オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし 作:ArAnEl
本当にご無沙汰しております。
未だに読んでいる方々がいることに驚きと感謝しかありません。
アズラ様、感謝します。え、違う?
しかしこのコロナの影響はほんとうにペライトとのせいかもしれない……
そういえばもうモンハンライズが出るとは……ときは早いですな。
(戦闘機みたいな龍が再登場して隕石のように落ちてきたりビーム撃ったり爆撃機みたいな龍と来たり……あれ?うちのアルドゥイン様何かしましたか?)
『彼らは、ぐすっ……言葉にするのも……おぞましい非人道的な活動を……しています……』
画面のウサギ耳の女性が涙ながらに語る。
「……まるでイラク戦争時のナイラ証言だな」
加藤がインターネットを傍受して映る映像を見て呆れたように言う。
「なんだそれ」
伊丹が加藤に尋ねる。
「簡単に言うと、クウェート出身のナイラという少女がクウェートの病院でのイラク軍の暴虐を見たその証言、という設定だ」
「?」
「ちなみに、その少女はナイラという名前でもないし、その当時病院どころかクウェートにもいなかったという話な」
「は?それ嘘と言うこと?」
「さあ、今のところ嘘と言うことになるな。よく言えばプロパガンダ戦だよ。それに踊らされた国連なのか、それともそうなるよう誰かが仕組んだかは知らんがな」
「ひでえ話だ……」
「Wikip●diaに乗ってるぞ。もっと色々勉強しておけ」
「うーん、あまり難しい話嫌いなんだよな。ってそれだとソース大丈夫か?」
「んな細けえこといいんだよ。ちなみに、このテレビに出てるうさ耳の女、ヴォーリアバニーじゃない」
「なぜ分かる?」
「画像解析にかけたら耳の部分は99%の確率で、偽物だ。それにこの女、下っ端だがCIAの職員だ。会ったことある」
「うわ、マジか。で、どうすんの?」
「まあ、こんな変なプロパガンダ戦を始めたと言うことは、そろそろ心の余裕がないと言うことだ。長期戦になれば戦う理由がないと国民も反対し始めるからな。と言うことでこちらも知的に反撃に出る」
「知的に?」
「ああ、知的に」
絶対嫌な予感がするが、一体何をするつもりなのかを伊丹は尋ねる。
「ふふふ、決まってんだろ。今から各種SNSに証拠揃えて暴露するのだー!」
「えぇ……」
やはり嫌な予感は敵中した。
いつも以上に嬉しそうな狂人である。
「しかも今回は初の異世界系バーチャルユー●ューバの準備もした!世界初の異世界系チャンネル!新しいプロパガンダ戦の始まりだ!健軍1佐には申し訳ないが、彼が証拠に撮ったカメラも活用させてもらう!」
「ちょ、それ大丈夫なのか?」
「やられたやり返す、倍返し……いや泣くまでやり返す!いや、奴らが、泣いても、ネットで殴るのはやめない!あ、やべ想像しただけでも下腹部が反応しそうだ」
そして加藤は魔改造したノートパソコンに色々と打ち込む。そして最後にターンと力強くEnterボタンを押す。
「あとは俺の
すごく邪悪な笑顔を見せる。
「うわあ……鬼だ」
「卑怯鬼畜外道の加藤と呼ばれたのは伊達じゃないぜ」
「いや、それ褒め言葉じゃないから」
そんな変なことをしているとジゼルがやってきた。
「カトウ、準備できたぜ」
ジゼルが翼竜の準備ができたことを報告する。
「まあ、ここでモタモタしても時間の無駄だな、そろそろ出発する。残存部隊はゾンビの処理を開始。噛まれても大丈夫だが、死ぬと増えるから死なないように。」
加藤は
「さて、伊丹。寄り道してアルヌスに行くぞ。ちなみにちゃんと一番大人しいやつ用意したから高所恐怖症のお前でも大丈夫だ」
「えぇ……」
そして一同は翼竜に跨って飛び立った。
ちなみに加藤が投稿した動画の件だが、仕返しという意気込みから始まったプロパガンダは予想以上に効果的面であった。
まず各種SNS、ブログや裏サイト、ディープウェブ、ダークウェブなどに証拠データと共に反論した。
