オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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皆様、大変お待たせしました。ほんとすんません。もうそろそろ新年ですな。

しかし昨今のアニメやラノベ、ゲームはすぐ××(チョメチョメ)なんぞやりよって……うらやま……けしからん。実にけしからん。

……ふぅ。(いいぞもっとやれ)

Kul(良い) Ruz(次の) Eruvos().
良いお年を。


これなんていうムリゲ?

 

「ってー!」

 

 

敵が既に視認距離にいた時から攻撃は始まった。

 

こちらの近代武器の射程距離を活かしてアウトレンジで極力相手の損害を与えようとした。

 

野戦砲、機関砲、重機関銃、迫撃砲に始まり、鹵獲した戦車の砲塔を予め要塞の上に設置して手動で砲撃。

他にも、魔法攻撃やらでひたすら遠距離攻撃を行った。

 

怪異は断末魔を上げながらバッタバッタ倒れてゆく。キルレシオはもう1対10どころかアウトレンジなので最初はこちらに全く被害はなかった。兵の指士気はどんどん上がった。

 

 

「い、意外といけそうだな」

 

 

ピニャは自軍の圧倒的火力に圧倒されながらも戦況を分析した。

 

 

「しかし、よくもまあこんな沢山の大砲を用意できたな」

 

 

先程の野戦砲等のさらに後方で次々と火を吹く臼砲を見てピニャはつぶやく。

 

 

「まあものとしては中世ヨーロッパレベルの技術なのでこっちでも作れなくはないので」

 

 

加藤は双眼鏡で敵の様子を見ながら答える。

 

 

「よくこんな短期間で……」

 

「いや、短期間ではないよ。来るべきして備えていたわけで、帝都占領直後から作っていた」

 

 

加藤は独り言のつもりで呟いた。

 

 

「え、加藤殿はこれを予期していたのか?」

 

「……いや、こんなこともあろうかと思っていただけです」

 

「そうか……」

 

「殿下危ない!」

 

 

グレイがピニャに飛びついて伏せるように倒れ込む。

 

間一髪、バリスタから放たれたと思われる大槍はピニャの身体を貫くことなく城壁に刺さった。

 

 

「ちっ、攻城兵器か」

 

 

加藤は露骨にめんどくさそうな表情をした。

 

 

優勢であったが、それも束の間。

敵は友軍の屍を越えてどんどん城壁へ近づいて来た。

 

ある程度距離を詰められると敵の攻城兵器からのものなのか、大きな岩や大槍(バリスタ)が勢いよく飛んできた。

 

 

「優先的に攻城兵器を探して潰せ!」

 

 

デリラは重砲部隊に命令を下す。

 

城壁の兵士は敵の攻城兵器を血眼で探すが、なぜか見当たらない。

 

投石やバリスタの嵐の第二波が来た時、背筋がゾッとした。

 

 

「加藤殿、彼奴らだ!」

 

 

そして見つけ出したのか、ピニャは敵の後方を指差す。

 

 

「……そう言うことかよ。あのトロールとオーガだ!奴らを潰せ!」

 

 

トロールとオーガたちが雄叫びを上げるとまるで砲丸投げのごとく岩を投げ、槍投げのごとくバリスタを投げつける。

 

それらの天然攻城兵器とも言えるトロールとオーガが放つ岩はこちらの臼砲などに損傷を与え、バリスタは重装兵士の鎧を最も簡単に貫いた。

 

 

「ピニャ殿下、姿勢を低くしろ。危ないぞ」

 

「分かっておる。しかしだ、これでは敵どころか味方の状況も把握できぬぞ!指揮官が危険を恐れてどうする!」

 

「あ、バカ!あんた何やってんだ!」

 

 

ピニャは忠告を聞かずに立ち上がって全貌を見渡す。

 

そして戦況はかなり良くないことが理解できた。

 

旧ソ連や中国軍もビックリの文字通りの人海戦術により、とうとう敵兵の接壁を許してしまう。

 

