オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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Kul(良き) Kiin() Eruvos()、あけましておめでとうございます。
皆様にも良いお年で有りますように。
皆さんは初詣はどちらへ行きましたかな。
私はアズラの祠へ行こうとして断念しました。

なおめちゃくちゃにしているのは駄作者ですけどね。



あーもうめちゃくちゃだよ!

 

「グレイさん、あんたが訪ねてくるとは思わなんだ」

 

「……」

 

 

独房で鉄格子越しに加藤の前に立っていたのは、ピニャの側近であるグレイである。

 

加藤は笑っているが、両手を鎖で吊るされ独房の隅で半立ちの状態だった。

 

 

「外は騒がしいが、戦闘は既に再開したみたいじゃないか。ピニャの元へ行かなくていいのか?」

 

「……加藤殿、小生がここを訪ねた理由、貴殿もわかるはずかと」

 

「……はて」

 

「貴方は、一体何者なのだ?」

 

「……元日本国海上自衛官3等海佐、加藤蒼也。現職、仮想国家ジパング総司令官兼新帝国軍事顧問、とでも言っても納得しないだろうな」

 

「……」

 

「しかしなんでこんな時だ?」

 

「貴殿の周りにはピニャ陛下を始め、恐らく真実を伝えるには早いという者が多かったので口を割ることはないと思ったまでですな」

 

「ほう、配慮してくれたのか。しかしなぜ俺が隠し事してると」

 

「小生は若くはない。それなりの経験を積み、戦闘のみならず世間やら多少通じてきたと自負しております。そしてそれなりに多くの人を見てきた。それこそ息子の歳のような若造からベテラン兵士、無能な上官から天才的な指揮官、政治家に貴族そしてピニャ様を始めとした王族。上げればキリがないほどに」

 

 

そしてグレイはため息をつく。

 

 

「しかしそれほどの経験を積み、見てきたにも関わらず貴殿のような人間を見たことはない。いや、何を考えているのか分からない、と言った方が正しいかもしれませんな。時々貴殿が人間かどうかも怪しく感じてしまうこともあるほどに」

 

「……」

 

「貴殿はピニャ殿を利用している。だが、それは私利私欲のためでも日本の国家的野心のためでもない。そこが不思議なのだ」

 

「それが貴方に何か関係あるのですかね?」

 

「小生に関係はないかもしれませんがピニャ様には多いに関係することですので」

 

 

グレイは何かを思い出すように続ける。

 

 

「ピニャ様はまだお若い頃から世話を焼いたものでしてな。それは大層お転婆娘であった。しかし今思うのは、従者としての忠誠心と、かつて教官としての親心……否、実の娘のように愛おしく思っています」

 

 

グレイは加藤に向き直ると続けた。

 

 

「これは小生のベテラン兵士としての勘ですが、小生はこの戦いで命尽きるであろうと思います。ピニャ殿のためのこの命、惜しいとは一度も思ったことはありません。しかし、小生は如何なる手段をもってしてもピニャ様を生かす所存であります!しかしそうなればその後のこと。気がかりなのはピニャ様のその後のことであります。そして貴殿がピニャ様を仇なす者でないという確証と、ピニャ様にふさわしい者かどうかを見極めたい」

 

「オイコラチョットマテ、勝手に俺とピニャをカップリングするなや。恐れ多いわ!」

 

「なんと、ピニャ様とは懇意にしていたかと存じておりましたが……何せ寝室で一夜を共に過ごしておりましたし。少なくともピニャ様は好意を持っておりますぞ」

 

「んなバカな。それに寝室の件は誤解だ!てか好きな相手をこんな独房に閉じ込めたり寝室で服剥ぎ取ってクッコロごっこしねえよ」

 

「ピニャ様は恋愛には疎いというか不器用でして」

 

「いや、俺とカップリングしたらいずれ俺と伊丹がカップリングされる未来しか見えねえんだけど!あの姫様いい具合に腐ってるからな!もしかしたらこの独房に放置してオークやゴブリンによるくっころを楽しむつもりかもしれんぞ、誰得だよ!」

 

「腐ってるとは、なんと無礼な!それに姫ではなくて皇帝陛下ですぞ!……まあ話を戻しますと、別に無理に結ばれなくとも、将来的に後見人などもあり得るのでそれを見極めたい所存であります」

 

「……そうだな話を元に戻そう。すまぬ、取り乱した」

 

 

そしてしばしの沈黙。

 

 

「で、だから俺の隠し事を知りたいと」

 

「左様で。もちろん口外はしませぬ、墓場まで持ってゆく所存です。せめて老兵の最後の願いとして、冥土の土産として教えていただければと」

 

「……」

 

 

加藤はしばらく考えた。

 

その沈黙の間、何度か牢獄全体が揺れ、その度に天井の隙間から塵が落ちてきたことから戦闘の激しさが増していることが分かる。

 

 

「残念ながら、教えることはできんな」

 

「……左様ですか」

 

 

グレイは肩を落とす。元々期待などしてなかったが、もしかしたらと一()の望みをかけたが無駄骨だったようだ。

 

 

「教えることはできない。なぜなら、あんたはこの戦闘では死なないからな。冥土の土産として話すことはできない」

 

「……なぜ、小生が死なないと?」

 

「……さあ。そういうことになっているからかな」

 

「勘、ですかな?」

 

「さあ、そういう運命とでも言っておこうか」

 

「……分かりました」

 

 

そしてグレイは一礼すると独房を去った。

 

 

「ご武運を。……ただ、残念なことに今回ではなく、次の戦闘で命を落とすことになるんだけどね」

 

 

加藤はどこか悲しげに呟く。

 

 

「かなり大きなヒントあげてましたけど、大丈夫ですか?」

 