もちろん各サーバーがダウンするほどの盛り上がりを見せると同時にどこからかの圧力か次々に閉鎖や削除に追い込まれるが、そこはネットの怖いところ。瞬く間に拡散しデジタルタトゥーとして残ってしまった。各国政府は火消しに躍起になった。
極め付けに異世界系美少女Vt●berが爆誕して異世界のことについて紹介し始めた。
こちらは一般受けも良かったが、またどっかからの圧力で削除されたりと先ほどと同じ目に遭う。解せぬ。
それでも何度でも甦った。なぜなら可愛いは正義であり、人類の夢だから。
しかもネットの紳士淑女によって度々復活して、挙句に次のコミケには薄い本が出るなど職人の皆様の仕事は早かった。
これらのお陰で各国の国民の矛先は自国の政府、メディアへと向けられ、文字通りカオスとなった。
余談だが、美少女V●uberはどことなくレレイに似ていた気がする。
そんな状況を、元拉致被害者の望月紀子はパソコンを通して見ていた。
「やるね、あの男は。彼が送ってくれたデータも、多いに役立ちそうだね」
そして携帯電話をかける。
「あ、菜々美さん?局が爆発して今暇でしょう?面白い話があるけど、どう?」
***
「ふー、ふー……」
アルドゥインは荒々しい鼻息を吐く。
疲れているように見えるが、実は体内のエネルギーはむしろ高まっていた。
そして彼の足元には倒した偽物の
「お見事」
ドヴァキンはゆっくりと拍手をする。
「だが、君のおかげでいろいろと分かったよ」
「なにぃ?」
「まず、周りを見てみるがいい」
周りの石、地面、木々、雪や砂など、ありとあらゆる場所に何かで引っ掻いたような跡が残されていた。
凡人が見ればただの傷跡にしか見えないかもしれない。だが良く見ればただの傷跡ではない。どこか
「
そう、ありとあらゆる場所にスゥームが刻まれていた。
「分かるかい?これは全て君が今の乱戦で発した、新しいスゥームたちだ」
ドヴァキンは続けた。
「実は、ある検証をしてみた。
そしてドヴァキンは足元に刻まれたスゥームを読み取る。文字ではなく、力を読み取る。
文字に光が宿り、風が舞い、言葉に含まれる力を吸い取る。
「お、おのれ……」
アルドゥインは長年の時間と知識、そして修練の積み重ねが全て一瞬で奪われることにこの上なく屈辱を感じた。
「……このように、君は新たなスゥームを生み出すことが、他愛もなくできる。しかし、全てを支配したはずの私が、なぜ自由に創造できない」
ドヴァキンが歩くたびに近くの
「それは君だからなのか、それとも別な理由なのか」
そして彼がアルドゥインの前に来る頃には全てのスゥームを吸収した。
「アルドゥインよ、確かに私は貴様を完全に服従させたことなどない。幾度も世界を巡回したが、無駄だった。しかし、使いようはある」
そしていつのまにかアルドゥインの足元、すぐ目の前にいた。
「
凄まじいまでの、
世界が、宇宙が、理が、アルドゥインに呼びかける。否、命令する。
支配されよ、と。
如何なる英雄であろうと、聖騎士であろうと、彼の
男を知らぬ生娘は彼の言葉の前にその身を捧げるだろう。
王に忠誠を誓った騎士は
神に選ばれし国王は彼の言葉で神を背くだろう。
ありとあらゆる全ての事柄が、事象が、全身全霊かけてアルドゥインに語りかけてきた。
もしアルドゥインに細胞と言うものが存在したなら、その一つ一つの遺伝子レベルで、DNAレベルで、原子核レベルで
究極の『意志の強要』
アルドゥインは足がまるで見えない神の手によって引っ張られるような感覚がした。
そして地に足が着くと目と鼻の先ほどにいるヤツを前に、何かが
嗚呼……心の奥底からは、服従したくない。そう思っていたかった。しかし、
目の前には、
文字通り人間の目と鼻の距離にいる。
そして……
アルドゥインは……
頭を……垂れた。
そして、確実に捕らえた。
彼が頭を垂れたのは、それは服従のためではなく、攻撃のために。
捕らえた。確実に捕らえた。その口の中に、舌触り、咀嚼感、味、匂い、感触……五感に加え第六感、七感と全身全霊込めて、殺しにかかった。
そして、確実に殺した。殺したはずなのだ。
だが以前と同様、無かったことかの如く彼は目の前にいる。