無論、弾丸、矢、投石の雨は降り続けているが敵はそれでもハシゴを掲げ侵入を試みる。

この瞬間、銃火器による自軍の優位性は一気に失われた。

 

 

「近接戦用意!」

 

 

デリラの号令で兵が剣などの近接武器を抜く。

 

もしここにいる全員が、中世的近接戦を経験していない自衛隊や米軍だった場合、数で押されていたかもしれない。

 

しかし不幸中の幸いとして、ここにいる大半は現地兵、しかもゴリゴリの近接戦大好きのうさぎっ娘(ヴォーリアバニー)たちが大多数を占めていた。

 

 

「ぶっ●してやらぁ!」

「あたいらの喜ばし方わかってるじゃねえか!」

「来るべきじゃなかったな!」

 

 

そして現代人の多くが忘れかけている生々しい『殺しあい』が始まった。

 

 

***

 

 

「これより作戦を実行する」

 

 

銀座の門の付近で身を隠していた者の一人が無線に話しかける。胸にはSAT(特殊急襲隊)のネームプレートが付いていた。

 

そして彼らの後ろには覆面に暗視ゴーグル、しかも米軍でも採用されている最新の特殊作戦仕様のモノを身につけていた。

小銃もM4カービンやSCARを彷彿(ほうふつ)させる現代戦仕様のものを装備していた。

 

陸自の特殊部隊の最高峰、特殊作戦群である。

もちろん伊丹もいる。念のため、か弱い少女(?)たちは近くのビルに駒門たちと待機している。

 

そして彼らは闇夜に紛れて門へと近づく。

 

 

「なんだかエ●ァの旧劇に出てきた戦略自衛隊を思い出すな。あんなこと俺はやりたくないぞ」

 

 

伊丹の脳裏に某有名アニメ映画で某自衛隊が殺戮を始めるシーンが浮かんでいた。

 

 

「そんなことにならなければいいんだけどな……やる時はやるかやられるかだ」

 

 

剣崎も俺もそんなこと望んじゃいない、とでも言いたさそうな口調だった。

 

 

「トホホ、まさかこんなことやるハメになるとは……」

 

 

伊丹が望んでいるのは美少女たちとキャッキャウフフだけである。血生臭いのはごめんである。

 

 

そして現在DMZ(非武装地帯)となっている門の建物へ全員張り付く。

 

 

「そろそろたな……」

 

 

覆面姿のSATの一人が呟く。どっかで聞いたことある声である。

 

 

「……坂東さん?」

 

 

思わず声をかけてしまった。

 

 

「あんた……たしか伊丹とか言うクソ野郎(加藤)のダチか」

 

 

覆面をしていたが、声や雰囲気で分かった。

一時的に特地で一緒に働いたSAT隊員、かつ加藤の元同僚。

 

 

「まあ、あん時はお世話になりました……なのか?」

 

「しかしあんた、今は任務中なのと部隊の特性上名前で呼ぶのはどうかと」

 

「あ、すみません」

 

「ところで、いつもの連れ(美少女)たちはどうした?今日は一人か?」

 

「いや、後方で待機してるんだけど。危ないからついてくるな、と言っても聞かないもんで……」

 

 

それを聞くと坂東はため息をつく。

 

 

「時々、あんたが本当に特殊部隊(S)出身なのか疑わしくなるな」

 

「よく言われます……」

 

「まあ今回はうち(公安)が既に根回ししてくれたからスムーズに遂行できると思うが、油断は禁物だな」

 

「……それ、我々の業界(オタク)ではフラグというのだけど……」

 

「フラグ?」

 

 

などと話していると見事にフラグが立った模様。

少し遠くから灯りをつけたトラックが猛スピードで門に向かって来た。

 

 

「はぁぁあ!?なんじゃありゃあ!?」

 

 

銃口を向けた隊員たちは驚愕した。

 

何せ爆走していたのはどっかの世紀末映画(マッドマッ●ス)もびっくりの魔改造タンクローリーである。運転席をどこぞのテクニカルのようにコンクリート板やらで固めたタンクローリーである。

