドデストロイ)

 

 

***

 

 

「嫌だ嫌だ、これは乗りたくない!」

 

「もう、耀司!駄々こねてないで早く乗るの!じゃないと無理矢理にでも縄でくくりつけて連れて行くわよぉ!」

 

「ひぃーー」

 

 

伊丹は何を駄々こねてるかと思えば、翼竜に乗ることを拒否していた。この翼竜たちはかつてヤオが用意したものでクナップヌイまでの道のりを共にしたものでもある。

 

 

「せっかくジゼルを脅迫……じゃなくてお願いしてここに隠しておいたのにぃ。これじゃあいつまで経っても出発できないわよぉ……こうなったら、最終手段ね」

 

 

ロゥリィは女性陣たちに協力を求めた。

 

 

「なるほど!私の精霊魔法で眠らせて翼竜にくくりつけるのね!」

 

 

テュカがロゥリィの提案を聞いて賛成する。

 

 

「ただ、念のため落ちないようくくりつけるのと、それを支えるのは誰がいいかな……?」

 

 

テュカが少し顔を赤らめてつぶやく。

 

というのも、意識はないとはいえ伊丹としばらく密着できるからである。

 

 

「そ、それならば無論この身であろう!何せ私は既に一度肌を合わせた仲だからな!」

 

「肌を合わせるって、前回翼竜で本当に掴まるだけのことじゃない。紛らわしいわよ!」

 

 

ヤオが我こそはと声を掲げて武勇伝の如くはなすが、テュカに盛大に突っ込まれる。

 

などとあーだこーだ言っているのを傍観していたセラーナはため息をつくと、立ち上がって伊丹の近くに寄る。

 

 

「セラーナさん、どうしました?」

 

 

伊丹は尋ねるがセラーナは拳を握ると思い切り痛みの腹部へと打撃を加えた。

 

 

「ごふぉ!?」

 

 

無論、声を上げたのはロゥリィである。

 

しかしあまりの威力か、結果として伊丹は気を失った。

 

 

「セ、セラーナ……なんてことをするのよぉ!?」

 

 

ロゥリィが腹部を抑えながら息も絶え絶えに抗議する。

 

 

「あら、申し訳ありませんわ。時間ないのに中々解決しないので手荒に行かせてもらいましたわ

 

そしてセラーナは死霊術を応用して伊丹を動かす。

白目剥いた伊丹がゾンビの如くゆっくり翼竜に跨り、手綱を取る。

 

 

「死霊術の本来の使い方ではないのでそこまで自由は効きませんが、移動程度なら大丈夫でしょう。それでは参りましょう」

 

「私の眷族なのにぃぃぃ!!」

 

 

ロゥリィは悲痛な叫びを上げる。

 

 

***

 

 

「おい、グレイさん大丈夫か?」

 

「なんのこれしき……」

 

 

敵の捜索にあたっていたグレイは深傷(ふかで)を負っていた状態で発見された。他の部下は惨殺されており、彼もとどめを刺される直前に保護された。

 

 

「しかしこいつらゴブリンよりタチが悪いな。小柄で見つかりにくい上に敏捷で戦闘能力も高い……しかも見た目がいいから駆除されにくいだろうな」

 

 

加藤が仕留めたウサギ型ゴブリンのような怪異を見て呟く。

 

 

「あれですか、ゴキブリは駆除されるけど猫は駆除されにくい、とか裁判では美女の方が有利になりやすいというやつですか」

 

「ああ。なんで人間は見た目で騙されるのやら……まあ可愛いは正義とはよく言ったものよ」

 

 

加藤は J と会話を終えると立ち上がる。

 

 

「さてと、出どころを潰さないと沸き続けるだろうな」

 

「……原因はもう目処がついているのですか?」

 

「ああ、だいたい検討はついてる……というかこのウサギどもの顔見たら面影あるんだけどね」

 

 

皆は視線を落とす。

 

 

「「……言われてみれば、似てるかも」」

 

「どう見ても、あのヴォーリアバニーの女王(テューレ)だな。クローンと思うほどに」

 

「我々みたいですね」

 

 