そして笑みを浮かべて叫んだ。
「素晴らしい、素晴らしいよアルドゥイン!私の目に狂いは無かった。君は、やはり
そして彼の攻撃が視界の目前に迫った。
アルドゥインの頭を過ったのは……
死
***
「なんだ、ここは?」
やっと高所から解放された伊丹は不気味な雰囲気と霧のようなものに囲まれた高地へやってきた。
「俺もよう知らんが、ジゼルによればクナップヌイというところらしい」
加藤たちも翼竜から降りる。
「なんだがすごい雰囲気が悪いと言うかぁ、生を感じないのよねぇ」
ロゥリィが辺りを見渡す。
「お姉様、多分それはあのアポクリフと呼ばれるあの黒い霧のせいだぜ。まあ、実は最初は主神ハーディ様の言いつけで見張っていたんだけどよ、結局何も変わらないままでな」
「なるほど、草木がその姿を維持したまま死んでいるようね」
テュカが霧の中に埋もれた植物を見る。
「加藤殿、何故我々をここへ?」
ヤオが尋ねる。
「さあ、ジゼルに言われて興味が湧いてね。ジゼル曰く、アルヌスの門の出現やら、アルドゥイン様の影響があると聞いてるがな」
「それはホント」
レレイが口を開く。
「私の心にハーディがそう言っている」
「ええー!?レレイ、ハーディと話せるのぉ!?」
ロゥリィが目を丸くする。
「今初めて声を聞いた」
「で、何て言ってるんだ?」
伊丹が尋ねる。
「恐らく、諸々の理由により世界にズレが生じていると」
「何それ、めちゃ怖いんだけど。世界崩壊するの!?」
伊丹が声を出して驚いてしまう。
「ただ、世界をズラしている要素が三つあり、それがかろうじて拮抗しており、バランスを保てていると。でもそのバランスがまた崩れようとしている」
「その三つの要素って、門と漆黒龍と、あとなんだ?」
皆が考えていると、一人また一人と、ある人物に視線が向かう。
「……なんだ?俺そんな世界に悪影響及ぼすことしているのか?」
加藤がたじろぐ。
「少しは……いや結構影響しているをじゃないのぉ?」
ロゥリィがハルバードを軽く振る。
「そうですわね、こちらの世界どころか私も見たことない門の向こうの世界へも大きな悪影響を与えているとお聞きしましたわ」
とセラーナが言うと、何故か皆の視線がこんどはこちらにも行った。
(((……そういえば、セラーナも結構吸血鬼の大物だっけ?)))
「いかがなさいましたの?」
しかし当の本人はキョトンとしていた。
「あー、やめやめ!これ以上犯人探しは事態を悪化させるからやめよう!」
伊丹のおかげで皆の疑心暗鬼は取り敢えず収まった。
「で、加藤。他にもここに連れてきた利用あるんだろう?」
「流石は伊丹、物分かりがいいな。あそこを双眼鏡で見てみろ」
伊丹たちは言われた通り見てみる。
「なによぉ、何も見えないじゃない」
霧をだらけで最初は見えなかったが、目が慣れると、それは見えた。巨大な建築中の建造物が。
「なんじゃありゃ!?」
伊丹は思わず声に出してしまう。
「最強の砦だよ。霧の上に足場ができるように作れば空路しかないからね」
「しかしあれをどうやって……」
「あれだよ、アレ」
加藤が空を指すと、そこにはオスプレイが柱などを吊るしながら飛んでいた。
「空路しかないからね」
「たまげたな……しかし俺たちに見せてもいいのかよ。一応敵だろ?」
「まあ、そうだが見せても攻略されない自信があるからな。なんせ死の霧の上にあるんだから陸路じゃ攻略されなまい。まあ、もうそろそろ出発するから今のうちによく見ておけよ」
そう言って加藤は出発準備を始めるが、他の一同は双眼鏡で何度も見ながら観察していた。
「うーん?」
「ヨウジぃ、どうしたのよぉ?」
「いやぁ、あの建物まだ未完成だし、ぶっちゃけ不細工だけど、こう何というか、どっかで見たことある気がするんだよねぇ」
「日本の建物とかぁ?」
「うーん、でもあんな感じのものあったかな?日本の城っぽくないし、なんだが現代的だし……」
伊丹がそうこう悩んでいると、出発の準備が整った。
「伊丹、出発するぞ。ちょうど捕虜乗せたオスプレイも来たからこれこらアルヌスに向かうぞ」