 

 

「おい、こりゃどうやって止めるんだ!?」

 

 

そもそも運転席がガチガチに固められていたのもあるが、万一にでもタンクに被弾したりでもすればあたり一面大変なことになる。

 

 

「撃っても撃たなくてもここは火の海になるぞ!」

 

「うわぁぁあ!もう間に合わん、ぶつかるぅ!」

 

 

タンクローリーは門に正面衝突しようとしていた。

 

 

***

 

 

取り敢えず第一波は凌いだ。

 

無尽蔵の敵を返り討ちできたのも、禁忌と言われるネクロマンシング(人工ゾンビ)によって敵側の怪異もゾンビ化し雪だるま式にこちらの戦力が大きくなったのも大きい。

その後の後始末もなかなか甚大であったが。

 

辺りも薄暗くなっていた。

 

防壁街には無数の敵の(むくろ)と比較的少数の味方の遺体が転がっており、辺りは生々しい血と鉄と硝煙の匂いを放っていた。

 

それよりもこれ以上のゾンビ化を防ぐためにも遺体を急速に焼却したことにより、辺りが焼肉のような匂いに包まれたことが多くの兵士にとって辛かった。

 

 

「なんとか……持ち堪えたな……ふぅ」

 

「ホントになんとかですよ……ピニャ殿下……ふぅ」

 

 

ピニャとハミルトンは疲労困憊で座り込んでいた。

 

 

「しかし、奴らはまだ動けるみたいだな。亜人たちですら疲れているというのに、どんだけタフなんだ?」

 

 

ピニャは加藤の私兵(ALT)たちを不思議そうに眺める。

 

 

「……小生の予想ですが、なんらかの薬物か何かで動いているのではと思いますな。小生の若かりし頃、他国との戦役でそのような方法で兵士の感覚を麻痺させ狂戦士(バーサーカー)と化した者を前線に送り込む国も見たことありますな。ほら、目つきがおかしいでしょう」

 

 

身体のあちこちに軽症を負ったグレイがピニャの隣に座り込み一息つく。

 

 

「む、グレイ殿も無事か。流石は歴戦の猛者、この程度の戦闘など朝飯前か」

 

「ピニャ殿下、それはお褒めの言葉とお受け取りしてもよろしいですかね。しかしまだまだ楽観視しては行けませんぞ。まだ始まったばかりですからな」

 

「叙事詩では戦争は華々しく書かれているが、現実は何とも筆舌し難いものだな」

 

 

ピニャは無数の骸や血溜まり、知人の死を憐れみ悲しむ従卒や負傷者を運び、次なる戦闘のために準備する戦友たちを見てやるせ無い気持ちになる。

 

 

「皆さんここにいましたか」

 

 

見上げると返り血で黒く染まった戦闘服姿の加藤が爽やかな笑顔で近づいて来た。身体は傷だらけで返り血で全く爽やかでないが。

 

 

(此奴(こやつ)、できるな……)

 

 

グレイは冷静に分析する。少ししか戦闘を見ていないが、加藤は伊丹たちとは全く異なる戦闘方法を駆使していた。

銃器の使用はもちろんだが、状況に応じて敵から奪った鈍器(メイス)で敵の頭蓋骨を甲冑ごと破壊し、鎧を持たない軽装相手には腰の刀で斬るなど、自衛隊とは全く異なる戦い方を見せた。

 

 

(あれではまるで我々と同じではないか)

 

 

などと疑問に思っていると、加藤は何かの缶を渡してきた。

 

 

「どうぞ」

 

「なんだこれは?」

 

 

ピニャは受け取るとそれをマジマジと見つめる。

 

 

「エナジードリンク。疲労回復、眠気覚ましなどに効きますよ」

 

「なるほど、噂の薬物はこれか」

 

「いやいやいや、ちゃんと市販されているものだからね……確かに飲みすぎるとやばいけど」

 

「やはり薬物ではないか」

 

「……いや、この世界で言う回復薬(エリクサ)みたいなもんだから」

 