「J か、ご苦労」

 

 

独房の天井付近の(はり)の影に腰をかけていた女性がゆっくりと降りてきた。

 

 

「問題ない、奴は喋らんよ。しかしかつての俺みたいな目をしていたな」

 

「マスター、一応あんた生物学的にも戸籍上でもそんな歳いってないからね?」

 

「まあ、そうだな。で、外の状況(戦況)は?」

 

「ピニャ陛下がうまくまとめています。さすがは皇帝と行ったところですかね。天性のカリスマを持っています」

 

「……なるほど、うまくやっているようだな」

 

「うまく、ですかね。消耗するのは時間の問題な気もしますが」

 

「問題ない。彼女なら時間稼ぎをしてくれるさ。ところで例の物は?」

 

「まだ輸送中です。到着時間は未定です」

 

「そうか……気長に待ちますかね」」

 

 

***

 

 

絶対に死んだ。

 

いくら運がいいとはいえ、あの装甲タンクローリーが目の前に突っ込んで来たのだ。助かるわけがない。

 

そう確信した伊丹だが、痛みも衝撃も感じない。

 

恐る恐る目を開けるとあら不思議、目の前には装甲タンクローリーなどなかった。

本当に元からそんな物無いと言わんばかりだった。

 

 

「へ、夢オチ……じゃ無いよな?」

 

 

周りのSAT(警察官)特戦(自衛官)も戦慄して尻餅ついているあたり、現実に起きてたもののようだ。

 

 

(と、取り敢えず生きててよかった……まだ消化してない今期のアニメがあるからな)

 

 

もちろん死亡フラグであることは伊丹は重々理解してるので、声に出さずに心の中に留める。

 

 

「に、任務を続行する……」

 

 

SAT の坂東が冷や汗をかきながらもマイクで本部にそう告げる。

周りも冷静さを取り戻し速やかに動き始めた。

 

 

そして全員が固く閉じた門に貼り付く。

坂東はある一定の規則で門を叩いた。

 

 

(モールスか……)

 

 

伊丹は咄嗟に理解した。

 

そして坂東はこのように叩いた。

 

『へ・ん・た・い』

 

そしてしばらくして門から音が返ってくる。

 

『し・ん・し』

 

 

(おいおい、ホントに誰だよこんな合言葉考えたの……)

 

 

伊丹は呆れていると坂東と目が合う。

 

 

「俺じゃねえ……」

 

「え?」

 

「この合言葉考えたの、俺じゃねえからな!」

 

 

伊丹の目が呆れていたのを察したのか、坂東は先に釘を刺していた。

 

 

「も、もちろんですよ。他の場面でも何回か聴いてますし……」

 

「そうか、ならいいんだ」

 

(しかし本当に誰がこんなしょうもない合言葉考えたんだろ……?)

 

 

伊丹の疑問は残るばかりだった。

 

 

しばらくすると門がゆっくりと開き、人が入れる程度までの広さで止まった。

 

 

「日本人か?待ちくたびれたぞ。しかしさっきなんだかすごく騒がしかった気がするけど……」

 

 

中から狼亜人(ワーウルフ)の兵士が出てきた。

 

 

「まあ、トラブルがあったからな。敵勢力は?」

 

「みんないなくなっちまった」

 

「は?」

 

「何かあったが知らんが、新帝国側の奴らはみんな新帝都の方に向かったぜ」

 

「……なんだ、無駄骨か。せっかく戦闘準備したのに」

 

 

坂東はガックリ肩を落とす。

 

 

「まあまあ、無駄な戦闘が無かったからいいじゃないか」

 

 

伊丹は安堵する。

 

 

「あんたみたいな優男には俺の気持ちわからねえよ」

 

 

坂東はなんだかガッカリしている。なぜだろう。

 

 

「取り敢えず、本隊に連絡して準備にかかってもらうか。『レレイ、安全なのでみんなを連れてきてくれ』」

 

『了解』

 

 

無線で安全地帯にいたレレイたちに呼びかけた。

 

彼女らは猛スピードで門に駆けつけた。テュカに至っては伊丹に飛びついて抱きしめた。

 

 

「わーん、お父さん死んじゃうと思ったじゃない!」

 

「そうだぞ、耀司殿が死んでしまったらこの身はどうやって生きていけば良いのだ!」

 

 

ヤオもポカスカと伊丹の背中を叩く。

 

 

「ご安心を、伊丹さんの代わりにロゥリィさんがミンチか黒焦げになるだけですよ。仮に死んでも私が生き返らせて使役させてあげますわ」

 

「ちょ、セラーナそんな縁起でもないことを言わないでよぉ。それに私の眷属を取ったりしたら許さないわよぉ!」

 

 

ロゥリィがセラーナの発言に頬を膨らませた。

 

 

 

「……隊長、あの男撃っていいですかね?」

 

「奇遇だな、俺も同じことを思っていた」

 

 

SAT 隊員たちの殺気を察知したのか、伊丹は彼女らを引き離す。

 

 

「今は任務中だからこういうのは後でな……」

 

 

皆口を尖らせるが仕方ないと諦めて門を潜る。

 

 

「ねえ、セラーナ……」

 

「なんなりと」

 

 

ロゥリィは静かに尋ねた。

 

 

「さっきのトラック?を消したのは貴方?」

 

「いいえ、私ではございませんわ」

 

 

セラーナは否定する。

 

 

「ではレレイ?」

 

 

しかしレレイは首を横に振って否定する。

 

 

「……私の詠唱では間に合わない。人がやっと入れる程度の門の生成には最低でも10秒はかかる」

 

「でしょうね。門の向こうは事情がかなり複雑になってそうねぇ。ああ、久しぶりの、か・ん・か・く……」

 

 

ロゥリィは恍惚の表情()を浮かべる。

 