その時、至近距離で銃撃音が発生した。

弾丸は J の頬を掠め、血が滲み出た。

 

 

「おっとすまんすまん。指が滑ったみたいだ」

 

 

加藤は振り向きもせず謝る。

 

 

「……いえ、大丈夫です」

 

「さてと、では参りますか」

 

 

彼らはテューレが軟禁されていたはずの部屋に赴いた。

 

しかし、扉からは異様なほどの圧を感じた。

 

 

「普段霊感とか勘とか全くない俺から言うけど……」

 

 

加藤は扉を前に呟く。無論、周りは全員心の中で「嘘つけ」とツッコミを入れていた。

 

 

「扉の向こうはなんだかすごく嫌な予感しかしないわ」

 

「そうですね……我々も感じますよ」

「てかこれ死亡フラグじゃないよね?違うよね?」

 

 

隊員も口々に呟く。

 

 

「入るときの掛け声は『アマ●ンの配達です』か、『ウー●ーです』どっちがいいかな?」

 

「マスター、そろそろぶん殴りますよ?」

 

「冗談よ。全員暗視ゴーグル(ナイトビジョン)装着、そしてフラッシュバンを投げ入れて突入する」

 

「「了解」」

 

 

加藤はハンドサインで三つを数える。

同時に扉をほんの少し開けて隙間を作り、J が予めピンを抜いたスタングレードを放り込む。

そしてすぐに扉を閉めて起爆と同時に突入と制圧を行う。

 

はずだった……

 

扉を閉めると何故か放り込んだはずのスタングレードが加藤の足下に落ちている。

 

 

「「「……」」」

 

「マ、マスター……すみません」

 

「いや、お前のせいじゃない」

 

 

加藤は見ていた。部下の失敗ではなく、ドアの隙間に張り巡らされた無数の子どもの手のようなものが妨害していたことを。ちょっとしたホラー映画みたいに。

 

 

(ありゃ相当数中にいるな……)

 

 

そして爆音と共にあたり一面真っ白な空間となった。もちろん耳も大変なことになった。

 

 

***

 

 

アンヘルとヨルイナールは超高度から地表を観察していた。

 

 

「まずいな。非常にまずい……」

 

「何よあれ」

 

 

その高度からは砂ほどの粒にしか見えない物が無数に集まり、少しづつ動いていた。

 

 

「このままでは本当に人類が滅びるぞ」

 

 

その粒は文字通り無数の怪異である。

小アリの群れの如く地表を覆い尽くしていた。

 

 

「アルドゥイン様の気配がまた無くなったと思ったら、案の定こんなことになってなって……」

 

「うーむ、一体どうしたら良いのだ」

 

「私たちだけで対処できる数でもないし……」

 

「数どころか質も劣らずとも優っているぞ」

 

 

アンヘルが指す方向には龍や巨人の怪異もいた。

 

 

「……終わったな、この世界」

 

「……ああ、何てこと」

 

「アルドゥインの気配も消えた今、この世界で奴らに対抗出来る者はいない……悔しいが、我も歯が立たぬ」

 

「ではこの世界が滅ぶのをただただ眺めるしかないと?」

 

「そういうことだな」

 

 

アンヘルは残念そうに言うが、ヨルイナールはキッと睨みつける。

 

 

「貴方はこの世界の者ではないからそう言えるのでしょう、けれど私にはこの世界しか無いのですよ!」

 

「すまぬ……」

 

「私もついカッとなりました……」

 

「……だが、可能性はゼロではない」

 

「……それは本当?」

 

「ああ、限りなく無に等しいが、まだあるかも知れぬ……それは人間と手を組むことだ」

 

「そんな!?あの忌々しい人間共と!?」

 

「悔しいかな、我は人間が様々な困難に立ち向かい、転んでは起き上がり、打ち勝ってきたのを知っている。取るに足らぬはずの人間に負けた龍も数多く知っている」

 

「……確かに、客観的事実として私の同族もやられたことはあるわ……しかしどうやって?」

 

「あやつよ、我々が一時捉えた半人半龍のような小娘がいただろう」

 

「ああ、あのジゼルとかいう龍人族ね」

 