「俺、翼竜じゃなくてオスプレイに乗っちゃダメか?」
「残念だが、捕虜と怪我人乗せてるから厳しいな」
「えぇ……オスプレイと並走するのか。大丈夫かなあ……」
余計に翼竜で飛ぶのが嫌になる伊丹であった。
そして皆離陸し、加藤が最後に離陸する。
(ここなら、全てを止められるはず……)
加藤はクナップヌイに建てられる要塞を見下ろすと、皆の跡を追う。
***
なんやかんやでアルヌスの近くに着く頃に、チヌーク内で健軍1佐は目を覚まして事情を聞いて安心した。カメラ内のデータ勝手に使用したのは内緒にしたが。
空から小さなアルヌスを見て、伊丹はふと思った。」
(最近、アルヌスを出たらすぐアルヌスに戻るを繰り返しているような……)
などと考えながら伊丹の代わりに翼龍の手綱を握っている
「い、伊丹殿……もう少し優しく、いや、伊丹殿が望むのならそれも甘んじて受け止めよう。できればベッドの上でやってほしいものだな」
「俺はそんなつもりでしがみついているんじゃねえ!」
伊丹は下を見ないよう必死だった。しかしヤオを除く他の女性陣の目は冷たかった。
「なんでお前が
加藤がやれやれ、といった感じで溜息をつく。
「なぬ!?伊丹殿はSなのか?ならばこの身はMになるしかないな。あまり詳しくないがこの前あちらの世界の書物に書いてあったぞ。伊丹殿が所望するなら仕方あるまい。はあはあ……」
「ヤオ、そっちじゃないから。別の隠語だから。隠語っていてもいやらしいほうじゃないぞ!業界用語だ!」
「ハーレムも大変だな」
加藤は伊丹の隣を逆さ状態で飛行する。
「うわあ!?逆になんでお前はこんな翼竜を乗りこなしているんだ!?しかも逆さまで怖くないんか?落ちて死ぬの怖くないの!?」
「いやあ、元
「何その綾●レ●みたいな発言は。お前クローンなの?ひょっとしてクローンなの!?」
「さすが伊丹殿、面白いことおっしゃりますなあ。俺がクローンならとっくに世界征服してる」
「う……お前の冗談は本気でやりそうだからこんな時どんな顔したらいいかわからないな」
「お前もノリノリじゃねえか。
まあ、取り敢えずそろそろ着くのだが、全員頭伏せておけ」
「「「???」」」
談笑しているなか加藤はいきなり意味深な発言をしたことで嫌な予感がした。
案の定、アルヌスから
「ATシールド展開」
などとどっかで聞いたことあるようなフレーズを加藤が無線で命令すると、オスプレイのチャフ発射装置から筒のようなものが射出されると、それが破裂すると微粒子がSAMに対して壁のようなものを生成し、防いだ。
独特な効果音は出てないが。
音も熱も爆風も防いでしまった。一同は目を丸くする。
「あるぇー?おかしいな。捕虜交換のためにオスプレイで来るって事前に伝えたんだけどなー」
「あの、加藤さん?」
伊丹は恐る恐る加藤に尋ねる。
「ああ、これ?魔硝石を応用して、某汎用人型決戦兵器アニメをオマージュして作った展開型対物理攻撃シールド、通称ATフィー●ド……じゃなくてATシールドだ」
「いろいろやばいな、本当にいろんな意味で」
「商標登録予定だ」
「いや無理だろ、ダメだろ」
「まあできなくても他国に真似はできんと思うが。これにより既存のミサイルなどは時代遅れの代物となる!」
「それってなんかガン●ムのミノフ●キー粒子じゃないか」
「……俺、エ●ァ派なんですけど」
「いや知らんし聞いてないし。というかメカ系はもっと奥深くてその2派が主流というわけではないからな。もっとも、俺はメカより美少女派だが」
「ヨウジぃもカトォも変な話で盛り上がらないでこの状況どうにかしなさいよぉ!」
ロゥリィの言葉に我に返るオタクども。
SAMの波状攻撃は止まってない。
ちなみに余談だがレレイは相変わらず新たな技術に対して目を光らせて眺めていた。
「おい加藤、流石にそろそろやばいんじゃない?」
「そうだな、あともって数発だな」
「え、不味くないか?」
「安心しろ、こんな時のために既にプランBは用意している。OHK-II を射出!」
加藤が命令するとミサイル型の小型ドローンが投下される。