 

「戦闘、それもすごく大きくて長い戦闘が起きているわぁ」

 

 

***

 

 

時間はどれほど経っただろうか。外の怒号が要塞深くの独房にまで聴こえてくるようになる。

 

 

「しかし、本当にどうにかなりますか?」

 

 

J は鉄格子のもたれながら尋ねた。

 

 

「全てはゼー●のシナリオ通りだよ」

 

 

加藤は細く笑うと変なことを言う。

 

 

「……まだふざけるだけの余裕があるみたいですね。殴られて大丈夫か心配しましたが杞憂でしたね。なんなら、右頬もやっておきます?確かマスターはクリスチャンでしたっけ?」

 

「……冗談だよ、ホント。その左拳下げてください、お願いします」

 

「……まあ余裕があるということは策があるのでしょうけど。今度は一体どんな汚い手を?」

 

「汚いは余計だ。とっておきの手を隠しているのは確かだが、君にも話すわけにはいかない」

 

「……貴方はいつもそうですね。誰も信じない」

 

 

だが加藤はそれに対する返事はなく、ただただ歯に噛んだ笑みを浮かべる。その優しそうな笑みがどこか不気味さを感じられずにはいられなかった。

 

 

あと気のせいかもしれないが、廊下がやたらと騒がしい。

 

 

「……どうやら敵さんは中にも侵入しているみたいだな」

 

「ええ、一筋縄ではいきませんね」

 

 

そう言って J は短機関銃(MP5)の安全装置を外す。

 

 

「しかし、中にはイタリカから借りた閉所戦闘が得意なキャットピープルやヴォーリアバニー、それにパイパー一味(ノッラたち)がいるはずだろう。あいつらは何やってんだか」

 

「……くたばったか気づかれずに侵入されたかですかね」

 

「ま、どっちみち敵はかなりのやり手ということか」

 

 

そう言い終わると扉の向こうから変な声が聞こえる。

 

 

「わ!?貴様ら何だ」

「何をするだっー!離せー!」

 

 

そして叫び声と断末魔が響き、しばらくの静寂が訪れる。

 

そして牢獄への扉が勢いよく開く。

 

さらに同時に青みのある灰色の小鬼(ゴブリン)のような小柄な怪異が多数雪崩れるように入ってきた。

 

しかしそれを想定していた J は短機関銃で駆逐してゆく。

 

ただ数が多かったので弾倉を交換するタイミングで閃光手榴弾のピンを抜く。

 

 

「マスター、耳を塞いで伏せてください」

 

「へいへい」

 

 

そしてスタングレネード(フラッシュバン)を投函すると轟音と共に目に刺さるような閃光が走りゴブリンもどきは戦闘不能となる。

 

J はすぐに弾倉を交換し、体勢を整えて反撃する。

 

つもりだった。

 

放たれた矢の数本が J の腕、脚と胴に刺さる。

幸い、銅はボディアーマーでダメージはほぼないが、腕と脚は腱をやられたみたいだ。

 

 

「……ちっ」

 

 

フラッシュバンで自滅しないよう目を瞑り耳を塞いだのが仇となった。その一瞬の隙を突かれた。

 

その間に新たな敵が入ってきたことに気づかなかった。

 

色白でヒトの成人を少し猫背にした感じの気味の悪いゴブリンだもどきである。

 

なぜかスタングレネードが効いていない。

 

J は間近でその気味の悪い醜悪な顔を見て理解した。目が退化して瞼がくっついていた。

 

 

(でもそれなら音に敏感な筈だ……なぜ……)

 

 

目の見えない動物は音に敏感になる、などと思考を巡らした一瞬の隙に敵の後方から矢を射られた。

 

 

「ふぐっ!?」

 

 

防弾チョッキの隙間や腕などに数本刺さってJ は壁にもたれかかる。

 

 

「なるほど、魔法か……防音魔法とは面白いな」

 

 

加藤は扉の向こうからいかにも魔法を使ってますみたいな姿をした盲目の怪異(ファルメル)が現れたのを視認する。

 

 

「マスター、ちょっとまずいかもしれませんね」

 

「おやおや、そのようだね。元某半島国家の特殊工作員でもやられるときはやられるか」

 

「つまらんこと言ってないで助けてください」

 

「へいへい」

 

 

加藤袖に隠し持っていたスイッチを入れると、鉄格子の扉が爆風によって勢いよく吹き飛ぶ。

もちろんそれで怪異の一部が巻き添えになるが。

 

腕に繋がれた鎖にも仕掛けがあったらしく、切れて自由の身となる。

しかし小規模とはいえ爆風で手のあちこちが血だらけだが。

 

 

「¥$€%°#○*+×÷<=>〒々〆!」

 

「あ〜〜〜?聞こえんなぁ!!」

 

 

加藤は襲い掛かっているゴブリンもどき(リークリング)に目掛けて手首につけたままの鎖を鞭やヌンチャクのように振り回す。

 

その威力は凄まじく、鉄棒で殴ってるかのように怪異たちが倒される。

 

 

「¥$€%°#○*+×÷<=>〒々〆!」

 

 

敵の指揮官の号令で矢が放たれるが、加藤はそれを鎖をヘリコプターの羽のごとく振り回して擬似的な盾を作って防ぐ。

 

 

「!?」

 

 

そして気を取られている隙に J が敵の足元に何かを転がした。

 

敵の魔術師が詠唱を唱えようとした途端、彼らの足元から破裂音と無数の小破片が身体中の肉という肉を引き裂いた。

 

手榴弾によって阿鼻叫喚の地獄絵図となるが、辛うじて防御魔法などで致命傷を避けた者もいた。

 