「む、そういうことなら少し飲んでみるか」

 

 

そしてピニャたちは口にする。

 

 

「んお?思ったより美味いぞ。万人受けしないが何というか、クセになる味だ。もう一本くれ」

 

「ダメだ、飲みすぎると良くないのは事実だから」

 

「ケチケチするでない、もっと寄越せ!」

 

 

ピニャはエナジードリンクを飲んだせいなのか元気になるのと同時に変に興奮している。野生を解き放ったのか、翼を授けられたのか

 

 

「ピニャ様、飲むなら早めに飲んだほうが良いかと。どうやら敵さんは待ってくれないようで」

 

 

グレイは城壁の様子を見ると、よいしょと声を上げて立ち上がる。

 

 

「おやまあ、予定より早いですな。今夜も夜通し(オール)かな」

 

 

加藤もエナジードリンクをもう一本開けて一気に飲み干す。

 

 

「まあ、このドリンクが有れば何とかなるだろう」

 

 

ピニャも片手を腰にぐびっと飲みながら眺める。

 

 

「姫様、なんだがお行儀が悪く見えます……」

 

 

ハミルトンはおいたわしいと言わんばかりに肩を落とす。

 

 

「ブフーっ!な、なんじゃありゃ!」

 

 

だがそんなささやかな休息もピニャが口の中のドリンクを加藤の顔にぶちまけたことによって台無しになる。

 

加藤は冷静にハンカチで顔を拭いた。

決して顔に吹き付けられたドリンクを舐めたりなどしない。彼もまた、伊丹同様にちゃんと線引きできる変態紳士(オタク)であった。

 

 

敵と思わしき影が松明を片手に近づいて来る。

暗くて正確な数は分からないが、取り敢えずたくさん、すごくたくさんいることは分かる。

 

だがそれらが近づいて来るにつれて、驚きは恐怖に、戦意は絶望へと変わった。

 

松明から放たれる朧げな光が、()()()を曖昧に映し出すことがかえって(おぞ)ましく感じた。

 

 

()()()を見た皆は絶句した。それとも、背筋が凍って声が出ない、と言った方が正しいかもしれない。

 

 

「な、なんだよアレ……」

 

 

今まで戦意だけは高かった兵の士気が一気に地に落ちた。

敵は外道の限りを尽くした、と言うのは簡単だが表現は困難を極めた。

 

切断され、断末魔の叫びが聞こえそうな形相をした(こうべ)がブトウの(ふさ)ように束ねて移動防壁に垂らされていた。

パイクや槍に頭が団子状に串刺しにされている。それどころか頭部のない死体が下腹部からの串刺しもある。

 

しかもその頭部全てが健やかな顔などしておらず、見るに堪えない形相がその死の直前までどのような非道の限りを尽くされていたかを物語っていた。

 

他にも身体の部位(パーツ)をアクセサリーの如く身に纏うオーガーや巨人などもいる。

 

 

「マスター・カトウ!何か飛んできました!」

 

「……防御姿勢を取れ。飛翔物に備えよ」

 

 

飛翔物に対して盾を構えるなどして備えた。

そこそこの重みが盾に伝わり、中には反動でよろける者や怪我をする者もいた。

 

幸い、大怪我をするほどのものではなかった。なかったのだが……

 

 

「ひ、ひい!?」

「いやぁぁあ!」

「わ、わぁぁあ!?」

 

 

飛翔物は同胞の生首や臓物だった。

遠くの状況でもおぞましさが分かるのに、それが足元に転がっているのだ。

 

 

「う……オエェ……」

 

 

あまりの恐怖で胃のものをぶちまける者もいた。

ピニャはかろうじて胃液を喉で押さえ込んだが、ハミルトンは膝をついて咳き込んでいる。

 

 

「き、貴様らはガキか?敵さんは目の前まで来てんだぞ、し、シャキッとやれ」

 

 

熟練兵たちが若い兵や臨時民兵に喝を入れるが、その熟練兵たちの声も震えていた。

 

 

「カトウ……あれ……」

 

 