「あやつを通じて人間共に接触するしかあるまい」

 

「しかしまずはその小娘を探さなければ」

 

 

二頭の龍は頷く。

しかしその刹那、青白い落雷が二頭の間を走った。

 

ただならぬ気配を感じた二頭は恐る恐る上を見る。

 

かなり上空にいた二頭だが、それはさらに上で世界を見下すかのように浮いていた。

 

その特徴的な頭部の角は某国民的アニメキツネ野郎(ドラ●もんのス●夫)を彷彿されるが、そんな面白おかしいものではなかった。

 

それは天変地異を操り、数々の人々を恐怖に陥れたまさに厄災と呼べる者であった。

 

 

煌黒龍アルバトリオン

 

 

「ヨルイナールよ、ここは我に任せて早く行くがよい」

 

「アンヘル、ここは二頭で戦った方が良いのでは?」

 

「愚か者、お主がいると逆に足手纏いよ。それに我の高位魔法は範囲攻撃、お主も巻き込まれるぞ。お主はさっさと人間と接触するがよい」

 

「私は人語を話すことができないのよ。下手すれば問答無用で攻撃されるわ」

 

「ではここで死ぬか?お主が奴を足止めしたところで瞬殺されるだけよ。」

 

「貴方なら私が逃げるまでの時間を稼げると?」

 

「バカいえ、我は負ける気などない。倒してみせる」

 

「……分かったわ。ご武運を」

 

 

急降下で逃げるヨルイナールをその怪異龍は追いかけようとしたが、その前をアンヘルが立ちはだかる。

 

 

「どこへいくつもりだ?貴様の相手はこの我よ!」

 

 

アンヘルの体色が黒くなり、形状も本気(カオス)モードとなる。

 

しかしアルバトリオンの目はまるで石っころを見るかのように意に介していなかった。

 

 

(この我が……震えるとはな……ええままよ!)

 

 

そしてアンヘルは決死の攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

『……彼も、やられていたのか』

 

 

精神世界で白き龍の姿をした少女は目から血の涙を流す。

 

 

***

 

 

(な、何が起きたのだ?)

 

 

グレイは爆音と閃光の目眩しから回復すると同時に周囲の状況に驚いた。

 

周囲には血まみれの帝国兵、加藤の私兵、そして子供ヴォーリアバニーのような怪異たちが多く倒れていた。中には貪られた如く損傷の激しい者もいた。立っているのは加藤のみ、衣類はボロボロの半裸状態、全身は血まみれだった。

 

しかしそんなことどうでも良かった。

いや、どうでも良いと思うほどに、目の前の光景に背筋が凍るような感覚がしたからだ。

 

 

「も、もうやべて……」

 

 

現地語で弱々しく叫ぶのは件のヴォーリアバニーの少女の姿をした怪異である。

 

だが加藤は無言で頬を引っ叩いたと思うとその長い耳を掴んで壁に叩きつけ、腹を殴る。しかも死なない程度に手加減して。

 

 

「……俺は騙されんぞ。ガキであろうと、女であろうと、美少女であろうと……敵は徹底的に潰す」

 

 

そして今度は顔面を拳で殴る。その表情が、さらに恐怖を駆り立てる。怒りをぶつけるわけでもなく、サディストのように笑みを浮かべるわけでもなく、憐れみを抱いたな哀しみでもない。

 

無表情、まるで感情のない人間のように、淡々とと相手を痛めつけていた。

 

 

「加藤殿、もうおやめを!」

 

 

グレイは加藤がもう一発殴ろうとした手を握る って止めた。

 

 

「……意外ですな、グレイさん。こちらの世界も子供を痛めつけるのはご法度で?」

 

 

加藤はグレイの手を払い除ける。

 

 

「こちらの世界はハーフリングのように子供ぽい種族や、子供に擬態する種族もいると聞く。我々の世界の中世のようなそんな世界だからもうちょい子供に厳しいと思ったけど、そうでもないんですかね」

 

「必要以上に子供を痛めつけるのは蛮族か狂人だけですぞ……」

 

「この世界も甘いな……」

 

 