しかしそれを見逃すわけもなく防御魔法が失効した途端に頭蓋骨を鉄板入り軍用ブーツで壁に蹴り付けられて絶命する。

そして念入りに一つ一つ槍で刺して確認する。

 

 

「衰えたな」

 

 

加藤は確認作業終えると部下(J)に手を差し伸べる。

 

 

「……しばらく実戦しかしてませんからね。訓練の方がきついですし」

 

 

J は矢を抜いて応急処置を終えており、手を掴んで立ち上がる。

 

 

「マスター、ご無事でしたか!」

 

 

他の部下たちが敵を制圧しながらやってくる。

 

 

「遅いよ……」

 

「あと、例のものが届きました!」

 

 

それを聞いた加藤の口角が上がる。

 

 

「やっとか」

 

 

そして米軍装備を身に纏った兵士が現れる。

 

 

「ヘイ、マスター」

 

「カール……いや、今はオクトパスだったな。You are late(遅いぞ)

 

 

そして二人固く抱き合う。後ろには他の米兵らしき者も数名いた。

 

 

「例のものだ」

 

 

小型PCやUSBなどを渡す。

 

 

「これで次のフェーズに行ける……」

 

「しかし苦労したぜ。今回はマジで死ぬかと思った」

 

 

加藤たちは歩きながら話す。

 

 

「何があった?」

 

「門を開いたら砂漠でな。そこまでは良かった、あんたの計画通りだ」

 

「ほう……」

 

「問題はそこからよ。巨大なカマキリやらワームやらが襲い掛かってきてもうめちゃくちゃさ」

 

「生存者は?」

 

「多分半分はやられただろうな。兵器も多く失った。俺たちもやばかったがあんたの部下がピックアップしてくれたから助かったもんよ」

 

「……では協力者以外は残ったままか」

 

「まあな。一応簡易要塞やらで凌いでいるが長くは持たん」

 

「……これ終わったら救出に行くか。兵器の鹵獲もしたいしな」

 

「ああ、頼んだぜ」

 

「規模はどれくらいだ?」

 

「ざっと2万は取り残されたが、どれほど生き延びたかな……」

 

「捕虜が2万か……こっちも大変だなあ。その人員と兵器全部ここに持ってきたいくらいだ」

 

「おいマスター、ハーグ陸戦条約とジュネーブ諸条約忘れるな」

 

「残念、我々は国連加盟してないので。まあそんなことしたくてもまだできんからな。せめて米製の戦車と爆撃機とかあればなあ」

 

「そんなことだと思ってな、サプライズがあるぜ」

 

「え、なになに、大陸弾道核ミサイル搭載二足歩行戦車(メタルなギア)でも持ってきてくれたのか!?」

 

「いや、流石にそこまでは……おい、露骨に悲しそうな顔するなや」

 

 

などとやり合ってると屋内にも関わらず轟音が遠くから近づいているのが分かる。

 

 

「この音……」

 

「ああ、ホッグ(A-10)だ」

 

 

そして外の城壁では敵味方が空を見上げていた。

 

 

「援軍か……!?」

 

 

自衛隊の戦闘ヘリや戦闘機を知るピニャたちは歓喜した。

 

そして凄まじい連続的な振動音がしたと思うと敵が細切れになって血煙が砂塵と混ざり合う。

 

GAU-8 アベンジャーから吐き出される約4000発毎分の30mm弾はまさにオーバーキル。

 

オークだろうがトロールだろうが文字通りミキサーにでもかけたように細切れとなる。

 

そして最後にこれでもかと思うほど爆弾とナパーム弾を投下して去ってゆく。

 

その光景を見た友軍は声を上げて鼓舞した。

 

 

『こちらグリーンゴブリン、異常はないか?』

 

 

A-10の機長が各機体に問いかける。

 

 

『こちらブルズアイ、レーダなどの電子機器のノイズがひどい。事前に知らされていた通り、電子機器の不調のようだ』

 

『こちらパニッシャー、こっちなんかレーダやらがオシャカになった』

 

『マジか……まあ想定内だ。操縦桿系統は?』

 

『電気系統がダメになったからフライバイワイア(電線)からフライバイケーブル(鉄線)に切り替え、そのまま不時着する』

 

 

そしてクランクを回す。

 

 

『了解、と言いたいところだがこちらも不時着しなければいけないようだ』

 

『同じく』

 

『仲良く編隊ごと不時着って洒落にならんな』

 

 

そう言ってフラップを手動で開くと高度をゆっくりと下げてゆく。そして地平線へと消えてゆく。

 

その様子を下から見ていた加藤たちは軽く敬礼する。

 

 

「後で行く……」

 

 

そう静かに呟くとケプラーヘルメットの顎紐を締める。

 

 

「さて、こちらも仕上げに入るか」

 

 

状況を見るとかなり悪かった。

先程の航空支援も見た目とは裏腹に敵の数からすれば雀の涙ほどであり、まさに多勢に無勢だった。

 

そんな中、まだ死力を尽くして戦っていた者たちがいる。

 

ピニャたちである。

 

特殊な作りである(ラオ装備)であったのも生存性を上げていたが、彼女の強い意志、そしてそれに応えようとする部下たちが周りを圧倒していた。

 

 

「あの姫さん、強いな」

 

 

オクトパスは感心する。

 

 

「そうだな。だが今は皇帝だ」

 

 

加藤は彼の言葉を訂正する。

 

そして加藤たちは銃に弾倉を込めると一斉に射撃し、味方の周りにいた怪異を一掃する。

 

 

「か、加藤殿……いつのまに!?」

 

「やあ、陛下。暇だったんで出てきた」

 

 

加藤は小さく手を振る。

 

 

「貴様!助けてくれたことは礼を言おう。しかし勝手に脱獄するとは言語道断!」

 

 