プロペラで推進している割には結構なスピードで突っ込んでゆく。
相手も指を加えて待っているわけでもなく、
「
ドローンは対象へと突入するが、ミサイルの速さには足元には及ばなかった。次々と迎撃された。
「はわあ、素晴らしい光景ですわ」
セラーナ嬢はドローンが木っ端微塵になる姿を見て感嘆していた。なぜだ。
そして全て迎撃され、今度はこちらに向かってくる、という予想とは裏腹に何も起きなかった。
「……撃たないのかな?」
テュカが恐る恐る尋ねる。
「多分、撃てないのが正しいのだと思う」
レレイが冷静に分析する。
「ご名答。奴らのレーダー、通信、電波など現代戦で必要不可欠なものは全て停止させた」
「これは驚いた……この花びらみたいなものが関係するのか?」
ヤオは手のひらに落ちたものを見つめる。
よく見ると周りに白い花びらみたいなものが少し舞っていた。
「よく気づいたな。現在開発中の専守防衛兵器、OHK-Ⅱ、和名の通称は桜花改」
「桜花って……あの特攻兵器の?」
伊丹が恐る恐る口を開く。
「そう、かなりの皮肉を込めて命名したんだがな。最近流行りつつある徘徊型ドローンは海外で何て呼ばれているか知ってるか?カミカゼ・ドローンだぞ。
しかも無人で、強制的に相手の攻撃手段を奪う『人道的平和維持兵器』としてな。今の日本なら喉から手が出るほどほしい代物だな」
そう言いながらも加藤の表情はどこか闇に満ちていた。
「さて、安全になったし降りるか」
なお、桜花改の影響か、オスプレイたちもなんだか不安定な飛行をしていたのは内緒である。
そして白昼堂々飛行場に降り立つと銃口を向けた兵士や対空機関砲やらに囲まれ、悪い意味でVIP待遇のようになってしまった。
「おやまあ。皆さんは
「このファッ●ンテロリストが!」
加藤が地に足をつけるとすぐさまムキムキの米海兵隊司令クラスの男が拳銃の銃口を加藤の眉間に押し付けた。
「はて、おかしいですな。捕虜を返すためにこちらに来ると伝えたはずなのですがね。あらゆる手段で」
「テロリストの言葉なんぞ信じられるかっ!」
「だから自軍や友軍の捕虜ごと落とそうとしたのか。どうせ他にも理由があるのだろうけど」
「
理由は不明だがすごい剣幕だった。
「そういえばまた米軍の司令は変わったのですね。取り敢えず、捕虜たちは返しますよ、彼らが望めばですが。そういえば、
「貴様……知ってていってるのだろう……」
「はて、何のことやら。もしかして、あれですかな、例のウイルスのパンデミックが、本国で起きたとか?」
加藤の小馬鹿にしたような笑みは、その大男の堪忍袋の緒が切れるのに十分な理由だった。
乾いた銃声と共に加藤は後方へ吹き飛ばされた。
「加藤!」
伊丹が駆け寄ろうとしたがロゥリィがハルバードで制する。
加藤はゆっくりと起き上がるとスマホで自分の額を確認すると、ニヤリと笑った。眉間には凹んだ金属光沢が見える。
「貫通はしてないな……」
そしてゆっくりと立ち上がり米軍の指揮官に近づく。
「き、貴様……貴様もゾンビか!?」
「はて、ゾンビ?何のことやら」
加藤は邪悪な笑みを浮かべる。
「もしかして、あなた方は例のウイルスの感染者がゾンビになったとでも思っているのですかね」
「……なんだと?」
「映画の見過ぎだよ。確かに、あの見た目はゾンビだが、そんな恐ろしいものじゃない」
加藤続けて説明する。
唾液や血液、粘膜感染するため、噛まれたりすると感染すること。
ウイルスの作用で低血圧になり肌が白くなること。
末端神経が侵され、筋肉などに一部障害が起き、手の自由が効かなくなること。
声帯の神経がやられ、唸り声しか出せなくなること。
特効薬で完治可能であること。
「狂犬病やかつて米ソで研究されていた
そして加藤は衝撃的発言をする。
「つまり、君たちは思い込みと恐怖のあまりゾンビのフリをさせられている生きた人間を、国民を殺したわけさ」
「な、なんのことだ」
「先程敢えて挑発するためにとぼけてみたが、そちらの世界で何が起きているのかくらい俺も知っているぞ。
中華人民共和国の軍幹部の感染者をはじめとし、緩やかに広がっているくらいな。