加藤はやれやれと言わんばかりに溜息をつく。

 

 

「俺は戦場で出会った場合、特殊部隊よりも子供を警戒するのだけどね。子供は未熟だが、バカではない」

 

 

加藤は目の前の少女に膝蹴りを加える。

 

 

「しかも中には自分は攻撃されないことを知って近づく子供もいる」

 

 

加藤はタバコの煙を少女の顔に吹きかける。

抵抗はほぼないが、咳き込んで嫌がっていた。

 

 

「こんなところに灰皿があるじゃないか」

 

 

そしてタバコを眼球に押しつける。

 

 

「ギャァぁぁあああ!……して、殺じて!」

 

「さて、どう料理してやろうか?」

 

 

そう口にした瞬間、後頭部に衝撃が走った。

 

グレイが鈍器(メイス)で思いっきり加藤の後頭部を叩きつけた。

 

 

「……痛てえな、改造してなかったらまた死んでいたぞ」

 

 

傷口の血に混ざって金属光沢が見えたが、再生されて見えなくなる。

 

 

「ば、化け物……!」

 

「化け物?心外だな……もっとおもしろいものを見せてやろう」

 

 

加藤はポケット胸ポケットから黒紫の宝石のようなものを出す。

 

 

「相手を屈服させる方法は沢山ある。拷問、殺戮、性暴力、大切なものを壊す、洗脳……だがな、究極の魂の屈服方法がある」

 

 

加藤はその石を握りしめながらナイフを握ると、少女の胸に突き刺す。

 

 

「むぐっ!?」

 

 

声を上げないよう口を押さえつけながらナイフを刺したまま回転させ、抉るように抜く。

 

少女の身体から刃が抜かれ、鮮血が流れ出ると目から光が失われる。同時に、石がわずかに光った。

 

そしてその石を倒れていた同胞の首筋に差し込んだ。

 

 

「うん……おや、もしかして私死んでましたか?」

 

「その様だな」

 

 

J が起き上がると身体を見渡す。

 

 

「一番損傷が少ないお前を選んだ、取り敢えず他の奴らのサルベージを頼む」

 

「了解」

 

「あ、悪魔だ……!」

 

 

グレイは一連の出来事が信じられなかった。しかし恐れて逃げるようなことはしなかった。

 

 

「悪魔、か」

 

 

加藤はそれを聞いてほくそ笑み。

 

 

「そうだな、俺は悪魔かもしれん」

 

 

そしてグレイと対峙する。

 

 

「ここまで見せた意味、分かるな?こちらに加わるか、死ね」

 

「残念ながら小生にはまだやるべきことがありましてな、丁重にお断りさせてもらいます」

 

「墓穴を掘ったな」

 

「ええ、貴殿の分をね」

 

 

グレイは忍ばせておいた散弾銃を発砲した。

しかもそれは加藤らが極秘裏に開発していた、魔硝石を用いた光線を発射する弾薬だった。

 

加藤の体を無数の光線が貫き、後方へ吹き飛ばされた。

 

その隙にグレイは全力で逃走し、暗闇に溶け込むように姿を消した。

無論、J は短機関銃で追撃するが手応えはなかった。

 

 

「どうします、マスター?」

 

 

ゆっくりと起き上がる加藤に問いかける。

 

 

「今はいい。それよりも貴重なデータが手に入った。後で俺の身体のダメージを記録しておけ」

 

「分かりました」

 

「それに、そろそろ部屋に放り込んだ催吐剤(さいとざい)が十分に効いてくる頃だ。先に『女王』を確保する」

 

「了解」

 

 

そして部屋に入るとまさに地獄絵図。ヴォーリアバニーの幼怪異たちは吐瀉(としゃ)物を撒き散らしながら悶え苦しんでいた。

 

 

「それにしてもひでぇにおいだ」

 

 

抵抗できないことをいいことに加藤たちは彼らを捕縛してゆく。

 

 

「極力殺さんようにな、こいつらは使い道がある」

 

 

そして葉巻を咥えて火をつけると、ベットに近づく。そこには変わり果てた姿のテューレがいた。

 

 