すごい剣幕でピニャは加藤に近づく。

 

 

(ほう、やはりしっかりとした目になったな……)

 

 

加藤は感心する。

 

 

「ああ、もう!ピンチの時に妾が助けに行きたかったのに!」

 

「……」

 

「怪異たちの群れに性的な意味で蹂躙(くっころ)される丈夫(ますらお)が敵の陵辱に屈する直前に助け出す、という展開をしたかったのに……そして妾たちは男女を超えた漢と漢の絆に芽生えて……ハッ」

 

 

ピニャはよだれが溢れて少し垂れてきたところで我にかえる。

 

 

「くっ、いっそ殺してやる!」

 

 

自暴自棄になったピニャは大きな太刀を高く振り上げる。

 

 

「勘弁してくれ、それくっころの使い方じゃない!」

 

 

しかしその様子を遠巻きの兵士たちは勘違いして解釈してしまう。

 

 

「なんと、皇帝陛下は脱獄した者に容赦せんとは……」

「悪即斬、を徹底しておられる」

「さすが皇帝陛下、正義と公平性が保たれますな」

 

 

兵士たちはピニャの勘違い行動に概ね好感的だった。見事に思い込みと勘違いが発揮している。

 

 

「まあまあ、ピニャ殿、落ち着きましょう。ここは小生にお任せを」

 

 

これを見兼ねたグレイたちが双方の間に入って鎮める。

 

 

「う、うむそうだな。こんなことしている場合ではなかったな」

 

「これで死ぬのは悲しすぎる……」

 

「さて加藤殿、脱獄したからにはそれ相応の理由あったのだろうな」

 

「まあ、怪異たちが襲ってきたのでシカタナク(嘘)」

 

「なに、その話をもっと詳し……じゃなかった。うむ、そうか……大変だったな……ミタカッタ」

 

 

また興奮しそうなピニャをグレイが肩を軽く掴むことで現実に引き戻す。

 

 

「あともう一つ、脱出経路を確保できそうです」

 

「誠か!?この窮地を脱出できるのか!?」

 

「ええ、方法は……」

 

 

なんだか変な甲高い音が遠くから聞こえてきた。

加藤は話を止めると空高くを見上げた。

それにつれられて他の皆も空を見上げる。

 

 

「やっと来たか」

 

 

そして巨大な何かが敵陣に落ちて大爆発を起こす。

 

敵味方双方とも何が起きたのか分からず、パニックに陥る。

 

 

「な、何なんだこれは!?星が落ちてきたのか!?」

 

「軌道衛星兵器ならその表現で間違いじゃないけど、これは弾道弾です」

 

「ダンドーダン?何だそれは」

 

 

ピニャは初めての単語に首を傾げる。

 

 

「簡単に言えば我々の世界の投石器みたいな物でな。隣の国に投射するものから、星の裏側まで届く物もある」

 

「どこからそんなものを……」

 

「アルヌスの簡易イージスアショアをパクって改造したものを帝都から爆発魔法で打ち上げてる。終末修正は電子的な要素がないタイプなので、この雪のような物の干渉は受けないのが幸いですな」

 

「お前が言ってることの半分以上わからないが、取り敢えずすごい投射機(カタパルト)でここの敵を攻撃しているのだな?」

 

「まあ、そんなもんです」

 

 

そんな会話していると、大きい音と振動がした。

 

 

「……今のは近かったな」

 

「加藤、これは敵だけを攻撃するものだな?何故か城壁近くに落ちてきたような気もするのだが……?」

 

「自由落下タイプの終末修正は事前の高度な計算を行うんですけど、今パソコンやスマホすら電子障害で使えないので手計算でしたからかな」

 

「手計算って、誰が?」

 

「俺ですけど?」

 

「……」

 

「どうしました、皇帝陛下?」

 

「ええーい、総員退避!総員屋外、ベルナーゴの地下神殿まで撤退せよ!すぐに撤退だ!」

 

 

皆撤退する間も弾道弾は不定期的に降り続ける。大体1分に1個ぐらいで。

 

それを聞いた兵士たちは蜘蛛の子散らすように撤退する。

 

指揮官たちは皆がパニックになりすぎないよう交通整理の如く兵士達を撤退させる。

 

幸いなことに、弾道弾の威力が凄まじいためか怪異たちは攻撃の手を緩める。

 

 

「ピニャ様!」

 

「……え?」

 

 

ハミルトンの声に振り向いた瞬間、大きな金属破片がピニャに向かって飛んできた。

 

 

***

 

 

アルヌスで出撃準備を終えた自衛官たちはいざ帝都へ!

と意気込んでいたが、急遽出撃命令が停止された。

 

 

「くそ、こんな時に……」

 

 

狭間陸将は机を拳で叩く。

 

他の隊員にはパニックを起こさないためにも理由を知らせるなと念を押された上で防衛省からとんでもない情報が来ていた。

 

中国海軍が台湾海軍を壊滅させた。

 

一見日本には関係無さそうな内容だが、ここで推測または読み取れるのはいくつかある。

 

・台湾海軍を瞬時に壊滅させる規模であること。

・米軍が動いてないこと。

・目的は尖閣、与那国である可能も高いこと。

 

政府の方針により短期決戦で特地の解決をするため主要部隊の一部がアルヌスに集結している。

もしかしたら引き返して日本そのものを防衛しないといけなくなるかもしれない。

 

 

「狭間陸将、新たな情報です!北方領土付近でもロシア海軍が不穏な動きをしている模様!」

 

「くそ、アメリカは何をしているんだ!?」

 

「別情報、日本政府に対してサイバー攻撃、株価暴落、各地にて暴動などが起きているとの情報あり。これは……マルチドメイン攻撃です!」

 

 

作戦室で部下の報告や部下の本音などの怒号が飛び交う。

 