死の神、ハーディの使徒である亜神ジゼルですら、恐怖で表情(かお)が引きつっていた。

 

ジゼルが指す方向を見る。

 

 

「……おや、まあ……」

 

 

先程の恐怖の死体の披露は前菜と言わんばかりの、目を背けて逃げ出したくなるような光景が広がっていた。

 

 

敵の陣列の最前線に移動式防盾が敷かれた。

 

問題はその防壁に貼り付けられていた者だった。

 

 

エロ同人やリョナ同人と茶化すことすらできないほどに尊厳を踏みにじられた同胞のたちが、目の前にいた。

 

四肢切断、舌、目、耳、鼻を損壊されてただ生かされている状態の者。

腹を裂かれて臓物を抜かれ、腸を何かのオブジェの如く貼り付けられていた者。

肋骨を背中側に折られ、まるで死の天使の翼のような姿にされ、薬で無理やり生かされる者。

 

加藤は双眼鏡で生存者を確認する。まだ息のある者はいた……

 

一部何かを呟くように口をぱくぱくさせる者がいた。読唇術を知る加藤はそれを見て双眼鏡を下ろした。いや、口だけではない。目が訴えかけてきた。

 

 

コ ロ シ テ 

 

 

これ以上はもはや説明ができない。

 

 

「う、うぁぁああ!!」

 

 

ついに恐怖が理性を支配し、戦意を失った者が武器を捨てて戦線を離脱しようとした。

 

しかし雨の中でもはっきりと聞こえた銃声が数発、彼らは倒れた。2人とも後頭部を撃ち抜かれていた。

 

 

「カトウ、きっさまー!!」

 

 

デリラが加藤の胸ぐらを掴むと同時に加藤も拳銃の銃口を彼女の喉元に突きつける。デリラもナイフを頸動脈を狙って首に当てる。いや、刺そうとしているが加藤の腕の力で止められているというのが正しいようだ。

 

 

「意外だな、デリラ。君のような優秀な戦闘民族のヴォーリアバニーであるから、敵前逃亡を許さないと思っていたが」

 

「だからって虫けらを殺すように殺さなくてもいいだろう!」

 

「なら私を殺して貴官が指揮するがいい。だが、このまさに崩壊しそうなこの戦線を維持できるかな?」

 

「くっ……」

 

「そして、ここで我々が敗走したら、我々の後ろにいる同胞や無力な弱者たちはどうなるか想像はできるな?まあ、この包囲された状態を逃れたら、の話だが」

 

「……く、くそったれがぁぁあ!」

 

 

デリラはナイフに一掃力を入れる。

加藤も指先の力が入る。

 

 

 

 

「いい加減にしろ」

 

 

 

ドスの効いた声の方向に皆の意識が向いた。

 

 

「今、それをやらないといけないことなのか?」

 

 

ピニャだった。

 

今までのピニャとは思えない深く、重みのある声だった。

 

恐怖に支配されている兵士たちは加藤とデリラのいざこざなど気にも留めなかったが、ピニャの言葉のおかげで少しばかり目の前の恐怖から気を逸らすことができた。

 

 

「さて、この場合の非はこの男と逃亡を図った者、どちらにあるものかな……」

 

 

ピニャは兵士たちの前を歩きながら続ける。

 

 

「確かに、これほどの恐怖を味わえば逃げ出したくなるのも分かる。かと言って、この男が同胞を殺めたことも許されるべき行為ではない」

 

 

ピニャは加藤とデリラの間を割って入るように歩く。

 

 

「だが、今やるべきことは目の前の敵を撃退することだ。その目的に反する行動を取った者を処遇及び同胞殺しの処遇はこの戦いを終えた後、速やかに行う」

 

 

概ね殆どの兵士たちはそれで納得か仕方ないと言った感じだが、一部はやはり不満なのか言葉に出さずとも表情に出ていた。

 

ピニャはその様子をひしひしと感じたが、眉ひとつ動かさず静観する。

 