そしてその緩やかな理由は、各国が発覚を恐れて自国民の感染者を駆除していることもな」
「くっ……」
「こう見えて、俺に賛同する者もいるわけだよ。俺にもいいコネがあってね。特殊なネットワークだけどね。
中国には悪いことしたが、人口の多いあの国が最適だった。
それにしてもアメリカは良かったんじゃないのか、また覇権国家として君臨できるしな」
加藤は挑発するようにこう発言した。
「でも、アメリカも人口多いんだよな。そろそろ、隠しきれないところまで来ているのでは?」
そして乾いた発砲音が数発すると、加藤は崩れ落ちる。今度は全て胴に当たった。
しかし、血溜まりを作りながらも笑っていた。
「無駄だ。まだ俺には残機がたくさんあるからね」
加藤は上着のボタンを外し、シャツを脱ぐ。
程よく引き締まった身体は切り傷、銃痕、咬み傷や火傷跡に手術痕で埋め尽くされていた。
そして先程の発砲の際ついた銃痕が胸に2つ、腹に3つついており、そこから血が流れ出していた。
加藤の側近たちが身体にメスを入れ、身体を割いて内臓が剥き出し状態になる。
もちろん、麻酔などしていない。
止血や特別な処置などせず、淡々と損傷した右肺、胃そして小腸をバッグに真空状態で入っていたものと取り替えた。
それをホッチキスで繋ぎ止めると開口部を閉じてこれもホッチキスで止める。
周囲はあまりの光景に口を開けて見ているしか無かった。
そして加藤はポケットから何か石のようなものを取り出して口の中に頬張ると、大型肉食獣が骨を噛み砕くような音がするほど咀嚼して飲み込む。
すると傷口が時間を加速したかのように治癒してゆく。
「ば、化け物め……」
「化け物?」
加藤はシャツを身につけ、上着のボタンを閉めるながら肩で笑う。
「化け物?俺にはね、お偉いさんの都合で正義を疑わなかった若者たちの身体を改造してあちこちの紛争に加担させた
そして服をはたいて立ち上がると指揮官の隣に立ち小声で耳打ちする。
「もっとも、その考え方なら俺も人間だったな、そりゃ化け物にも見えるわな。じゃあ化け物は化け物らしく、滅ぼしあうか?CIAのエージェントさんよ」
男は額や手に汗が滲んでくることを感じた。
(この男、一体何者だ……上には速やかに消せとは言われているが、俺には消せる自信がない……)
加藤の目は底なし沼のように、全てを飲み込みそうな狂気をはらんでいた。
「めんどくさい講和会議なんて不要だ。単刀直入に言おう。取り敢えず自衛隊を含む全軍の撤退、そしてアルヌスの返還。さらには連絡のやりとりは日本政府を通すこと。さもなくばここに核弾頭を叩き込む」
「そんな脅しには……」
「脅し?じゃあすぐ起爆させよう」
「え、ちょ、ちょっと待て!」
「こちらとしては君たちがすぐ消えてしまった方が楽なんだけど」
「すぐってどういうことだ!?弾道弾でも撃ち込む気か!?」
「いや、持ってきた」
「ふぁっ!?」
加藤の後方のオスプレイの一つからせっせとスーツケースを手に持った部下たちが降りてくる。
「規模は小さいが、これだけ数あれば門諸共壊滅できるはず。あと変な気を起こすなよ。部下の手から少しでも離れたら起爆するよう細工してある」
なるほどよく見るとスーツケースから細い紐が隊員の身体のどこかに繋がっているようであった。
「待て、落ち着け……」
「俺は至って冷静だ。残機あるから死んでも俺は問題ない」
「上層部に確認させてくれ……」
「お前、ふざけてんのか?」
加藤は一歩さらに踏み込んで睨みこむ。
「お前の階級章は飾り物か?今この場で、選択肢はないが、決定権を持っているのは貴様だ。何万の兵が、貴様の一言で動くのだぞ。今決定しなければ、貴様が命令を下さなかったばかりに、一瞬で蒸発するぞ。し・か・も、米軍だけではないからな。国際関係はよじれるだろうな、貴様のせいで」
「ぐ……ぬ……」
加藤は一歩下がって健やかな表情になる。
「まあ、その程度の人間というわけだ、君は。大人しく引くんだ。君は、悪くない、悪いのは我々のような輩と、無能な上層部だ。上層部の意に従うか、貴殿と国民や多くの命を救った方が、大々的に見て有意義だと思うが」