 

(これは、脅しや威嚇ではない……警告ということか)

 

 

ここですら混乱が酷いと、政府中枢は今大変なことになっていることは容易に理解できた。

 

『ここに優秀な自衛官がいる間、誰が本国を守るんですかね』

『今の自衛隊の規模じゃ、本国と特地双方を守るには荷が重いですよ』

 

狭間は、かつて加藤が雑談で話していた言葉が脳裏を掠める。

 

 

(あの男が言っていたことが、現実となったな……)

 

 

狭間は今は耐えるべきと、喧騒な作戦室で冷静を装った。

 

 

***

 

 

「ピニャ!ピニャ・コ・ラーダ!……くそ、まずいぞ」

 

 

意識のないピニャの肩を叩きながら加藤は呼びかけていた。

 

 

「ああ、ピニャ様……!?死んじゃだめです!」

 

 

ハミルトンも動揺して涙を流している。意識はないが、不幸中の幸いというべきか、異世界チートラオ装備の不思議な防御力のおかげで大きな外傷はない。ただ、使用者本人が衝撃に耐えられなかった。

 

 

彼らはベルナーゴ神殿最深部にて籠城しているが、神殿外では兵士たちが必死に敵を食い止めていた。

ちなみに男子禁制などとのたまっていたハーディと神官たちは脅迫説得した。

 

 

(まずい、ピニャがこの状態だと士気がガタ落ちだ……くそ、なぜ今回はこんなことが……)

 

 

加藤も内心かなり焦っていた。

 

 

「呼吸が停止しました!」

 

「くそ!AEDや応急キットはまだか!?」

 

衛生兵(メディック)は先ほどの戦闘に巻き込まれて死んでます、他のものが取りに行ってますが時間がかかります!」

 

「あー、もうわかった!CPR(心肺蘇生法)を行う」

 

「心肺蘇生法……そ、それは所謂(いわゆる)王子のキス、というやつか!?」

 

 

ハミルトンが動揺しつつも、なぜか少し興奮した様子で聞いてきた。

 

 

「えっ?」

 

 

しかしもっと動揺したのは加藤である。

 

 

「まあ!アルヌスの講習で教わった、あの人口呼吸やらが含まれる心肺蘇生法(王子のキス)!?」

「私、初めてお目にかかりますのよ」

「ああ、姫さま、じゃなくて皇帝陛下……おいたわしい」

 

 

なぜか周りの女騎士やら従卒やらが反応する。

 

 

「えっ、えっ……?」

 

「く、このような異世界の男に陛下の唇が奪われることになるとは……しかし今は緊急事態ですわ、仕方ありませんわ」

 

(おい、ここの世界の乙女たちは心肺蘇生法を一体なんちゅう目で見てたんだ!?)

 

 

加藤は改めて異世界の価値観の違いに驚く、というかもどかしさを感じた。

 

 

(やりづらいがここでピニャが死なれると困る……てかそんな目でみんな見るなし……やりづらいわ)

 

 

ピニャの気道を確保すると、加藤はポケットからある物を出した。薄いポリ袋みたいなものである。

 

 

「期待しているようで申し訳ないが、紳士たるもの俺は常にこれを携帯していてね……」

 

 

そして人口呼吸用マウスピースをピニャの顔に被せると、息を吹き込む。

 

 

「「ええ〜!?そんなあ!」」

 

 

乙女たちは期待はずれと言わんばかりにブーイングする。

 

 

「いや、しかしこれはこれで……」

「ええ、お姉さま……あの僅かな隔たり(マウスピース)によって一線を越えずに口づけを……」

「ああ、逆に切ないですわ。これが焦らしプレイという物ですわね」

 

 

などと高度な思考をお持ちな人たちもいたが。

 

 

「……ケホッ、ゴホッ!ゲホゲホ!」

 

「よし、息を吹き返した!」

 

「やはり王子のキスだったか」

 

「お姉さま、私たちも今度隔たりで練習しましょう」

 

 

周りからは歓声があがる。

 

だが加藤は素直に喜べなかった。

 

 

(まずいな……俺の好感度を上げると後々のシナリオの修正が必要になるな……やはりあれを強行するか)

 

「加藤……どうした、怖い顔して。妾は一体どうしていたのだ?」

 

 

ピニャは弱々しい声で尋ねた。

 

 

「陛下、少し気を失っていただけですよ。今しばらくお休みください」

 

「そういうわけにもいかん……うう、体中が痛くて動けん」

 

「安静にしてください、頼みますから」

 

「しかし、戦況は……」

 

「ベルナーゴ神殿の最深部です。取り敢えず撤退準備してます」

 

「撤退?しかしどうやって……袋の鼠だぞ」

 

「大丈夫です。大丈夫ですから」

 

「信じてるぞ……」

 

 

そしてピニャはしばらくの眠りについた。

 

 

(まるで子供みたいな表情で寝るな。情が湧くじゃねえか)

 

 

優しく頭ポンポンと撫でると、立ち上がった。

 

 

「オクトパス、まだか!」

 

「今やってわ!マスター、女の子誑かしている暇あるならちょい手伝えや!」

 

 

この間もどんどんと地下の祭殿に避難民やら人が流れてきた。

 

そして加藤はペンと紙を持つと数式を解きながら地面にコンパスや紐やらを使って何かを描いていく。

 

 

「こことここに魔硝石を置いて、固定する」

「こっちにはこの図形を描け」

「パソコン有れば一発なんだけどなあ」

「謎の雪で使えないから諦めろ」

 

 

異様な空間を周りはただただ見守るしかなかった。

 

 

「カトォ、もう限界だ……外の兵士は全滅した……」

 

 