軽い溜息を吐くと、加藤の前に立つ。そしてほんの少し、加藤の瞳を見つめる。

 

 

「……?」

 

 

そしてぶん殴った。

手甲つきの拳で左頬を思い切りぶん殴った。

 

無論加藤は後方へ吹き飛ばされる。騎士とはいえ、女性にしてはかなりのパンチ力である。

 

 

「……独房にでも放り込んでおけ」

 

 

そう静かにつぶやくと近くにいた兵士が加藤の両脇を抱えるように拘束してどこかへ連れ去った。

 

加藤の私兵たちは特に何もせず意識のない加藤がどこかへ引きずられて行くのを見守った。

 

他の兵士たちは唖然としていた。

 

一部は加藤の方が権力を持っているとさえ思っていたから今起きた光景がにわかに信じれない、という表情をしていた。

 

 

「我々は何のために戦っているか、まだ分からない者がここにいるかもしれない。訳のわからぬまま徴兵された女子供もここにいるだろう」

 

 

ピニャは見渡すことのできる台の上にあがる。

 

 

「今、君たちの目の前にいる怪異たちは異世界から来たものが大半と聞いてる」

 

 

それを聞いた兵士たちは騒めく。

 

 

「信じれない者もいるかもしれないが、目の前に迫っているオークやゴブリンにオーク、トロールが我々の知る以上に残虐で、知性を持ち合わせている」

 

「へ、陛下……我々はそんな奴らに勝てるのですか!?」

 

 

兵士の一人が胸の内を抑えきれずに口にしてしまう。

 

 

「勝てるのか、か……正直、妾にも分からん。だが一つだけ確かなことがある。戦わなければ、我々が、愛する人があそこで辱めの限りを受けている同胞と同じ道を辿るだろう」

 

 

それを聞いて多くが絶望に打ちひしがれ、涙を流したり嗚咽を漏らしていた。

 

 

「……だが、我々が一日ここで食い止めれば一日、一週間なら一週間、その魔の手から愛するものを遠ざけることができると確信しておる」

 

 

そしてピニャは剣を抜く。

 

 

「我々はここで朽ち果てるかもしれない。だが、妾は一分一秒でも家族が、戦友が、愛する人が生き延びれるのならここで貴殿らと骨を埋めよう」

 

 

まだ全員ではないが、戦意が上がっているのを感じた。

 

 

「あそこにいる同胞が死を望んでいるなど妾は微塵も思わん、だがそれ以上に尊厳を踏みにじられることを望んでもいないし、それを我々は黙って見ているのか?

いいや、我々同胞殺しとしての罪を背負い、地を這いつくばい砂を喰らってでも、世界に真の平和を届ける。繰り返す、貴様らが殺すのは同胞ではない、あのクソッタレの怪異どもだ。

案ずるな、責任と罪は皇帝たる妾が負う」

 

 

もうこの時点でほぼ全員の士気が回復していた。

それどころか戦意喪失前よりも戦意が高揚していた。

 

 

「これから引く引き金が、振り下ろす剣が、突き立てる槍が、魔法詠唱の全てが貴殿らの人生で最も重いものとなるだろう。だがこれだけは覚えていてほしい。それは決して、無駄ではないと。その怒りを、悲しみを、悔しさを、全てあのクズ共に見せつけてやれ!これを聞いて、なお逃たい者は止めない。敬意を持って『ここまでよく頑張った』と言ってやろう。

だが、最後に一つ言おう、『貴殿らと愛する人たちの為に、妾にその命を預けてほしい』!」

 

 

歓声がドッと湧き上がり、彼等は覚悟を決めた。

 

 

「総員戦闘用意!」

 

 

彼らは涙を堪え、悔しさを噛み締めて、引き金を引いた。敵に堕ちた同胞の知人や家族、それ以上の関係の者もいたが、彼らも目を背けることなく同胞の最期を看取るためにも、引き金を引いた。

 

 

怪異たちは相手が人質諸共攻撃したことに大いに驚いている様子であった。人質をとった意味がない、いや、むしろ逆効果であったと困惑していた。

 