先程とは違い、かなり柔和な口調で加藤は静かに語った。
そして、決定的な言葉を語りかける。
「それに、例のウイルスは変異しないわけじゃない。本当にゾンビウイルスになる前に、撤退してくれたらワクチンの製作法を教えても、いいぞ」
そしてしばらくの沈黙が続いた。
「……全軍を……撤退させる」
指揮官は言葉を絞り出すように無線に話しかけた。
「よく決断してくれた。感謝する」
加藤は軽くお辞儀をする。
「貴様は……一体何だ?」
男には、目の前のテロリストと呼ばれている男が自分より年下の人間とは到底思えなかった。
彼の目が、形容し難い何かを語っていた。
加藤は少し考えて、こう答えた。
「……吾輩は猫である。名前はまだ無い」
「???」
「夏目漱石の代表作、『吾輩は猫である』ので出しです。ぜひ一度読んでみてください、意外と面白いですよ」
そして加藤は伊丹たちの方へ戻る。
多少の混乱はありつつも、徐々に兵は撤退して行った。
その様子を加藤はタバコを蒸しながら眺める。
「しばらくのお別れだな。大変だと思うが本国で少しは休んでこい」
加藤は伊丹に言う。
「加藤……」
あまりにも物事が大きく動きすぎて伊丹はどう問い掛ければいいかわからなくなっていた。
元同僚はすぐ隣にいるのに、あまりにも遠い存在になってしまった気がした。
「伊丹、捕虜の交換はあと1時間程度だ。その時お前たちを引き渡す」
「加藤、ピニャ殿下たちは……」
「……そちらに亡命するか聞いて見たが、やはりここに残るとさ。あの歳で肝が座っていやがる」
そして加藤は伊丹に小さな箱を投げ渡す。
「俺の秘密基地の鍵たちだ。お間にやる」
「……つまり、
「PCのハードディスクは念入りに頼む」
「いやだ」
「そこを何とか」
「自分でやれよ!」
「こんな状況でできるか!頼む、欲しいものは全部持って行っていいから!俺の嫁たちはお前にやる!」
「嫁たち、だと……?」
「嫁たち、だ……」
「……そこまで言うか。分かった、任せておけ」
「恩に着る」
などとわけの分からぬ熱い握手を交わす。
「そうそう、向こうに行ったら『恐るべき家族計画』で調べてみな。面白いものが見れるぜ」
「なんだその
「まあ、調べて見なよ」
そのとき、加藤は一瞬哀愁感の漂う表情をした。
その意味を伊丹は後で知ることになる。
***
「はぁ、はぁ、はぁ……」
アルドゥインは肩で息をしていた。つもりだった。それが実態を伴っていたらの話だが。
「3日目だ」
聞き覚えのある声だ。
「アカトシュ、我は……死んだのか?」
「否、3日が過ぎ、時間通りここに戻されただけだ」
「そうか……」
安堵したと、と言うべきか、それとも呆然としていると言うべきか。本当に間一髪ということか。
アルドゥインは実質的に敗北していることに屈辱を感じていたものの、あの時やられていれば今度こそどうなるのかは彼にもわからなかった。
「残念ながら、目的は達成出来なかったみたいだな」
アカトシュが語りかける。
しかしアルドゥインは返事をしない。
それもそのはず、アカトシュの声が届かぬほど、思考に全力を尽くしていたのだから。
(だが、一つだけ成果はある。奴が、奴が能力を使う瞬間を、感じることができた)
活路を見出せたかに見えたが、アルドゥインは唇を噛み締める。
(それでも、奴を倒すのにはまだ要素が足りん……しかし、保険は残してある)
***
「……また逃したか」
ドヴァキンは不服だが、笑って流すことにした。
「まあいい、やはりデザートは最後に残すか」
そして山頂からある場所を眺める。
「やはり、まずはメインディッシュと行こうか」
タイトルの元ネタは、キューバ危機。
※1
声帯虫:MGSVより。かつて人の声帯に寄生し、人が複雑な発声を可能とし、言葉を作り出すきっかけになったとされる架空の寄生虫。
※2
某セミの音が特徴のノベルゲームが原作のあれに出てくる奴。
ところでモンハンの実写映画……迫力はあったけど、監督はなろう系かハメルーンのクロスオーバーの読みすぎですかね(笑)