満身創痍のジゼルが血まみれのハルバードを手に、全身に返り血を浴びて白い神官服が真っ赤に染まって降りてきた。

 

 

「クソッタレ、わかっとるわ!くそ、なぜ起動しない!」

 

「マスター、ここの定義ができてない。呼び出しも間違えている」

 

 

懸命に石を並び替えたり紋章を書き直したりしていた。

 

 

「プログラマーみたいなこと言うんじゃない!ようし、できたぁ!」

 

 

そして黒いクリスタルのような物を地面にねじ込むと、それは現れた。

 

ポータル、ワームホール、ワープホールなどと様々な呼称がある、(ゲート)である。

 

 

「……やったな」

 

「ああ」

 

 

加藤とカール(オクトパス)は拳同士をぶつける。

 

 

「ひ、開いたぞ!」

 

「間に合った……」

 

「しかし加藤、アルヌスのとは少し異なる様だが……?」

 

 

確かにアルヌスの門のようなものと違い、何か電気か雲みたいなものが渦巻いている感じだった。

 

 

「これ、入っても大丈夫なものなのか!?」

 

 

ジゼルが門を前にたじろぐ。

 

 

「入らないとここで弾道弾でやられるか、怪異たちにやられるしか選択肢ないよ?」

 

「う……ところで、これはどこに繋がっているんだ?」

 

「 一応、帝都に設定したつもりだが……正直他のところに繋がっている可能性もある」

 

「……俺に何かあったら責任取ってもらうからな!」

 

 

そう言ってジゼルはどうにでもなれ、と言わんばかりに目をつむって飛び込んだ。

 

 

そしてしばらくすると戻ってきた。

 

 

「だ、大丈夫だ!無事帝都に繋がっている。俺は今から御神体取りに行くぜ」

 

 

そう言って一度こちら側に戻ってベルナーゴ神殿の御神体や神器の撤収準備を始める。

 

 

「これより撤退を始める!女子供、傷病者及び民間人を優先的に入れ!」

 

「おい早くしろ」

「押すな押すな!」

 

 

一気に押しかけてパニックになりかけたが、帝国兵たちが規律を維持してくれたおかげでなんとか最悪な事態は免れた。

 

とは言え、車が入れる程度の大きさの門なので、1万はくだらない人数を通すのにはかなり時間がかかりそうである。

 

そして群衆は列を成して進んでゆく。

 

怪我人の中にピニャもいた。

 

 

「あ……う……」

 

 

まだ身体に負担が残っているらしく、言葉らしい言葉を発することは出来なかったが、手を軽く伸ばした。

 

 

「陛下、よく頑張りました。我々も後で行きますので先に休んどいてください」

 

 

加藤はピニャの手を優しく包むと、優しく腹の上に置いた。

 

そしてハミルトンやそのほか帝国の騎士団などの従卒たちとともに門をくぐる。それを見た他の者もどんどん入ってゆく。

 

 

 

「戦える者は最後の踏ん張りを見せつけろ!敵を絶対に通すな!なんとしても皇帝陛下をお守りしろ!」

 

 

グレイも剣をとって帝国兵を鼓舞する。

 

 

「誰かが言ったような言ってないような……撤退こそ戦術の基本にして奥義。機を誤れば敗走または包囲殲滅。功すれば万人の命を救い再起の機会を与える」

 

 

加藤は拳銃の弾倉を込めると、唯一の出入り口から溢れ出る怪異の足止めに加勢した。

 

 

「この状況なら弾が持つ限り押し留めることができそうだな」

 

 

その言葉通り、怪異たちは狭い階段から降りて攻撃を試みるが、いかんせん狭い通路なので出てきた瞬間に蜂の巣になる。撤退しようにもつっかえて結局ぐちゃぐちゃになる。

 

そのように楽観視したのも束の間、奴らも馬鹿ではなかった。

 

 

「なんだか変な匂いするぞ……それに足元が湿ってきてる」

 

「……火攻めだ!」

 

 

加藤が叫ぶのと同時に当たり一面が火の海になる。

 

 

「アチチチチ、アチャー!」

 

 

ジゼルの尻尾に火がついてヒ●カゲみたいになるが、誰も笑えない。

 

 

「消化器持って来い、ガスマスク着用!酸欠になるぞ!」

 

 

閉所で地下なのをいいことに、敵は可燃性の液体を流し込んできた。

 

ただ、道中の怪異ごと焼いているので敵の侵攻はかなり遅らせることができた。

 

そして運のいいことに、戦闘員以外のほとんども既に脱出済みとなった。

 

 

「グレイさん、陛下の元に先に行け」

 

 

加藤はグレイの肩に手をかけ、そう伝えた。

 

 

「貴殿こそ先に行ってください。殿(しんがり)は我々ベテランにお任せを」

 

「そう言うわけにもいかない性根でね。職業病というか、うち(海軍)最高責任者(艦長)が最後まで責任もって部下の撤退を見届ける文化があるわけだ」

 

「しかし……」

 

「案ずるな、俺のわがままみたいなもんだ。それにどんな間違いが起きる?門はすぐそこだし敵も大体抑えた」

 

「わかりました。必ず帰ってきてくださいよ」

 

 

そしてグレイは部下を連れて門をくぐる。

 

 

Fus Ro Dah(揺るぎなき力)!」

 

 

ジゼルがスゥームを発すると出入り口が崩壊した。

 

 

「最初からそうすれば良かったかもな。しかしジゼル、龍語(スゥーム)の出来が良くなったな。さすがアルドゥイン様が見込んだだけあるな。俺にはできない真似だ」

 

「へへ、当たり前だぜ」

 

「ならばさっさとハーディの御神体やら必要な物持って神官と一緒に脱出しろ」

 

「うへぇ、やっとかよ。かなり働いたから後でメシ奢れよ」

 