「こりゃひでえ有様だ、なあ女王様(テューレ)

 

 

テューレの腹は膨れており、目には生気がない。

 

 

「エイ●アンのゼノ●ーフ的な想像していたが、思ったよりマシだな。魔術的な類かな?」

 

「そうですね。生物学的に不可能な現象が起きてますから」

 

 

そう言ってる間にも、子ウサギのようなものが現在進行形で生まれてきた。しかも複数。

 

 

「まるで女王アリみたいにポンポン産むな」

 

「それでは我々はそれを乗っ取るサムライアリみたいなもんですね」

 

「……そうかもな」

 

「生まれたてのはどうしますか?」

 

「取り敢えず確保しよう。ただし、女王の生存、確保を最優先とせよ」

 

 

そう言いながら加藤は生まれたばかりの子ウサギみたいなものをポリ袋に入れていく。

 

 

***

 

 

「うむ、妾たちは出遅れたようだ」

 

 

ピニャたちも万全な身体ではないが、城内に不審者や不審物の捜索及び残党の掃討に当たっていた。

 

 

「こちらの調理場は異常なさそうですね」

 

 

ハミルトンが部屋を見渡してピニャに報告する。

 

 

「うむ、ではこの一帯は問題無さそうだな」

 

 

ピニャたちは報告のために一度戻ろうとするが、何か違和感を覚えた。

 

 

「陛下、いかがなさいました?」

 

 

ハミルトンが首を傾げる。

 

 

「ハミルトン、この調理場に違和感を覚えないか?」

 

「え?」

 

「外の壁の長さと、部屋内の大きさが一致しておらぬのだ……」

 

「設計ミスなのでは?」

 

「こういうのは大体隠し扉なんてものがある」

 

 

そう言いながらあちこちを触り始める。

 

 

「陛下、今そんなことしている場合じゃないですよ!」

 

「大丈夫だ、すぐ終わる。妾も幼い頃はこうやってよく隠し通路など探したものよ」

 

 

すると予想より早く仕掛けを見つけ、隠し扉が現れた。

 

 

「敵がここに隠れてやいるかもしれんからな」

 

「それはこまりますー」

 

 

しかし隠し部屋は暗いがシンプルな作りだった。あちこちに肉が置いてあり、冷蔵庫のように寒い。

 

 

「冬のように寒いな。貯蔵庫か?」

 

 

吐息が白く浮かび上がる。

ピニャは当たりを見渡すが特に目ぼしいものはない。

 

 

「ハミルトン、出るぞ」

 

「はい、陛下。おっとと……ひっ!?」

 

「どうした?」

 

「ひ、姫様……」

 

「姫じゃないぞ、陛下と呼べ」

 

「そ、そこ……」

 

 

ピニャはハミルトンが指す方向を見る。

 

薄暗くても分かった、それは人型生物の頭部であった。

 

 

「なっ!?」

 

 

ピニャは急いで明かりをつけた。

 

そして絶句した。

 

それはヴォーリアバニーの頭部、しかもまだ古くない。

 

それどころか、周りの肉のいくつかは明らかに人型のものや、人型のものでないと説明のつかないものが散見された。

 

 

「姫さま、ここは……死体安置所ですよね?ですよね!?」

 

 

ピニャは答えることができない。頭が今見ている光景の情報量を処理できなかった。いや、処理を拒んだ。どうしてとも認めたくなかった。

 

皮を剥がされ、血抜きされて吊るされている肉がある時点でここは安置所でないことは明らかだった。

 

ハミルトンも、心のどこかでは理解していた。しかしそれが間違いであることを願い求めていた。

 

二人は認めたくなかった。

 

ここが()()()()冷凍室であると。

 

 

「こ、ここを出るぞ!」

 

 

ピニャは我に返って見てはいけない物見てしまった如く部屋を出る。

 

しかし部屋を出たタイミングでバッタリと会ってしまった。

 

 

「加藤……」

 

「おや、陛下」

 

 

二人はそのまましばらく言葉を交えぬまま見つめあった。

一方は感情なき視線で、もう一方は困惑の目で。

 

 





リアルな話、現実世界も最近カオスですね。

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