 

***

 

 

アルドゥインはアカトシュの下で瞑想に(ふけ)っていた。

 

しかしただ瞑想していただけではなかった。

 

特地で起きていることの全ての情報を全身全霊で処理していた。その処理能力、人類が未だ開発中とされる量子コンピュータですら足元に及ばないほどの人知を超えた処理能力を叩き出すほどの集中力である。

 

しかし未だ下界に戻る術は見つからず。

 

アカトシュはいっそドラゴン・ブレイク(チート)を使って無理やり送り込もうかとも考えたが、アルドゥインはのただならぬ集中力がそれを阻害した。

 

もう一度言う、アルドゥインの集中力がアカトシュのドラゴンブレイク(チート)を跳ね除けた。

 

 

(なんと言うことだ……ドラゴンブレイクによる下界降臨を拒否したと言うのか)

 

 

このようにアカトシュが動揺していることにすらいに介していない。

 

アルドゥインの精神は既に我かそれ以外か、しか感じていなかった。

 

 

(不味い、このままではアルドゥインはここに居着いて下界に降臨しなくなる……)

 

 

アカトシュはアルドゥインの居候(ニート化)に危機感を覚える。

何もしなければ下界は崩壊する。

 

そして何よりも、ここ(エセリウス)も不味い。

 

エイドラの領域(エセリウス)デイドラの領域(オブリビオン)、そして異世界を含む下界のパワーバランスが崩れてしまう。

 

 

「不味い、このままでは妾の世界も……」

 

 

ミラルーツも焦りを隠せなかった。

 

 

「案ずるな……我の準備は出来上がった。少し気は早いが今の我なら問題ないだろう」

 

 

突如アルドゥインが発言した。

 

 

『アルドゥイン、どう言うことか?』

 

「まだ時期尚早だが、この能力を使えば良かろう」

 

『時期尚早?』

 

「物事にはタイミングというのがある。ベストなタイミングというものがな。だがこれ以上ここにいてはあらゆる理が崩壊するかもしれん。不本意だが、少し早めに行くことにした」

 

『しかし、それでは最高のタイミングと一致するのか』

 

 

アカトシュの問いに対し、アルドゥインは何かを見透かしたような視線をアカトシュに向ける。

 

 

「我が時間に合わせるのではない。時間が我に合わせるのだ」

 

『アルドゥインよ、まさか……』

 

「アカトシュ、悪く思うな。貴様のドラゴンブレイク(チート)のいくつかを奪い解析した。それとも、本来貴様しか使うことを許されない能力を我が簒奪した、とでも言うべきか」

 

 

アルドゥインは嗤う。

 

 

「やり直しの能力、未来予知、時間流の操作をいただく。流石に最高級の『因果の接続(辻褄合わせ)』またの名を『結果の逆算(あったことにする)』は無理だったが」

 

『アルドゥインよ、その能力は一歩間違えれば世界を滅ぼすぞ』

 

「それで?それが、どうかしたのか?」

 

 

アルドゥインは不気味な笑み向けた。

 

 

「世界は既に崩壊へと向かっている。我の知ったことではない。我がするのは、殺戮と破壊のみよ」

 

 

そしてアルドゥインは最後に笑う。

 

 

「そもそも我を誰と心得ている?我は破壊と支配を司る龍の王、アルドゥインだ。世の破滅こそ我が望むことよ」

 

 

アルドゥインの身体が白いベールに包まれ始めた。

 

 

「そしてその障害となるのを全て消し去るのみよ。アカトシュ、次会う時は貴様を滅ぼしてやる」

 

 

そしてアルドゥインは消えた。

 

 

「……アカトシュ、あれでいいのか?」

 

 

ミラルーツは尋ねる。

 

 

『わからん。未来予知ですら見えない未来について、知るもののみぞ知るだろう』

 

 

***




そろそろR-18になってもおかしくないかな。
いや、スカイリム基準だと既に18禁なのだが……
どうもジャパニーズ脳だと明確なエ●がないと18禁じゃない気もする。

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