 

ジゼルは褒められて嬉しかったのか上機嫌だった。

そして神官たちとせっせと御神体を運んで門を潜っていった。

 

 

「カトォ、あとはあんたらだけよ。お先」

 

 

デリラたち亜人とパイパーたちも脱出したようだ。

 

 

「よし、ここは爆破処理して門を通じて敵が来ないようにしろ!」

 

 

そしてあちこちにC-4に設置する。そして崩落した出入り口付近にブービートラップを仕掛ける。

 

 

「さてさて、どれだけ敵を巻き添えにできるかな。ワクワクするぜ」

 

 

加藤はなんだか嬉しそうに仕事を仕上げる。

 

 

「マスターって時々ドS超えてサイコ発言するよな」

 

「ああ、中東での異名は伊達じゃないな……」

 

 

隊員の一部は聞こえないように話す。

 

 

「マスター・カトウ、あとは我々だけです。どうぞ」

 

「先に行け。艦長は最後まで見守る義務があるからな」

 

「ここ(ふね)じゃないですけどね。まあ、お言葉に甘えて行かせてもらいます」

 

 

そして加藤の部下たちも続々と入ってゆく。

全員が門を潜るのを確認すると、門の前に立つ。

 

 

「よし……」

 

 

加藤は退却準備を終えて門に入ろうとした瞬間、後ろから気配を感じた。

気配というか、違和感。

 

もし誰かがいるなら崩落した階段付近のブービートラップに引っかかっているはずである。

 

 

無論、躊躇いもなく拳銃を向けて振り返る。

 

 

「……お前たちは!?」

 

 

 

 

一瞬の油断だった。

 

気づくのが遅かった。

 

認識した時点で、胴体に無数の鉛玉が撃ち込まれる。

 

衝撃と熱が腹部を襲い、体勢を崩しかけたが踏ん張ると同時に大きく踏み込んだ。

 

そして抜刀と切り返しで全員の首を刎ねる。

 

敵は全員青白い灰となり、崩れ落ちた。

 

 

「……そうだよな、迷宮の探索に行かせたきり、消息不明のお前たちが……生きているはずがないもんな……」

 

 

しかしそんな感傷に浸る間も無く、背後から悍ましい気配を感じると同時に耳元から声がした。

 

 

「キットゥ、流石だな。まだ衰えないな」

 

 

加藤は振り向きと同時に刀を振るう。

 

 

この時、この瞬間のためにこれは何万もの振りを振り続け、極めた。

必ずこの一太刀で、確実に敵の、それも因縁の敵の首を一撃で刈り取るだけのために、極めた。

 

 

そして因縁の仇の首を捕らえた。確実に仕留めた。

 

 

……はずだった。

 

 

視界に映ったのは自ら顎の下から噴き出る血飛沫(ちしぶき)の血煙と、()だった。

 

そして奴の手には、先程まで握っていた筈の黒い刀身の刀が握られていた。

 

代わりに、自身の右手には木の棒が握られていた。

 

 

「すり替えておいたのさ!」

 

 

目の前にいるゾルザルに扮した敵は、面白おかしく笑いながら刀身に指を触れる。

 

 

「ほう、黒檀の剣がフルパワー状態じゃないか。やることはしっかりやってじゃないか」

 

(くそ、やはりマオか……)

 

 

声帯ごと切られているので声が出なかった。しかも頸動脈を切られて意識が朦朧とし始めている。脚にも力が入らず、正座の状態で見ることしかできない。

 

 

「しかし君もここまでか。まあ頑張ったんじゃないの、最後は油断したけど」

 

 

加藤も負けじと腹部に仕込んでいた紐を勢いよく引いた。

 

が、何も起きなかった。

 

 

(!?)

 

「ばかな!?って顔してるね。残念だが、二度も同じ手に乗るほど俺も馬鹿じゃない。指向性対人地雷(クレイモア)の起爆装置は予め斬らせて貰った」

 

(二度……こいつやはり……)

 

 

加藤は悔しそうに歯を食いしばりたいが、顎にも力は入らない。

 

ドヴァキン(マオ)は刀の柄で加藤の顎を上げる。

 

 

「いい目だ。あの時と比べるとだいぶ良くなった、かなり多くの死戦を潜り抜けて来たな」

 

 

マオは笑みを浮かべる。そして刀を高く構える。

 

 

「だが、今度はもっと楽しませてくれよ。出直してきな」

 

 

だが加藤は最後の力を振り絞ってC-4を起爆させ、門を閉じた。

 

 

「ふん、それがどうした。どうせ帝都は滅ぼす。お前がある目的のために築いた努力など、無に帰してやる」

 

 

そして加藤の首は刎ねられた。

 

身体は間もなく青白い灰となり、崩れ落ちた。

 

マオはその上を念入りに踏んで何かを探すようにほじくり返す。

 

 

「……」

 

 

小さな黒いクリスタルをみつけと、それを踏み潰して破壊した。

 

だがその瞬間、地面に爪痕のようなものが刻まれた。

 

 

Bel(召喚) Faal(唯一) Drog()

 

 

「……ふ、やるじゃねえか」

 

 

そう呟いた瞬間、超次元より彼が現れた。

 

 

Pruzah(よく) Dreh(やった)!ジョール共、帰ってきてやったぞ!」

 

 

アルドゥインは自身が眷属の魂に刻んだスゥームを使い舞い戻った。

 

ついでになぜか例のタンクローリーも超次元に飲まれていたらしく、アクション映画よろしくなんだか演出のように辺り一面が炎に包まれた。

 





タンクローリー書いといて処理に困ったからアルドゥイン様に対処してもらうとか……終わってますよ。
こんな駄作者を今年も暖かく見守っていただければ幸いです。

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